四話 共闘
お久しぶりです。
伝説の白銀の竜と、伝説の竜騎士となる可能性を秘めた俺。周りは前より一層俺を遠巻きに見るようになっていたし、フィリップが俺を見る目の鋭さは日に日に増してきていた。そんなこの頃、竜騎士養成学校では、騎竜した状態での魔物との実践訓練も始まり、訓練の内容は濃くなっていっていた。だが、俺は自分の竜に乗ることができないため、大型魔物が出ないところで、小型魔物を剣で倒していた。俺の竜はそんな最中もずっと俺の後ろにいて、ただ俺の訓練を見ていた。もはや、誰もが俺と竜の契約が成るのは時間の問題だと思っていたが、その片鱗すら見られない俺と竜の関係に、周囲の緊張は高まっていた。
「やあ、平民君。宝の持ち腐れ状態はいつ終わるのかな?」
フィリップ・・・
俺にも何が足りないのかは見当もついていなかった。
「フフフフフ。何も出来ないなら帰ったらどうだい?なぜ契約できないのかって?わかりきったことだろう。君の竜は君を騎者として認めていないのさ。その竜、僕の下でなら十二分に力を発揮してみせるよ。」
「・・・ふざけたことを、言わないでください。あいつは俺の竜です。第一、あなたにはすでに契約がなされた竜がいるでしょう。」
「僕が欲しいのは最強の竜だ。それが手に入るのであれば、他のものなどいらないさ。」
何を当たり前のことを、という口調で、フィリップはそう宣った。
何ということを・・・・。俺は怒りで手が震えるのを感じた。入学してからずっと共に研鑽してきた戦友とも呼べる存在を、よくもそんな簡単に切り捨てることができるな・・・
フィリップは鋭くなった俺の目線に気づいているのかいないのか、それ以上俺に目を向けることなく、俺の竜を見ながら、あの竜は僕のものだ。と呟いた。
そのフィリップの目は、思わず背中に冷たい汗が流れるほど、ほの暗いものだった。
何かが、起きる。そんな予感が胸をよぎった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
次の遠征の日、俺はいつものように小型魔物を倒していた。
すると、それは唐突に起こった。
クエェーーー―
どこかで竜の鳴き声が聞こえる。
何だ?何が起こってる?
気が付くと、周囲の小型魔物が消えていた。
周囲を見渡す。遠くの空に6頭の竜が飛んでいるのが見える。
・・・・・・・・何かを追い立てている?
目をこらすと、見えた。竜の騎者は、フィリップとその取り巻きたち。やばい・・何か来る!
急いで逃げ出そうとするが、その前にフィリップたちが追い立てていたものに見つかってしまう。それがわかったのか、あっという間にフィリップたちは帰っていく。そのものは、さっきまでは竜たちから追い立てられていたというのに、今は俺と竜をロックオンしている。
ブラックウルフ。
それは群れを作り、仲間との連携を図りながら群れ全体で一頭の獲物を、被害を最小限にして仕留める、という非常に知能の高い魔物。並みの竜騎士であっても、ブラックウルフ5頭を倒し切るのは難しい、と言われていた。
そのブラックウルフが、10頭。
冗談にならない。ブラックウルフの牙は、竜の皮膚にも食い込む。騎竜さえできれば、真っ先に逃げるが、そうでない以上、倒し切るしか俺が生き抜く術はない。
グオォォォ
ブラックウルフが吠えた。そして、俺に飛びかかってくる。
ガキ――――ン
何とかその牙を受け止めるが、間髪入れず他の一匹が後ろからかかってくる。それを必死で捌きながら、ちらっと俺の竜を見ると、竜は七匹ほどのブラックウルフに襲われている。
カ――ン
くっ。すぐに三匹目もかかってくる。どうにかこうにかブラックウルフの攻撃をさばきながらも、こっちの攻撃は何一つ入れられない。負けるのは時間の問題に思えた。
くっそ。すきをつかれて、二頭相手に手が離せないところを、後ろからもう一頭に狙われる。駄目だ、これは捌ききれない。
グシャッッッ
だが、つぶれたのは、俺の体ではなくて、ブラックウルフの方だった。俺の竜が、何とか顔を伸ばして、ブラックウルフの胴体にかみついていた。だが、そのせいで、竜の羽の付け根にブラックウルフがかみついている。俺を、助けてくれたのか。自分が噛まれることもいとわずに・・・
一匹が死んで、ブラックウルフの群れに動揺が走った。そのすきに、竜にかみついている一頭に切りかかる。一太刀で首を落とす。そのまま、俺と竜はまるで背中合わせになるかのように寄り添った。
竜と、目が合う。しっかりしろ、と言われている気分だった。
「一緒に戦ってくれるのか?」
その返事は、もう竜を見ずともわかった。
「伝説の竜と、その竜騎士候補だ。たかがブラックウルフ8頭に遅れはとれねえよな。頼むぜ、相棒。」
それにこたえるように竜は鳴き声を上げ、そこから竜とルイスとの共闘が始まった。
一度、力を合わせると決めてしまえば、竜とルイスは強かった。ルイスは、もともとの剣の才能に加え、他の生徒が、竜とともに戦う時間、自分にはこれしかないからと剣の鍛錬に相当力を入れていた。その実力は、並みの騎士ではすでに歯が立たない程だった。また、剣の鍛錬でルイスの相手をしている竜にとって、ルイスの剣と連携をとって戦うのはとてもたやすいことだった。
それなりに時間はかかったものの、ルイスたちはブラックウルフを倒し切ったのだった。
最後の一匹にとどめを刺して、竜と目を合わせると、自然と笑みがこぼれた。
「やっぱり、俺たちは最強だよな。」
思わずそんな言葉が口をつく。竜はそれにこたえるように俺に頭を押し付けた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その夜、俺は竜のもとを訪れていた。竜と話がしたい気分だった。
「なあ、竜。俺、今日お前と一緒に戦えて・・・・命かかってる戦いでなんだって思うかもしれないけど、楽しかったんだ。・・・・・ほんとはお前と一緒に空が飛びたい。お前とみる景色は、きっともっと楽しいと思う。俺と契約するのは嫌か?」
こんなことを聞くのは初めてだった。竜は、そっと首を振った。
「嫌じゃ、ないんだな。」
確認をとったあと、契約の言葉を告げた。
「我、騎士となりて戦うことを望む。我に従い・・・」
だが、その瞬間また竜は首を振った。
何が、足りない。俺は何を間違えている・・・野生の竜だから?俺がまだ弱いからか?
契約を結べないのは、俺が友達である竜と主従になるのが嫌だからだと思っていた。だが、純粋に竜と飛びたいという思いだけをこめていったつもりの言葉すら、拒絶された。
頭の奥がチリチリと震える。俺は、もしかして何か大切なことを忘れているのではないか。そんな考えが頭をよぎっていた。