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冶金の街、オモハガネ

この世界はいわゆる普通の異世界。森でゴブリンやコボルトが暮らし、アンデットが夜中に地面から這い出し、火を噴く有翼トカゲのいる世界。

転生者だって流れ着くし、異世界の道具もある程度流れ着く。


今使ってる道具だって意外と異世界の道具とかってのはあるかもしれない。

ただ人とか異世界から流れてきた人にしたって、この世界の人間とは決定的に違うものとかってあると思うんだよ。異世界から流れ着くのが道具や考え方なら、記録に残る異世界者が共通で持ち得なかったものがあることもわかっている。


偉大なる祖龍の血を、遥か遥か、気が遠くなるほど遥か過去に宿す人間だけがその力を使える。

それが「魔剣」と「魔権」なのだ。

 今日も今日とて歩きづめ。前の街を出てからかれこれ3時間。ずうっと歩き続けている。

はじめは次の町について名産がどうとかアレがうまいとか喋りながらも歩いていたがだんだんと口数も少なくなってくる。さすがに話題がなくなってくる。当たり前だろ。さすがに3時間も歩きづめだと、な。


「あー・・・次の町ってどんな街だっけ?歩きづめでクタクタだし名物の料理とかうまい街がいいな」

つい腹が減って口が出る。それに釣られて腹も鳴る。あぁ、腹が減ったな。


「ハハ、ならメシは美味エ街だと思うぜライト様よ」

彼は旅の道連れ、身の丈を超える大盾を背負ってギラついた歯を見せて笑う彼は「雇われ傭兵、城騎士のダイン」である。彼は職業傭兵であり自分が彼の雇い主、クライアントというわけだ。


「ちょっとダイン!口の利き方に気をつけなさいな!それにライト様も少しは口の利き方を指導しなすってください!」

ぷりぷりしながら自分と彼を叱りつける背の低い彼女はアリス。こちらも雇われの魔術師で、旅の道連れである。どうにもならない問題にかつてぶち当たった時、「学院」に知恵を借りに行った時以来、旅に同行している。


「まあそう言わねぇでくれよ。オイラが楽だからそうさせてるんだし、アリスもそろそろ慣れてくれってば」

「あなたもお自覚ください!あなただってそうやって彼を甘やかすから」


ぷりぷりと怒り出すアリスを遮ってダインが何かを見つけたようだ。

「オイ!あれよォ、目的の街だろォ」


ダインのいう目線の先を見る。煙が上がり暮れた空に、人の営みの明かりがともっている。

ほんのりと炭や鉄、熱い鉄を感じたような気がした。


「あれが確か鉄とカジノの町だろォ!?」


「鍛冶の町よダイン。町の規模自体は小さいけどそこで作られる武器はひとりひとりの職人の手で、作られてるの。魔導機の登場で気の遠くなるような鍛冶の工程をある程度の短縮できるようになったにもかかわらず、ひとりひとりの手作業で作る武具は業物、傑作、いずれも高名な騎士や貴族がこの街の職人を指名して作らせたりするくらいの技術の町よ」


「・・・長ェよ。まとめてざっくり言ってくれアリス」


「時代遅れの手法ではあるが名品を作る技術と職人の町ってこったなー。そういう職人たちの町の飯はうめーぞ。飯が人を作り、活力がものを生むんだ。飯もうまくなきゃいいものは生まれないんだよ」


そうやって晩飯の話や明日どこへ寄って何をみようか、なんて話をしながら歩いていればあっというまに町についてしまった。腹減り時のメシの話は空腹にクリティカルで効くもんだけど仲間と楽しい話をしながらだと案外早くすぎるもんだ。


 町について日もすっかり暮れちまって夜。さっさと近場の宿でメシにすることにする。疲れた体でやっとのイスにたどり着いて皆がイスにドカドカと座る。よく見るとこの椅子も細かい装飾のある木細工のイスでこういうのも職人の仕事なんだろうと感心してまた腹がなる。


「ライトよォ、キレーなもんじゃあ腹は膨れねぇぜ」


亭主が言うには昼間は普通に飯屋をやってるそうで、メシは職人や力仕事をやってる男衆向けにガッツリした胃袋にずっしりと来るメシが看板らしい、ふと隣の席を見る。いかにも職人という太い腕、オーバーオールを着た男性が食事を始めたばかりだった。2人前はあるかという大皿にドカドカっと盛られた野菜に、更に暴力的にのせられる甘辛い香りのソース絡んだドカ盛り肉。そいつを手で余るほど大きな二枚のパンで乱暴に挟んでそのままかぶりついていく。

自分と一緒に見ていた二人も思わず喉を鳴らす。続いて腹がなる。顔を見合わせ一気に各々が注文をする。

男二人ダインとライトは肉がドカ盛りにされつつスープにパンも付いたセットなんかを頼んでみる。

アリスの方は野菜とスープ、それとそこそこに肉の皿もあるセットを注文したようだ。


「オメーアリスよォ。昔に比べて食うようになったよなァ。初めなんかパンと少しで満足してたろ?」

「・・・昔に比べて食事自体がたのしくなっただけよ」


そういってもくもくと食事にありつく。

食事も半ばにダインが切り出す。


「ところで明日はどーすんだァ?ライト、様よ」

じぃっとアリスに睨まれて渋々、様を付け加える。


「あぁ、それなんだけどな。オイラはせっかく寄ったんだしここいらの武器屋とか防具屋のきれいな業物たちを見に行くってのもいいかもなぁ、って企画してたんだけどどうかね」


