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「ドコーン……ドコーン」

「ああ、そうか。わかったよファーザー」


 光の届かぬ地中を往くコクピットで、ヴォルテはファーザーの脈動に頷いた。

 彼がこうしてごく普通にファーザーと言葉を交わしている様子に、アヤはようやく慣れつつある。


「ファーザーは何て言っているの?」

「もう目の前まで近付いているってさ」


 ユニコーンをたおしたファーザーが向かうのは、シュミ山の“根本”とでも呼ぶべき場所。

 地下深くに眠る、殖種帰化船団サクセッサーの遺産である。


「ねえ、ヴォルテ。シュミ山には何があるの?」

「……僕を連れてきたモノ。そして、これから先、連れて行くモノなんだ」

「よくわからないんだけど」


 横目でヴォルテを睨むアヤであったが、ファーザーが地中穿行を停めたのに気付き、サブ・モニターに注目した。


 黒い画面に、緑色の文字列が高速で表示され、どんどん下へとスクロールしていく。

 アヤは、流れる文字列をすぐさま目で追った。モニターの光が、アヤの眼鏡に反射している。


「――ああ、そういうことだったの」


 そして、一言、すっきり合点がいった、とばかりに吐き出した。


「……それ、読めるんだ?」

「ある程度は解読作業が進んでいたから。見た事のない単語もあったけれど、前後のつながりから補間できたしね」


 ファーザーが表示した文字列は、ヴォルテには読むことができない。

 ヴォルテは思念テレパスにより機体を制御できるため、コマンドコードも、コメントも、文字情報を介する必要が無いのだ。


 ヴォルテがアヤに対して驚いたのは、自分にも解らない未知の文字列をあっさり解読したのもさることながら、滝のように流れ落ちる文字を一切見逃さずに目で追ってみせる離れ業に対してであった。


「これでようやく、私も事の次第を把握できた。ヴォルテったら、説明が下手なんだもの」


 ファーザーがドリルを一突きすると、目の前の土壁が崩れる。

 正面、メインモニターに映し出されるのは、視界いっぱいの、透明な灰色をした“天資結晶シングセル壁”――“この惑星の人間には造り得ない”人工物であった。


 ちょうど視界の中心部に、渦巻き状に象られたシャッターが見える。

 ドリルの先端をそこへ差し込むと、壁面に縦横と奔る溝全体が青い光を放ち始めた。


「さ、ヴォルテ、急ぎましょう。このふねを起動させれば、全てが終わる。そして――始まるわ」


「――ああ。ファーザー、やってくれ!」


「ドコーン……ドコーン」

「ギュイィィィィィィィィ」


 壁面へドリルを根本まで挿入し、内部で回転させる。

 地中に青い光が満ち、そして、地の底が震え始める。


 ファーザーのドリルは今、シュミ山を揺るがしていた。


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