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目覚めは涙

作者: チル


女の子が一週間どうしてたの?と顔を薄青くしながら問う。そうしたら私は家族と海に流されてただけと答え告げ、降り積もる雪の中 10月23日の枝は林の奥を陰で隠し、私はその闇を目に閉じ込めた。



大地震とともに浜岡原子力発電所が炉心融解したら



父はあくまで冷静だった

その動かぬ顔は絶望故か 逃げか

我等が国に逃げ場はもう無い

確信した父は

シェルターという名目だけの木箱に家族で入って海を漂うことを提案したのだ

逃げ場がないのに逃げるなんて言う望みもしない強制の自由は私達は苦手で、そんな意味があるのかないのかもわからないような提案に被支配欲を委ねて

そのまま両親と姉と私の4人で浮かんだ




生きるのが死ぬのかもわからないのに

不謹慎な波の穏やかさは

緩やかな死を目前とさせているのを忘れさせ

私達は思わず微睡んだ




むしろ死を望んでいるのかもしれない私は瞼に刺す光が嫌に尊く感じて目を開けた

朝の白い光が木箱の隙間から覗く

導かれるように蓋を開けて外を覗く


目の前には埋立地の工場が広がっていた

建物にはアルファベットが綴られており、ここがどこかわかるのかもしれないと思い凝視するも


なかなか読めない


外国なのでは

アメリカか、南の方の国か

日本ではないほうが楽しいなあと

さっきまで死んだほうがマシだと思ってた自分とは思えない思考で工場を見つめる

外国なら家族で新しい生活を共に頑張れるのかなとほんの少し期待していた


そのうち両親も起き始めて、

目の前の工場を指差すと



宮城だ

ここは宮城だ



と 弱く呟き

柔らかで少しの涙を父は流していた


なんとかその工場に上陸し

依然の事故の姿のままそのコウジョウは眠り続けて

それを横目に生気を感じぬゴーストタウンを抜け


場違いな程日常を感じる田舎臭い コトコト走る電車に乗った

あの悲惨な事故があったとは思えない残酷なほどの爽やかな日の光が差し込み、電車の中で家族と眠った





起きるとそこは家だった


1人で庭に寝転がっていた

すると脇で目が緑色の青年が 死んで胞子が舞う木にシャボン玉を吹き付けていた

老いた婆の声が聞こえ 振り向くと汚染された土をザクザク掘り、集めて山にして積み上げていた

汚染がなんだい!汚染がよ!!

声を荒げてなお、作業をやめない

老婆は声を荒げるほどその山の中に沈んでいく


青年がゆっくりと口を開く

汚れてしまったとしても、この子たちは何も関係ないのにね。

そう呟いて死んだ木の枝に頬ずりする


どう言葉を返すべきかわからず狼狽してると

母が私の名を呼ぶから

そちらへ寄ると

よく餌をあげていた仲の良い野良猫も

そこにちょんと佇んでいた

無愛想な彼だが、

珍しく私達が戻ってきてくれたことを歓迎してくれるかのようにして 自ら頭を伸ばして私たちに撫でさせるようにして跳ねた



それがたまらなく嬉しくて

一滴でお猪口がいっぱいになるほどの

大粒の涙を流して

泣いた






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