「いいじゃねェか?大盾はともかく甲冑の方はある程度メンテしてやりてぇな」

ダインが使い古した甲冑をなでて笑っている。


 「やっぱダインはその甲冑に愛着があるのかい?生きるか死ぬか、路銀と日銭を稼げる戦場を探してたのが嘘みたいだーね」

 「そんな変わってねェぜ?こいつらは商売道具だ。コレがイカれりゃオレが死ぬ。それは勘弁ってだけだ。殺すのは慣れてても殺されるのだけのはゴメンだからなァ」

壁にかけた大盾を撫でながらバツが悪そうな顔をしている。

 「あんたやっぱりそうなのね。話してると思い出すわ、白騎士様」

「これしか生き方を知らなかったし、それしかなかっただけだっての」


 まあ雑談もそこそこ。よく見ると隣でドカドカの大皿でメシを食ってた職人もメシを喰い終えてたらしい。山のようなメシをあっという間に平らげちまってた。


「おまえさんら、明日は職人の武器とか見に行くんだろ?ならうちに来るといいぞ!うちはこの鍛冶場町で一番の職人よ!」

オッサンも胸を叩いて自身たっぷりに言う。しかし


 「いうだけなら誰でもできるんだぜェ、オッサンよ。突っかるつもりじゃねぇがただの営業じゃねぇって保証はどこだい?」

 「はっ、んなもんお前さんの装備で言い当ててやるわ!」

そういってダインの甲冑をべたべたとさわり、グローブをした太い腕でゴツゴツと盾に拳をぶつける。

 「あんた相当な騎士か戦士だな。使い古しの割に鎧の摩耗はかなり少ない。無駄なキズや転倒みたいな跡が全然ない。そして盾も盾だ。甲冑ほどじゃないが使い込まれている。しかし甲冑と比べて使い始めの時期が合わない。あんたメインの得物は別だろ?」


ダインは目をぱちくりさせてクスっとわらった。

「ハハハ!やるなオッサン!同業者以外にそこまでいいあてられたのは初めてだぜェ。相当量の武具や防具を見てきてんだな。それにメインの得物が違うのを当てられたのは数えるほどだぜ」


「わかったろ?なら明日はうちに来るといい。明日はちょうど余裕のある日だ」

「ああ、頼みますよ。ちょいと我々も長い旅路の道中ですので装備はちょくちょくメンテしたいんです」

「ああ!金さえもらえりゃメンテから業物の依頼まで全部ござれ!オモハガネ一の工房スレインダイン工房におまかせだぜ!」


翌日。あのスレインダイン工房のオッサンに誘われたとおり、朝飯を済ませてしばらくした後の昼頃に向かうことにした。

 「ライト様よォ。あのオッサン確かに見る目はあったぜ。だが鍛冶とか腕の方はどうだかなア」

 「んなワケねーっしょダイン。見る目があるってことはかなりの仕事をこなした実績があるってことでな。それに質もだぞ?お前クラスの戦士の武具を見てきてるってこったよ要は数の仕事を任せてもらえるだけの信頼、信用はあるってことよ」


そうこう話をしてるうちにわりとこじんまりとした工房についた。表にはデカデカとスレインダイン工房の看板がかかっている。

店にはいると昨日のオッサンの娘だろうか、年にして14~15くらいだろうか少女が店番をしていた。

 「・・・あ、すいませんいらっしゃいませ」

 「客が来たってのに元気ってーか、愛想がねーなア嬢ちゃん」

 「言い方」

 「わかってるよ、遠慮がねぇのは許してくれよォ」

 「あ、たしかにちょっと問題が起きててですね。お客さんには関係ない話なんですが」

 「キャロル!客に話すようなことじゃないだろ!」


工房から出てきたのだろうか。ススと汗にまみれた顔で昨日のオッサンが首にかけた手ぬぐいで顔を拭いながら出てきた。


 「ごめんなさい、父さん、つい」

 「なにか厄介事でも?」

 「まぁなそんなトコなんだがそれはそれだ。まずは商売の話だろ?鎧とかのメンテだろ?嬢ちゃんのスタッフは専門外だが、大盾の旦那と剣士の旦那の武具周りなら見てやれる。ぜひとも任せてくれ」

 「いんや、オイラは結構だぜ。ろくすっぽ抜いてない剣だし。なにより荒事は二人が解決しちゃうからさ」


言ってオッサンは二人の出で立ちを見て納得したのか笑う。


「まあ戦士の旦那はかなりの腕前ってのは昨日の段階でわかってるが、嬢ちゃんはどうなんだ?魔法関係はサッパリだからな。装備だけじゃ見ててもわからねぇのよ。しかしな」

じぃ・・・っとアリスの顔を見つめてニッコリ笑う。

 「うちの店を利用してる戦士や衛士と近い目をしてるな。盾の旦那ほどじゃないけど修羅場もくぐってるな。結構結構。まだうちの娘と同じくらいだってのにすごいんだな嬢ちゃん」

 「あのね、嬢ちゃん嬢ちゃんっていうけど私、成人してます!低いのは背丈だけです」

プッ!とダインが吹き出す。

 「このやり取りはなんど見ても愉快ってなもんだなア、アリスよォ。たしかもう24だろォ?オレよか年上だってのにコレが毎回だからな」

 「うっさい!」

 「ん、済まなかったなアリス殿。詫びってわけじゃないがアリス殿の旅道具の手入れは無償でやってやるよ。そんかわり戦士の旦那の甲冑も最高のメンテをしてやるよ。この町最高の職人のホコリにかけてな!」

 「ありがてェぜ旦那。コイツもそこそこ使い込んでて、色んな職人に手入れは任せてるがちょくちょくガタが来てる部分があったりしてなァ」



二人がガハハと笑い合ってると新たな来客だろうか、店の戸が空いた。

 

「オイオイオーイ、一番の職人はとなりのグレイプニール工房の職人長だろう?あんたの武器にゃ残念だけど光るものが足りてねぇんだよな。」

 「ほざいてろ、若衆のあんたがイキっててもしょうがねぇだろうが。それにグレイプニール工房との勝負は結局明日の品評会で決着がつくだろが」

 「だから親切できてんだよ!明日の勝負を降りろッて話さ」

話を聞いてると勝負だかなんだか知らないが件のグレイプニール工房の関係者と思われる若者の話を聞いてるとムカムカする。

 「オイラは、そう思わないねぇ。彼の腕は間違いなく一級品だと思うし、我々旅人は文字通り武具に旅の成功の可否を預ける。彼の店の武具を見れば一発で分かるよ。無骨だが丈夫でよく切れる。飾りなんつーのは我々からすると求めるものが違うってこったな」

 「ケッ!お墨付きをもらうのは間違いなく我々なんだ!店をたたむ準備をしておきな!」


捨て台詞を吐いて若衆は逃げていった。

 

「いやーお見苦しいところをお見せしましたな。実はあれが件の問題でしてな」

 「品評会とかいってたけど」

 「きいてのとおりですな。それと先程はありがとう御座います。」

 「飾りばっかの武器ってのはどうにも好かないタチだからさ、オイラ。得物はシンプルで強いほうがいいよマジで」

 「ライトの旦那がいうとよォ説得力あるよなアリス。ああまったくそのとおり」

 

