三話 覚醒
短いですが、キリがいいので。
竜と友達のままでいたい、でも、竜を死なせたくない・・・・。二人で、逃げるか?結果として竜騎士になれなくても、友達を救えるのなら・・・・・・・・
この俺の悩みへの解決策は、意外にもあっさりと示された。しかも、おそらく誰も予期していなかった形で。
いや、兆候は見えていたのかもしれない。他の竜より少し小さい体躯。高い体温。ここ最近、急に増加していた食欲。体格は変わらないのに、緩やかに増え続ける体重。まるで、自らの内側に何かを溜め込んでいるような・・・
変化が起きたのは、何でもない普通の日の午後のことだった。飛行訓練を始めようと、生徒が竜を一か所に集め始めたとき、俺の竜が歩き出した。そして、他の竜の真ん中に立つ。するとそれが当然とでもいうのかのように、他の竜は俺の竜を囲んだ。竜は頭を上げて空を見つめた。まるで、何かを待っているようだった。
「ルイス、何がおこっている。」
「わかりません、先生。何かを待っているようですが・・・それに風を読んでいるようにも見えます。空を飛ぶつもりでしょうか・・・・?」
「・・・・・今まで飛行経験は?」
思い返せば、竜は一度も空を飛んでいなかった。
「俺の知る限りでは、ありません。」
「まさか・・・・」
「・・・・・?先生?」
少し間が開いてから、先生が目を見開いた。
「・・・・・・・・・・・幼竜は空を飛ばない。」
・・・・!!
「まさか・・・」
「そのまさかだ。」
俺の絶句をよそに、先生が焦って声を上げた。
「全員、離れろーーーー!!!ルイスの竜はまだ幼竜だ。成竜の儀にまきこまれるぞ!」
それを聞いた瞬間、自分の竜を動かそうと必死で声をかけていた生徒たちが、一斉にその場から離れる。
「竜は成竜となるとき、その体躯は二倍以上に変化する。竜の村で育成されたものより小さいのは、種類が違うせいだと思っていたが・・・・。それでも幼竜の時点で4メートルは超えているんだぞ。いったいどのくらい大きくなるんだ?」
幼竜の体躯は2メートル程度。成竜の儀では、竜のうろこが全て生え変わり、竜は生まれて初めて空を飛ぶ。そして竜が地上に戻ってくる頃には、その体躯は二倍以上に増えているのだ。
ああ。俺は竜を見つめた。すると、確かにあいつもこちらを見た。
‘大人になるよ、見てて!’
そう言われた気がした。
「見てるぞ、いけ!」
俺が叫んだ瞬間、竜が翼を広げて羽ばたく。その翼は、日の光に照らされて、白銀に輝いた。そう、白銀。竜が羽ばたく度にうろこが剥がれ落ちて、その下に見えるのは、一般的な竜の色とされている、黒ではない。美しく輝く、白銀の体躯。
グオオオオオオオオーーーー
竜が吠えた。呼応するように周りの竜も吠え出す。そして、すべてのうろこが剥がれ落ちた瞬間、俺の竜は一気に空へ飛び立った。
ああ、綺麗だ。
その場にいるすべての人の目をくぎ付けにして、俺の竜は悠々と空を飛んでいた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そして竜は俺の前へと着地した。それは、10メートルにもせまるような白銀の竜。
・・・・・やべ、緊張する・・。
なんと声をかければいいかわからず、立ち尽くす俺。
おそるおそる、竜に向かって手をのば・・・・・
バーーーーーンッ
だが、次の瞬間俺は真横に突き飛ばされた。
「いってーな、誰だよ。いきなり何する・・・」
「うるさいっ。白銀の野生の竜だと・・・・伝説の竜騎士と同じ竜だ。僕は、こいつと契約して、最強の竜騎士になる。いつまでたってもお遊び気分のお前とは違う。こいつはお前にはもったいない。友達ごっこをしに来たお前には!・・・・竜、俺と契約しろ!」
フィリップだった。そしてあいつは契約の言葉を叫んだ。
「我、竜騎士となりて戦うことを望む、我に従い・・・・」
だが、竜がフィリップの声に反応することは無かった。竜は、まるでフィリップがいないものであるかのように振る舞い、俺の方によって心配そうに俺の方を見る。擦りむいた腕を竜はゆっくりと舐めた。
ああ、そうか。大人になったからといってこいつの何かが変わるわけではないよな。俺は竜の頭をいつものように撫でてやった。すると竜は嬉しそうに俺の手に顔を寄せる。
「待て、竜、無視するな、僕の方を見ろ。僕と契約しろーーーーー!!」
後ろでは、先生や他の生徒にフィリップが抑えられていた。
‘いつまでたってもお遊び気分のお前とは違う。こいつはお前にはもったいない。友達ごっこをしに来たお前には!’
竜の頭を撫でながらも、俺の頭の中には、フィリップの一言が離れられなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
結果として、俺は退学させられなくなったし、竜が殺されることもなくなった。国は伝説の竜騎士の再来となる可能性のある竜を殺す気は無かったし、竜は俺にしか興味を示さなかったから、現状維持ということになった。俺は先生から何が何でも契約を成功させるように命じられた。だが、俺たちは確かに、つかの間の平穏を手に入れた。