近代戦争にファンタジーと狂気を混ぜるのは危険だ!
「 まぁ何かしらの怪しさがあった、もちろん違和感もあった。
久し振りのでかいヤマだったからか私としてはそれなりに準備をしていた。
綿密にかつ確実に慎重に念には念を検討し推測して第二第三の緊急用も用意した上での完璧な計画だった。だが計画を実行する前には少しだけだが嫌な予感、きな臭い空気、何かに見られているような感じがしていた。
だがそろそろ引退する良いタイミングを逃す気は無かった。たとえ胸騒ぎを抱いてもだ。
結果はあまり詳しく語りたくないから簡潔に言う、下手を打った。
今までの中で人生最大のミス、ついでに最大致死量の出血だな。
助けてくれる仲間は周りが静かなところを見る限りみんな死んじまったようだ。
その時の私も徐々に死を感じていた、後悔よりも先にたぶん地獄行きだなとも思っていた。
実際には前世とよく似た別世界に生まれ変わっていた。
正確には魔法とかドワーフとかゴブリンなどが普通にいるファンタジーな世界と私の前世の世界を混ぜたような世界だ。
正直、最初は驚いた。あまり宗教は信じていなかったし、私が少年だった頃よく本を読んでいたから転生物という昔のジャンルを知らないわけじゃなかった。だが実際に体験すると、とてもおかしな気分になる。
だが驚きもやがては失望するものだ。
まず最初に考えたのが前世で無駄に読んでいた世界武器名鑑とか火薬を精製して爆発物なり鉄砲的な物を作ってなんちゃって武器商人として生きようと思ったが無駄だった。どうやらこの世界の文明は中世でも近世でもなく近代だった。しかも街の会話によると普仏戦争とよく似た戦争から10年後のようだ。そこまで技術が発達していると俺の出番はほぼ無い。
次にどうせ生まれ変わったのだから前世の仕事から足を洗って真面目に勉強して生きようと思ったが無駄だった。父は軍人で戦争で戦死していて、母が5年前の交通事故によって亡くなった。
つまり天涯孤独の身になってしまった。
正直に言うと私の前世の親より早く死んでないか?。
とは言えもう私は前世とは違う生き方にすると決めた、だから真面目に働いて生きる事にした。
学校に通う事ができないのは不服ではない、何も学校でしか勉強ができないわけでもない学校に行かずして独学で天才発明家になったヤツだっている。
孤児院が予算不足で解体されるのは想定外だったがな。
何とか手に入れた工場の仕事は正直に言うと薄給だが問題は無い、それと前世の仕事の知識と経験を教えて得た収入を合わせれば3週間に5冊の新しい小説を買える余裕がある生活を送っていた、だがそれも手放す事になった。
その時は関係ないと思っていたがこんなファンタジーな世界でも第一次世界大戦が起きるもんだな。
今更だが私が生まれた国はフランスにファンタジー要素を無理矢理ねじ込んでついでにフランスのフラとンスの間にシを組み込んだようなフランシスという陸続きの国家なんだが、正直に言うと忘れていた。
徴兵国家だった事にだ。
工場長の野郎め、自分の息子を徴兵させたくないからといって工場労働者から数十人引っ張ってくるか普通に、しかも賄賂を渡して自由に選んでくださいという始末だ。
まぁここまでくると察しが付くと思うが私が選ばれたさ。
判断基準?、まずフランス人、あ、いやフランシス人、というよりも前世の姿の方が近い容姿だからだろう。私としてもせっかく生まれ変わったのになぜ前世の姿なのか天を呪った、東洋人似だから因縁をつけられる事も少なくは無い。全員返り討ちにしたけどな。
私以外にも選らばれた人もいたが私以外異種族だった。
私は生きて帰ってきたらまず先に工場長の野郎を締めて次に賄賂を受け取った軍人を事故死に見せかけた車の炎上による燻製にする事を心に秘めながら戦場に行くことになった。
というわけで俺がガブリエル大尉だ!」
「新兵達は必要な事以外はガブリエル大尉の話を聞き流すように」
1916年
ソンム川に死体がまだ緩やかに流れる月
激しい雨の次に砲撃と魔法による鉄と火焔の激しい雨が降り注ぐ日
とあるほんの小さな村は瓦礫と砲撃と範囲攻撃魔法の跡が残る廃墟となっていた。
かつてはこじんまりとして住民は少なかったが穏やかで柔らかな雰囲気があった村。
今では木っ端微塵に砕け散った姿で住民は以前よりも増えたがそこは激しく過激な雰囲気な村に変わり果てた。
かつては静かで平穏な村で耳を澄ませば自然と生き物の音が聞こえる村。
今では自然と生き物の音さえ聞こえない異常な静けさと突然全てを包み込むような異常な轟音を繰り返し、耳を澄まさなくとも聞こえる砲撃の地響きと範囲攻撃魔法の詠唱の音が鳴り響き。兵士達のすすり泣き声、悲鳴、雄叫びが銃声と轟音に搔き消される、地獄のような村。
かつてはこの村の憩いの場だった広場は土嚢と瓦礫だらけで広場で唯一のベンチは、土嚢を積まれてその上に軽機関銃が設置されていた。
土嚢と瓦礫が散乱する広場には青と黒の集団が入り乱れていた。
青の軍服の人間が銃剣で黒いヘルメットを被るコボルトを何度も何度も刺して、黒い軍服の人間が脚を撃たれながらも青の軍服の人間を押し倒して顔をひたすら殴り、青の軍服のエルフが弓で黒い軍服のドワーフがピンを抜いた手榴弾を投げようした手をを射抜き、黒い軍服のダークエルフが地面に散乱していた瓦礫の破片を掴み青の軍服のドワーフに叩きつけていた。
そんな乱戦の最中にある二人の青の軍服の人間がいた。
一人は土嚢を積まれたベンチの上の無理矢理取り付けた銃剣を装着しているFMMle1915ショーシャ軽機関銃の操作の動作と引き金を引く動作を時々しながら、必死になって弾を装填したり銃剣を装着したり神に祈りを捧げていたりの、新兵達の前で自分が前世持ちで転生してきた人間だと軽機関銃の短い轟音に負けないぐらいの声で自己紹介を始めた中隊長、ガブリエル大尉。
もう一人は落ち着いた動作でルベルM1886軍用ライフル銃に銃剣を装着しながら、呆然と動きを止めたりお前は一体何を言っているんだという顔をしたりその場で聖歌を歌い始めたりの、新兵達の前で自己紹介を始めたガブリエル大尉を必要な事以外は話を聞き流すようにとなぜかこの騒音の中でもはっきりと聞こえる声で冷静に新兵達に命令する副官、ダニエル中尉。
「後方から派遣された補…新兵達に言わなければならない事がある」
「どうした!?ダニエル中尉!?。老眼鏡のレンズが割れたのか!?」
「誰が老眼鏡だ、ガブリエル大尉。さて新兵達諸君もさっき見て分かる通り、ガブリエル大尉は少々気が触れているが幸いな事に戦闘に関する事は正気だ。戦闘以外の事は気にするな、他に聞きたい事があるか?」
新兵達の内の一人が恐る恐る手を挙げた。
「お前の名は?」
「はい!、レオ一等兵であります!」
「では一等兵、言ってみろ」
「少し聞きにくい事を聞きますが確か中隊長はジャン少佐だと聞いたのですが」
「前中隊長のジャン少佐は2年前の戦闘で戦死した、知らないのか?。司令部の奴らめ死んだヤツが多すぎて伝え忘れたな。まぁいい今はガブリエル大尉が中隊長だ、いいな?。あとそこの新兵は聖歌を止めろ」
「よーし新兵共。俺の名はガブリエル大尉だ!、よろしく!」
「二回目です、中隊長」
「俺の自己紹介は軽く済んだから名前を覚えてもらわないとな!」
「無駄に長いモノローグを語って前世があると思っている狂人だと思われてます」
「軽く仲間達の紹介をするぜ!。まず俺の副官眼鏡はダニエル中尉だぜ!」
「眼鏡は余計だ」
「で、こちらにいるのはステファン君だ!。人見知りだから優しくするように!」
ガブリエル大尉はまるでそこにステファン君がいるようにだが彼以外の人から見れば何も無い空間を指していた。
ダニエル中尉は眼鏡の位置を人差し指で直しながら言った。
「…ガブリエル大尉、彼は2年前の戦闘で戦死しました」
「ああそうだった、うっかり忘れてたぜ!。じゃああそこで斧を振り回しているのはトマ准尉だぜ!、中隊内のドワーフ達をまとめている良いヤツだぜ!」
そのドワーフ、トマ准尉は青の軍服の上に近世のドワーフが着ていた分厚く流線の形をした鎧を身に纏い最近支給された青いヘルメットしていた。
雄叫びを上げながら戦斧で黒の軍服の人間を縦に真っ二つにした後、黒の軍服の人間二人が雄叫びを上げながら銃剣をこちらに向けて突っ込んでくる。トマ准尉は片方の手で青いヘルメットを外して突っ込んでくる銃剣に刺さして左に逸らした、青いヘルメットを離して戦斧を両手でしっかりと握りしめて黒の軍服の人間二人が呆然とした顔を見ながら力任せに横に切ってまたもや真っ二つにした。
黒の軍服の人間が狂ったように叫びながらルガーP08をトマ准尉に向けて引き金を何度も引いて撃つが着ていた鎧で銃弾を跳ね返し、逆にトマ准尉がこちらに背を向けて逃げる黒の軍服の人間の背中を見ながら背中に掛けてある片手斧を取り出して黒の軍服の人間に向かって投げて、深く刺さった。そして新兵達に顔を向けた。
「おうよ!、俺がドワーフ族のトマ准尉だ!。ガブリエル大尉の言動はいつもの事だからあまり気にすんなよ!」
「そしてあっちの屋根で弓を振り回しているのはマリー少尉だぜ!。中隊内のエルフ達をまとめているぜ!」
その女エルフ、マリー少尉は青の軍服を着ていたが今では返り血の赤に染まっていた。
マリー少尉は建物という廃墟、しかも砲撃により半分は崩壊している廃墟の屋根にいた。正確にはマリー少尉とその背後に襲って返り討ちにされ黒の軍服を赤に染まったコボルトの死体と現在進行形でエルフ特製の複合弓で何度も叩かれさらに矢尻で何度も刺されている黒の軍服が赤く染めらている人間の三人だった。
マリー少尉は赤に染まった黒の軍服の人間から矢尻を引き抜くとすぐさま弦に矢をかけて、Gewehr98軍用ライフル銃でトマ准尉を撃とうとした黒の軍服のドワーフを射抜き、そのまま三発ほど射抜いた後に新兵達に顔を向けた。
「こんな時に自己紹介をしてる場合かっ!、ふざけんな!。あと、語尾にだぜを付けんな!、そんなの前からやってなかっただろ!」
「次は、そこで剣と銃を使って殺戮をしているのがラードゥン中尉だ!。中隊内のリザードマンをまとめている頼りがいのある男だよ!」
