12 大型武装商業施設
作戦開始から間もなく、ヴォルテとバンカは、アンナロゥ大佐の言葉に何の含蓄もなかったことを知った。
「うおおおおおおお!?」
「く……! 急速穿行!」
目標とするキャストフ市に近付くや否や、ファーザーめがけてドラム缶サイズの弾頭が無数に降り注いだ。
追尾誘導機能を持つマイクロ・ミサイルのおびただしい弾幕である。
着弾と爆風による凄まじい衝撃は、コクピットブロックが持つ振動吸収能力を超えてヴォルテ達を揺さぶった。
ヴォルテが急いでレバーを倒し地中へと逃れることで砲撃をかわすも、暫くの間は眩暈が頭にまとわりついていた。
「街が、攻撃してきたね」
隣のバンカもグロッキーな表情で、声なく頷く。
彼らの網膜には、今見た光景――何の変哲もない街並みから、炎と共に打ち上げられるミサイルの雨が焼きついているようだった。
アンナロゥ大佐が伝えた文字通り、セルペ軍によって、要衝となるこの街そのものが巨大な自動迎撃システムに仕立て上げられていたのである。
「しっかし、すげェなファーザーは。あれだけ直撃受けて平気なのかよ」
サブ・モニターを見たバンカが舌を巻く。
表示された機体ステータスには、殆ど翳りが見られなかった。
「問題は、ファーザーが大丈夫でも僕らが衝撃に耐えられないことだね」
地中に潜ったまま、ファーザーを集中砲火を受けたポイントまで後退させる。
山岳の斜面からドリルを出し、ミサイルの気配がないことを確認してから地表へ浮上。
「ミサイルの射程は、だいたい10kmってとこか」
「もう少し探りを入れよう」
手近な木を一本引き抜き、上半身を高速回転。
遠心力を利用した槍投げの要領で、木をキャストフの方向へ投げ放つ。
ヴォルテが投擲操作を行う傍ら、バンカはガンナーシートのヘッドレストに据え付けてあるスコープ・デバイスを引っ張り出した。
エリア内に飛んできた全長15メートルの大木に対し、ミサイルは反応なし。
だが、木がアーケード街へ向け落下を開始すると、周囲の建物からロケット弾と機関砲のスターマインが見舞われた。
蜂の巣にになった丸太木が街道に落ちると同時に、店舗のシャッターが弾け飛び。
横殴りのベアリング弾が『侵入者』を吹き飛ばした。
「……クソみてぇな花火大会だぜ。トリガーになってるのはレーザーセンサーか何かか? 指向性地雷もありやがるな、畜生」
「不気味な街だね。アーマシングも兵士の姿もない。街全体がトラップの塊なのかも」
「けどよ、一番の問題は、やっぱりアレだな」
「ああ。あんなモノがあるんじゃあ、 サウリア軍はこのキャストフを通れない」
通常カメラのズーム機能だけでも視認できる“それ”を見やり、二人は表情を険しくする。
――アームドショッピングモール『アエオン(西キャストフ店)』は、キャストフ市の中心部にそびえていた。
長大な店舗躯体は装甲に覆われ、パーキングエリアや別館はミサイルランチャーに改装されている。
ファーザーの攻撃目標は、この大型武装商業施設なのだ。
ヴォルテが何も言わずバンカに視線を送る。
バンカが頷いたのを確認して、レバーを倒しフットペダルを踏み込む。
ファーザーのドリルが回転し、再び地中へと穿行した。
地中を掘り進むこと、10キロメートル。要した時間は約三分である。
暗闇の中、計器の表示だけを頼りに前進していたヴォルテが、不意に穿行を中断した。
「どうしたヴォルテ」
「……ドリルの先端にかかる負荷が変わった。地盤じゃない。この先にあるのは人工物だ」
「地下室でもあるってか」
「ドリルのインパクト機能を停止して、慎重にくりぬくよ」
精密さを重視した切削で、掘り当たった隔壁と思しき部分に穴を開けてゆく。
事もなく直径2メートルほどの穴が通り、果たして内部に設けられていた“空間”を確認することができた。
そして、二人は地中からの急襲を断念した。
「畜生、地面の下は“くそ”弾薬庫かよっ。道理でバカスカ撃ちまくれるハズだぜ」
隔壁の内部にみっしりと押し込められたミサイルコンテナを見て、バンカが舌打ちする。
無造作にドリルで掘り砕けば誘爆は必定だ。
起こるであろう破壊の規模を考えても、いち兵卒の独断で許される範囲を超えている。
「少尉に報告しよう」
「お、おう!」
「……どうしてそこで口ごもるのさ」
「いや、お前が妙にフツーな事言うからよ」
「報告・連絡・相談は基本だろ」




