20 見えない戦い
アーマシング『デュラハン』が構えた大盾に、敵四脚アーマシング『ケンタウロス』の放ったライフル砲弾が飛来。
着弾の爆風にも怯まず、デュラハンは両肩に搭載した滑腔砲から続けざまに徹甲弾を発射。
次弾装填の間を埋めるようにして、隣のデュラハンが砲撃を継ぐ。
砲弾は大河をまたいで絶え間なく飛び交い、硝煙と弾着で巻き上げられた土砂の粉塵が両岸を覆う。
「敵軍、火力を前面の小隊に集中してきていますが、問題ないようです」
「うんうん、釘付けにできているね。なにしろ砲の性能はこっちが上だ」
副官と共に乗り込んだデュラハン砲撃型のコクピットで、ナメラは戦場を見渡している。
「“黒いやつ”は仕掛けてくるでしょうか」
「来るよ。だから、時間稼ぎの為にわざわざ不利な砲戦を仕掛けてきている。向こうさんは今頃、早く切り札を出したくてたまらないだろうさ」
*
「敵の布陣を可能な限り正確に再現してください」
指揮支援用六脚アーマシング『アクリダ』の内部には、ちょっとした会議室ほどの空間が設けられている。
室内中央のデスクに拡げた地図は、戦場となっているラマンダ河を周辺のもの。
アヤ達は、両陣営のアーマシングと随伴部隊の配置を示す色分けされたピンを、次々と地図に留めていった。
“外”では砲弾の応酬が続いている。
しかしアヤの戦場とは、アクリダの装甲を隔てた外界ではない。
「一刻も早く、ファーザーの攻撃目標を特定しなきゃ――!」
眼鏡の奥で、碧眼が冷たく光った。
俯瞰した戦場を観る。
勝利への最善手を観る。
もっとも効果的にドリルするべき場所を観る!
「――――向こうの“六脚”、配置はこれで間違いありませんね!?」
戦場で運用されるアーマシングは、直接戦闘や攻撃を担うタイプと通信や輸送を担うタイプとが混在している。
アヤが目をつけたのは、敵機の中でも通信機能を持った補助型六脚タイプ――自分達のアクリダのような――である。
「指揮官機に通信強化を施していないなら、どこかでそれを補っているはず。つまり、攻撃機に随伴する六脚型の分布が濃く偏っているポイントが――――あったわッ!」
アヤはテーブルから背を向けて、壁面コントロールパネルに据え付けてある無線通信装置の送話器を、引ったくるようにして手に取った。
「『アクリダ』より『ファーザー』へ。二時の方向、前から3番目の方陣を攻撃目標に設定! 機動を開始してください!」