そのリザードマン、ラードゥン中尉はリザードマン仕様の青の軍服と青いヘルメットが返り血で真っ赤に染められていた。
ラードゥン中尉は普通の人間が両手を使わなければ扱えないツーハンデッドソードと呼ばれる2m近い剣を左の片腕一本で軽々と振り回し、黒の軍服の人間、コボルト、ダークエルフの三人を纏めて切り伏せる。黒の軍服のコボルトが銃剣をラードゥン中尉の右脇腹に向けて襲い掛かるが右腕のバックラーと呼ばれる小型の盾で下に弾き、左手の剣で刺殺する。
正面から黒の軍服のドワーフが斧を片手に叫びながら突っ込んでくるがラードゥン中尉は右手だけでルベルM1886軍用ライフル銃をまるでカービン銃のように片手で構えて撃ち、見事に眉間に命中する。
黒の軍服のドワーフが後ろに倒れこむが後ろには黒の軍服のドワーフと人間とコボルトとダークエルフが斧、銃剣、ナイフ、弓を構えようとしたがラードゥン中尉がルベルM1886軍用ライフル銃に装着した銃剣で突っ込み、黒の軍服のドワーフを刺し、左手の剣で黒の軍服の人間とコボルトとダークエルフを素早く切り伏せてから銃剣を抜こうとする黒の軍服のドワーフに止めを刺した。その後に新兵達に顔を向けた。
「戦場へようこそ!、人間の新兵達諸君!。さっそく歓迎会を始めようじゃないか!」
「ハハッ、歓迎会はここを凌いでからしようぜ!ラードゥン中尉!。じゃあ次にあそこで殴り合っている」
「同僚の紹介はここを凌いでからしてください、ガブリエル大尉。さて新兵達には配属されて早々だがドロイツ帝国兵を排除しなければならない」
「心配するな!。新兵とベテランと負傷兵と人間とゴブリンとドワーフとコボルトとダークエルフ、エルフとかでも死ぬのは同じだから気にすんな!」
「…ガブリエル大尉、西の丘から伝令が来て3小隊ほど救援に来いと命令が来ました」
「村と西の丘、どっちが優先だ?」
「上からは西の丘だけは絶対に死守しろと」
「了解した、では広場の敵を掃討した後ダニエル中尉は新兵達を含めて5小隊で西の丘の救援に向かえ。村は俺とトマ准尉とネルス軍曹の3小隊だけで敵を迎える」
「……構いませんけど、よろしいのですか?」
「確か西の丘の中隊長の娘の誕生日はもうすぐ近いだろ、それに西の丘の中隊は昨日の襲撃でかなり疲弊している。おそらく敵も知っているだろう」
「そうですか、間違っても流れ弾で戦死しないでください。新兵達、行くぞ」
広場の乱戦を制した後、ダニエル中尉は5小隊を率いて西の丘の中隊の救援に向かい。
その姿を見ながらガブリエル大尉はトマ准尉に話し掛ける。
「貧乏くじを引いたと思う?」
「構いやせんよ。ガブリエル大尉、あんたが中隊長だ。賭けに乗るよ」
「100年前のワインを賭けてくれます?」
「火酒を賭ける事にするよ、ネルス軍曹」
それからこの村を3小隊で防御を固める昼はさっきまでの騒音が嘘のように静まった。
不気味な静けさだった。兵士達はそのまま夜になってくれと、諦めてくれと祈るが祈りは届かなかった。
なぜなら防御を固めて30分経った後、敵が大挙として攻めて来たのだから。
予想は半分当たっていた。後日、報告では西の丘には敵の大群が押し寄せていたらしく危険な状態だった。ダニエル中尉率いる5小隊の救援で陥落は免れた。
だが予想の半分は外れた。西の丘以上の敵の大群が押し寄せて来たのだ。
ドロイツ帝国に所属する黒の軍服の波が押し寄せる。
最初の波である黒の軍服のゴブリン達は、Gewehr98軍用ライフル銃の銃剣、中世か近世に使われたパイク、使い古した斧、少し欠けているナイフ、その辺で作ったと思われる木の棍棒、で突撃し。
その波の後ろには黒の軍服のコボルトと人間達が、Gewehr98軍用ライフル銃に銃剣を装着し、中世の兜を被りスコップを握り締め、MG08重機関銃を軽量化したMG08/15を背負い、中世並みの鎧を全身に纏い最近配備された最新の可搬式据付型の火炎放射器を背負い、まだかまだかと控えて。
その後ろには黒の軍服のダークエルフとドワーフ達が、戦斧を握り締め、ダークエルフ製の複合弓を握り締め、つるはしを握り締め、簡易火炎魔法の呪文をいつでも言えるように心の中で唱え、改装された近世のラッパ銃の筒を持ち、これからの戦いを待ち望む。
黒の軍服の波に対する青の軍服は防波堤の如く迎え撃つ構えであった。
フランシス共和国に所属する青の軍服を着た人間とドワーフ達は、瓦礫や死体を土嚢代わりに、広場の中央に作りかけの塹壕を完成させ構築、近くの牧場の倉庫から持ってきた鉄条網を設置、廃墟と化した家々を適度に破壊して瓦礫や土嚢を積んで即興のトーチカ、近くの地雷からダイナマイトに鉄釘とかの有り合わせで製作した梱包爆薬などを敵の進軍路に設置、で防御を固め。
青の軍服を着た人間とドワーフ達が、瓦礫と死体と土嚢を盾に広場の中央の塹壕にルベルM1886軍用ライフル銃を構え、改装された近世のフランシス製フリントロック式擲弾銃の筒を敵側に向け、スコップとつるはしと戦斧を握り締め、、それぞれの即興のトーチカにFMMle1915ショーシャ軽機関銃とホッチキスMle1914重機関銃とオチキスM1909軽機関銃とドワーフが保管していた前戦争の普仏戦争に使用されたReffyeミトラィユーズと呼ばれる野戦砲を引っ張り出し改良した野戦砲を設置しそれぞれを敵側に向け、敵の黒の軍服の波を睨む。
青の軍服を着た人間である、ネルス軍曹はクソッたれ!と最悪な状況に心の中で暴言を吐き。
青の軍服を着たドワーフである、トマ准尉は貧乏くじどころか死神のマントを引いちまったな、と心の中で思いこれからの戦いに覚悟を決め。
青の軍服を着た人間である、ガブリエル大尉は晩御飯を支給品の余り物のベーコンと野生と化した鶏が産んだ卵で料理してベーコンスクランブルエッグを食べようかなと考えていた。
黒の軍服の波の先端でゴブリン達が中世か近世に使われたパイクやその辺で作ったと思われる木の棍棒を手に敵陣に向かって突撃していた。一瞬、何かを踏んだり何かの紐に引っ掛かり転ぶが戦場だから木片とか瓦礫とか死体だろうと思いそのまま前に立ち上がるなり走るなりに気にせず敵陣に向かって突撃した。その時ゴブリン達の足元や背中が光に包まれ周りを巻き込んだ。
最初に黒の軍服の波の先頭であるゴブリン達が地雷を踏んだ。それを皮切りに次々とゴブリン達が罠を踏み周囲を巻き込みながら爆発していった。しかし黒の軍服の波は止まらず前進する。
次に地雷の爆発を免れた黒の軍服のゴブリン達は予め仕掛けていた瓦礫や死体などの間隙に張ったワイヤーや細いロープに手榴弾のピンを付けた罠に引っ掛かり、周囲を巻き込みながら爆発していった。それでもなお黒の軍服の波は止まらない。
黒の軍服の波の速度を緩めたのはそれぞれの即興のトーチカから放たれたFMMle1915ショーシャ軽機関銃とホッチキスMle1914重機関銃とオチキスM1909軽機関銃からなる鉛玉の雨嵐の如くの掃射で爆発を免れた黒の軍服のゴブリン達を引き裂いた。
即興のトーチカの火吹きを合図に瓦礫と死体と土嚢を盾にする者や広場の中央の塹壕に籠る者達がルベルM1886軍用ライフル銃の一斉射撃を始める。
爆発と銃弾を奇跡的に掻い潜る黒の軍服のゴブリンは、近くの牧場の倉庫から持ってきて設置されたトラバサミに引っ掛かりそのまま鉛玉による蜂の巣にされ。何とか前に進むも鉄条網に引っ掛かり、鉛玉の雨嵐に引き裂かれ。爆発と銃弾を免れGewehr98軍用ライフル銃を撃つも当たらず、逆に掃射に晒される。だが次第に黒の軍服の波は確実に前進していきゴブリン達の後ろに黒の軍服のコボルトと人間達の射程距離に入っていた。黒の軍服のコボルトと人間達がGewehr98軍用ライフル銃で射撃を行い、青の軍服を少しずつ赤に染め上げていた。青の軍服も負けじと射撃を行う。
次第に黒の軍服の波は鉄条網に接触していき、次第に死体で地面を覆ってきた。一人の黒の軍服の人間がMG08/15機関銃を設置して瓦礫と死体と土嚢を盾にする者や広場の中央の塹壕に籠る者達に掃射すると青の軍服の者達も死体ごと引き裂さかれる者や塹壕を血で汚す者が出てくる。その隙を突いて黒の軍服のコボルトとゴブリンが鉄条網を突破して青の軍服に迫るが彼らの足元を光が包みこんだ。
ガブリエル大尉は黒の軍服のコボルトとゴブリンが鉄条網を突破するのを見て言った。
「5秒後に押せ」
青の軍服のドワーフが命令を聞くと既に箱型のスイッチにキーを差し込み手を掛け。
「1…2…3…4…5、起爆!」
回した。
ガブリエル大尉がもしもの想定外に備えた緊急用の罠、砲撃の際の不発弾や鉄釘とかの有り合わせで製作した梱包爆薬などをダイナマイトに巻きつけて30センチの深さに鉄条網から1メートル間隔で15メートルまで敵の想定進軍路に埋めて設置した罠が起爆した。
想定より少し上ぐらいに爆薬を詰めたため、黒の軍服のコボルトとゴブリンが鉄条網を握った手を残して吹き飛び、黒の軍服のゴブリン達の突撃を粉砕し、Gewehr98軍用ライフル銃で射撃を行う黒の軍服のコボルトと人間達を爆殺し、MG08/15を設置して掃射していた黒の軍服の人間ごと粉々になり、その後ろにいた黒の軍服のダークエルフとドワーフの少数が爆破の破片が襲い、地面を覆っていた死体が地面ごと空に向かって吹き飛ぶぐらいの爆発が起きた。
黒の軍服の波の動きが止まり、青の軍服も止まっていた。しばらくは静寂に包まれたがすぐさま軍靴と雄叫び声が響き渡る。黒の軍服の波の前進が再開され、同じく止まっていた青の軍服も動く。
黒の軍服の波の数が想定以下なら退却してたが想定以上だったため黒の軍服の波が一瞬の静寂の隙を突いて鉄条網を突破せんと次々と押し寄せた。
ある者は鉄条網を強引に突破しようと動き、ある者は鉄条網を少しずつ切断し、ある者は鉄条網を掻い潜り、ある者は鉄条網ごと動かそうと引っ張り予め付けていた手榴弾のピンを抜き爆発させ、ながらも次第に突破していき広場の中央に着くのも時間の問題だった。
青の軍服も突破を阻止せんとして、ドワーフ達が改装された近世のフランシス製フリントロック式擲弾銃で擲弾を放ち鉄条網に近づく者から粉砕し、それぞれの即興のトーチカの者達も機関銃の鉛の雨で鉄条網に近づく者を引き裂く。
トマ准尉は押し寄せる黒の軍服の波を見ながら戦斧を握り締め言った。
