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「っしゃあぁぁぁぁぁ! いくぞオラァ!」


 コクピットでバンカが吠え、目の前の建造物めがけて幾度もトリガーを引き、レバーを倒す。

 打突削撃インパクトモードに切り替えたファーザーのドリルが突き出され、横薙ぎに振るわれ、打ち下ろされる。

 一撃ごとに削り砕かれ、大穴を穿たれてゆくアエオンの装甲店舗。


 一見してデタラメに暴れているようだが、その実は建物躯体の構造的な弱点を的確に狙った、高効率の解体工作である。


 瞬く間に大型武装商業施設の中心部は外壁を突き崩され、かつては買い物客が集う中央広場であった部分に鎮座する巨大な装置が露わになった。


「バンカ、見えたよ! コントロールユニットだ!」

「店じまいだぜ、“くそ”花火屋!」


「ギュイィィィィィィ」


 ユニットに猛るドリルを突き立てれば、コンピュータの怪物は火花と切削屑を撒き散らし、バリバリガリガリと断末魔の悲鳴をあげる。


 やがて、沈黙。

 周囲のランプやファンは動作を停止し、夥しいミサイルを繰り出す武装店舗は完全に息絶えた。


「任務完了。信号弾打ち上げ!」


 ファーザーの背部に装備した発射筒から、数発の球体が打ち上げられ、上空で赤と黄に発光した。


 後方に控えた友軍に突撃開始を告げる合図サインである。


 暫くして、プラナドライブのいななきが、前と後ろから同時に聴こえてくる。

 サウリア軍の突撃部隊とセルペ軍は、間もなくこのキャストフで激突するだろう。


 崩壊したアエオンから立ち上る炎が、黒鉄を照らす。

 夢中から醒めてみれば、ファーザーは、ヴォルテ達は、燃え盛る瓦礫の街の中心に立っていた。


「これがファーザー……ドリルの力。お前は、どこまでやれる? 僕らは、どこまで行ける? ファーザー。僕は――――」


 *


 キャストフ市攻略作戦は、成功した。


 勢いに乗ったサウリア軍は、セルペ側の防衛部隊が態勢を整える前に、拠点を電撃的に制圧したのである。


 この勝利の立役者たる黒鉄のアーマシング、ファーザーが無事帰還したことで、アヤはようやく胸をなでおろした。


 士官学校きっての才女は、生まれて始めて直接目にする戦場に恐怖を覚えていた。

 破壊の凄まじさ、命のやり取りの凄惨さを垣間見たからだけではない。


 ――これが、“私の仕業”なのだ――そう感じたのだ。

 自らの指先ひとつで、他者を死地へ向かわせた事実。それを実感したからこそ、今も気を抜けば全身が震えだしそうになる。


 アヤは自ら、タラップで降りて来た二人の兵士を迎える。

 ベテランのベッツ曹長に言い含められたからではなく、心からそうしたいと思っていた。


「よく生還してくれました、二人とも――?」


 すぐさま敬礼で応えたバンカの隣で、黒髪の青年――ヴォルテ=マイサン伍長は深刻そうな面持ちで俯いていた。

 何か声をかけたいが、何を言って良いのか判らず、アヤは上背のある彼の顔を下から覗き込む。


 青年というより少年に見える、童顔の顔立ち。

 飛び込めばどこまでも深く沈んでいきそうな、黒い瞳を覗き込むと。


「――僕は、お前のことを、もっと知りたいな」


「えっ!?」


 唐突な言葉と共に、ヴォルテはまっすぐな視線を向けてくる。

 アヤの白い頬に、少しずつ紅がさしてきた。


「えっ、あ、あの、えっと……ヴォルテ伍長? それは、どういう意味ですか」

「これからも一緒に戦って、それで、おドリルのことをもっと知りたいんだ――」


「……おい、ヴォルテ。おいって!」


 見かねたバンカが、独り言を続ける戦友の脇腹を肘で小突く。

 困惑顔で赤面するアヤの存在に、ヴォルテは全く気がついていないようだった。


「あ……少尉? ヴォルテ=マイサン伍長、ただいま帰還しました!」


 独り言が漏れていたのにも気付いていないヴォルテが、姿勢を正して敬礼する。


 アヤは、死線をくぐり抜けた彼らにかけてやる言葉をいくつか考えてきていたが、頭の中が真っ白になってしまった。


「ええと、ええと……ご、ご苦労様でした」


 どぎまぎしながら答礼を返すアヤ。


「はい! 作戦の成功は、少尉の指示あってこそでした!」


 敬礼したまま爽やかに言うヴォルテを見て、アヤとバンカは、同時に大きな溜息をついた。


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