アリスもウンウンと頷いている


 「・・・それで品評会ってのは?」

 

「単純に言うなら鍛冶屋の腕比べってとこでさあ。お互い冒険者や旅人のための装備をしつらえて来てたんだが、向こうが品評会を意識してんのか見てくればっかりを気にして武器を作るようになっちまった。実際きらびやかな細工だったり豪華な彫り物だったりで美術品としちゃ綺麗だが武器としてはな・・・で、さっきの若いのってのはただの嫌がらせだな。ここんとこ毎日来るぞ。少なくともグレイプニールの差し金じゃないのは確かだがよ」

 

「そいつはなんでだい?真っ向からコンセプトもぶつかり合ってるし、オイラ気になっちまうなそれ」


ニッコリ笑ってオッサンが言う。

 

「あたぼーよい!あいつは昔からの大親友!最近は互いのメンツで会いもしねぇが間違いなくそんなマネするやつじゃねえってことなのよ!」


嬉しそうにガハハと笑う。その時外から物音がする。複数の足音や鎧の金具のぶつかる音。剣を抜く音も聞こえる。


「ライト様、後ろへ。」


「下がってろォ、旦那。オレ一人でも問題ねぇ程度の荒事だ。けど別働隊もあり得るぜェ」


ダインは大盾を構えながら玄関前に立ちふさがる。

ドヤドヤと店の前が人の足音で喧しくなる。本人らは息を殺してるつもりなのかまたはバレても「問題ない」ぐらいにしか思ってない浅はかな連中なのか気配が消しきれていない。


 「ライトの旦那ァ、裏口は任せますぜ。正面のほうはよォ俺一人で十分制圧仕切れますんでヨ」


 「あーいよ。くれぐれも頼むよ」

 

 「大丈夫だぜェ。殺しはしねぇからよ。即死したほうが幾分マシだと思うけどよ」


ダインは大盾を構えて正面の戸から打って出る。それにあわせてライトも工房の店主に裏口を教えてもらいそちらにむかった。


「なんだてめぇ。話が違ぇぞ。オッサン一人と娘が一人の楽な仕事じゃねぇのか?」


武装したグループの先頭が吐き捨てるようにいう。人数は五人。ダガー4人。ならずものの頭目だろうかそいつは長剣を持って、皆が皆頭巾を被って顔お隠している。


「とおりすがりの旅人様だぜェ。どうしてここなんだ?」


頭目が黙りながらジロジロとダインを下から上まで睨みつけるように見ている。


「得物はどこか、かい?いいからかかってこい。殺しゃしねぇからよォ」


盾の後ろから不敵な笑みでダインが指をちょいちょいとやっている。「かかってこいよ」と相手を煽る。


ならず者のグループが散開してダインを取り囲もうと動き始める。


「数で勝ってんのにビビってんじゃねーよォ。来ねぇならよォ」


身の丈を超える盾にダインが体を隠す。ググっと体勢を落とす。次の瞬間まるで火薬が爆ぜるように

飛び出し、ならず者の群れに飛び込む。反応が遅れたならず者が狂乱した雄牛にはねられるように店の壁に叩きつけられた。さらに一陣小さな竜巻のようにその何十キロとありそうな大盾を振り回し危険を察知して飛び退いた頭目以外が壁に叩きつけられて気を失っている。


「こっちから行くんだけどよォどうする?まだやるかィ?」


「その鉄塊みたいな大盾でなんて出鱈目なマネしやがる・・・しかもお前本気も出してないんだろ・・・クソったれめ」


「ハハハ、そのとーりよ。最初の突撃からの連携で貴様ら全員、薄黒い壁のシミにだって出来たんだぜェ。だが店がバッチくなるのは店主が気の毒だと思ってな。それに主人との約束もある」


「主人だと?そいつももしかして中にいるってのか?」


「ああそーだぜ。表は俺が守ってるから完全に無問題。町のゴロツキ程度なら一山いくら単位でしばいても全く問題がないしお釣りでだけで山ができちまう。それに時間稼ぎも無駄だぞォ?気の所為ならいいんだがそうやって会話で時間を稼いで裏口の別働隊に目的を達させるつもりだったかもだがこっちにも仲間がいるもンでな。オレ等のクライアントはとにかく優秀さんの出来杉クンなんだよなァ」


そうきいて頭目も顔を青ざめて慌てて逃げ出す。きっと死ぬ気でやっても勝てない相手だしなにより割りに合わない、ということなんだろう。


「オイ、まだ聞きたいことが山ほどあってよォ。お話しようぜェ?」


ダインが逃げ出すゴロツキの頭目にめがけて鉄の塊である大盾を、まるで遊びでピザ生地でも投げるようにぶん投げるとそれがゴロツキのかかと辺りに直撃して脚と頭の位置がひっくりかえるようにすっころぶ。


「俺は拷問は苦手だからよォ。素直に吐いてくれたほうが互いに得だぜェ。俺は手加減できねぇからよォ」


脚を抱えてうめきながら怯える頭目に、握った拳を掲げてダインが悪い顔で脅かしている。


「あー・・・ダイン取り込み中わるいんだけど、こっちも終わったよ。だから彼をそれ以上痛めつけないでいいからさ。それに金以上に繋がりとかはなさそうだからさ、もうういよ。オイラが聞き出すよ。ダインだとマジで殺しかねないし」


中からライトが出てきた。別段疲れた様子もないし。服の汚れなんか旅のもの以外は目立つトコもないあたりほんとにさしてしょうもない程度な問題だったのだろう。


痛みに呻く頭目を縛ったあとアリスが魔法で折れていた脚を回復しながら尋問を開始した。

ライトが回った裏口側のグループが本命だったようで、ゴロツキ程度ではなくどこぞの私兵だった、というわけだ。


 「まあ只の強盗ってわけじゃないのは予想してた通りだね。例の品評会とやらもあるしそっちのハナシが発端なんだろうね」

 「でもよォライト様。ハナっから店にあるもの、もしくは命が狙いならなんで裏口が本命なんだ?」

 「人質よ。正面から押入れば、ここの店主ならまず娘を逃がす。そこで娘を取り押さえて要求を通すためにいろいろ画策してた、ってところでしょうね。実際、私達がいなければ十分成功してたとおもうわ」