「コーヒー挽きを回せ」
青の軍服のドワーフが25本の銃身のReffyeミトラィユーズ改良型野戦砲の照準を鉄条網に近づく黒の軍服の波に合わせてハンドルを握り、回した。
Reffyeミトラィユーズ改良型野戦砲は鉄条網に近づく者を含めて黒の軍服の波に向けて火を噴く。
元々ドワーフ達がフランシス共和国に製造を依頼されたこの野戦砲はフランシス共和国に納品した後に何故かドロイツ帝国からイザベラ帝国のロンドンの業者経由にフランシス共和国に渡りついでに返品されてドワーフ達の手に渡り、せっかくだから改良し私物として今回の戦争に持って来たのだ。
そんないわく付が戦場に舞い戻り、まるで過去の憂さ晴らしのように烈火の如く25本の銃身から連続して弾丸を斉射した。鉄条網に近づく者を含めた黒の軍服の波が幾つかに引き裂かれた。
ドワーフ達の改良により、貫通性の向上と元々の特殊弾薬を同一の薬莢から3発が発射されるとさらに発射された一発の弾丸から3発が発射され計6発の弾丸が同一の薬莢から発射できる仕様にしたため。
一つの薬莢から発射された3発の内の一発の弾丸が一人の黒の軍服の人間の体に着弾し入り込むとそこから3発の弾丸が発射され貫通し背後の黒の軍服のコボルトと人間に命中しさらに全身に纏った中世並みの鎧ごと貫通し背負っていた最新の可搬式据付型の火炎放射器の燃料タンクに直撃して爆発し周囲を巻き込み炎上した。
なお余談ではあるがドワーフ達は特殊弾薬改良案の計画は楽しかったが実際に製作すると恐ろしく複雑で面倒でありしかも頑張って10回の斉射が行えるぐらいの弾数を揃えたのにまるで打ち上げ花火の如く消費される為、トマ准尉を含めたドワーフ達は二度と作らないと心に誓ったのである。
しかしそれでも黒の軍服の波は止まらず、ついには鉄条網を乗り越えて瓦礫と死体と土嚢と塹壕がある広場の中央にお互い顔の輪郭が分かるくらいの距離に接近した。
黒の軍服の波は爆発と銃弾を掻い潜ったゴブリン、人間、コボルト、が入り混じり。それぞれの得物である銃剣、その辺で作ったと思われる木の棍棒、スコップ、使い古した斧を持つ者たちが突撃し。
その後ろには爆発と銃弾を掻い潜りながら、ゴブリン、人間、コボルト、ダークエルフ、ドワーフが混ざり合い。それぞれの得物である銃剣、少し欠けているナイフ、スコップ、使い古した斧、最新の可搬式据付型の火炎放射器、MG08/15機関銃、戦斧、ダークエルフ製の複合弓、改装された近世のラッパ銃、つるはしを持つ者たちが向かっていた。
ネルス軍曹は黒の軍服の波が爆発と銃弾を掻い潜り鉄条網を乗り越えてくるのを確認して銃弾装填し銃剣を装着し終えると心の中で最後に一回だけクソッたれ!と暴言を吐きながら言った。
「着剣!」
瓦礫と死体と土嚢と塹壕にいた青の軍服の人間やドワーフ達が、銃剣、戦斧、ナイフ、スコップ、即興で作り上げた石と鉄屑を巻いた木の棍棒、つるはしを持って青の軍服の防波堤のように待ち構え。
青の軍服の内の一人の誰かが「来やがれ、ドロイツ帝国の豚め」と呟いた。
黒の軍服の波が青の軍服の人間の防波堤に衝突した。
そこはまるで前時代に舞い戻ったかのような光景であった。
銃剣で心臓を刺し、スコップで頭を叩きつけ、改装された近世のラッパ銃で至近距離から胴体に向けて散弾を放ち、石と鉄屑を巻いた木の棍棒で相手をひたすら殴り、戦斧で体ごと両断し、ナイフで首を掻き切れば、つるはしを背後から叩き刺し、使い古した斧で腕を叩き落とす。
だが前時代より酷い光景なのだ。
最新の可搬式据付型の火炎放射器で相手を焼き殺し、MG08/15機関銃で蜂の巣にすれば、手榴弾を投げ込み爆殺し、ルガーP08で頭を撃ちぬけば、ルベルM1886軍用ライフル銃で脚を撃ち抜き銃剣で止めを刺して、瓦礫の石で相手を殴り殺し、至近距離から複合弓を撃ち込み、銃剣で刺された血塗れの手で相手をひたすら殴る、ここは地獄かと錯覚し始める者すら現れる。
トマ准尉は押し寄せる黒の軍服の波を掻き分けるように戦斧を振るい、奮戦し。
ネルス軍曹は押し寄せる黒の軍服の波を防波堤のように銃剣で押さえこみ、善戦し。
ガブリエル大尉は指示を伝えてから押し寄せる黒の軍服の波にショーシャ軽機関銃を撃ちながら乗り込み無理矢理取り付けた銃剣で確実に刺し込み突撃して、勇戦する。
広場の中央を含めたほんの小さな村は混沌と化し、村の前では爆発と鉛の雨嵐が降り晒され鉄条網の茨のを赤く染め、広場の中央は乱戦による殺戮により血と死体により覆われた。
しかし混沌は静粛へと向かった、轟音と死と破壊を連れてくる砲撃と範囲攻撃魔法によって。
両陣営からすれば幾つかの不運が重なった事故とも言える誤射だった。
フランシス共和国側は重要目標である西の丘の方には連絡手段とも言える希少な魔導通信機が用意されていたがもちろん片田舎のほんの小さな村には無い、予想では敵が大挙して襲い来る事は低くむしろ砲撃と範囲攻撃魔法の流れ弾による被害と仕掛けた罠の破壊を懸念し、伝書鳩を飛ばしての要請はしなかった。
ドロイツ帝国側は先の戦闘で十分な砲撃と攻撃をしたため西の丘の方に集中攻撃を仕掛ける予定だったが別の作戦で予定外の中止になった戦力が連絡ミスで配置されて運用できるようになったので西の丘の方に攻撃と砲撃を仕掛け同時に片田舎のほんの小さな村には中止になった戦力での砲撃無しの奇襲集中攻撃を仕掛ける事になった。
当時の両陣営の砲撃隊と範囲攻撃魔法隊は多忙で命令と情報が届きしだいに砲撃と範囲攻撃魔法を行っていた、時々情報錯綜による誤報や極稀に敵空軍の散発的な奇襲による混乱で砲撃と範囲攻撃魔法を行う事もあるが、大抵の場合は異常と訂正と静止がすぐに届くため今の所は酷い事は起こらないと思っていた。
それを引き起こしたのは片田舎のほんの小さな村から聞こえた轟音である。
その時の両陣営の砲撃隊と範囲攻撃魔法隊は何事かと騒ぎ。そして両陣営は敵砲撃兼範囲攻撃魔法だと思い。両陣営は伝書鳩が飛んで来ないのは敵の砲撃と範囲攻撃魔法によって伝書鳩を喪失だと思った。
両陣営の砲撃と範囲攻撃魔法隊の指揮官は片田舎のほんの小さな村の爆発罠による轟音を敵砲撃兼範囲攻撃魔法だと判断。
幸いか不幸か両陣営の砲撃隊と範囲攻撃魔法隊の指揮官の手には片田舎のほんの小さな村の地図があった、そこで両陣営の砲撃隊と範囲攻撃魔法隊の指揮官は先ほどの轟音の大きさから敵砲撃兼範囲攻撃魔法により部隊が劣勢で後退もしくは撤退に追い込まれたと想定し一刻も猶予も無しと判断、独断では片田舎のほんの小さな町の敵追撃進路に対し一斉射による支援砲撃と範囲攻撃魔法支援を命令した。
誤解と勘違いによる両陣営の砲撃と範囲攻撃魔法は見事に降り注いだ、味方の頭上に。
その時、青の軍服の者と黒の軍服の者はお互い空を見上げた。
なお後日、誤解と勘違いによる砲撃と範囲攻撃魔法の誤射に気づいたのは両陣営の砲撃隊と範囲攻撃魔法隊の指揮官だけであり、皮肉にも両陣営共に範囲が重なりお互いに敵砲撃兼範囲攻撃魔法だと思い誰も誤射だと気づかなかったのだ。戦後に両陣営の砲撃隊と範囲攻撃魔法隊の指揮官が戦後に会うのだがそれはまた別の話である。
片田舎のほんの小さな村の空には時刻外れの流星群、砲撃と範囲攻撃魔法がまるで地上の争いを嘲笑うように黒く赤く白く黄色く空を染め上げながらまるで天の裁きの如く敵味方関係無く平等に地上の全てに降り掛かり。幾度も全てを抉り吹き飛ばし潰し汚し綺麗にし消し轟音を叫び、最後に音を無くした。
ガブリエル大尉は目覚めて泥と死体に倒れ伏していた身から立ち上がり、周りを見渡した。
その時ちょうど立ち上がりこちらに目を向ける者がいた、黒の軍服の者だった。
お互い目を合わせ、すぐさま己の武器を向けた。
黒の軍服の人間はGewehr98軍用ライフル銃を向けて、青の軍服の人間であるガブリエル大尉はFMMle1915ショーシャ軽機関銃を向ける。
お互い銃口を向けたままだった。ただ何故かガブリエル大尉は相手の顔を何処かで見たような気がした、何故か相手も撃たないから何処で見たか思い出そうする。
何処だ何処だと思い出そうするがなかなか出てこない、もしや前世で見たのか?。
だが何処で見たのだ?、銀行で?違う、仲間?違う、ビルで?違う、安定所の人間?違う、警察?違う、もっと前だ。もっと昔に見た気がする。
その時、何故か相手が銃口を降ろした。ガブリエル大尉もちょうど思い出す事に専念しようと自分も銃口を降ろした。黒の軍服の人間が言った。
「フランシス人にしては東洋人によく似ている、お前の名と階級は?」
話している間に思い出せるかもしれないので返事をした。
「フランシス共和国陸軍、ガブリエル大尉だ。よく東洋人に似てると言われるよ。あんたの名は?」
「大尉だと?。ははっ、まさか大尉とはな。ああ、すまない。俺はただの元画家の誇り高きドロイツ帝国陸軍兵士でありバイエルン予備歩兵連隊伝令兵、アドルフ兵長だ。ガブリエル大尉か覚えておこう、フランシス人。おっと陽が沈んできたな、俺は自分の陣地に戻るよまたどっかで会うかもな、さようなら」
そう言った黒の軍服の人間、アドルフ兵長は泥地に落ちていた黒鞄を拾いそしてこちらに背を向けて自分の陣地に片足を引きずりながらを戻って行くのであった。
「ああ、さようなら。アドルフ兵長か………アドルフ?」
ガブリエル大尉は思い出したのだ。何処で見たのかを少年時代に一度だけ図書館で見た事があったのだ。
前世の世界の歴史において、20世紀最悪の独裁者、アドルフ・ヒトラーの姿を。
ある程度の死傷者を出したものの片田舎のほんの小さな村を何とか敵の攻勢から守りきった。
西の丘に向かわせた救援も戻ったが、ダニエル中尉含む彼らを待ち受けたのは中隊長であるガブリエル大尉のさらなる異常だった。
「で、さらにおかしくなったのはガブリエル大尉が敵兵士と会話して去った直後からなのは間違い無いのね?」
フランシス共和国に所属するエルフ、マリー少尉は3回目の再確認をした。
「3回目だぞ、マリー少尉。俺は敵の砲撃と範囲攻撃魔法で建物の下敷きから這い上がる時に見たんだよ。何度でも言うがガブリエル大尉が敵兵士と会話して去った直後に突然、地面に膝を着いて空を仰ぎながら手で目を隠してぶつぶつなんか言ってるんだ。それから今までずっとあの調子だよ、わかったか?エルフの嬢ちゃん」
