表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/54

21 渡河

 対岸の敵へ向け砲撃を続けていた小隊の目の前で、間欠泉のように地表が弾けた。


「ドコーン……ドコーン」

「ギュイィィィィィィ」


 土煙の向こうから飛び出してきた回転する“何か”が、前衛のデュラハンが構える大盾を易々と貫いた。


「来たな」


 盾持ちのデュラハンは、地中からの強襲者『ファーザー』のドリルを受けるや、すぐに盾を手放し飛び退く。


「本当に地面の下から来た! デタラメだ!」

「おいおい、落ち着きなさいよ。うまく“釣れた”んだから。全隊へ通達したまえ。“本機は予定通り奇襲を受けた”、とね」


 恐怖を感じ声をあげた副官に、ナメラは変わりなく飄々とした声をかける。


 同時に、前衛を突破した黒鉄の巨人が右腕の凶暴なドリルを引き絞り、放ってきた。


 ナメラが機動操舵手ドライバーをつとめるデュラハンは、両肩の砲塔を排除パージ

 脱落するパーツ群と手にした盾を隠れ蓑にして、身を低くかがめながら巨大なファーザーの右脇をすり抜けた。


「私は|アンナロゥ(あの男)ほど、操縦が上手くないんだがな――ッと!」


 ファーザーが上半身を回転させ、後方に回り込んだナメラ機にドリル裏拳を見舞う。


 装甲の厚さで知られるデュラハンの右腕が、ナーガレジンの切削屑を撒き散らして磨り潰されてゆく。

 ナメラ機、使い物にならなくなった腕を肘の先から爆破自切。反動を利用して後退し、大きく距離をとる。


 ナメラ=エラーフェのとった戦術は、とにかく逃げの一手であった。


「常識が通用しなくたって、この世の道理や因果が通用しないわけじゃあない」


 眼前の黒鉄巨人が繰り出してくるドリルの切れは、荒削りだが触れればこちらが削られる。油断ならない、危険な相手だ。


 ――だが、“やはり”指揮官機こちらに狙いを集中させてきている――


 対手から片時も視線を逸らせぬ状況にあって、ナメラは推測の的中を確信した。

 そして、自機レーダーが後方より接近するプラナ・ドライブ反応を捉えたことで、肺に溜め込んでいた空気をひゅう、と吐き出す。


「やれやれ、間に合ったね。こちらの方が、先に手札を揃えられたようだ」


 背後より、地響き来たる。


 大地を幾度もせわしなく打つかのような震動は、“それ”の足音である。


 濃緑色の巨大なドームの八方に巨大な砲がいくつも並び、ひとつひとつがちょっとしたビルほどある脚が八つ、これも放射状に生えている。


 その名も、セルペ軍有脚爆撃要塞バトルドーム『ブルダ』。

 一般的なアーマシングのおよそ4倍を誇る、超巨大アーマシングだ。


 ブルダの砲塔が回転しながら、次々と火を噴く。対地ロケット砲である。


 照準は、前方の敵アーマシング。すなわち、ファーザー。

 ナメラのデュラハンを追い立てていたファーザーは、この過剰なほどの牽制に攻め手を止めざるを得ない。


「よしよし、あの黒いやつはブルダに任せるよ」


 後退したナメラの小隊を、ドリルは追えない。

 立ちはだかったブルダが、ドーム状の複合兵装ブロック群から8基の回転鋸サーキュラーソーを展開したからだ。


 サーキュラーソーを携える各7自由度の巨腕が、黒鉄の襲撃者に報いを与える。


 上から下、右薙ぎ、左薙ぎ、さらに袈裟懸け。

 あらゆる角度から繰り出される巨斬撃。

 ファーザーはいなしかわすので精一杯のようだ。


 縦振りのサーキュラーソーを、ファーザーが横跳びでかわす。

 振りぬいた鋸が、地表を深く抉る。

 ブルダの標的が安易に地中へ逃れようとすれば、たやすく大地ごと切り裂かれるに違いない。


「さあさあ、いよいよ、“時が来た”ぞ!」


 ナメラは、自分の“切り札”が充分に働いていることを確認し、副官に合図した。

 ただちにデュラハンの背中から信号弾が打ち上げられ、上空で赤色の光を明滅させる。


 そして、河岸で防御に徹していた大盾のデュラハンが、一斉に前進を始めた。


 敵の砲火を盾で防ぎながら緩やかに流れる大河に次々と身を沈め、持っている盾だけを水上に突き出す。

 河に入ったデュラハンがすべて、列をなして同じ動作をとり――ラマンダ河に“大盾の橋”が架けられた。


 橋を渡り、デュラハン重装型が次々と対岸へ押し寄せる。


 ――ナメラの打ち上げた信号弾は、『全隊突撃』を意味していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