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プロローグ 学園で苛められています。

彼は学園で苛められていた。

ただ、彼自身の性格、振る舞いに問題があったわけではない。理由は彼の友人に起因する。


彼の友人たちは一言で言えば天才だった。一人はあらゆる才に愛され、もう一人はある特殊な才に愛された。


男は基本属性全ての才能を持っていた。通常、一人の人間が使える属性は一つのみだが、稀に複数の属性を持った人間が生まれる。歴代で3属性を持った者がいたが、男は5属性という規格外の最多属性を持って産まれた。


女は特殊な属性、毒属性の持ち主だった。数百年に一度、独特な属性を持って生まれる者がいる。彼女がそれだった。彼女の属性が発覚したとき、特別な人間が同時期に二人も誕生した事実に世界が沸いた。


彼らの才能は属性だけではなかった。類をみないほど整った容姿が彼らの特別感をより一層高めていた。また、それらに自惚れず、驕らない姿勢が、人々から更なる尊敬の念を集めていた。



そんな二人と比べると、誰だって普通の人間に思えてしまう。彼は標準より高い才能、優れた容姿、素晴らしい性格の持ち主であったが、比較対象がこの二人ではどうしても場違い感が否めなかった。二人の特別と一人の普通、釣り合いの取れていない関係に第三者の僻み、怒り、憎しみが募った。


二人は必要以上に他人と馴れ合わなかった。自分の家族、そして三人の友達関係で満足していたからだ。


第三者は納得がいかなかった。

どうしてアイツだけが彼らの隣にいるのだろう。自分たちは近付けないのに。彼らと比べて大した才能もない癖に。何故アイツだけが。


その悪感情が、苛めとなって現れた。肉体的、精神的とあらゆる手法で、かつ二人にバレないように。そんな日々を過ごした彼は、極限状態まで追い詰められていた。


しかし、彼は苛めの存在を二人に相談しなかった。「君たちに憧れている人達が、いつも一緒にいる僕に嫉妬している」なんてことを伝えられるはずがない。


自惚れではないが、彼は二人にとって大切な友達だったから。そして、彼にとっても二人は大切な友達だったからこそ、こんな事実を伝えて彼らの負担になりたくはなかったのだ。


二人と一緒にいられれば僕は大丈夫、挫けそうな度に何度もそう自分に言い聞かせていた。そうしなければ直ぐに心が壊れてしまいそうだったから。


今日も彼らに悟られないよう笑顔で過ごす。その裏側で苛めに耐え続ける。


そんなギリギリの日々を続けた彼の日常は、ある時突然終わりを告げる---



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


遂に苛めの事実が露呈されることとなった。学園長が、彼が学園内で生徒の集団から暴行を受けている現場を目撃したのだ。彼が救出された後、学園長の記憶魔法により加害者・加担者たちによるこれまでの数々の苛めの所業が全て明らかになった。


学園長はこの事実に大激怒し、苛めに関わった者たち全員を直ぐ様強制退学とした。その数は百余りと、学園全体の生徒数約1割に上った。


学園長は世界でも屈指の実力者で、仕事のため世界各地を飛び回っており、学園にいることはほとんどない。彼に、もっと早く気付けなかったこと、もっと早く助けられなかったことを深く謝罪した。


だが彼は学園長を責めなどしなかった。逆に忙しい学園長の手を患わせてしまったことを詫び、その反応が学園長を困惑させた。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


学園長が用意した国一番の病院。その最上階の医療室に彼は居た。


二時間ほど前に彼は目を覚ました。その後、お医者さんによる問診と状況説明が行われた。どうやら昨日の夕方に入院したそうなので丁度一日眠っていたらしい。


一人だけの空間。窓際のベッドに横たわり、彼は色々なことを考えていた。


こんなに呆気なく悪夢が終わりを告げたこと。そして、どうしてあの二人は結局最後まで気付いてくれなかったのか、と。


確かに二人に相談しなかったのは自分の意思だ。加害者たちが、巧妙な手口で危害を加えてきたことも、気付けなかった大きな要因の一つだろう。


彼らはあの二人がいるときには絶対に手出しをしない。一人でいるときにのみ浴びせられる罵声と影口。肉体的に痛め付けても終わり際に回復魔法をかけることで傷跡の証拠を隠滅。


だけど心の何処かではいつか気付いてくれるのではないかと期待していたのだ。何も言わなくても自分の異変を感じとり、原因を突き止め、解決してくれると。


そんな都合の良いことをずっと信じていた。その結果がこれだ。僕は二人を大切に思っていたし、大切に思われているつもりだった。だが、そもそもその前提が間違っていたのではないか?


あの特別な二人はお互いを大切に思っていても、僕のことは単なる話し相手程度にしか感じていなかったのではないか。本当は僕を見下していたんじゃないか。そんな黒い感情が次々に沸き上がり、彼の心を占めていった。




コンコンコン---



ノックのあと、看護師さんが静かに部屋に入ってきた。 僕の友達を名乗る男の子と女の子が面会希望を申し入れてきたが、通していいかと尋ねられた。


少し悩んだ後、僕は断って欲しい旨を告げた。その回答に看護師さんは目を丸くしていたが、了承して出ていった。


部屋の入口を一瞥した後、僕は窓から見える景色を眺めながら今までのこと、そしてこれからのことについてゆっくり考えることにした。




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