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朝から騒ぐのは近所迷惑だからやめろといつも



カンカンカンと音がしていた。

外階段を駆け上がる足音だ。軽快に、耳障りに、足音が迫ってくる。まあ、足音の主の目的が自分とは限らない。毛布を頭まで被って少しでも音を遮断しようとすることにした。無駄な努力だとわかっていたが。

お祭り騒ぎのような足音は階段をすっかり登り切り、音色を変えていた。賑やかな足音は当然のようにこの部屋の扉の前で止まり、息を整えるような間を置いて、乗り込んでくる。

「おはようございます、所長!今日もいい天気ですよ!」

煩い。姦しい声の主が、ソファの上で毛布を被って蛹になっている私に無遠慮に歩み寄ってきた。

「またこんなところで寝てるんですか、所長。もうあんまり若くないんですから、変な格好で寝てると筋肉痛になっちゃいますよ」

すこぶる余計なお世話である。仮にも、デリケートなお年頃の上司にかける言葉ではない。やはりこいつには私に対する敬いの気持ちなどないのだろう。知っていたが。

「所長、狸寝入りですか無視ですか、目が覚めてるのはわかってるんですよ、起きてください」

「煩い。私は今日は十時まで寝るんだ。手を付けるべき案件もないのに早起きしてたまるか」

なにしろ、昨日やっと、このところ手がけていた面倒な案件に片が付いたところである。私には休んで惰眠をむさぼる権利がある。

「だったらこんなソファで芋虫になってないでベッドで寝ればいいでしょう。体を壊しますよ」

確かにそれは正しい意見かもしれない。しかし、私にはそうするわけにはいかない理由があった。その元凶を思えば、恨み言もいくらか湧いて出てこようものだが、自分の行動に自分で責任を持つのが大人というものである。泣いてはいない。

「だんまりですか?というか、何か不都合が?寝室が汚いんですか?だからちゃんと掃除した方がいいって言ってるんですよ所長。もー」

などと勝手なことを言いながら声が離れていく。居住スペースに向かうらしい。止めようかとも思ったが、やめた。面倒くさい。見りゃあわかるだろう。

予想通り、居住スペースの方から騒音がした。アイツ物壊したりしてないだろうな…。

バタバタした足音が再び迫ってきて、今度は私の被っていた毛布を剥いだ。眩しい。

「しょしょしょしょ所長!宗旨替えですか?宗旨替えですね!誰ですかあれ浮気ですか、隠し子ですか!?」

「あんなでかい隠し子がいてたまるかよ…」

そもそも私に特定の恋人がいたことはないので浮気も何もない。冤罪である。

「うっ…でも不可能な年齢じゃありませんよね…?」

「お前は私を何だと思ってるんだ」

あれが私の子供だとしたら何歳の時の子供になると思ってるんだ。ローティーンで子供ができてたまるか。

「でも、所長ならありえなくもないですよね?年上の美人に誘われて、手取り足取り課外授業♥みたいな」

「お前、そりゃエロ本の読みすぎだ」

現実にそんなセクハラ案件があってたまるか。トラウマになるわ。

「エロ本じゃないですー!」

などと騒いでいる後ろから、ぺたぺたと裸足の足音がした。こいつが煩いから起きてきたらしい。人形のように整った顔がソファの背の方からぬっと出てきて、私の頭の上でリップ音を響かせた。

「ボンジュール、モナムール」

「此処は日本だ、日本語で話せ」

「な、な、な、な、何、あなた所長に何を!?」

「この煩いの、あんたの子供?」

「お前ら私を何だと思ってるんだ」

私は未婚だし子供はいない。

「あなたこそ何なんですか、私は所長の助手です!!」

「ボク?ボクはこの人の愛人」

両方とも認めた覚えはない。

「あ、愛人!?どういうことですか所長、私聞いてませんよ!?」

「言ってねえのに聞いてたらこえぇよ」

大体、仮に私に恋人やら愛人やらができたとして、こいつに報せる必要性を感じない。…まあ、此処の住民が増えるとなれば別ではあるか。頻繁に顔を合わせる相手なら紹介せざるを得ないというか。

とはいえだ。

「そもそも私に年下趣味はないといつも言っているだろうが」

「じゃあ何でこの人所長のベッドで寝てたんですか!!」

「あのなあ。こいつが本当に私の愛人なら私がソファで寝てるわけがないだろう」

私がベッドで寝たら躊躇いなく同衾しようとしてくることが分かっているから、仕方なく物理的に一人しか眠れないソファに避難してきたのである。既成事実だのなんだの言わせるつもりはないが、弱みは見せないに限る。

「でも、ボクの顔好きだろ?モナムール」

「中身がお前でなければな」

しかしこいつが見た目通りの中身をしていたら、世界はきっと滅んでいただろう。ままならないものである。

「あんたがこの顔に見惚れることが一瞬でもあるんなら、この顔に生まれた甲斐もあるってもんだよな」

「お前のそのナルシシズム、本当に嫌いだわ…」

実際、一瞬たりとも見惚れたことがないというわけではないから、余計に。

「わあああああ、所長から離れてください、この歩く猥褻物!!」

「はあ!?何だよ言うに事欠いて歩く猥褻物って!」

「…うるせえ…」





手がけてた案件とは別に、終電逃したから泊めてvってきた友人とかじゃないかな多分(棒)

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