「…納得はできないトマ准尉、もう一度説明を求めるわ。偏屈ドワーフ」
「しつこいぞ、マリー少尉。それで今のガブリエル大尉の状態はどうなのだ?」
ダニエル中尉は状態を聞き、トマ准尉が後ろに振り向いた。
「だめですね。さっきからガブリエル大尉が前世とかヒトラーがーとか神めーとかぶつぶつが増えて以前の妄言吐きからさらに余計おかしくなってますよ。ダニエル中尉」
ネルス軍曹はガブリエル大尉の状態を見て言った。
「潮時だな。いずれ精神が破錠すると思っていた」
「ダニエル中尉、待ってください!。もしかしたら一時的な物かもしれませんよ」
「妄言吐きでだいぶなのにこれから先に毎回こんな状態になると思うとワシまでおかしくなってしまいそうだよ」
「なんだと!。もう一回言ってみなさいよ偏屈ドワーフ!」
「やめろ、マリー少尉。ガブリエル大尉はよく持った、だがこれ以上は本人が望まないはずだ。だから彼らを呼んだ。来てくれ」
黄土の軍服、フランシス共和国の同盟国であるイザベラ帝国の軍服の人間が二人歩み寄って来た。
一人は若くも佐官の服を着て黄色の封筒を持つ高身長の男性である。
もう一人はもう若くは無いが軍医の服を着て赤い十字付の医療鞄を提げている平均的身長の男性である。
「紹介しよう、彼はイザベラ帝国陸軍少佐のアルバートだ。彼とはロンドン留学からの友人で今戦争で派遣されていると聞いて連絡を取っておいた」
「どうもこんにちは、ガブリエル中隊の諸君。いきなりだが、友人とは言え突然連絡してしかも他国軍とは言え自分より階級が上の人を直接呼び出すかね?、ダニエル中尉」
「友人のよしみで見逃してくれないか、アルバート少佐殿。いや、アルバート卿と呼ぶべきかな?」
「はははは、まだ祖父は元気だからしばらくは少佐でいいよ。それよりお前、確か最後に会う時は将校で会おうと言ってなかったかな?、ダニエル中尉」
「はははは、いろいろあってまだだがいずれはお前より上になるから心配するな。それよりもだ、頼んだのは用意できたよな?」
「……その事なんだが、残念な事に軍にその専門の人間は2週間前に戦死していてな。今はいないんだ、その代わりに有名な軍医を呼んだが駄目か?」
「……チェスの賭けの件は駄目だな、だがお前がロンドンで他人の婚約者の女性と寝たのはチャラにしよう」
「あの件はお前も寝ていただろ、というかあれは他人の婚約者の女性が悪いだろ。……まぁいい、本題に入ろう。有名な軍医のワトソン先生だ」
「どうもこんにちは、専門ではありませんが努力はしましょう。それで患者はどちらにいられますか?」
「ちょっと待て」
マリー少尉がエルフ特製の複合弓をアルバート少佐に向けて弓を引いたまま、軍医のワトソンに低い静止の声を上げた。
「ダニエル中尉?。他国軍のではありながらも将校権限を持つ者と正式な医師判断証明ができる軍医を呼んだのは何故なのでしょう?。お答えを聞かせて貰いたい」
「マリー少尉、弓を降ろしたまえ。他国軍とは言え我が国の同盟国の軍人で君より階級は上なのだ、それにそこまで分かっているなら説明をしなくてもいいだろう?」
「例の患者、いや、例の軍人を見る前に二つ質問があるんだけどいいかな?。ダニエル中尉」
「なんですかな?、アルバート少佐」
「一つ目だ、どうして女性がいるんだ?」
アルバート少佐が人差し指をマリー少尉に向けた。
「少なくとも従軍看護婦でも無さそうに見えるが?」
「兵士だけど、なに?。少佐殿」
マリー少尉はお前はいったい何を言ってるんだ?という目をアルバート少佐に向けた。
向けられたアルバート少佐は困惑した顔でダニエル中尉に説明を求めた。
「どういう事だ?、ダニエル」
「フランシス共和国は自由と平等だからだよ。徴兵制に女性は含まれていないけど女性も志願すれば兵士になれるし、男性も志願すれば従軍看護師という者にもなれるんだよ。フランシス革命から導入してただろ?、アルバート少佐殿」
「そういえば、近所のランプの貴婦人がその事に関して言っていたような…まぁいい。じゃあ二つ目の質問だ、何でこの中隊は種族の統一性が無いんだ?。まさかこれも自由と平等じゃないだろうな?、ダニエル中尉」
アルバート少佐が周りを見渡した。
周りにはアルバート少佐が言った通り、中隊としては種族に関しての統一性が無く。
多い順で言うなら青の軍服を着たゴブリン、人間、コボルト、ドワーフ、エルフ、リザードマン、と分隊でいくつかに分けられているとは言え小隊にするとそれなりに混ざっており異様な集団でもあった。
「記憶の思い違いでなければ、フランシス共和国でも人間だけの中隊とかゴブリンだけの中隊とかにはっきりと分かれているはず何だが。ああもちろん自分は差別主義者では無い、だがこれは少し珍しいような気がするんだが」
「あーそれは思い違いじゃないですな、アルバート少佐殿。本来ならば伝統とか習慣によって混乱しないように中隊ごとに分けられているはず何ですが、ここはある意味で敗残兵と余り物と再編待ちと懲罰を課された者などの寄せ集めの中隊なんですよ」
「何だって?」
ダニエル中尉が人差し指をネルス軍曹に向けた。
「ネルス軍曹、以前は何をしていた?」
「詐欺師だね、ミスって捕まった時に2年ぐらい兵士やれば放免されるの話に騙されてね。生きて帰ったら警官に対して詐欺罪で訴えてやりますよ」
ダニエル中尉が人差し指をトマ准尉に向けた。
「トマ准尉、以前は何をしていた?」
「アルプスで武器兵器を設計製造をやってたんだが、戦争が始まってからはろくに使えないやの分からないだのの苦情がうるさくてな。ついカッとなってちゃんとした使い方を教えに志願したよ、後々よく考えたら戦争が終わらんと帰れねぇで気づいたが後の祭りだよ」
ダニエル中尉が人差し指をラードゥン中尉に向けた。
「ラードゥン中尉、以前は何をしていた?」
「沼地で修業をしていた、その後に戦争と聞いて馳せ参じた。だが戦いに夢中になっていたら、いつのまにか私の部族の戦士達以外の他の中隊はよく全滅していた、だからよく再編待ちしている。ついでにこの中隊に来たのは36回目の時だ、今までよりは長く続いてるな」
ダニエル中尉が人差し指を次々と中隊の兵士達に向けていき、それぞれに以前は何をしていたのかを質問していった。そして質問を受けた者はそれぞれ別の回答を言った。
ある者は失恋して志願した、ある者は戦争の緒戦で敗北と中隊の全滅して生き残ったからここに配属され、ある者は上官を殴って連れこまれ、ある者は志願したが配属先が全滅したので再編待ち、ある者は書類ミスで配属され配属先が別の者に配属されたから結局ここに配属された、などとふざけた回答が次々と出てくるため、42人目あたりでアルバート少佐はダニエル中尉に止めさせるように指示をした。
「わかったもういい、十分だ。……よし、本題に入ろう。例の人物はどいつだ?」
「あちらでベンチに座って両手を合わして地面を見ながらぶつぶつ言っているのがガブリエル大尉です、アルバート少佐殿」
「珍しい、フランシス人の顔には見えないな。どちらかと言えば我が国の同盟国の火本人に似ているな。本当にフランシス人か?」
「パリの解体された孤児院のですが一応証明書には両親共にフランシス人です、ついでに配属理由を聞きますか?」
「聞きたくない、それよりそちらの女エルフが執拗に守ろうとする理由を聞きたい。できれば先に弓を降ろしてもらいたいな」
「それなら簡単ですよ。マリー少尉はガブリエル大尉に惚れているんです」
「本当か!?」
「違う!!。ダニエル中尉、いくら上官でもその冗談は射抜きますよ?」
「じゃあ君が話してくれ、マリー少尉」
「えっ、……い、いいでしょう。話してあげましょう。それは――」
マリー少尉がまだマリーとして森に棲んでいた頃、森にフランシス軍の補給隊が通りかかった。
補給隊は早く森を抜けて前線に到着するために森に棲んでいるエルフ達に案内人を頼んできた。案内されて森を出る道中に馬が暴れ案内人を引き受けたエルフ達に襲い掛かった。マリーは油断して木の付け根に脚を引っ掛かり倒れた、馬が暴れて前足を上げて振り下ろされる直前、銃声が響いて馬は横に倒れた。その時に素早く馬を射殺して馬を止めたのが当時は補給隊の護衛として就いていたガブリエル軍曹だった。
ガブリエル軍曹が倒れたマリーに手を差し出して起こさせてくれた。そしてマリーが礼を言う前にガブリエル軍曹が射殺した馬を見ながら仲間に言った。
『だれか馬肉の食べ方を知っている奴はいるか?』
言葉が出なかった。
結局はドロイツ帝国軍のゴブリンとコボルトとダークエルフの攪乱部隊の襲撃で結局は礼が言えなかった。
「だから言えなかったその時の礼を言うために、そして助けてもらった恩を返すために、フランシス共和国の森のエルフ達に対しての参戦要請に志願して会いに来たのよ」
「馬肉の食べ方を聞くやつに恩を返すため来たのかこのエルフ、頭は大丈夫か?」
「うまく使ってくれないからカッとなって使い方を教えに来たドワーフの方がおかしいのでは?」
「頭のネジが飛んでいる相手に未だに礼を言わねぇで、もじもじとやってるエルフに言われたかねぇよ」
「なんだと!、この泥と汗まみれで臭さい偏屈ドワーフめ!、もう一回言ってみやがれ!」
「なんじゃ!、それは聞き捨てならんな!。泥と雑草まみれでうるさい傲慢エルフに言われたくないぞ!」
マリー少尉とトマ准尉が怒って取っ組み合いし始めたのをよそにダニエル中尉とアルバート少佐はワトソン軍医がガブリエル大尉に質問をしている所を見ていた。
「では聞きますがあなたは前世の記憶があるのですか?、ガブリエル大尉」
「はい、俺は前世の記憶を持っています」
「ではガブリエル大尉、あなたは前世ではどのような名で呼ばれていましたか?」
「はい、私は前世の名は斎藤吉鷹という名で呼ばれていました」
「では、あなたの前世は火本人ですか?」
「いいえ、私の前世の世界では火本人ではなく日本人と呼ばれています」
「…では前世は侍か忍者ですかな?」
「いいえ、私の前世ではそれはもう過去の遺物です、前世では犯罪組織の依頼を受けて計画実行を行うフリーの実行者をやっていたね」