それを聞いて店主が激昂していた。

 「俺の店に押し入るだけでも許せんと言うのに・・!初めから娘が狙いとは!許せん!許せんッ!!」


 「それに私兵共だ。そういった連中を金で焚き付けられるような相手なんていくらでもいるぞ?町に貴族やらだ。商業がさかんな町だってきいてるしな。どっかの私兵連中は交戦前に逃げられちゃったからいきなりドンピシャとはいけないんだよねぇ」


ライトはため息をつく。


「そりゃライト様の交戦モードを見れば誰だって逃げるってもンよ。正直俺だってゴメンだからよ」


「まあね。それに捕虜はゴロツキだけだし、彼は本来使い捨てで雇われてただけだろうし事件の全容をしってそうな相手の事をしってるとも思えないんだよね」


「あーあ、ライト様が上手いコト私兵とか捕まえてくれりゃあなあ!」

わざとらしくダインが冗談ぽくいう。ライトも苦笑いをして鼻の頭をかいている。


「アリスはどう思う?こういう利権とか悪意とか絡むのは得意だろ?」


「人をテロリストとか魔女みたいに言うの止めてもらえるかしら?・・・まあ、全然わからないんだけどね。この町は産業の町であり、世界屈指の鍛治の町。さっきの通りこの町には商人や貴族、金の流れのはじまりであってそこに絡む人間はとんでもなく多いわ。そうなれば私兵を持ってる連中も多いし今から洗い出しをしても碌な成果なんて得られない。・・・で、ライト様はどうされます?」


「オイラ達の旅の目的ってなんだっけ?覚えてるっしょ?」


「世直し、困った人の手助け。本当崇高ではあるんですけど実際地道ですねコレ…」


アリスが深い溜め息をつく。これからの作業量を考えているのだろう。

聞き込み、探り出し、照らし合わせ。やるべきことは時間もかかるしものすごく地道である。


「俺は知ってるぞ。犯人を知っている」




 とんでもないことをゴロツキが言い出した。しかしこの場を切り抜けるためのウソかも知れない。


「証拠はどこだ?」


「雇われるときに使い捨てなのかもと用心してたんだ。俺はたまたま金が入って、この街の情報通と酒場で気持ちよくエールを煽ってたんだ。でもってその情報通が便所に入ってる時を見計らってボロきれを着たどこかの兵士か雇われの私兵みたいな奴が俺に仕事を持ちかけてきたんだよ。そして便所からツレが返ってくるのを見計らって話を切り上げさせて顔だけ確認させたんだ。そしてそいつの顔からどこの兵なのか調べてもらったんだ。そいつに確かめてもらっても構わない。娘がいるし金が必要だった」


「なぜペラペラ喋る?」


「そこの盾の戦士が俺らを殺さなかったからだ。本来俺だけ残して皆殺しにだってできたはずだ。でもしなかったろ?礼でもねぇけどなんかしなくちゃな」


「それで、この襲撃の依頼者、要は事件の黒幕は?」


「明日の品評会の出資者の一人で、グレイプニール工房のスポンサーでもある商人のディオンだ」


「また大物だな。ディオンか」


 襲撃を凌ぎ、とりあえず明日の品評会が終わるまでは護衛として雇われることになった。まあ雇ってもらえるならそっちのほうが都合がいいしこちらから切り出すつもりだった。

そして品評会について詳しい話を聞いておいた。


聞くところによると町一番の武器職人、防具職人で頂点を競うという点では聞いている部分では変わっていない。しかし娘さんが言うには町ではある噂が立っていて、この町にも例に漏れず商人のギルドがあるのだが今回の品評会の優勝者にこれから作られる大工廠、要は国の軍事工場なのだがそこの武器や防具などの工廠長ないし、意見板として召し抱えられるということらしい。


「ようはその辺りで利権が絡んでんだなァ。件の商人も身内や自分の部下なんかを送れれば利益を貪れるってわけだな。」


「まあそういうこったね。もしかしてこういう事件がおきてたりする?」

「表面化しないだけの事件ならいくつも起きてるんでしょうね。まあ流石に早い段階で身辺警護を雇ってる鍛冶屋が多かったから治安は酷くならなかった。というところでしょうね」

「いまのところはっていう条件はつくだろうけどなァ。そういった確執は絶対ろくな結果にならないぜ。なにかの拍子に加害者と被害者が入れ替わればそれは凄惨な事件が起きるもんよ。」


「じゃあオイラたちはどうするか決まったようなもんだよね」


「出資者ともなれば品評会の結果は気になるところだろうし会場には来るだろうしなア。いつもどおりだァな」


「ああ。いつも通りだーね」


「ええ、いつもどおりですね」


三人が楽しそうなやり取りをしている。これからどうするのか、どうなるのかで先の展開を見据えてるのだろうか。不思議そうに工房の亭主が尋ねる。


「どうする気なんだ?まさか正面から挑むわけじゃああるまい。相手は名うての商人で金で雇った私兵、護衛の数もかなりだ。それに明日の品評会、多くの商人たちが集まる。数で言えば何百、何千って兵士がや戦士が警備で集まるんだぞ?何する気だ」


ニッコリ笑ってライトが腰に下げた細身の剣に手をかけて笑う。


「そりゃコイツで黙らせるのさ。オイラはコイツで黙らせられない相手を知らないからね。」


「しかし強いのは分かったが、今晩にまた第二陣がこないとも限らんだろ?」


「いや来ないよ。オイラは特別だからね。もしやりあうってんならそれなりの準備がいるから、それこそよっぽどのことがないとこないさ」


そういうとライト達がそそくさと寝る準備始めた。


「まずは俺が寝ずの番をするゼ。交代でライト様だ。わかってるよな?」


「もちもちのモチよ。さぁさ!ご主人。うちのアリスと一緒にさっさと今日はお休みになってくださいな」


「ほんとにいいのか?確かにありがたいし、あんたらが腕利きなのもわかったが、人数が多いほうが番としては」


「んなこたねぇさ。道具なんかのメンテの代金変わりさ。なによりアリスは戦力に数えちゃいないさ。そうと決まったら、さあさ寝た寝た!!」


ライトに囃されて、娘さんとオッサンは後ろ髪をひかれるようではあるがその番はさっさと寝ることにした。



「・・・んでよォ。実のところ来ると思うかい、ライト様よ」


「クライアントが数でどうにかできるだろとか、口封じできなきゃ始末する、とかそういう手合ならあるんじゃあない?それにさっきの襲撃の感じだと”(兵の強さ)”とかは気にしてる風じゃなかったし」


