第3話
じっと運転手の話に耳を傾けていた、
対策本部のメンバーがどよめいた。
「そんなバカな話があるか。」
「空車でもないのに、専用乗り場へ行くなんて。」
「KITTの誤作動?」
「しかし、そんな報告は他にはないし・・・」
「夢でも見たんだろう。」
「そもそも何で彼は盲目のままなのかね?」と社長は秘書に耳打ちする。
この時代では、医療も格段に発達し、盲目の治療などわけない事なのだ。
「一言で表すと宗教上の理由でございます」
「なるほど、それなら仕方ないか」
議論が進むと、やや感情的なようにも取れる意見が飛び交い始める。
「運転手の不正ではないのかね?」
「そうだ、運転手が怪しいぞ!」
それまで黙って聞いていた、白衣を着込んだいかにも研究者といった男が、
言葉を遮るように、立ち上がった。
名前を、マツムラと言う。
「お静かに! 皆さんもご存知の通り、
KITTのシステムは、運転手と言えども、
不正を働くことは出来ません。
何より彼は、不正を働く人間には見えません。」
「では、なぜ、人が消えるなんてこと・・・
説明がつかないじゃないか!」
不正と言い出した社長が、うわずった声で叫んだ。
「憶測を言い合ってもラチがあきません。
すぐに彼のKITTを、精密検査します。
検査の結果については、追って通達します。
本日は、これにて解散とします。」
有無を言わさぬ口調でそう告げる。
KITT開発の責任者であるマツムラは、タクシー会社の社長より圧倒的に立場が上なのだ。
立ち上がり、ぞろぞろと部屋を後にするメンバー達。
明らかに現実を受け入れられずに、
浮き足立っている様子である。
これほどまでにメンバーが動揺するのには、わけがある。
その理由とは、KITTが開発されてから今まで、
KITTの誤作動は、ただの一度も起きていないということだ。
KITTは、信頼できる乗り物として、いまや磐石の地位を築いていた。
KITTの誤作動が起こったことだけでも、
世間は大騒ぎになるだろうし、
まして、KITTに乗った人が、
どこかへ忽然と姿を消しているなどということが、
露呈したら、一体どうなってしまうのか。
もはや、KITTがなくては、生活が立ち行かないほどに、
重要なものになってしまっているのだ。