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05 ききドリル

 埃っぽい鉄壁鉄屋根に囲まれた、簡易機甲渠ドックの片隅に甲高い音が響く。


「キュィィィィィ」


「リョーナ」


 藍色の軍服を着た黒髪の青年は、目隠しをしたまま答えた。

 周囲を囲む、同じ藍色の軍服を着た男たちがオオー、と歓声をあげる。


「じゃあ次」


「キュィィィィィ」


「アキタ」


 再び黒髪の青年が答え、男たちが歓声をあげる。


「キュィィィィィ」


「メショメル」


 最後の答えのあと、溜め息混じりの低い歓声を聴いて青年は――ヴォルテ=マイサン17歳は目隠しを外した。


「いやぁ、何度見ても気持ちわりーな、お前の特技」


 手にした電動ドリルを床に置き、クセッ毛の金髪をわしゃわしゃと掻きながら、褐色の青年が笑う。

 精悍な顔立ちのこの青年――バンカ=タエリに、兵学校からの級友であるヴォルテは「どことなく大型犬っぽいな」という印象を抱いている。


「ひどいなァ。せっかく賭けのタネになってやってるのに」


 ヴォルテが苦笑する。

 彼が特技の『きドリル』を披露し、バンカがそれを利用した賭け事の胴元をやるのは学友時代からちょくちょくやっている遊びであった。


 小銭稼ぎは主目的ではなく、二人は賭けを通して周囲と打ち解けてきたのだ。


「なあ、どうしてそこまで正確にドリルの音を聞き分けられるんだ?」


 整備員の一人がヴォルテに問う。

 ヴォルテ達がこの小隊に配属されたのは先月のことである。


「子供のころから、機械のこえ……特に回ってるモノのことはよくわかるんですよ。アーマシングのプラナ・ドライブとかも。ほら、アレも回転してるでしょ?」

「コイツ、ドライブの音聴いただけで機種わかっちまうんス」


 半信半疑の整備員達だが、先ほどの“芸当”を目の当たりにしたこともあり、空気は信に傾いているようだ。


 会話が途切れたところで、バンカが腕時計を見る。

 彼らにとって初陣となる『アカハラ山間攻略作戦』のブリーフィング時刻が迫っていた。


 ばらばらと持ち場へ戻り始める整備員たちを見やりつつ、バンカはまた金髪を掻いて。


「しかしまあ、明日にはくたばってるかもしんねえのに、こんなバカやってて良かったのかねえ」


 開戦から数年を経て、サウリア国とセルペ国の資源鉱脈争奪紛争は本格的な戦争状態になっている。


 もともと山脈を主な国境とする両国は、各地で戦況を一進一退させ、互いに消耗。

 兵学校を出たばかりの新兵も、主力兵器たるアーマシングのパイロットとして日々狩り出され、日々散っていく。


 今日も今日とて、最前線は“異状なし”。

 無数の命が造作も無くかき消され、それはもしかしたら、明日の我が身だ。


「休息時間だし、別にいいでしょ」


 ヴォルテがきょとんとした顔で首をかしげ、黒い瞳で呆れ顔のバンカを見る。


「……ったくよォ、割り切ってんなあ、お前は」


 少し考えてから、ヴォルテは友人の意を解して答えなおす。


「立ち止まれない理由があるからね。死ぬかも、とか、そういうことは考えていられないよ」


 黒い瞳が意思を帯びて渦巻く。


 この眼をした時のヴォルテは誰にも止められない。

 バンカは、それを理解している。


「言うと思った。“親父さん”に会うまでは、ってんだろ?」

「父親じゃないよ。“ファーザー”だ」

「だから、親父だろ」

「違うよ」


「違わないっての。お前の話がマジならさ、その“ファーザー”はアーマシングなんだよな」


 ところは違えど孤児院出身の二人は、不思議とウマが合った。

 有り体に言えば悪友と言うべきバンカに、ヴォルテは自身の体験をほぼ隠すことなく打ち明けていた。


 バンカもまた、彼の言うことをありのまま聞き、胸に留めているのである。


「アーマシングだろうと何だろうと、そのファーザーってのがお前にとっての“父親”なんだよ」


「そうかな」

「そうだよ」


 完全に会話が途切れる。


 こういう時、いつも沈黙に耐えられないのはバンカの方だ。


「……俺もさ」

「うん?」


「のし上がるって“目的”を果たすまで死なないぜ。俺は親に捨てられた。あのドブみてーな街で、タエリ教の神父様に拾われて。今日まで生きてきたが、教会はキレイすぎて俺の居場所じゃ無かった。あそこにゃ、俺の“オヤジ”は居なかったんだ」

「……うん」


「俺の居場所は軍隊ココだ。ココで、俺は俺だけの証を掴むんだ!」


 拳を握る戦友にヴォルテが何か言うより先、通りがかった古兵せんぱいが声をかけてきた。


「ヴォルテ伍長、バンカ兵長、アーマシング組のブリーフィングが始まるぞ」


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