ライトは手をひらひらさせて真剣味のない顔で言う。

そんな事をいってたら店の外で人の気配。どうやらさっきより人数は多いみたいだ。鎧の擦れる音、剣を抜く音、クロスボウなんかを準備する音。ざっと見積もっても20人程。きっと裏口もそんなかんじだろう。


「ははは、こりゃあ二人して寝ずの番だねぇ」

「ロクでもない事言うからホントになっちまったじゃねぇか旦那。まあさっさと片付けようやい」


朝の日差しが窓から差し込んでいた。宿によって程度の差はあれこの日差しは苦手。だった。

昔は部屋に引きこもってずーっっと研究ばっかだったからこの日差しがうっとしくて叶わなかったが今となってはもう昔。工房の主人達の顔を見に行く。


「おはようございます、ご主人」


「おう嬢ちゃん。玄関前のあいつら起こしてやってくれ。俺は道具のメンテを徹底的にやらなきゃいけなくなっちまったんだ」


そういうと旦那さんはさっさと工房に入ってしまった。

玄関前にはダインが壁にかけた大盾に背中を預けて眠っていた。よくみるとすこし土汚れなんかが付いている。そんなこととは思ったがやはり大きな怪我はない。まあ心配なんてしていない。このダインを相手に戦える兵士なんていないだろうし。


「お疲れ様ダイン。守備は?」

寝ぼけ眼をこすってダインは目をさます。


「別に。トーシロのチンピラが最低でも15。裏口でもそんなもんだと思うぜ。なかなか深夜の団体のお客様だったが閉店した後だからな。お引き取り願った次第だゼ」


「そんだけ口が回るなら別に無事ね。品評会は夜だし、しばらく寝てれば?」


「クライアントが許せばそのつもりだ。流石に眠ィわ、オレもよォ」


そう言ってダインは頭に手をまわして、壁に掛けた盾を枕を寝入る。

座寝。あぐらをかいて座ったまま寝る、臨戦態勢での休息方法。ほとんど敵なしのくせに用心深いことで。まあこういうストイックな所は味方である分非常に頼もしい。


「じゃあ、ライト様の方見に行くわね」


ダインは目をつむったままコクリとうなずき、小さく寝息を立てている。

工房の主人が作業してる工房を抜けて裏手に出ると裏の戸口を守るようにして座寝で寝息を立てていた。周りを見ると中身ががらんどうの鎧が放置されていた。

よく見ると手甲や足甲などを数えると2、3体分の甲冑が散乱していた。


「ライト様、朝ですよ。寝ずの番お疲れ様です」


「ん、もうそんな時間だったわけね。ってことはあれから襲撃はなかったか」


「あれですか?」

視線を散乱した鎧の方に向ける。よく見ると強烈な打撃か衝撃なんかで歪んでいた。

「アレアレ。アレだよ深夜で寝ずの番、人っ気もない深夜のさむーい頃にガッチャガッチャやかましい音を立ててやってきたよ。まあ無問題だったけどね」


「あの程度でどうにかなる玉でも無いでしょ、ライト様は」


「まあねえ。まあオイラはだけどね。これが一般人だったらそうはいかないさ。それに魔術の痕跡もあるんだよ」


ライトがクイっと親指を中身のないがらんどうの鎧に向ける。


「ああそういうことですか。でしたら私めがこの場は私がやっておきますね」


「じゃあ中で休むから。流石に昼間は襲ってこないだろうし、夕方からの品評会に向けてぼちぼち本寝に入るよ。どうせまた〈アレ〉使わなきゃいけなくなるだろうし」


そう言ってライトは店の中に入っていった。

「さてと、じゃあ私は私で仕事しなくちゃね」


アリスはちょっとした魔術の準備を行う。

各々が自分の持ち回りを行いながら夕方まで過ごす。そして夕方からはスレインダイン工房も含む、街の腕利きの鍛治屋達の大一番。武器の品評会が始まる。


ライト一行は主人の護衛をしながら工房へと向かっていった。


スレインダイン工房の旦那と娘さんを連れて街の広場、品評会の会場へ来ていた。

娘さんもそうだがこのご主人も非戦闘員だ。あの小さな工房に置いておくのは良くない。


名前の賊の頭領と思わしき戦士のから名前の上がった大商人ディオン。都市間でそこそこに商いを行っている、最近名前の売れてきた商人らしい。いろんな金になる事に首を突っ込んで、そして結果をしっかり勝ち取っていく実力のある商人とのことだ。しかしそれ以上に黒い噂もある商人で、荒事で解決するというケースもあったんじゃないか?なんてこともささやかれていたそうだ。


「しっかしすっごいねぇ。皆さん今回の品評会にいろーんな品物もってきてら」


穂先鋭く月明かりを反射する槍や、そんなの振り回せるのか?と疑いたくなるような竜の首でも落とすためのような重鈍な大剣や、小さめのダガーだろうか。握りに工夫されてるのか妙な形をしていて、逆に刀身は肉厚で丈夫な作りをしている不思議なものもある。周りを見渡すと業物、逸品などをまわりの鍛冶屋達がが大事そうに持っている。


「今回の品評会で将軍が実際有事で使う武器と、それを作る職人が決まるからなぁ」


「ええ?それ初耳なんだけど?」


「言ってなかったか?仕事で腕を競うのは当たり前だが今回はそれで街の鍛冶屋共は肩に力が入ってるのさ」


「じゃあそれが原因なんだろうねぇ。今回の襲撃は。こりゃあ黒幕は他の優勝候補とかも襲いにいってるんじゃないかな?」


「・・・考えたくねぇな」

ご主人はいやだいやだと首を振った。


「それより品評会がもう始まる。流石に始まったらそんな大仰な襲撃なんか無いだろうし、ライト。お前さんも品評会を楽しんできてくれや」


「ダーメですよご主人。お心遣いはうれしいですけど何かあってからじゃ遅いですし。側には必ずダインを置いておきます。もしなにかあってもあいつがうまくやりますから安心してくださいな。ですがこっちはこっちで調べ物があるんで別行動しますよ。まあ無いとは思いますが目立たないでくださいね」


