閑話 愚王たちのその後パートⅡ⑤
前回までの三行あらすじ(愚王たちのその後 編)
隣国との戦争が勃発、強力な魔導士部隊を前線に投入してきて、劣勢に立たされる。
軍務大臣は応援が来たら大量の軍でゴリ押しして敵軍に大ダメージを与える作戦を考える。
だが、彼は魔の森で反乱がおき、中央軍の応援部隊はそちらに取られてしまっていることを知らなかった。
「くっ! なぜ応援の部隊が来ない!」
軍務大臣は思わしくない戦況に歯噛みしていた。
隣国との戦闘が本格化してからもうすぐ一か月になる。
だが、魔の森近くの辺境から引き下げたはずの軍がいつまでたっても来ないのだ。
戦場では敵国の魔導士部隊が猛威を振るっている。
魔導士部隊の攻撃は苛烈で、今もドーン。ドーンと絶え間なく爆音が聞こえてくる。
あの一発一発で十人以上の兵が戦闘不能になっている。
「負傷兵が増えているのはまだよい。問題なのはわが軍がじりじりと後退を余儀なくされていることだ」
その最大の原因は士気の低下だ。
強力な敵と誰が見てもよくない戦況で自軍の士気は最底辺にまで落ちている。
軍の後方に督戦隊をおいて何とか脱走兵が出ないようにしているが、今更応援の軍が来ても勝利するのは難しいだろう。
「だが、今のままではだめだ。せめて、敵軍に痛手を加えておかないと」
今休戦するのは最悪だ。
今の状況での休戦は敗戦とほぼ同義だ。
今休戦になれば前回の戦争で勝ち得た領地をすべて奪われることになるだろう。
そんなことは軍務大臣としても軍派閥としても許容できない。
だが、ここから敵軍を屠り、勝利するのは無理だろう。
それならせめて応援部隊が来てから敵軍に一当てし、休戦するしかない。
「それもこれも応援部隊がいつまでたっても来ないせいだ!」
応援部隊については王都に残してきた副軍務大臣に一任してある。
ここまでの敗戦になったのは奴のせいだ。
王都に帰ったら奴の不手際を糾弾する必要があるな。
「クソ! 無能どもが!」
「副軍務大臣から書状が来ております」
「やっと来たか」
軍務大臣の幕舎に一人の兵が飛び込んでくる。
おそらく、その書状には遅れた理由が書かれているのだろう。
本隊が到着する前に書状をよこすなど、小狡いことをする辺りがあの副軍務大臣らしい。
先に言い訳をしてから部隊を到着させることで、少しでも心証をよくしようという魂胆なんだろう。
だが、今回ばかりはそのような小細工でどうこうできるレベルではない。
役職取り上げ程度で済ませられると思うなよ。
軍務大臣は応援の部隊の到着予定を確認するために書状を開く。
『魔の森で魔物の氾濫が発生しました。現在、魔の森からの氾濫に対処するために中央軍を辺境から動かすことはできません。現存の軍で対処できない場合は速やかに休戦し、被害を最小限とするよう努めてください。これは王命でもあります。また、魔の森の氾濫の対処のため、今年の軍事費の用途未定分を辺境軍へと配布することが王の許可のもと決定しました。戦争賠償金が発生した場合は今年の軍事費を削ることになるため、賠償金は最小限になるように努めてください。』
「は?」
何度も読み返してみるが訳が分からなかった。
まず訳が分からないのが、用途未定分の軍事費を辺境軍に配布することだ。
あれは長年、軍を助けてくれている商人などを支援するために使われている。
用途未定とは表向きのことで、用途は決まっている。
副軍務大臣もそのことはわかっているはずだ。
次に訳が分からないのが、魔の森に中央軍がくぎ付けになっていることだ。
対魔貴族ごときがやっていたことを精鋭ぞろいの中央軍ができないということも理解できない。
さっさと片付けて応援に来れるはずだ。
「ま、まずい!」
応援の部隊が来ないのであれば、今の状況は非常にまずい。
応援が来たら一気に反撃に移るために今は被害を承知で持ちこたえている。
多少の被害が出たところで、こちらはただの一般兵。
対して向こうは貴重な魔導士部隊を使っている。
向こうは小さな被害でも大きな損失になるのだ。
応援の部隊が来れば損害覚悟で突貫し、向こうの魔導士部隊に小さな損害を与える。
そうすれば軍全体の損害は自国と敵国で同じくらいになると思っていた。
だが、これは応援が来ること前提の考えだ。
今の士気の低い部隊では損害覚悟で敵軍に突っ込んだところで大した被害は出せない。
それどころか、敵軍に突っ込ませることすら難しいだろう。
「は、早く休戦しないと」
これから良くなる見込みがないのであれば一刻も早く休戦を申し込むしかない。
軍が崩れ、敗走してからではどれだけの賠償が請求されるかわかったものではない。
そして、その賠償はおそらく軍事費から払うことになる。
今残っている軍事費はすでにすべて用途が国側に提出されている。
つまり、削れば何を削ったか国に筒抜けになるのだ。
その状況で削るとなれば軍派閥が大きな損害を受けるのは目に見えている。
「だ――」
――ドーン!!!!
その時、軍務大臣の幕舎にひときわ大きな音が響く。
軍務大臣は驚き、椅子から転げ落る。
何が起こったかわからない軍務大臣はそのまま転がるように机の下に隠れる。
軍服がドロドロになってしまうが、今は仕方ない。
「軍務大臣! 大変です!」
「な、なんだ! 何が起きた!」
音がやんでしばらくして一人の兵が幕舎に転がり込んでくる。
軍務大臣は机の下から苛立たし気にこたえる。
「わが軍! 敗走を始めました!」
「なに!? 痛っ! 督戦隊はどうした!」
軍務大臣は立ち上がろうとして机で頭を打つが今はそんなことを気にしている場合ではない。
自軍が敗走しないように督戦隊を全軍の後ろに配置したのだ。
敗走しようとする兵は督戦隊が粛清する手はずになっている。
その状況なので全滅することがあっても敗走することはないはずだ。
「それが、敵魔導士部隊が一斉にわが軍の督戦隊に攻撃を仕掛けました。一部防ぎきれず、督戦隊に穴が開いてしまい、その場所から……」
「な、何ということだ」
軍務大臣の顔からサーッと血の気が引いていく。
状況は最悪だ。
ドーン。ドーンという音が段々とこちらに近づいてくる。
おそらく、敗走しているわが軍を追って魔導士部隊が追撃を仕掛けているのだろう。
「軍務大臣! この場所も危険です! 早く避難を!!」
「クッソォォォォォ!」
軍務大臣の叫びは敗走する自軍の上げる音にあっさりとかき消された。
隣国は魔の森への対処が手いっぱいになることを見込んで戦争を仕掛けてます。
新作書いてます。
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次回はアリシア(アリアの叔母)視点になる予定です。
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