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竜の盟友  作者: 藤里
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一話 出会い

 




「じいちゃん、俺あの話が聞きたい!!話してよ!」


「おお、ルイスか。お前は本当に竜騎士の物語が好きじゃのう。」


「うん、大好き!だってかっこいいんだもん。俺もいつか竜騎士になる!」


「ほほ。そうかそうか。では話すとするかの。


  太古の昔、人と竜は盟友であった。手を携え、背を預けあい、大切なものを守るために飛ぶその姿を見て、人々は彼らを竜騎士と呼んだ………」


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ではこれより、竜騎士養成学校の入学式を始めます。一同、礼!」

 教えられた通り出来る限り背筋を伸ばして礼をする。そっと見ると、興奮で手が震えていた。やっとここまで来たんだ、という感慨が全身を包み込む。


  長かった。本当に長かった。俺は辺境の小さな村で、両親と妹とじいちゃんの5人で暮らしていた。俺が五歳のときに竜騎士になりたいといったら、もちろん両親には全力で止められた。


  竜騎士は竜の育成のためにお金がかかる。竜騎士になるためには竜騎士養成学校に入らなければならなかったかったが、その入学金、授業料共にとても高かった。

  かろうじてあった奨学生枠はただひとつ。入学試験で五位以内に入り、入学金の支払いの出来ないことを証明出来るものに限られていた。俺が入学するためには奨学生になるしかなかった。


  唯一賛成してくれたのがじいちゃんだった。じいちゃんは俺に、勉強と剣術を教えてくれた。そのお陰で俺は、なんとか奨学生になることができた。


  決意を持って顔をあげる。この学校に入学出来るのはたった20名。一年の学校生活を経て、俺たちは竜騎士になる。


  やっとここまでこれた。もう一度体が震えた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


  昨日は入学式のあと、寮に案内され、そのまま解散となった。今日は朝一で教室に集まるように言われている。俺は渡された地図にそって、教室を探していた。


  あ、ここだ。


  割りとあっさりと見つかる。すでにそこそこの人数が集まっているようで、中からはざわざわと喧騒が聞こえていた。


 ガラッ


  しかし、扉をあけて俺が教室に入った瞬間に教室が静まり返った。


 ………みられてる。


「お、おはよう。」


  俺が必死で絞り出した挨拶は、実にあっさりと無視された。まるで俺がいないかのように元の喧騒が戻る。だが、教室のあちらこちらから、‘平民’とか、‘身分不相応’などという言葉が聞こえてきていた。


  うわっ。いや異端だとは思ってたけど。肩身せまそーとか思ってたけど。まさかここまで露骨とは……


  動揺を見せたら負けだ、と思い一度深呼吸をしてから、出来る限り堂々と教室に入る。必死で平静を装って教室のすみの席に座った。誰も話す相手はいないけど、下を向いてしまわないように、顔に動揺が出ないように必死で装う。


  10分後、俺にとっては体感的に2時間後、ようやく先生が教室に入ってきた。


「おはよう、諸君。全員揃っているな?俺はこのクラスのメイン担当となるフィル・ベキュアムだ。戦闘訓練を担当する。」


  戦闘訓練……確かにこの先生、体格もいいし筋肉のつき方も綺麗だ。


「さて、さっそくだがこれより……」


  先生が口火を切った瞬間、クラスの皆がゴクリ、と唾を飲み込んだ。


  ??最初になにかあるのか?


  皆の顔の輝きを見る限り、何があるのかわかっているようだった。俺も思わず唾を飲み込む。


「竜との、主従契約を行う!!」


 ウオーーーー!!!!


  そして、クラス中が歓声に包まれた。


  なるほど、そりゃ皆期待もするな。ってか、毎年こうなんだろうな。


  納得と同時に無意識に口角が上がるのを感じた。俺も興奮が押さえきれない。


  すぐに先生が契約の説明をする。契約そのものは簡単で、対象となる竜を見て

「我、騎士となりて戦うことを望む。我に従い、我と共に飛び、我と共に戦え。」

 と言って竜に自分の血を舐めさせるらしい。

  俺は始めて知ったんだけど、竜騎士の竜は、竜を育てる専用の村で繁殖させるんだとか。人に従うように教育されているから、契約の失敗は有り得ないんだとか。

  ちなみに、どの竜と契約するかは、原則入学試験の成績順で選んでいいんだとか。あ、原則ってのは俺が一番最後ってことな。まあ、それでも契約出来るんならありがたいけど。


 それから俺たちは竜を飼っている牧場へと移動した。


「よし、着いたぞ。」


 目の前に広がるのは広い牧場。入ってすぐのところに、竜が20頭並んでいた。総じて色は黒く、サイズは5メーターから6メーターほど。


「全員成獣だ。体が大きなもの、足の太いもの、口のでかいもの、翼の大きなもの。特徴は色々だ。自分の特性に合いそうなものを選べ。例えば、からだの割に翼の大きなものは高く飛べる、みたいな感じだな。」


 皆、目をキラキラさせて竜を見ている。俺も順番に竜を眺めると、1頭だけおかしな竜がいることに気付いた。


 一番左の個体、色が灰色だ。サイズも四メーターちょいしかないし、何より全身を鎖で縛られてる?


