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27 タキドロムス大浴場

 

 アヤは再び、大きく動揺していた。

 それと言うのも、ブラを外したカナの胸が想像を遥かに超える迫力だったからである。


「眼鏡、とらないの?」


 カナから声をかけられ、ハッと意識を現実に戻したアヤは、かけていた眼鏡を外して脱衣所のカゴへ入れた。

 再びカナの方を見る。

 裸眼ゆえ、やや鮮明でなくなった視界であっても、彼女の豊かすぎる両房は否応なしに気になった。


「アヤさん、手伝ってくれるかしら?」


 呆としているアヤの隣で、カナは身を屈めて小さな女の子の服を脱がせ始めている。

 タキドロムス孤児院では、子供達は大浴場で一斉に入浴するのが習慣であった。

 周囲を見れば、年上の子供と幼い子供とが二人一組になり、同じように服を脱がせてやっている。まだ小さな子供の世話は年長者が行うのだ。


「じゃあアノルド君、服を脱ぎましょうか」

「ゥ……ン」


 アヤに促されたアノルド少年は、脱衣場へ来てからずっと俯いたままである。

 困惑した様子でもじもじと立ち尽くす彼に、アヤが膝をつき服のボタンへ手をかけようとすると、ようやく少年は自分で服を脱ぎ始めた。


「――ヴォルテもね、小さい頃は私がこうして洗ってあげたのよ」

「えっ」


 慣れた手つきで幼児の体を洗いながら、カナが言う。


「あの子から聞いてるでしょう? この施設で最初にヴォルテと会ったのは私。もう17年も経つのよね。あの頃は、弟ができたみたいで嬉しかったわ。どうもあの子の方は、私をお母さんとして見てたみたいだけど」

「お姉さん……わかります。私も彼に間違って母さん、って呼ばれちゃいましたから」

「まあ。うふふ、嬉しいようなちょっと残念なような気分だったでしょ?」

「ふふ、その通りです。私も弟が欲しかったから、姉さん、だったら素直に嬉しかったかも」


 言葉を交わすと、お互いに似た者同士であることが実感される。

 アヤは笑い合いながら、ここへ来て良かったと心から思った。


「さ、次はあなたね。アノルド君、こっちへいらっしゃい」

「ゥ……ぼ、ボクは、いい……」

「ダメよ。綺麗にしないと。ほら、遠慮しないで」


 カナはアノルド少年の手を引き、隣の風呂椅子バスチェアに座らせる。

 有無を言わさず小さく細い背中にスポンジをあて、優しく上半身を洗っていく。


 だが、洗身が下腹部へ到ったところで、はたと手を止めた。


「あらあら……うふふ。そうね、もう、自分で洗えるのよね?」


 スポンジを手渡されたアノルド少年は、黙りこくったまま自分の身体を洗い始める。


「どうかしたんですか?」


 首を傾げるアヤに、カナは自分の唇に人差し指をあててウィンクする。


「男の子だもの、ね?」


 そう言うカナの隣で、アノルド少年は相変わらず顔が俯くのに加え、上半身を前屈みにしている。


 少年の居心地悪そうな様子を見て、アヤもようやく彼の“身体の変化”を察し。

 意識すると同時に頰に紅がさし、手にしたタオルでさりげなく胸元を隠すのだった。


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