「……失礼、ちょっと待ってくださいね」
ワトソン軍医がこれ以上は質問したくないと2人の上官に小声で訴えるが却下される、仕方なく質問を再開させるのであった。
そもそもの話だが戦場から運ばれてくる多くの兵士達の処置を終えて一息しようとコーヒーに口を付けた矢先に上官に何の説明もなく呼び出され、年の関係と昔の傷に加えて朝昼夜でほぼ休まず働き疲労困憊の状態でさらに専門外である精神病の診断をやらせられるとワトソン軍医としてはうんざりな思いでもう適当にやって済ませようかと考えていた。
ワトソン軍医は、いつの時代の前世か?、いつぐらいに前世があると自覚したか、新聞を読んでいるか?、読書を嗜むのか?、精神科に行った事は?、薬を飲んでいるか?、酒は飲んでいるか?、などの質問をする状況に辟易としていた。
そしてガブリエル大尉が、ざっと140年先、生まれた時から、毎日、もちろん、行ってない、飲んでない、などをまるで当たり前のように答えた。一つも答えに詰まらずに正確に半分ぐらいは正常の解答して半分ぐらいの前世に関する事も異常に凝っていた解答だった。
素人考えだが普通は前世があると言っている人間にあれこれと質問すると最初は答えていくが徐々にあやふやになったり矛盾が生じたりと次第に答えられなくなってしまうのが普通なのだ、だが彼は何一つ詰まる事も考えることも無く流暢に答えた。しかも疑問に思って質問した時は軽く解説してくれたり、専門的な事はわからないと、はっきりと答えてくれる。
この男は本当に異常者なのか?、正常な人間ではないのか?。落ち着け、どっかの友人みたいな無意味な奇妙な診断書を書く気は無い、この思考は専門外の質問に慣れていないだけだ。ただこの男に質問して聞いて終わりにすればいいのだ。
冷静になれ、言葉に惑わせられるな、よく観察するのだ。
「電気で走る車にいつでも遠くから会話ができる携帯型の電信機と、では前世での最後はどのようなものでしたか?」
この質問をした時、どのような解答がでるかで確かめる事ができるはずだ。
「銃弾を5発ほど喰らって出血死でした」
「……」
ワトソン軍医は返答に困った。
「その話は聞いてないわね、ガブリエル大尉」
「そういえば前世での最後の話も聞かされておらんな、ガブリエル大尉」
マリー少尉のエルフの長い耳による優れた聴力で話を盗み聞きし、ラードゥン中尉はリザードマン固有の戦話の興味があって先ほどの話から戦話と思い、困り果てて頭を抱えるワトソン軍医や仲間達を押しのけて前世での最後を詳しく聞いてきた。
「前世での最後か?」
「そうだ、出血多量で死んだ事はわかっているがもう少しどのように死んだのかぜひとも聞きたい」
ラードゥン中尉の質問にガブリエル大尉が地面を見ながら語りだした。
「……あの時は完璧な計画だと思っていた、想定外が起きなければ――」
あの時、ちょうど引退前の大仕事だった。ちょうど国の暴動が過激になってきた時期だった、遠からずも内戦が起きるだろうと感じていた。私の最後の依頼は日本中央銀行、この世界で言うなら火本国の国立中央銀行を襲撃して目標の物を手に入れる事だった。
報酬は山分けしても余裕で引退するには多すぎる金額だ。まあ、依頼が依頼だから念には念をと仲間は数合わせの10人の素人と自分も含む20人の玄人で編成した計30人で装備は経費などが向こう持ちだから小物類から武器商人で手に入れた重火器まで用意、練りに練って計画し事前工作を充分に仕掛けて目標の警備が薄くなる瞬間を狙った計画だった。不安要素は依頼人が個人だと言う事以外はすべて匿名だらけで妙に金払いが良すぎる所だ。組織は十分に信用できる依頼人でお得意先らしく、組織が保証として報酬に上乗せで大金を積むぐらいだった。とにかくやるべき事はやった。
襲撃はうまくいった。警備はすべて無力化してあとは目標の物が入っている無駄にデカい硬い金庫を開け終わるまで警官を適当に散らすはずだった。
最近、政府に新設された政府直属の特殊重装制圧大隊600名が来なければの話だがな。
ニュースで6回目の完全武装で実戦並みの公開訓練に向かう予定があると聞いていたがまさか近くを通るとは思わなかった。おかげで彼らの記念すべき初の実戦相手が私達になるはめになるとはな。
相手が優秀な警官から特科の最優秀な者までで固めた精鋭600名が来ても、こちらは素人は知らないが実戦経験豊富な20人の玄人と重火器と罠で迎え撃った。
結果はまぁ、29名の死者と瀕死1名に600名の死者で考えると相打ちとは言え勝利だな。目標の物は手に入れたけど出血多量で死んだ。
「何から色々どこから突っ込んだらいいのか分からなくなってきたね」
「ふむ、色々と分からんところもあるが要するに死闘を繰り広げて最後に偉大な戦死を遂げたのだな」
「ラードゥン中尉、ドワーフの自分が言うにもなんだが偉大な戦死は違うんじゃ?」
「物騒な言葉がちらほらと出てきたような気が」
仲間達は前世での最後を聞いて、頭を抱える者、納得する者、呆れる者などの様々な反応を表す。
その時の仲間の名を覚えていますか?と質問をするワトソン軍医。
「仲間の名はお互い知らない、一応あだ名で呼び合ったけど今はあんまり覚えてないがそれでいいのなら」
「かまいません、覚えている名からお願いします」
「ネオナチ狂いの骨董収集家のドイツ系日本人、ドワッジ。長距離狙撃から綱渡りに7か国語が喋る事ができる変人不法入国者のフランス人、フィジー。社会の崩壊を目標にしてる女子高生の日本人、クルイ。腕と知識が良いのに細かいルール持ちで神経質な殺し屋でいつも歯医者通いの日本人、シバリ。後はあまり覚えていないが確か、元刑事と傭兵と元自衛官に元社長に相棒のプロ銀行強盗の移民スペイン人と……。すまない、22年前の事だからあまり覚えていない」
「いえ、十分です」
トマ准尉は後ろからワトソン軍医にこっそり聞いた。
「ガブリエル大尉の診断はどうだ?、ワトソン軍医」
「専門外です」
友人の頼みとはいえ少し来た事に後悔していたアルバート少佐や届くかどうかわからない転属願いを出そうと考えだしていたダニエル中尉。その2人の元に青の軍服を着た者が白い封筒を持って来た。
「ノブレス伍長であります、アルバート少佐殿に伝令です」
「私だ、そういえばガブリエル大尉は敵の伝令兵に会ったようだな」
アルバート少佐は人間の伝令兵から白い封筒を受け取りながらガブリエル大尉に質問をした。
「伝令兵……あ、あの男だ!。あの男だ!、ヒトラーだった!、ナチスドイツの創設者だ!」
「いや、敵の伝令が何者かはどうでもいい。その伝令兵は黒鞄を持っていなかったかね?」
「そういえばあの敵の伝令兵、黒鞄を持っていたな」
「本当かね?、トマ准尉」
「本当です、アルバート少佐殿」
それを聞いたアルバート少佐は複雑な顔をしてガブリエル大尉を見た。
「その敵の伝令兵の容姿はわかるか?」
ガブリエル大尉は伝令兵の事をまるで狂った機械のように幼少期から話し始めて青年期に放浪記、第一次戦争期、政界進出期まで進みそうになる所からアルバート少佐が止めた。
「ガブリエル大尉!、止めろ!、分かった!、わかったからもう止めるんだ!。……よし、確認しよう。無駄に長い妄言が混ざっててよくわからない、誰か必要な部分だけ理解した人はいるか?」
「話の必要ではない所は聞き流して途中から聞いた必要な部分だけ言いますよ」
アルバート少佐や他の仲間達が頭を抱えながらダニエル中尉が必要な部分の容姿を聞いた。頭を抱えていたうちの一人である伝令兵、ノブレス伍長が鞄から鉛筆と白い手帳を取り出すとダニエル中尉から聞いた敵の伝令兵の容姿を白い手帳に書き描いて見せた。
「アルバート少佐殿、ダニエル中尉の話からこのような容姿だと思われます」
「どうだ?、ガブリエル大尉。この容姿で合っているか?」
「…はい、この男です。間違いありません」
「よし、伝令よくやった、貴君のおかげだ。ガブリエル大尉、そいつは足を怪我していたのは間違いは無いな?」
「間違いありません、アルバート少佐」
「よろしい、昨日の情報が確かなら目標はまだ前線のあの陣地にいるな。無駄骨にならずに済んだ」
アルバート少佐はガブリエル大尉に向かって厳しい眼をして質問をした。
「ガブリエル大尉、敵と銃口を向かい合っていたにも関わらずなぜ引き金を引かなかった?」
「はい、引き金を引いてましたが残弾がありませんでした」
「ではガブリエル大尉、銃剣で敵を突き刺さないのはなぜだ?」
「はい、取り付けた銃剣は向かい合う前の乱戦最中に敵に刺した際に破損してしまいました」
「ではガブリエル大尉、銃床で殴りつけるなり叩きつける事はしなかったのか?」
「はい、向かい合う前の乱戦ですでに銃床で殴り叩きなどをすでに行い、向かい合う時にはショーシャ軽機関銃は少し動くだけでバラバラに壊れる寸前でした」
「……では放り投げて近接戦に持ち込むのは出来なかったのか?」
「はい、相手とは少し距離があり近接戦に持ち込む時は撃たれて死ぬと思います」
「では、貴君はお互い銃を収めたとはいえ敵に救われたという形になるな」
「はい、アルバート少佐殿」
「……実はイザベラ帝国の諜報部から陸軍に要請が出た。内容によれば敵側の前線に黒鞄を持った伝令兵が目撃されているとの事、諜報部のスパイはあの黒鞄が今戦争を左右する重要な書類が入っていると確認したと、目撃次第に奪取せよとの命令が書き記されてな。陸軍は私を含めた幾数人の将校に調べて奪取しろと命令が下されたのだ、どんな手を使ってもだ」
アルバート少佐は白い封筒を開けて白い書類を取り出してガブリエル大尉に差し出した。
「ガブリエル大尉、名誉挽回の機会を与えよう。私はわが軍のヘイグ最高司令官にあの敵陣地への攻撃を行う事に進言をした、ちょうど向こうのあの敵陣地に攻撃を行う事にだ。だが賛成する人が少ない、ガブリエル大尉がその書類に署名をすればちょうどだ。敵を仕留める機会ではないかね?」
ダニエル中尉とマリー少尉とトマ准尉にネルス軍曹などが話と間に割り込んできた。
「待て待て、アルバート少佐殿。正気ですか!」
「正気だ、ダニエル中尉」
「おいおいおい、あんた賭け事はやらないほうがいいよ」
「ネルス軍曹、推測が確信になった今を逃す気は無いのだ」
