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23 巨砲主義

「僕たちも砲戦に参加だね。バンカ、狙撃に自信は?」

「まあまあ、ってとこだな」

「謙虚だね」


「なあヴォルテ、なんかここ“浅く”ねえか?」


 コンソールの深度計は、普段ファーザーが地中を穿行する時よりも幾分か浅い場所だった。


「まあ、見ててよ」

「自信ありげじゃねえの」


 ヴォルテの瞳は相変わらずグルグルと渦を巻いている。


 ――こういう目をしている時のヴォルテこいつは、必ず何かをやってのけるが、何をしでかすか分からない――


 バンカは一抹の不安を抱きつつ、ある種の“覚悟”を決めるのだった。


 *


 後退したファーザーのもとへ、アクリダと共に見たことのない四脚アーマシングがやってきた。


 ほぼグレー一色の大型機は、巨大な砲身から四本の脚を生やしていた。全体の形状ー述べるとすれば、ほぼそれ“だけ”としか言い様がない。

 シンプルかつナンセンスな佇まいだった。

 細部を見れば、機体の各所に『レックス重工』の刻印が施されており、異様に多い注意書きと整理され切っていない部品配置から、この機体が制式の兵器でないことが窺える。


「試作自走砲『ブラキオ』。機動性の問題から実戦投入できなかったアーマシングですが、“大砲”として使用する分には問題ありません」


「……もしかして、こいつをファーザー(こいつ)に抱えさせろって言うんスか?」


「ええ、その通りです」


 バンカは、黙って頭を掻いた。


「これも大佐が準備していた、と?」

「はい。“こんな事もあろうかと”、だそうです!」


 アヤの言葉を聞きながら、ヴォルテは既にてきぱきとコンソールのキーを叩き、『火器換装』の作業を開始している。


『ブラキオ』が背負った口径50センチの滑腔砲を左の脇に抱える。

 背部に増設したハードポイントに砲の基部を接続。

 ファーザーからの直接制御を可能にする。


「二人とも、頼みます! 私も、ファーザーを信じていますからね!」


 アヤが通信機越しに激励すると同時に、ブラキオとの接続を終えたファーザーが両目を赤色に光らせた。


「へっ、少尉ちゃんの命令(たのみ)なら、気合い入れなきゃなんねーか! なぁ、ヴォルテ?」

「ああ。この装備なら、状況を打開できる!」

「ったく噛み合わねーな、毎度よォ。まぁいいや、とことんブッ込むぜ!」


 その場に立膝をつき、巨砲を腰だめに構える。

 スコープ・デバイスを覗き込むバンカが、静かにトリガーを引く。


 ファーザーの全高に匹敵する長さの砲身が震え、爆という砲哮と共に対アーマシング用規格外徹甲弾が発射された。

 着弾した先にある重装型デュラハンの上半身が、横殴りの砲弾に吹き飛ばされる。

 一拍遅れて、河に放り出された胴体の片割れが内部機構の崩壊により爆散した。


 五秒の間をおき装填した次弾を、今度は渡河の援護をしている大盾のデュラハンに撃ち込む。

 川面に水柱立ち上がり、原型とどめぬ盾の破片が向こう岸へ落ちた。

  応戦しようと砲を構えた小隊編成の砲撃型デュラハンも、一機は胴を大きくえぐり取られ擱座した。

  残った者たちが砲撃を行うが、ファーザーは大地を蹴って側方へ低く鋭い跳躍。

  地面に着弾したデュラハンの榴弾が、ファーザーの横で土煙を巻き上げた。


 ファーザーが反撃に放つ徹甲弾は、当然のようにデュラハンの胴体、コクピットの在る胴体へ吸い込まれ、消し飛ばす。


「な? まあまあだろ?」


  スコープから目を離さず軽口を叩いてみせるバンカに、ヴォルテもヒュウ、と口笛で答える。


 バンカの狙撃は正確かつ迅速であった。

 そしてヴォルテもまた、ファーザーの巨体をたえず巧みに機動させ、砲火に晒される河岸ぎりぎりの位置どりで砲戦を続けさせていた。


 *


「むおっ!」


  交戦中だった敵小隊の後方で突然、敵機デュラハンが真横に吹き飛んだ。


 僅かに怯んだ敵前衛の隙を、ベッツ=テミンキは見逃さない。

 即座に相手の腰部関節へアサルトライフルの弾丸を叩き込み、機体の質量と推進力を乗せた銃剣突撃で重装型デュラハンを仕留めた。


 残された一機のデュラハンも、部下の『ケンタウロス2』が二機がかりで射撃刺突を加え擱座させる。

 いまの突撃で“だめ”になった銃剣を予備のものと交換しつつ周囲を見渡せば、否応なく黒鉄の巨人が身の丈ほどある大筒を振り回す光景が目に入り。


「あんなフザケた代物まで、引っ張り出してくるのか……」


 河岸を跳ね回るドリルと巨砲のコラボレーションに、ベッツは血管の浮くこめかみを押さえた。


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