最終話
女性客は後部シートに座ると、ぼそっと一言呟いた。
乗客「スカ・・・イ・・・タワー・・・」
運転手「はい、スカイタワーですね。」
運転手「キット、スカイタワーだ。」
KITT「目的地をスカイタワーに設定しました。」
・・・・・・・・
全員、息を呑んで見守る。
今度はしっかりと乗客の後ろ姿が映し出されている。
やたら髪の長い、赤茶色の地味な感じの服を着た女だ。
「陰気な客だな。」
「しっ」
運転手「お客さん、スカイタワーへは観光で?」
運転手は何度か話しかけたが、
消える乗客の特徴同様、
その乗客も押し黙ったままだ。
車内は、沈黙のまま、20分ほど経った。
・・・・・・
KITT「まもなくスカイタワーです。」
運転手「そろそろ目的地ですよ。降りる準備をなさってくださいね。」
・・・・・・
その時、女はカメラのある後方へと、ぐるんと体勢を変えた。
「何故こちらを向くんだ?」
「まさか隠しカメラがバレてるわけでもあるまい」
俯いたまま女は、徐々にカメラへと、にじり寄る。
一同、余りの不気味さに顔を見合わせる。
「君、ビビってるのかね?」
「しゃ、社長こそ」
言い知れぬ不安を隠す為に、軽口を叩きあい、乾いた笑いが部屋に響く。
「ひっ!?」
マツムラが画面を指で差しつつ、情けない声をあげた。
画面に目を移すと、女のものとおぼしき、血走った両眼が画面にアップになっている。
そして、画面の中から品定めするかのように、部屋の中の全員へ、ねっとりと視線を走らせる。
その直後、女は身体を後ろへ引き、全貌が露になる。
「うわああああ!」
それを見た、対策本部のメンバーは思わず大声を上げる。
その女は、頭から大量の血を流しているではないか。
「これは!?」
額がぱっくりと割れ、目から、口から、血をだらり、だらり、と流している。
それから、カメラのほうに向かい、にたりと笑いこう呟いた。
「あんた達の顔・・・覚えたからね・・・うふ・・・ふふふ・・・」
不気味な笑い声を残し、女はすっと消えた。
「き、きえた・・・?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
KITT「スカイタワーに到着しました。」
運転手「お客さん、スカイタワーに到着しましたよ。」
運転手「・・・お客さん?料金の支払い方法は・・・」
誰もいない車内で、いるはずの乗客に話しかける運転手。
もちろん、応答はなく、
KITT「目的地を専用乗り場に設定しました。」
KITTは、何事もなかったように、走り出した。
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全員、憮然とした表情で、その映像を見つめていた。
1人、目の見えない運転手を除いて。
「一体どうしたんですか?何が起こったんですか?今の声は一体?」
「・・・君が運転していた時、この女は喋っていなかったのかね?」
「はい、消える客が、行き先以外に喋った例は1つもありませんでした」
「バカな・・・ならば今のは・・・」
「だから私は隠しカメラなど反対だったのだ!」
ざわめく中、60代くらいの男性が、ふと思い出したように、
青ざめた顔でつぶやいた。
「そういえば、スカイタワーが建つ前、あそこは大きな墓地でした・・・。」
プツ・・・
映像は消去され、この件は、闇に葬られた。
それからも、人間消失事件は、盲目の男が運転するKITTにだけ
頻繁に起こったが、二度と調査される事は無かった。