「くそっ!。マリー少尉!、トマ准尉!、ガブリエル大尉に署名させるな!」
「アルバート少佐殿、署名をしたけどこれでいいかい?」
マリー少尉とトマ准尉が動く前にガブリエル大尉は書類に署名を終わらせてアルバート少佐に渡した。
ダニエル中尉が、馬鹿な!、いつの間に!、署名に必要なペンと鉛筆類は渡していないはずだと、と驚く。意外な速さで署名を終えたガブリエル大尉にアルバート少佐は多少の困惑を抱きながらも書類を受け取って署名を確認した。署名は赤色でガブリエル大尉と書かれていた。
「おぬし正気か!?。ドロイツの頑強で広大な陣地を攻撃するんだぞ!、少なくとも鉄とコンクリートで補強されここより深い塹壕と草原の如く広がる鉄条網にこれでもかと言えるぐらいの機関銃を設置した敵陣地なんだぞ!。突破方法はあんのか!?」
「落ち着け、トマ准尉。航空機を砲撃と範囲攻撃魔法の代わりに敵陣地を破壊と兵力の集中阻止を行い、
次に装甲と塹壕を走破できる無限軌道に機関銃と大砲を装備したH・G・ウェルズの作品の陸の甲鉄艦みたいな装甲戦闘車両と歩兵部隊で敵が陣地防御を行う前に突撃して敵陣深くに侵入し殲滅すれば問題は無い」
「そんな戦力あるわけないだろ!」
アルバート少佐が話を遮った。
「航空機の支援は無い、だが陸の甲鉄艦はある。でもその前に聞きたい事がある、この署名はどうやって書いた?」
「ああ、ペンが無かったので手で書きましたよ」
ガブリエル大尉は中指が血で汚れた右手を見せた。
1916年
ソンム川に死体がまだまだ緩やかに流れる月
砲撃と魔法による鉄と火焔の激しい雨が降り注いだ後の地面がはっきり見える良き日
緑の草が僅かに残る平原の何の変哲もないが少なくとも異様な風景が広がっていた。
平原には多くの青の軍服の者達と黄土の軍服の者達が種族を問わず集結していた。そして大きな鉄の菱形が多く整列されていた。多くのうちの一つの大きな鉄の菱形の周りに青の軍服の者達が囲んでいた。
囲んでいた青の軍服の者達の内の一人のドワーフが大きな鉄の菱形を叩き。
「陸の甲鉄艦があると聞いて驚いたが、イザベラ帝国のドワーフも中々やるじゃねぇか。このくらいの装甲なら機関銃なんか怖くないわい」
青の軍服の者達の内の一人のリザードマンが大きな鉄の菱形を右から左に見て。
「陸の甲鉄艦と聞いて戦艦かと思ったが駆逐艦以下だな」
青の軍服の者達の内の一人のエルフが大きな鉄の菱形を見上げ。
「500年ぐらい生きたけどこんなの初めて見た」
それぞれの感想を述べた。
彼らを遠めに見るアルバート少佐とダニエル中尉の2人は話をしていた。
「ダニエル中尉、行く前に2つ質問する、忘れてた質問だ。一つ、いつからガブリエル大尉は狂っていた?。二つ、そもそも君の軍部は異常者を中隊長にしないといけないほど追い込まれているのかい?」
「良い質問ですね、アルバート少佐。ガブリエル大尉は徴兵される前は正常だと聞きましたからおそらく異常になったのは徴兵後すぐの戦闘、ちょうど2年前に彼と初めて会った時ですよ――」
無能指揮官の無謀な作戦のせいで大損害を受けて撤退を余儀なくされた時の事だ。ああ、言っておくがその時は軍曹だったから自分のミスでは無い、必死に反対して無謀な正面作戦で散りじりになっただけだ。とにかく敵の追撃者に遭遇して必死に逃げている最中に出会った。
その時は上等兵だったガブリエルはある一人の将校を背中に背負ったまま、敵の追撃者に正確に銃弾を当てた。助けてくれたお礼を言ったら。
『それならジャン少佐を背負ってくれ、負傷しているんだ。ジャン少佐、あともうしばらくの辛抱です』
自分は背負ったさ、顎から上の頭と左腕が無くなったジャン少佐の腐りかけの死体をな。
言うべきか迷ったが手持ちの武器の残弾は尽きていて、ガブリエルには片手の武器の残弾に余裕がある状況、選択肢は一つだ。そのあと何とか味方陣地に辿り着いて軍医に演技をさせてもらうように頼んでテントに運び、後で死んだ事を伝えて難を逃れたさ。
「それが一つ目です、アルバート少佐。二つ目は上官に彼の異常性を伝えようとした矢先に敵の攻勢が始まってしまいましてね。上官が彼を異常者だと知らないで軍曹に野戦昇進で急遽再編した小隊の臨時隊長をガブリエルにしてすぐさま防御戦闘をやらせたんだよ。その後どうなったと思います?」
「見当もつかんな、ただ今は彼に作戦を参加させた事と戦車の初陣を任せる事に少し後悔をしている」
「勝ったんですよ、ほぼ無傷で。いやー、それを聞いた時は驚きましたよ。その後の戦闘も急遽再編した小隊の割には損害軽微でしかも戦果が大きいのはどういう事なんですかね。上の人間がやっと気づいたのは1年半ぐらい経って勲章を直接渡そうとした時でしたよ、既に勲章を補給隊や伝令兵経由で幾つか渡した後にね」
「……おっとダニエル中尉、ガブリエル大尉が呼んでいるようだ」
「そのようですね、では失礼します、アルバート少佐」
ガブリエル大尉は多くの青の軍服の者達と黄土の軍服の者達に説明していた。
「今回の作戦では友軍のマークI戦車隊が前進して先導する、そしてマークI戦車隊が敵の攻撃を引き受けるため彼等の少し離れた位置から追う形で我々の歩兵中隊が散開陣形で前進する。まずゴブリンとドワーフを前衛にする、ゴブリン小隊は塹壕での接近戦闘を想定しドワーフ小隊はマークI戦車隊の予想される故障による離脱車輌の修理と補助を行え、それ以外の小隊は後衛にし前衛の援護を行いつつ、敵の塹壕を含む制圧と目標地点到達を行う。第一段階で予想されるのはマークI戦車隊の故障による多くの離脱車輌の修理と補助によって中隊の進撃停止があり得る、その場合は――」
ガブリエル大尉の説明を青の軍服の者達と黄土の軍服の者達は熱心に聞いていた、その光景を見るアルバート少佐が隣にいたワトソン軍医に話し掛けた。
「ワトソン軍医、ガブリエル大尉の診断はどうだった?」
「はい、少佐。専門外としての私の判断ではガブリエル大尉はある程度は正常でした。しかしやはり言動と記憶には心配があります。ですがその部分以外は驚く事に通常の戦闘行動にはほとんど問題ではありません」
「……ワトソン軍医、彼には前世の記憶があると思うか?」
「その質問ですが、おそらく彼は2年前の戦場での強い精神的衝撃が原因で記憶の混濁と精神に支障ができたのでしょう。あの前世とやらの記憶は彼の戦前での趣味の読書でSF小説や図鑑をよく嗜み、知識と頭の中にある想像力で作り上げた物と思われます。戦術に関してはたまたま才能があっただけで、あれは単なるただの妄言で済んでもいいでしょう」
「マークIは言っていない」
「…なんです?」
「確かに陸の甲鉄艦という比喩や兵器の種類で戦車という名称は伝えた、だが私は一言もマークIという制式名称は伝えていない。制式名称を知っているのは一部の政府と軍の上層部と私と戦車の乗員しか知らされていないはずだ、ついでに戦車の乗員には今回の作戦までは偽装として水槽供給車という秘匿名称を使うように指示を徹底した。そのうえで友軍には戦車だと伝えた、そして今回の作戦終了後にプロパカンダに初めて制式名称を伝える事になっていた。なのになぜガブリエル大尉は制式名称を知っているんだ?。ワトソン軍医、もしかしたらガブリエル大尉は……」
アルバート少佐が言葉を止めた。これ以上は止めよう、もしかしたら触れてはいけない所に触れようとしているのかもしれない。
「………ところでノブレス伍長の絵は良かったな。君の次回作の挿絵を頼んでみたらどうだ?」
「ええ、でも共同作家のドイルはもう書きたくないと言ってますし、ノブレス伍長は人物絵は良いのですが風景画が酷いもので彼のスケッチブックを拝見した時は――」
アルバート少佐が強引な話題転換をしたにも関わらずワトソン軍医は指摘しなかった、これ以上は診察したくないからだ。
その日は前線にいるドロイツ帝国陸軍兵にとってたちの悪い悪夢のような光景を見る事になった。
珍しく下の状況と違う晴れ晴れとした空、唯一の汚れは下から上がる汚れた観測気球と焼け焦げた煙だろう。周りの黒の軍服の者達は塹壕内でそれぞれの所定の位置に着き、Gewehr98軍用ライフル銃の弾を装填しMG08重機関銃を向こう先の平原に構える。
ある一人の兵士は何だか胸騒ぎをしていた。向こう先の平原から理解できない何かがやってくるような気がするのだ。
その時、汚れた観測気球が何かを伝えようとして騒ぎ砲撃に直撃したように爆発して撃ち落された、それと同時に向こう先の平原からまるで地面を抉る轟音が響いてきた。得体の知れない何かが迫ってきた。
やがて地面を抉る轟音を響きかせるものが現れた。
鉄の箱が蠢きながらまばらに群れを作ってこちらに近づいてきたのだ。
それは今まで、車や鉄道を見た者でさえ、見た事ない光景だった。塹壕内の誰かが重機関銃を発砲した、それと同時に驚いていた黒の軍服の者達も発砲し始めた。蠢きながらこちらに近づく鉄の箱に目がけて。
やがて蠢く鉄の箱から火が噴いた、塹壕内の誰かが地面ごと抉られた。
トマ准尉はうんざりだと思った。ガブリエル大尉中隊長から友軍のマークI戦車が故障による離脱車輌が出るだろうと聞いていた。そんなに多くは出ないだろうと思っていた。
それが稼働直後に七割、出撃して数キロごとに一度に最大6両が故障するのは冗談だろう。エンジントラブルや魔法砲弾孔に落ちての破損はさすがにこの歳で泣きそうになった。
そんなこんなでその場限りの修理と補助を繰り返しやっと中間地点を突破しそうの時に1両の戦車が故障した。蹴った、もちろん28tの鉄で出来ているから痛い。
「何やってるんだ、トマ准尉」
「うるせぇわい、MPポーションをはよ渡せい」
トマ准尉は友軍の黄土の軍服を着た若いドワーフからMPポーションを奪うように受け取って中身が空になるまで飲み、空き瓶を地に捨てて戦斧を握り締めて鍛冶整備の呪文を詠唱する。
元々は騎士や冒険者が大事な事に迫る前に、壊れかけの武具を簡易的に修復する呪文だ。
もちろん事を終えたらすぐに再び詠唱して本格的な整備又は修理しなければならない、一応は鉄の加工品なら効くので時代が流れても止められない産業機械の簡易修復呪文としてよく多用されている。
