35 跳梁跋扈
「一つ覚えの奇襲作戦だが、今回は我々が本命なのだよ」
サウリア軍の四脚アーマシング『ケンタウロスⅠ』が一機、岩肌を後ろ足で蹴ってまた跳躍した。
空中で構えるライフル砲が狙うのは、ゾウムシに似た敵軍の砲撃型六脚『ケーヒム』の一小隊だ。
跳躍から着地までの僅かな間隙に、人馬の上体は狙いを定め狙撃敢行。
三発の砲弾は、精確にケーヒムのコクピットを射抜いた。
着地した前足がすぐに岩盤を蹴り、敷設された地雷をものともせず、人馬は宙を舞い続ける。
後方支援を旨とし、砲撃の安定性と引き換えに機動力を犠牲にしているケーヒム部隊は、突如として“斬り込んで”きた、たった一騎のケンタウロスに翻弄された。
装甲の上からでも敵機の狼狽がうかがい知れ、人馬を駆る男はコクピットの中で涼やかな笑みを浮かべる。
「古来より、軍というものは均質な兵が統率されることで力を発揮するものとされてきた。だが、ことアーマシングにおいては違う」
「は……はいッ!?」
アンナロゥは悠々と、やけに艶やかな美声を紡ぎ出す。
それは別段、隣で照準器を覗く同乗者に向けたものではない。
しかしながら、大佐と兵長。両者の立場の差は大きく、バンカは同じ空間で言葉を発した雲上人を無視するわけにはいかなかった。
「アーマシングとは兵ではない。一騎が即ち一軍なのだ。アーマシングに必要なのは偏在することではなく……突出することである!」
「――うス! 残り7機、一発一殺で仕留めるッス!」
間近で始まったアンナロゥの独り言を、バンカは自分への鼓舞と受け取った。
アンナロゥの機動操縦は、通常のケンタウロスⅠでは考えられない速度と軌道だ。砲戦に用いられるライフル砲を使うには全くもってそぐわない。
そんな、出鱈目に跳ね回っているようにすら見える動きに、バンカは振り回されることなく。
ひとつ。
ふたつ。
みっつ、よっつ。
絶えず揺り動かされる視界に捉えた敵機を次々と狙い撃ち、擱座させてゆく。
いつつ。
むっつ。
「フフフ……いいぞ、バンカくん」
ななつ。
敵後方支援部隊、後退。
「バンカくんいいぞ、すごいじゃないか……フフフ……フハハハハ!」
――凄いのは、この人の方だ。
高笑いするアンナロゥの隣で、バンカは内心、舌を巻いた。
彼がここまで立て続けに敵を射抜けるのは、アンナロゥが機体を絶好の狙撃ポイントへ導き続けているからである。
しかも動かしているのは旧式のケンタウロスⅠ。他の兵士とは次元の違う操縦技術であった。
「大佐。俺は、大佐の“部下”、なんスよね」
「フフ……無論だ。今さら何を言っているのかね? これからもよろしく頼むよ、バンカくん! バンカくん! ハハハハハ!」
長髪をかき上げるアンナロゥの美しい面には、汗ひとつ滲んでいない。
高笑いの響くコクピットに、通信入電のアラームが割り込んできた。
「お見事です、大佐。なんと美しい……立ち回りでした」
溜め息交じりにノイズ混じり、低く重い声はベッツ曹長のものだ。
その時彼が発した声音は、バンカをはじめ古兵連中ですら耳にしたことのない、うっとりとしたものであったという。
*
「あの冗談みたいな動き。間違いないね……“鬼神”アンナロゥだ」
指揮官用デュラハンのコクピットから戦場を見渡していたナメラ少佐は、窪んだ眼窩の奥を緊張させながら、元学友をかつての“渾名”で呼んだ。
「あいつほどの上役が前線に出張ってくる。どうしてかねえ。いやいや、分かり切っているか――――あの黒い未確認機だ」
全滅しつつある部隊に撤退命令を出す傍ら、彼は脳裏で傭兵アノルドから受け取ったレポートの内容を反芻する。
機体の特性。中でも、装甲に使用されている部材の異様さ。
マーラサインと同等以上の物質を装甲全体に使用し、現代兵器ではおよそ考えられないパワー、スピード、そして地中穿行能力。
並べた言葉の中に『アンナロゥ』という要素を加えてやれば、自ずと繋がる線が見えた。
「うんうん、分かってきたぞ。あの黒い“ロボット”の意味が。サウリアの――いや、あの男の狙いが!」




