16 ヴォルテの失態
野営地にテントを設置した簡易食堂で、ヴォルテとバンカは昼食の配給を受け、空いているテーブルに隣り合って着席した。
「いやあ、スゲェよな。頭のつくりが違うって言うかさ」
パンをかじりながら、バンカが大げさに感心してみせる。
「知ってたか、ヴォルテ。“少尉ちゃん”、俺らと一コしか年齢違わねェんだぜ?」
「少尉ちゃん、て。そういえばバンカ、どうして少尉の階級がすぐに分かったのさ」
ヴォルテはバンカの“少尉ちゃん”呼びをたしなめながらも、その愛称が実際しっくりくると思った。
アヤの見た目は、むしろ年下と言われても信じられる。
だからこそ、気になっていた。
普段は大雑把なバンカが、どうして“あの時”だけは自分より目ざとかったのか。
ヴォルテなどは、彼女が軍の制服を着ていたから、辛うじて軍人と判ったのだ。
「いや、オトコならよ、フツー真っ先に目がいくだろうよ」
「階級章に?」
「違ェよ。“ここ全体”にだよ!」
バンカが、自分の胸の辺りで風船を撫で回すようなジェスチャーをとる。
「ありゃE……いや、Fはあるな。着やせするタイプと見たぜ」
ようやく意図を察したヴォルテは、呆れ顔でバンカを眺めた。
「上官をそんな目で……」
「出たよ、優等生。あのオッパイに見向きもしないようなカタブツは、ベッツ隊長だけで充分だっての」
バンカはわざとらしく溜息をつきながら、皿のハムにフォークを突き刺す。
ちょうど口へ運んだところで、背後から少女の涼やかな声が聴こえてきた。
「ヴォルテ伍長、お話ししたいことがありますから、食事を終えたらちょっと来てください」
その声を聞いたバンカが、激しくむせる。
ヴォルテも少なからず動揺し、背後から話しかけてきた上官の少女――アヤの顔を見る。
突然むせ始めたバンカを見て怪訝そうに首をかしげているあたり、先ほどまでの会話は耳に入っていなかったようである。
――ここでアヤに「どうしたのですか」などと訊かれてはまずい。彼女が言葉を発する前に、こちらが動き出さなくては――
戦闘時に匹敵する早さで思考をめぐらすヴォルテであったが、その実、やはり彼は動揺し慌てていた。
「ええっと、母さん、どこへ行けば?」
「えっ?」
ヴォルテのごく自然な一言に、アヤが硬直した。
バンカも口を半開きにしたままヴォルテを横目に見て、動きを止めた。
一瞬、その場の時間が止まった。
「いま、“母さん”って呼びました? もしかして、私のこと?」
苦笑しながら眼鏡のズレを直すアヤ。
彼女に訊き返されて、ヴォルテは自らの致命的なミスに気がついた。
「――――ッッッ!?」
口に空気を含み目を泳がし、宙ぶらりんな表情のヴォルテ。
いつも柔和かつ冷静な青年の顔面が、にわかに紅潮していく。
「……オメーこそ、上官をどんな目で見てンだよ?」
バンカのとった意趣返しの呆れ顔に、ヴォルテは何も言い返すことができなかった。