作戦開始前に後方で友軍の黄土の軍服の者達がMPポーションの瓶を詰めた木の箱を大量に用意していたのは万が一故障が出てもすぐに修復できるとあっちの上の人間は予想はしていた、ここまで故障するのは予想外だっただろうな。鍛冶整備の呪文を掛けたら少なくともバスだって数日は持つ、この戦車は数キロでダメになりやがる。
悪態と苦みと酸味の薬味を舌で感じながらも詠唱を続けると、魔法砲弾孔に落ちて破損した履帯の破損部分がゆっくりと熱を持ちながら接合し始めて詠唱を終える頃に修復も終えた。
「この作戦を終える頃にはあと何本ぐらい飲むんだ?。お腹が痛くなってきた」
「今ので8本目だね、このペースだと15本以上いくよ」
「代わってくれ」
「代わったばかりです」
先頭の戦車が銃弾を弾き、砲と機関銃の鉛で返しながら鉄条網を突破した。
黒の軍服の者達は蠢く鉄の箱に向けて応戦するが装甲に弾かれ、鉛の雨に襲われ。蠢く鉄の箱はついに塹壕を超えて進むか、塹壕の間に停止して塹壕内の悪魔だと叫ぶ者や菱形なのかと思う者を含む黒の軍服の者達に機関銃の鉛のシャワーを降らす。
蠢く鉄の箱の群れはは塹壕を蹂躙して向こうまでさらに進み、蹂躙された塹壕には追い討ちを掛けるように青の軍服と黄土の軍服を着たゴブリン達が押し寄せる。
ゴブリンは人かモンスターかで二種類に分けられ、そこからさらに、ヨーロッパ、アフリカ、中南米で数種類に分けられる。ゴブリンの集落人口は多くまた増えるのが早いため昔から口減らしとして、戦争、モンスターに分類される同族討伐、労働力としての出稼ぎ、に行って稼いできた。なお戦争においては肉壁としての役割を担っている事が多く、ゴブリン達の多くは理解した上で進んで担う。保護している国のために集落のために友のために家族のために後の者のために、担うのだ。
今回の作戦ではマークI戦車隊が敵の攻撃を引き受けた為、青の軍服と黄土の軍服を着たゴブリン達はほぼ無傷で塹壕に到達する事ができた。ゴブリン達の本来の力、数を利用した集団戦で塹壕内の接近戦闘は黒の軍服の者達を恐怖させた。
黒の軍服の人間がGewehr98軍用ライフル銃で撃つもせいぜい3人仕留めて青の軍服と黄土の軍服を着たゴブリンの波に吞まれ、黒の軍服のダークエルフとコボルトが複合弓の連射と棍棒を振り回すも青の軍服と黄土の軍服を着たゴブリンの波を止められるはずもなくコボルトが押し潰されダークエルフもまたゴブリンの波に吞まれるのだ。
ゴブリンの波を押し止めようと生き残ったトーチカからMG08重機関銃が塹壕内のゴブリンの波に向けて火を噴く。
塹壕に到着したマリー少尉は複合弓を携え、エルフ特製の小型爆破魔法を仕込んだ矢尻を生き残ったトーチカに向けて射抜いた。生き残ったトーチカの開口部に入った矢が内壁に刺さり、爆破した。
爆破したトーチカの開口部から出る爆炎と黒煙を皮切りに次々と青の軍服と黄土の軍服を着たエルフ達が生き残ったトーチカや塹壕内の機関銃手を優先的に射抜き爆破していった。
塹壕に到着した青の軍服と黄土の軍服を着た、人間、コボルト、ドワーフ、リザードマン、の者達がそれぞれの得物を握り塹壕に乗り込み制圧していく。その中にガブリエル大尉の姿もあった。
一人の兵士が横たわっていた。黒の軍服を着ていて、上から渡された重要書類が入った黒鞄を大事に持っていた。伝令兵、アドルフ兵長は何とか立ち上がろうとするが痛みと同時に片足の怪我で巻かれた白い包帯に赤い血がにじむだけだ。
その時突然、扉が乱暴に開けられた。
「こんにちは、そして久し振りだね、ガブリエル大尉だよ。君はアドルフヒトラー兵長で間違いは無いよな?」
現れたのは青の軍服をしていて無理矢理銃剣を取り付けたルイス軽機関銃を持っている、ガブリエル大尉だった。
アドルフ兵長は驚きながらも返事をした。
「ガブリエル大尉か?。まさかすぐに再会するとは、でも何でフルネームを知っているんだ?」
アドルフ兵長は突然現れたガブリエル大尉を見て背中に寒気を感じた、敵兵としてでは無い。何か様子がおかしい、何がおかしいのかは分からないが、違和感が、殺気でも無いが好意的でも無いなにか、何かを感じていた。
ガブリエル大尉が銃口を下げてアドルフ兵長に言った。
「俺の名はガブリエル・アジュール、前世の名は斎藤吉鷹。一言で言うなら転生者だ」
そしてガブリエル大尉は次々とおかしな事を言い始めた。
「久し振り、いや、こんにちは、そして始めましてだね。私の前世では君の名は有名だよ、君は兵士だったな?。君は美術大学に落ちて浮浪者の真似事をしていた時に戦争の知らせを聞いて兵士になったよな?、たしかオーストリアじゃなくてドイツの人間として兵士になった。前世では君は世界で最も有名な有名人だよ。君は戦後に指導者として見事に祖国を再建して戦争を呼び起こしてヨーロッパをほぼ征服したが奪われて蹂躙されて祖国を見事に焦土にした、指導者として有名だよ」
「なんでそんな事を知っているんだ?。それに前世って――」
ガブリエル大尉はアドルフ兵長の疑問を遮って喋り始めた。
「ああ、正確には今からざっと140年先の時代の世界出身だね。まあ、前世は酷いもんだよ。私が生まれる前は世界経済がうまくいってたようだけど次第に狂い始めて経済はどん底に落ちていったよ、街には失業率は40代に悪化してフリーターやら浮浪者やらが溢れかえり、スト行進を起こす人々が毎日のように暴徒化してたね。そういえば君は失業率をほぼゼロにしたよな、いや、あれはシャハトの功績だったか?、もう少しドワッジの話をよく聞くべきだったかな」
「あんた何を言って」
「私は一度だけ仲間達に地獄ってどんなの?って、質問した事があるんだよ。そしたら見事に一人ずつ違う返答が来たんだよ。あんたのファンだったドワッジは『絶望の中で希望を持ってさらに絶望が深くなるのが地獄』だとか、ああでもその後に『だがそれでも希望を離さなければ報われる』とかも言ってたな、報われる前に死んだけど。カトリックのフィジーは『頭の中で地獄を思い浮かべばそこが地獄だ』と言ったな。クルイは『社会秩序平和がむしろ地獄』と言った、最期までそんなヤツだっ…そういや死んだかどうか確認をしてないな、まあいいや。歯医者通いのシバリは『自分のルールよりも社会の暗黙というルールが地獄に近い』だと言ってたな。ああ、ついでに私の考えとしては『生きる事が地獄』だと思っていたねその時は」
ガブリエル大尉が、笑顔なのか複雑なのか歪んでるのか死んだような目をしているのかそれとも目をくり抜いた様に影が差して真っ黒なのかわからない、顔をしながら喋り続けた。
「まあ、私の前世では引退する前に死んでしまってな。その時にアイツに会ったんだよ。ああ、この話はまだ仲間達には喋ってないよ。相撃ちで怪我を負ってね、治療薬は使い切り徐々に血が床を浸っていた時にアイツはまるで舞台裏から出てくる様に現れた」
ガブリエル大尉が、まるでその時の会話を録音していたように喋りだした。
「アイツは『見事だ見事だよ、できればアンコールして欲しいぐらい完璧だよ。吉鷹君』そう言って拍手しながら歩いてきた。私は全身から血が流れるのを感じながら『お前は誰だ?』と尋ねた。
アイツは言った『よく言われるのは別世界の神、ここではこの世界の神様だよ』と。私は『ジャージを着た少年の神なんて聞いた事が無いな』と足の感覚が無くなったような気をしながら言った。
自称神は『そりゃあ言ってないし、それに姿は人それぞれ違うように見えているよ』と言いながら黒い上着のコートを着た青年に変わった。私は『神だろうと悪魔だろうと何でもいいが何の用なんだ?、今は忙しいから後にしてくれないか?』と意識を視界が白くなりながら言った。
自称神は『いやなに時間は取らんさ、それに君は死ぬんだしね。ただ君が死ぬ前に種明かしを少ししようと思って来たんだよ』と言った。
自称神は『私は友人とゲームをしたり談笑したり賭け事をしてた、ある日ある賭け事を閃いたんだよ。君達のようなプロの犯罪集団と国家機関の精鋭部隊が戦ったらどっちが勝つのか?、ってね。そこでいろんな用意をした、まずはお得意様である私が犯罪組織に私が用意したとある物を奪取してこいと依頼をした。次にプロの犯罪集団に一人、国家機関の精鋭部隊に一人、戦うように仕向けるための仕掛け人だ。国家機関はどうでもできるが犯罪集団にはちょうど知り合いがいたから手間が省けたよ、まあ彼女は私をかなり嫌っているがね。あとはいろいろやっていざ友人と賭けをした、結果は当初の予想を超えて君が勝ったんだよ。私は国家機関の精鋭部隊が勝つ方に賭けたんだがね』
私は『つまりお前が仕組んだのか?』と意識を朦朧としながら言った。
悪魔が『まぁ、結果的にそうな』と言い切る前に私は最後の力を振り絞って右手を上げて拳銃を構えて悪魔の頭に目がけて引き金を引いて残った2発の弾を撃った。
悪魔が頭に二発の弾痕を触れながらやれやれ仕方ないなと言わんばかりの顔で『結果はともかく君は勝った。せっかくだし何か要望は無いかい?』と言った。
私は言えたのかわからないが『お前を思いっ切り殴りたい』と答えた。
悪魔は笑いながら『それは遠慮するよ。それよりも、私の知り合いの神が困っているんだよ。何でもどっかの悪魔が悪戯して世界がおかしな事になっているんだと。で、というわけで君をそこに送ってやろう』そう言って悪魔はさらに笑いながら笑顔で『なーに気が向いたらそっちに遊びに行くよ、では幸運を、ガブリエル』と言った」
ガブリエル大尉は録音された音声が終わったように喋るのを止めた。そして突然に喋り出した。
「まあ、そんな形で私はこんなおかしな所に来ちまったのさ。そして今、俺はここの異質な状況にいるのさ。何でかって?、そりぁそうさ、だっておかしいだろう?。俺は昔の1916年にいる、世界は私がいた世界に非常に似ている、なのに俺がいる世界は非現実的な魔法が存在している、エルフが存在しているゴブリンが存在しているファンタジーのような世界だ。だが私がいた世界にある、銃や兵器が存在していて君みたいな歴史上の人物が存在している。しかし現実に存在していない虚構が現実に存在している。だが両方とも貧困も暴力も犯罪も憎しみも不満も狂気もまた同時に存在していた。死んだ後に俺は思うさ、地獄はどこでもあると。さて、君はどう思うかね?」
