第2話
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本当に、不思議としか言いようがないですよ。
今月に入って、もう4回も起こってるんです。
いつものように、キットが自動的に乗客を迎えに行くでしょう。
その現象が起きるのは・・・うーん専用乗り場から
乗り込む客の時が多いかな。
乗客はタクシーに乗り込む。ここまではいつもどおりです。
それから、私は乗客に行き先を尋ねる。
すると、乗客は、決まってこの目的地を言うんだ。
スカイタワー、と。
「ああ、スカイタワーですか。」
「スカイタワーは、完成したばかりですし、
観光客が多いでしょう。」
「私も先週行ったばかりですよ。ものすごい人だったなあ。」
そう、そのスカイタワーです。
確かにスカイタワーを目的地にする乗客は多いです。
しかし、何といいますかなぁ。共通してるんです。
そう、暗いんですよ。観光地でしょう?
もっと楽しそうな雰囲気が伝わってきたっていいはずだ。
「と、いいますと?」
何か・・・こう、ボソっとね。
目的地を暗い声でボソっと言うんですよ。
そして、スカイタワーに着くまで、じっと押し黙ったままだ。
話しかけても、ろくに返事もかえってこない。
「なるほど・・・不思議ですね。」
「ああ、スカイタワーで働いてる人なのかも。
出勤途中ともなると、あまり浮いた気分にもなれないものですよ。」
もっとおかしなのは、ここからですよ。
スカイタワーに着くでしょう?
私は乗客に声をかける。「着きましたよ。」とね。
だが、乗客から返事はない。
もちろん黙って降りてしまう人もいますよ。
キットは料金を支払えば、自動的にドアが開きますからね。
でも・・・消えてしまうんですよ。
ドアが開く音もしない。乗客に呼びかけても返事がない。
料金がなくて、降りれなくなっていると思うでしょう。
違うんです。すっかり気配も消えてるんですから。
そう、車に確かに乗り込んだはずの乗客が、
いつの間にか消えてしまっているんですよ。
そして、しばらくすると、キットは何事もなかったように、
専用乗り場へ走り出すんです。