「お待たせしましたライト様。仕込みの方は完了しました。」


どこかへ行っていたアリスが合流した。顔を隠しているのか魔術師がかぶるような深めのフード被っている。


「お嬢ちゃんはどこへいってたんだい?」


「それはまあ、後ほどわかると思いますよ。ところでご主人、品評会をざっと見回してみたんですがどれもこれも逸品、業物、名刀って感じの名品ばかりでしたよ。どんな武器を作ってきたんですか?」


「これよ」


ご主人はそう言って大事に抱えていた包から鞘に収まった細身の剣を取り出した。

鞘の上からでもわかるが打ち合いに向いた刀剣ではない。細長く、反りのある鞘。鞘自体の装飾はシンプルに纏まっている。刃渡りはあるから受けることはできても相手によってはそのままカチ折られてしまうような印象を受ける。


「見せてもらっても?」


ご主人はその刀をこちらに渡してくれた。手に持ってみると意外と重さがある。細さに比べて存外に重い。並の身が詰まった刀剣と変わらない。そして気になるのがどんな「刃」なのか。

 柄に手を伸ばしてするりと刃を出してみる。


「うん・・・」


その瞬間一瞬目がくらむ。思わず刀剣を急いでしまう。何が起こったかと思うが刀剣が月明かりを鋭く反射し、それが目を眩ませるほどの明かりになったのだ。

 もう一度剣を抜く。光に気をつけながらもう一度。

そこにあったのは純銀に輝いた薄刃の刀剣だった。いや刀剣として、人を殺め戦う道具としてはあまりにも美しい白い輝きだった。しかし刃は反対にとても鋭くまるで断てないものは無いんじゃないかと錯覚するほどの冷たい輝きを放つ人殺しの道具だった。


「すごい・・・刀剣ですね。こんな剣は見たことがない。」

「うちに代々伝わってる製法で作った剣だよ。例の大昔の異世界渡来者が残した技術で作ってるから他の職人には作れんさ」


「異世界の武器なんですね、納得です。ところでこの刀剣の名前は?」


「ウチではその渡来者がそう呼んでたからそうってことでこういう製法、形状の武器は〈カタナ〉って呼んでんだ」


「カタナですか。」


そう呼ばれた刀剣を見つめ、辺りを見回して他の職人の刀剣達とざっと見比べる。どれも素晴らしい出来である。

だが確信する。ああきっとこのカタナが優勝するんだろう。他の武器と見比べて圧倒的に勝っている部分がちゃんとある。武器として忘れちゃいけない本質の部分。自分の身を守り、相手を殺める道具だという武器としての「最低ライン」であるその部分が色濃く出ている。

この最低ラインを突き詰めていくと機能美だとかジャストフィットだとかそういったものが見えてくる。これにはそういう使う側を考えた良さが詰まっている。


鎧や盾はどんなに不格好でも自分や仲間の命を守ることが最優先で尊重されるべき性能である。

反対に、命を奪う武器というのはそこに重きを置くのだ。

このカタナと呼ばれた武器はそれだ。打ち合うことを想定していない。一方的に殺すこと、斬ることを想定して作られた人斬りの武器である。武器としてコレ、人を殺める兵器としてこれ以上無いほど優秀である。


「たしかに業物。切れ味とか見た目の美しさ以上に機能美がすごい剣だ。これは優勝ですよ、優勝」


興奮気味にライトは語る。まるであの純銀の刃に魅入られたみたいに楽しそうに言う。


「んじゃあ、オイラとアリスは人混みに隠れながら事が起こるのを待つよ。どうせすぐになにか事を起こすに決まってるし、そうしたらオイラ達が動くから」


そう言ってライトは人混みへと消えていく。


程なくして武器の品評会が始まる。始まるというよりはざわめきが人混みの向こうで動いていて、ああ、あっちの方でやってるんだな。というふうに察するといったところだ。聞いたとおりだとまずはこの町の市長や商人たちが露天形式で鍛冶師達が広場に簡易な店を構えられ、広げられた武器を見て回っていくそうだ。まあ逸品ぞろいで業物揃い、いろんな冒険者や戦士たちが武器を見て回っているのが見える。品評会とは言うが一種のバザーみたいなものだろう。規模はゼンゼン違うが。


「いやーすごいねぇ。いろんな武器あってオイラも目移りしちゃうねぇ。ホラアリス、あのメイスとかすごくない?人どころか鎧の上から潰し殺す形してるよアレ」


「・・・私、鈍器周りとか野蛮な武器の話しないでくれます?わからないんで」


「ああゴメンゴメン。ちょっと興奮しちゃった。しっかし業物ばっかだねぇ。ホントすげぇや」


そんな話をしながら大広場をざっと見て回る。いろんな防具や武器を見て回るが、どの店にも必ず「非売品」が一本ある。


「わかるよねアリス」


「アレが将軍様あての武器なんでしょうね、素人目に見てもできが良いです」


「んなコトないよ。実際上物の武器のたぐいなんだけど、見た目に凝りすぎてる。獅子のレリーフ、竜の彫刻、一角獣を模した槍。たしかにすごいけど命を預ける武器には必要ない部分だからね。そりゃカッコイイってのは大事だけど命より大事?って話」


「少年、話がわかるな」


ふと、声の方向に振り向く。ざっと二十人くらいだろうか使者が後ろからついてきており、特に側には腕利きの護衛だろうか。どうみても騎士という人間が側で辺りを警戒している。


「これはこれは!もしや今回のパーティーの主役、《ししがりこう》獣狩公〉とよばれるルクレイン将軍様ですね?」


黒い髪、黒い瞳とかつての戦いで負った傷を隠す大きな眼帯がシンボルの将軍。ルクレインがそこにいた。ルックスも甘い上、勇猛果敢で下々にも優しい。街などでは人気者の国の武力の象徴でもある。


