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46 白杭、閃いて

 全長30メートルの“柱”のようなものの先端が、デュラハン重装型の胸部に押し当てられる。


 炸薬のくぐもった破裂音と同時に、金属が割れるような、耳をつんざく音が響く。


 そして、デュラハンは。

 胸部から背中にかけて、巨大な“杭”のようなもので風穴を開けられたデュラハンは。

 孔から血液のようなオイルをこぼして、仰向けに倒れた。


「試作抹殺兵器『徹甲貫通刺突杭撃砲パイル・バンカー・ランチャー』の仕上がりは、まずまずのようだ」


 満足気に頷き、アンナロゥは機体を仁王立ちさせた。

 周囲のデュラハン・タイプを見れば、いずれも身構えたまま、こちらに注目している。

 一瞬にして味方を屠られ、対応を決めかねているのが見て取れる。


「フフフ……見たいならじっくりと見せてやろう。ああ、そうだ、我を見よ、だ! これが!“我々”の叡智が生み出した惑星防衛決戦用アーマシング『ユニコーン』だッッッ!」


 まとう装甲は白色。

 全体を無機質な曲線で構成される中、頭部ユニットから真っ直ぐに天をつく角が伸びている。

 そして、その角を含めるまでもなく、体躯は通常のアーマシングを上回る前高およそ30メートル。ファーザーと互角の巨体である。


 共通しているのはサイズだけではない。

 アーマシングに関する知見を多少なりとも持つ者が視れば、関節部の構造や躯体(フレーム)全体の構成から、明らかにファーザーとの共通点がある――ファーザーの技術を転用していることがわかるだろう。


『白磁のファーザー』とでも呼ぶべきその機体『ユニコーン』は、ドリルの代わりに、銃の形をした巨大な杭撃ち器(パイルバンカー)を右手に携えていた。


「ユニコーンは、これより敵部隊に孔を開ける!」


 一角白巨人が、身の丈ほどあるパイルバンカーを腰だめに構える。

 キィィィン、と甲高いタービン音が響き、下半身にある左右合わせて16基の推進装置スラスターが青白い火を噴いた!


 対峙した敵兵からは、ユニコーンの動きは白い光が迸ったようにしか見えず。

 動体視力を訓練されたアーマシングのパイロットが、動きを視認できない。それほどの速さであった。


 まず、二機の砲撃型デュラハンに狙いを定め、立て続けにコクピットを穿ち無力化。

 白い背中に反撃の砲弾が撃ち込まれるが、ユニコーンは真上へ跳躍して回避。


 宙に身を投げ出した巨体に、対空射撃が浴びせられる。

 ユニコーンは空中で体をひねると同時に、スラスター噴進! 跳躍を繰り返すような動きで空中を駆け、敵の砲撃を回避して。


 空中でパイルバンカー・ランチャーを構え、グリップの根本に併設した60ミリガトリング砲で地上のデュラハンを掃射開始。

 弾丸の雨を頭上から浴び、二個小隊のデュラハンが擱座!


 着地したユニコーンに、八脚アーマシング『ブルダ』が襲いかかる。

 巨大アーム先端のサーキュラー・ソーによる斬撃だ。

 二本ある腕は、打ち下ろしと横薙ぎで同時に白馬人を狙った。


 だが、回転鋸は火山灰土の地表を抉り、何もない中空を切り裂くのみ。


 そして! 白磁の機体が立つのは、振り抜かれたブルダの腕の上だ!


 空中襲歩(ダッシュ)

 巨椀が威力を発揮する間合いの内側へと侵入し、胴体へパイルバンカーを一発!


 着地すると共に回り込んで、片側の脚部に合計四発!


 バランスが崩れ揺らぐ図体に銃身を押し付けて、だめ押しの連続杭撃!

 自己再生金属マーラサインで成型された徹甲杭は、炸薬の号に合わせて幾度も幾度も装甲を穿ち、穿ち、穿ち――穿った!


「おや、大丈夫かねバンカくん? まだ始まったばかりだよ、バンカくん。バンカくんんん!」


 ブルダを蜂の巣にした所で、アンナロゥは隣でひたすらトリガーを引いていたバンカを見た。


 バンカは、出撃時に用いた突撃殻の加速で噴き出した鼻血をようやく拭って、鬼気の宿る笑みで上官に応える。


「ヘヘッ、ようやく体があったまってきたトコッスよ」


 バンカがコンソールを打鍵し、機体の上半身を操作する。

 ユニコーンがパイルバンカーを肩に担ぎ、ガンナー用スコープに捉えた敵指揮官機へ向かって、左手の中指を立ててみせた。


「フフッ、何だねそれは、バンカくん! ハハハ! 実に愉快なことをするねぇ、バンカくん! ハハハ! ハハハハハハハハ!」


 ツボを刺激されたアンナロゥの爆笑は、しばらくの間、続いた。


 *


「1分も経たずに、ブルダを含めた3個小隊が……全滅……? 馬鹿な、相手は単騎だぞ!?」


 声を上ずらせる副官の隣で、ナメラもゴクリと喉を鳴らした。


「あいつは、ファーザーとは違うのか。サウリアは――アンナロゥは、既に……奴の言うところの……“宇宙人(サクセッサー)”の機体を造り上げるレベルに至ったのか? いやいや、それは実に非現実的だ」


 自問自答の如く思考を巡らすナメラ。眼窩の奥で光が揺れている。

 長身の背を丸めてブツブツ言う姿は、知らぬ者が見れば、狂人が激しく苦悩していると勘違いされるだろう。


「……ともかく、あれに“鬼神”アンナロゥが乗っていることは明らかなんだ」


 ナメラは通信装置のマイクを引ったくると、久方ぶりに大声を吹き込んだ。


「あの白い機体との交戦は避けろ! あれから逃げても、敵前逃亡には問わない!」


 受け持つ全部隊へ指示を飛ばし、ナメラはこけた頬をいっそう、げっそりとさせた。


「いやいや、まったく、たまらないね。自分でった与太話を自分で真に受けてしまっているんだから。正気の沙汰じゃないよ、“アンナロゥ君”!」


 *


 アンナロゥは退却する敵軍を追おうとして、はたと足を止め。


「……ようやく我々の目標てきがお出ましだな」


 言葉に応ずるように、目の前の地面が()ぜ、黒鉄の巨人が戦場に出現。

 アンナロゥは美貌を狂喜に歪ませながら、舌なめずりをしてそれを迎えた。


「では、いよいよ“戦争を始めようじゃないか”!」


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