39 覚凄
「お前ら……アヤに手を出すな!」
「出すに決まってんだろ。男の“気力を削げ”ってんなら、そいつの女をやっちまうのが手っ取り早いんだからな!」
兵士の一人が、薄笑いを浮かべたままヴォルテに言い放つ。
黒い瞳の青年は、繋がれた腕の鎖を引き千切ろうと身をよじりながら叫んだ。
「やめろ……やめろォ!」
「チッ、うるせぇな!」
舌打ちの直後、男の拳がヴォルテの頬を打ち、ブーツの爪先が鳩尾に沈められる。
呻き声と血反吐を吐き出すヴォルテを見て、今度はアヤが悲鳴を上げた。
「おい、始めてるぜ!」
兵士の一人が手袋を片方外し、アヤの口にねじ込みながら言った。
「へへ、早いモン勝ちだからな」
「ちぇっ、さっさと済ませろよ?」
あられもない姿の想い人は、泣き叫ぶことすら許されず、美しい碧眼から涙が溢れる。
白く豊かな曲線を描く肢体に下卑た欲望が向けられた。
一人は胸を捏ね回し、下半身を撫で回し。一人は片方の太腿を抱えんで、強引に脚を開かせる。
そして、正面に立った男がズボンのベルトを緩めた。
獣のような男そのものを目の当たりにしたアヤの顔が、恐怖に染まり――――
ぶち、と『何か』の緒が切れた。
ヴォルテの中の、どこかで切れた。
否――『何か』のピースが嵌まったのだろう。
ヴォルテの瞳が渦を巻き、中心に烈しい光を宿した。
「ファァァァァァァザァァァァァァァァァ!!」
そのとき、彼の脳裏には。
昂ぶりきった感情におよそ不釣合いな、冷徹で機械的な言霊が浮かび上がった。
<<起動思念――送信。目標を抹殺せよ!>>