そんな人間が前にいる。ライトが頭を下げ、遅れてアリスも頭をさげる


「よい、今だけは武器を買いに来ただけの一介の戦士である。貴公もそうであろう?」


「ええまあ。そういうところでございます」


「そしてさっきの話だ。さっきどの武器も見てくれ『だけ』はいい、と話してたな。実際その通り。どこを見てもオレに気に入られようと目を引く武器ばかりでうんざりする。特に酷いのは剣に宝石をごった盛りにしていたやつだった。宝石で人が殺せるか、黄金で矢を防げるかと叱り飛ばしてやったわ」


ぶすっとした顔でまくし立てる。よほど思うことがるらしい。


「オレはな。金でできた鎧をまとうこともできるし、宝石の剣を作らせる事もできる。当たり前だろう。私は将軍だ。しかし、前線でそんな鎧を着た奴らが前線で役に立つものか。そんな奴らから逃げ出すか、魔物の餌になるのを散々みてきた。本当に命を預けるに足るだけの武器をココに探しに来た次第だ」


「なるほどなるほど。でしたらオススメの鍛冶師の店があるんですがルクレイン将軍様、よかったらいかがですか?きっとお気に召すと思います」


「よい。案内してくれ。ちなみに良き目をした旅人よ。名は?」


「私はライトドアともうします。ライトと呼ばれてますがお好きにお呼びください」


「うむ、ではライトよ。頼む」



ルクレイン将軍の一行を引き連れながらスレインダイン工房へ向かっていく。道すがら将軍はチラチラと通りの店の武器たちを見ていくがどれもこれも、あーでもないこーでもないというようにため息をつくばかりだった。


「ルクレイン様、やはりお気に召しませんか?」


「ああしっくり来ない。私は生まれつき膂力が凄まじいということらしくてな。本気を出せば北の大地にいるという身の丈にして4メートルほどの大熊と同じくらいの腕力があるということだ。だから大柄の得物で敵を叩き切る、と言うのは慣れたものだ。しかしな、私が欲しいのはそうじゃないんだ」


「一体?それほどの膂力があればそれこそ鉄の塊に棒を刺しただけのものでもレッサードラゴンくらいなら狩れますでしょう?」


ライトの無礼な物言いに獣狩公の付人が剣に手をのばす。がそれを公はすぐにたしなめる。


「よい。事実だ。しかしな骨が折れるのだよ。文字通りな。部下にそういう重鈍極まる得物を運ばせるもそれこそ荷車で運ぶような得物ゆえな、しかもそんな得物を個人的持ち歩くと今度は目立って仕方ない。なにより、私の膂力なら切れ味さえ良ければどんなものにだって刃を立てて斬り裂くことくらいできるのだ」


「・・・つまり、必要なのは町中、市街で持ち運んで目立たないような武器でありそこそこ業物である。ということですかな」


「然り。だというのにどこをみても目立って仕方ない武器ばかりではないか」


言い終わると公はまたため息を吐く。


「なら今度は気にいると思いますよ。まさにピッタリの得物ですから」


「ほほう?」


なんて話しているとスレインダイン工房の出店についた。冒険者たちがそこそこ買いに来ているのか準備していた頃と比べると大部売れた後のようだ。


「おーっすおやっさん。どうだい?売れてますかーい?」


「ぼちぼちってところなモンだぜ。肝心要、将軍様はまだいらしてないがね」


「だからお連れしてきたんだ。将軍どうぞ」


「こ、これは!これは!」


工房のオッサンも相手に気づくなりかしこまった態度で頭を下げる。


「よい。頭を上げてくれ。しかしどの得物も質素だ。しかし質素とは言え大事なところを押さえているいい武器だ。しかし、この店の珠玉の品とは?」


まってましたとばかりにオッサンは立てかけてある「カタナ」を手渡す。


「失礼を承知だがコレまた質素だな。いやいい意味で言うんだが余計な装飾がないのが実に好みだ。殺しの道具とはかくあるべきだろう。うむ。」


納得したように鞘を撫でながらいう。細身のワリにズシリとしたあの重さを楽しんでるようにも見える。


「抜いても?」


オッサンがコクリと頷くと、まってましたとばかりに鞘からするりとあの薄刃のカタナを抜きはなった。すると白い輝きが一行を包む。


「ハハ、ハハハすさまじいな。丁寧に研がれた刃が月明かりに反射してこうまで美しい光をはなつとは。しかし些か耐久面が不安だ。そこは?」


「エルフの魔法により不折おれず、不朽不朽(くちず)の呪いがかかっております。」


「なるほど!凄まじい逸品ではないか!この剣の名はなんだ!」


「無銘です。殺しの武器に名前なんて上等すぎるでしょう。なにか曰くがあったりしてはじめて名が着くものですから」


「ならばいま付けよう!この剣の刀匠の名は!」


「刀匠は私です。そして私は代々細々と刀鍛冶をやっておりますムラマサと申すものでございます」


「ならばこの剣の名はムラマサからとり、異界文字に月の光を指すものがあったときいた!そしてそこからこの剣は明月村正と名付けよう!」


「つまり、これからいくらでもその月光村正で武功を立てていただけると?」


将軍は黙って首を縦にふる。


辺りに歓声があがる。当たり前だ。事実上の今回の品評会の一等賞が今決まったのだ。




「まあ思ったとおりだったよ。将軍はああいう得物が昔から好きなんだけど、得手不得手というか鈍鈍なのをやたら周りから勧められてたからねぇ」


「つまりライト様どういうことで?」


「まあ、おいおい話すよ。それよか仕事みたいだーしねぇ」


気づくと、この品評会を警備していた兵士達がこちらをぐるりと取り囲んでいた。オマケにいつ剣を抜くかもわからないほどピリピリしている。

あまりの剣呑さにルクレイン公を守るために付人達が剣の柄に手を置きながら前に出てくる。

ルクレイン公もすぐになだめる。


「貴公らどうした?まるで犯罪者でもこの場にいるような取り囲み方ではないか。なにより私がいてこの対応なのか?」


「ええ、獣狩公。ルクレイン様。ここには下手人がおり、うまく取り入り言いくるめようとしているのが見えたので出てきた次第であります」



そこにいたのは新進気鋭の大商人、すくなくともこちらが今回の事件の犯人と目しているディオンがそこにいた。


「これはこれははじめまして、オイラ旅のものでライトと申します。しかし下手人とは?街に来たのだって昨日の夕方ですよ?」


ニヤリと笑ってディオンは続ける。


「よその街から依頼を受けることもあるでしょう。なにせ今回の武器品評会はそれこそ大規模のバザーだ。そこで名を売ることができるならば世界中に名を売ることも出来るのだ。それくらいはするだろう?」


