③
そこで5度目の雷鳴。
かなり近くで鳴り響いたのか、叩きつけるような音と共にに室内の電力が落ちる。
停電なのかと懐中電灯を手に持ちながら考える。
これは、暗闇になった今がチャンスでは。
いや....
ここで刃を振るえば、俺の美学に反する。
歯を噛み締める。
我が主、いや、しみったれのクソジジィ。
お前の命も後僅かだ。
暫くして、電力が元に戻ると
客人を迎えに、俺はドアに手をかける。
ドアから見える景色は、相変わらず憂鬱な気分にさせられる。
代わり映えのしない鬱蒼とした森。
この小高い丘に建っている洋館全体が牢屋のようで、嫌気が差す。
だが、今日だけは気分が良い。
雷鳴が鳴り響くことで、まるで俺を地獄に歓迎しているかのようだ。
来客を迎え入れ、主人の元に案内する。
そこで六度目の雷鳴が鳴り響く。
また、電力が落ち室内が暗闇に包まれる。
六度目の雷鳴は、俺への合図。
去らばだ。クソったれのしみったれのジジィ。
地獄に墜ちた。
だが、その地獄は同じではない。
クソジジィが死んで俺は生きている。
この黒雲の空も、鬱蒼とした森も
小高い丘の上に洋館全体が何も変わらない俺の地獄だ。
なのにどうして涙が出るのだ?
哀しみの涙
否、これは歓喜の涙だ。
呼びたくもないお前を主と呼び、服従し続けた
地獄に居座り続けた己への涙。
自由の涙。
さて、気分が良い。
これから祝盃をあげるのに相応しい宴をするとしよう。
おや?
そう言えば来客が居たのだったな。
エスコートをしてやろう。
7度目の雷鳴で、とうとう俺は一人になった。
END