 そう思ったのは俺だけでは無かったようで、ある生徒が先生に尋ねた。

「ああ、あれはちょっと特殊でな。あいつは十日程前に怪我をしているのを見つけられた、野生の竜なんだ。怪我はもう治ってるんだが、国から野生の竜なんて始めてだから竜騎士と契約をさせろと通達があってな……とはいっても一切なつかないし食事も摂らん。というかある程度近づくと暴れられて、危ないからあの状態だ。」


 ……契約できるのか、それ。


「契約出来るのかは、やってみんと何とも、な。」


 うっわハイリスク。しかも大して大きくもないし、契約出来たとしても大したリターンも無いんじゃね?


 誰もがその結論にいたったのか、生徒がこっちをチラチラ見てくる。


 あーー、うん。何か嫌な予感がする。ってか、もうこれ決定事項だろ。


 俺は近い未来を予想してこっそり溜め息をはいた。


 一番始めに契約を行ったのは、俺でも名前を知っているような大貴族の息子だった。迷わず一番大きな個体を選び、あっさりと成功させる。


 うっわいいなぁ。


 ついそんな目で見ていると、それに気付いたのか、そいつが俺の前まで歩いてきた。


「やあ、平民君。どうやら僕は君に身分、というものを教えてあげなければ、と思っていたが。どうもそれ以前の問題のようだね。まあ、もし君が竜騎士になれなかったとしても、僕が世話係として雇ってあげるよ。」


「いや、いらねーよ。」

 即答だ、即答!まだやってみないとわかんないだろうが。


「おやおや、口のききかたも知らないのかい?可哀想にね。君、知らないのなら教えてあげるけど、僕の名前はフィリップ・ラバーレ。本来ならば君が口を利けるような立場では無いよ。」


 お前が話しかけてきたんだろうが。うっわ、こいつ超ムカつく。


「すいませんでした。俺、そういうの全然知らないんで。」


 とはいっても怒らせるわけにはいかねーから諦めて下手に出ておく。


「はは。まあ許そう。僕は優しいからね。おっと、そろそろ君の番のようだね。応援しているよ。がんばってくれたまえ。」


「ありがとーございまーす」


 とりあえず礼は言っとく。っと、確かに丁度いいタイミングで先生に呼ばれた。


「ルイス、こちらへ。」


 ………やはり、予想通り俺の目の前には鎖でがんじがらめになった野生の竜。


「合図をしたら鎖を解く。あとは、頑張れ。」


 うええ、解くのかよ。俺、既に警戒されてんだけど。野生の竜とはまだ距離が離れてるが、俺の方を思いっきり睨んでる。何がおこるかわかってるみたいだ。つーか、なんつう無茶ぶり。


 いや、普通に無理だろこれ・・・


 思わず先生を見るが、先生には無視され、それから軽く背中を押された。


 ちっ。仕方ねーから腹くくるわ。

 諦めて、竜に向かって歩き出す。


「鎖を解け」


 竜の鎖は解かれ、竜はそっと立ちあがる。俺を真っ直ぐに睨みつけながら、威嚇してくる。


 思い出せ。故郷でじいちゃんと向かい合うときは?魔物を相手に戦った時は?間合いをはかってぎりぎりまで近づけ。


 ルイスはゆっくり竜に近づく。


 !!ここだ!


 俺は竜の間合いぎりぎりで足を止め、それからすっと頭を下げた。後ろから失笑が聞こえてくるが、気にも留めない。


 じっくり待っていると、竜の唸り声が止んでいた。俺は顔を上げる。竜と目が合った。目を合わせたまま竜に近づいていく。今は警戒されていない。そして竜の目前に立った。


「竜、はじめまして。俺の名前はルイスだ。お前、俺と契約するのはいやか?」


 竜はそれを聞いて、そっと目を伏せた。いや、わかんねーし。でも嫌がられていないことは何となくわかる。試しに契約の言葉をかけてみる。


「我、騎士となりて戦うことを望む。」


 竜は黙って俺の言葉を聞いていた。正直、いけるかもしれない、と思った。


「我に従い・・・」


 だが、そう思った次の瞬間、竜は目を見開いて、吠えた。・・・・・明確な拒絶だった。


「悪かった。」


できるだけ素早く、そして深く頭を下げる。少したつと、竜の唸り声は収まった。


「契約は・・・俺はして欲しいけど、無理強いは出来ない。俺のことを知って、俺もお前のことを知って、また挑戦させてくれ。」


 次は拒絶されることなく軽く鳴かれた。親愛の挨拶のような声音に安心する。


「あと、竜舎にいるときにお前の世話をしてもいいか?えさとか食わねーと、お前死んでしまうよ。お前が死ぬのは見たくないんだ。」


 そう言って、軽く腕を広げると、竜は俺の顔に頭を寄せて、頬を舌で一なめした。


 あー、契約はまだ無理だけど、傍にいるのは許されたかな?


 成功はしなかったが、まだ失敗とも言えない結果に、俺は軽い不安と安堵を感じながら、竜の顔を軽く撫でた。




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