「違うって言っても聞いてくれないんでしょう?」


ゾロゾロとディオンの部下のコワモテのごろつきや傭兵がでてくる。どいつもこいつもそれぞれ武器をもっており辺りの一般客がざわざわと騒ぎ出す。


「おとなしくすればよし!しないなら最悪殺す!この街ではこの品評会に先駆けて多くの武器や防具の職人たちが行方不明になっている!コイツらの雇い主が仕向けたに違いないんだ!」


あたりの野次馬がざわざわと騒ぎ出す。


「なるほどナァ。確かに理屈はあってるケド。でもいくつかひっくり返る要素があるぜ。まずだな。昨日ここのおやっさんも昨晩賊に襲撃されてンのさ。ただし、そいつら傭兵にしちゃ妙に身なりが良かった

のサ。そこそこキレイに手入れされたピッカピカの鎧着てさ、いかにも金持ちから金もらってますって感じだったゼ」


「ほほう?つまり私のような金持ちのやった事だと?」


「はっきり言いますぜ、大商人ディオン殿。”ような”じゃなくあなたが犯人だと思ってンすよオイラは。根拠だってあるんですぜ。」



ディオンの眉間のシワが深くなる。

「ならだして見ろ!その証拠をよ!」


「ええ、喜んでお出しますよ。アリス!」


野次馬、雑踏の中から少女が一人、前に出てくる。


「ええ、もちろんです。彼らはきちんと守ってここに連れてきています”透明化・解除(インヴィジ・オフ)”」


彼女が唱えると頭からかぶったヴェールを脱ぐようにそこに二人現れる。ひとりはスレインダイン工房

を襲ったゴロツキ。もうひとりはそこそこ身なりがよく見える。見たところディオンのような商人に見える。

「!?お前は!なんでここにいる!」


「おやおやー?その口ぶりでは”身を隠してろ”。とか命令してたとか、かにゃ~?きちんと探し当ててますよオイラ達は。はじめの襲撃の段階で口を割ったゴロツキのあんちゃんから情報聞いた段階で雇った人間がいたからね。そのあとの”変わった”襲撃者”から犯人を追わせたのサ」


「…なんのことかわからないな。変わった襲撃者?ゴロツキ?知らないことです」


明らかにディオンの顔色が悪い。この衆人観衆に加えて国のヒーローの獣狩公までいる。なにがなんでもシラをきるだろう。


「たしかにその男は私の部下だ。しかし事件とは関係ないだろう?ゴロツキを雇うことならほかだって出来るだろう?」


「この男から証言はとってあるんだ。それにだな、深夜に来た襲撃者ってのは人間じゃなかった。魔術で組まれたゴーレムだったんだ。全部ぶっ壊したけどねー」


ライトはニシシと笑って手をヒラヒラさせている。


「で、だ。あんたはコイツを身内と認めたワケだけどもさ。さっき言ってた証拠だけど。」


言いながらゴソゴソと懐からなにかの鉄片を取り出して、アリスのほうに目をむけ、ちょいちょいっと呼びつける。

そしてなにかをコッソリいうとアリスが魔術の詠唱をはじめる。


「魔術痕跡探知、オン」


唱えると鉄片から魔力の糸のようなものがふわっと宙に伸びる。そしてひとりでに動き出してアリスの魔術で現れたみなりのいい方の男の指に吸い込まれていった。


「みてのとおりです。この鉄片は昨日の襲撃者、鎧のゴーレムの破片なんですがね?その魔力の残り香を糸にして持ち主の元へと向かっていく魔術です。思いの外ゴロツキがあっさりやられちまってビックリしてこういうことしたんでしょうが、浅はかでしたな」


「・・・ぐぬ、ぬ・・・」


「そうでなくてもこっちには拷問のプロもいる。いずれたどり着いたし、いずれ捕まえた。観念して自主してください。そうすりゃ痛い目には合わせません」


「・・・ぐ、いいだろう!この賊共はかなり姑息な方法で私を捕まえたいらしい!濡れ衣だ!私はなにも関与していない!!!」


「見苦しいぞディオン!」


「ええい黙れ!お前ら!この者共をひっ捕らえろ!!!そして必ず賊のことを吐かせろ!」


言うやいなやディオンの後ろにいた金で雇われたであろうゴロツキどもがゾロゾロと前へでてくる。


「わかりやすくていいねぇ。最後の悪あがき、って感じで好きだぜそういうの。ダイン!こいつら殺さない程度に薙ぎ払え!」



 「あいよォ!ライトの旦那!いつものように”死なないよう”に”全力”で叩いてのしちまえばいいんだな?こいつら根本的には救いのないクズどもだ。死んで困るヤツのがよォすくねぇんじゃねェか?」


 「あくまで流儀の問題さね。オイラもそう思うけど”人殺しはしない”がルールだったじゃないか」


「このディオン様を無視してゴチャゴチャうるせえ!野郎ども!さっさと奴らを畳んじまわねぇか!!」


掛け声と同時に、ディオンに雇われたゴロツキや傭兵共が群となって一行に襲いかかってくる。どいつもこいつもこいつも、ダガー、ロングソード、ボウガン、など様々に武装してる。ざっと見積もって20

人ほどはいる。


 「まあ十把一絡げ(じっぱひとからげ)よ。どいつもこいつも雑魚雑魚雑魚ォ!ってなもんでなア!戦技!シールド・スマイトォ!」


ダインが吠えると大盾の前面を地面に全力で叩きつける。

瞬間、爆音とともに強烈な衝撃があたりを突き抜ける。

土埃が強烈な風圧とともにゴォッと吹き抜ける。吹き抜けた後の地面には人がすっぽり入れそうな大穴がポッカリとできていた。


ざわ、っとチンピラ共が騒ぎ出す

「お・おい!冗談じゃねぇ!あんなの食らったら即死だぞ!こんなところで死んでたまるか!オ、オレは降りる!冗談じゃねぇ!!」


恐怖は伝染するもの、焦りは伝わるもの 。一人を皮切りにチンピラ共が一斉に逃げ出していく。

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