表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/54

16 ヴォルテの失態

 野営地にテントを設置した簡易食堂で、ヴォルテとバンカは昼食の配給を受け、空いているテーブルに隣り合って着席した。


「いやあ、スゲェよな。頭のつくりが違うって言うかさ」


 パンをかじりながら、バンカが大げさに感心してみせる。


「知ってたか、ヴォルテ。“少尉ちゃん”、俺らと一コしか年齢とし違わねェんだぜ?」

「少尉ちゃん、て。そういえばバンカ、どうして少尉の階級がすぐに分かったのさ」


 ヴォルテはバンカの“少尉ちゃん”呼びをたしなめながらも、その愛称が実際しっくりくると思った。

 アヤの見た目は、むしろ年下と言われても信じられる。


 だからこそ、気になっていた。


 普段は大雑把なバンカが、どうして“あの時”だけは自分より目ざとかったのか。

 ヴォルテなどは、彼女が軍の制服を着ていたから、辛うじて軍人と判ったのだ。


「いや、オトコならよ、フツー真っ先に目がいくだろうよ」

「階級章に?」

ちげェよ。“ここ全体”にだよ!」


 バンカが、自分の胸の辺りで風船を撫で回すようなジェスチャーをとる。


「ありゃE……いや、Fはあるな。着やせするタイプと見たぜ」


 ようやく意図を察したヴォルテは、呆れ顔でバンカを眺めた。


「上官をそんな目で……」

「出たよ、優等生。あのオッパイに見向きもしないようなカタブツは、ベッツ隊長だけで充分だっての」


 バンカはわざとらしく溜息をつきながら、皿のハムにフォークを突き刺す。

 ちょうど口へ運んだところで、背後から少女の涼やかな声が聴こえてきた。


「ヴォルテ伍長、お話ししたいことがありますから、食事を終えたらちょっと来てください」


 その声を聞いたバンカが、激しくむせる。

 ヴォルテも少なからず動揺し、背後から話しかけてきた上官の少女――アヤの顔を見る。


 突然むせ始めたバンカを見て怪訝そうに首をかしげているあたり、先ほどまでの会話は耳に入っていなかったようである。


 ――ここでアヤに「どうしたのですか」などと訊かれてはまずい。彼女が言葉を発する前に、こちらが動き出さなくては――


 戦闘時に匹敵する早さで思考をめぐらすヴォルテであったが、その実、やはり彼は動揺し慌てていた。


「ええっと、母さん、どこへ行けば?」


「えっ?」


 ヴォルテのごく自然な一言に、アヤが硬直した。

 バンカも口を半開きにしたままヴォルテを横目に見て、動きを止めた。


 一瞬、その場の時間が止まった。


「いま、“母さん”って呼びました? もしかして、私のこと?」


 苦笑しながら眼鏡のズレを直すアヤ。

 彼女に訊き返されて、ヴォルテは自らの致命的なミスに気がついた。


「――――ッッッ!?」


 口に空気を含み目を泳がし、宙ぶらりんな表情のヴォルテ。

 いつも柔和かつ冷静な青年の顔面が、にわかに紅潮していく。


「……オメーこそ、上官をどんな目で見てンだよ?」


 バンカのとった意趣返しの呆れ顔に、ヴォルテは何も言い返すことができなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