ガブリエル大尉の横から銃弾が飛び出て来た。
ガブリエル大尉がそこに振り向くと向こうの横道から――おそらく襲われている味方を助けようと――4人の黒の軍服を着た兵士——しかも一人は勇敢にも上級士官——がこちらに向かって走りながら銃を撃ってきた。
ガブリエル大尉は慌てる事も無く冷静にルイス軽機関銃を引き金を軽く指切りして一人ずつ撃ち込んだ。そして最後の勇敢な上級士官の頭を撃ち抜いてからアドルフ兵長の方に顔を向けた。
アドルフ兵長は落ちていただろうルガーP08をガブリエル大尉に向けていた。
ガブリエル大尉は驚く様子もなく淡々とアドルフ兵長に歩いて近づいた。
アドルフ兵長は叫びながら二発撃つ。
ガブリエル大尉は軽く体を捻って頭を狙った銃弾を避けて歩く。
「まぁ俺はともかく」
アドルフ兵長は叫びながら続けて3発撃つ。
ガブリエル大尉は一発は土の天井に二発は肩を撃ち抜くもさしたる気にする様子もなく止まらず歩く。
「今を言うなら私は」
アドルフ兵長は叫びながらさらに続けて3発撃つ。
ガブリエル大尉は二発は土の床に一発は顔の頬を触れるように傷つけるも止まらず歩く。
アドルフ兵長は叫びながら引き金を引くが弾切れを意味する鉄の音を聞き絶望する。
ガブリエル大尉はある程度の距離まで近づくと走って突っ込みアドルフ兵長の心臓辺りに無理矢理取り付けた銃剣を突き刺して、ルイス軽機関銃の引き金を引いた。
「仕事をしているだけだ、特に意味は無い」
「ガブリエル大尉!、無事だったか!」
ラードゥン中尉が血だらけの格好で左手には塹壕戦用の中途半端な長さの剣を右手には銃剣装着済みのルベルM1886軍用ライフル銃を持ちながら扉を蹴破って、ガブリエル大尉を発見した。
「おや、ラードゥン中尉。もう北側を制圧し、って血だらけじゃないか。大丈夫なのかい?」
「大丈夫だ、全部返り血だから。それよりガブリエル大尉も血だらけのように見えるが?」
「大丈夫だよ、自分と敵の血が混ざっただけだから」
ガブリエル大尉は返り血と自分の血で汚れた格好をしていた。
「大丈夫じゃないだろ!。ふざけんな!!」
ラードゥン中尉の後ろから現れたマリー少尉がガブリエル大尉を殴った。
「なんで、目を離したらボロボロなのよ!?。こっちの心配を考えなさいよ!」
「大丈夫だって、予め乗り込む前に必要な指示をしたし。もしもの時はダニエル中尉が指揮をするように伝えてあるし」
「そういう意味じゃない!!」
「あー、もういいかね君達」
マリー少尉がガブリエル大尉を馬乗りにして殴り続けて、そんなマリー少尉をラードゥン中尉が押さえている時に扉から気まずそうにアルバート少佐とその護衛の黄土の軍服の兵士二人が現れた。
「アルバート少佐殿が来たという事は制圧は終えたのかな?」
「ああ、ガブリエル大尉。マークI戦車隊とほぼ無傷の兵士達は目標の町に到着してドロイツ帝国兵を追い出す事に成功した。良くやった。ところで黒鞄は?」
「ここにありますよ、アルバート少佐殿」
ガブリエル大尉は血と泥で汚れた黒鞄を渡した、アルバート少佐は黒鞄に付いてる血と泥が誰なのかを気にしながらも受け取った。
「良し、これで戦局はこちらのゆっ………ガブリエル大尉、あの死体は?」
「ああ、あの死体ですか?。見たところ服装からして上級士官ですね、意外と逃げずに勇敢に立ち向かって来ましたよ。死んでますけど、どうしたんですかそんな青白い顔して家の鍵を無くしたんですか?」
「いや、あれは、………あとで君の上官に教えてくれるだろう。とにかくありがとう、これで戦局はこちらの優位に傾くだろう、良くやった」
アルバート少佐は笑顔で部屋から退室し、入れ替わるようにガブリエル中隊の青軍服の仲間達が現れて成功の報告なり心配してくれたり少し治った?と聞いてくれたり衛生兵を呼ばれたりするのであった。
ガブリエル大尉は仲間達を見てほっとした気分になり少し寝ようとしたが永遠の眠りかと勘違いしたマリー少尉は錯乱してガブリエル大尉を馬乗りにして殴るのを再開して仲間達総出で止められるのであった。
この作戦を契機に歴史が変わったと後の多くの歴史家たちが語る。
ある者はこの作戦で手に入れた黒鞄のドロイツ帝国の重要書類——今後西部戦線での戦略予定表とヒンデブルク線の予定資料――を手に入れた事で戦争が約半年分だけ減りその分の人が救われたと言う。
ある者はこの出来事によって逆にドロイツ帝国の思考が変更され戦争の犠牲者がさらに倍に跳ね上がったと言う。
この戦争の原因は、オーストレア=ハンガレア帝国皇帝の世継が暗殺されたのか、複雑な民族問題の対立の結果なのか、悪魔が招いたのか、各国が外交による戦争回避の努力を無視したのか、大陸の列強の多数の地域的な対立によって生み出されたのか、未だ現代でも解明されていない。
フランシス共和国の首都、ある立派な建物のある部屋で男達がある書類を見て頭を抱えて悩んでいた。
「……諸君、私の意見としてはレジオン・ドヌール勲章はたとえ外国の船乗りだろうと自国の盗人だろうと外国の探偵だろうと授与される。だが今回は論外だ、それに英雄殿が異常者だと政府の人間が知ったらだ。……抹殺の件を進めてくれ」
フランシス共和国の首都で密かに陰謀が動き。
ドロイツ帝国の首都、プロイゼン参謀本部のある一室で二人の男が椅子に座っていた。
「彼は音楽が好きだったな。そんな男が兵士への激励のために前線に来ていた時に死んだ、しかも重要書類の入った黒鞄を取り戻すのではなくそれを運んでいた伝令兵を助けるために死んだ。彼は黒鞄を知らなかったと思うが知ってたとしても彼は運んでいた伝令兵を助けただろう。……話がずれたな、重要書類は奪取された。そのため戦略予定を変更する、それと前々から言っていた特別突撃大隊編成の話を受け入れよう」
ドロイツ帝国の首都で今後の備えが話され。
ドロイツ帝国、東部前線の平原に黒い軍服の男が立っていた、そして後ろから彼の部下が報告して来た。
「少佐、特別突撃大隊編成が上層部に承認されました」
「よろしい、ようやく承認が下りたか。祝杯を上げよう、大尉。吸血鬼の今後に」
東の広大な大地は広き血の海と化し緑と泥がまるで諸島のように浮き出ていた、そんな場所でこの惨事を起こした男が祝杯を上げ。
こことは違う場所、ある部屋でジャージを着た老人と薄青のスーツを着た青年が何処かの世界地図を見ていてその部屋に紺色の服を着た男が彼等のための菓子とジュースを扉を足で開けて持って入ってきた。
「六十万六千百兆五千ジンバブエ・ドルとレッドチップ6枚を中央同盟国陣営に賭けるぜ!」
「いいだろう、別世界の神よ!。俺は六千オストマルク、六千万ポーランド・マルカ、六十万億ディナールとイエローチップ66枚を連合国陣営に賭ける!」
「なに言ってんだお前ら?。それにその世界地図は………おいまさかまた戦争を」
足で開けた扉が男の問い詰める声に合わさるように音をたてて閉まり。
フランシス共和国陸軍後方陣地、ノブレス伍長はまた前線に司令部からの命令書を届けて休憩していた。
「しかしあの噂の大尉の妄言があそこまで凄かったとは。だが絵描きから指導者になれるのかおもしろいな……ありかもしれん。いやいやそんな事ができるわけ……まあ機会があったらやってみるのもありだな。そんな機会があるとは思えないけど」
後の配下達に後の配下達へ戦況報告書を届けるように命令され伝令兵としてそして後の独裁者が未来へ向けてまた走る。
イザベラ帝国陸軍診療キャンプ、夜中でワトソン軍医が即席の机で手紙を書いていた。
「という不思議な体験をした。もしも退屈ならぜひ来て欲しいっと、これで来てくれると良いんだが」
ワトソン軍医が『そこまで言うなら自分で小説を書きやがれ!』という殴り書きをペンで書き潰した友人宛ての手紙を補給の人に渡そうと思い。
イザベラ帝国の首都、とある建物にとある部屋である男が窓の外を見て背後の男に言った。
「キッチナーは正しかった。この戦争は長くなる、そして凄惨な犠牲を多くなるだろう。すでにフランシス共和国の魔法学校は戦力提供をすると表明した、我々の国も魔法学校に戦力提供を求めるだろう。ドロイツ帝国の黒鞄を奪取できたおかげで優位に立つ事ができた。だがそれでも凄惨は避けられん」
ある男が窓の外の空を飛び交う魔法使いと飛行機と飛行船を見て、この国の未来を憂い。
イタレア王国のある都市、ある建物の地下深くの暗く蝋燭で照らされた部屋に白い服の者達が話し合っていた。
「司教、フランシスのとある信者が転生者と思わしき人物を見つけたようですいかが致しますか」
「諸君、今我々の存在は消えようとしているだろう、だが、だからこそ我々は見過ごすわけにはいかんのだ。モナコに連絡を」
白い服の者達が使命を果たすため立ち上がり。
アフリサ大陸の光り輝く太陽に乾いた大地で一人の男が本国の新聞を読んで何かを呟いていた。
「本国の事件も気になる、だがここを離れるわけにはいかない。さてどうするべきか」
「ドン・ルイス、どうした?」
一人の男は正体を知らない仲間を上手くごまかして背中に『第二のモリアーティ?』『以前頻発した凶悪犯罪事件には謎の黒幕の存在か?』『ルブラン氏及びガニマール氏共にルパンの犯行ではないと主張する』という文字の大きな見出しで書かれた新聞を隠し。
奪還された町、ある廃墟のある部屋でダニエル中尉とネルス軍曹が報告の兵士が部屋を出たのを確認して、密談をしていた。
「ネルス軍曹、例の物は用意できたか?、急がんと異常者が英雄になりかねんぞ」
「もう少し待ってくださいよ、いくら偽造書類作成のプロでもその類の書類なんて初めてですから見本の調達だけでも時間が掛かりますよ」
奪還された町で密かに陰謀が練られる。
世界大戦争、諸国民の戦争、欧州大戦、『今までの』戦争を終わらせるための『新たなる』戦争、ラグナロク、史上2番目に犠牲者の多い戦争、人類史上最初の世界大戦。
1914年7月28日から1918年8月15日まで4年続き多くの物的・人的資源が投入され、毒ガス・戦車・飛行機などの科学から禁断魔術・大規模死霊術・魔獣召喚術などの魔法まで導入された戦争。
第一次世界大戦であり。
地獄の前曲でもある。
そして20年後も50年後も100年後でも、戦争の存在は終わらない。




