プロローグ1
初めてで自信は無いですが投稿します。
批判は精神的に来るものがあるのでソフトな感想でお願いします!
よろしくお願いします!
「はぁっ!、、はぁっ!、、はぁっ!、、」
森の中を1人の男が女を抱え込みながら走ってる光景。
そんな光景は普通の生活じゃあり得なく現実味を持たないだろう。
しかし今男がいる"この世界"ではよくある光景なのかも知れない。
男の顔は今までにないくらい必死で足元を気にする余裕もないくらいに焦っていた。
何故なら視界をぐらつかせる程の地響きをならして2人を狙う獰猛な化け物が後ろから追いかけてくるのだから。
「グギャャャャャャア!!!!」
化け物の苛立った様な声が森全体に響く。
森に住んでいる動物達はその声を聞いて慌てた様に一目散に逃げていく。
それだけでこの森でのヒエラルキーの頂上にこの化け物がいるのが分かる。
(ちっ!なんで俺がこんな目に!)
追われてる男は舌打ちをし、迫り来る恐怖に抗いながら化け物を振り返った。
化け物の正体は竜だ。
赤黒い肌に鋭く砥がったキバ。
眼孔は縦に割れ、どこか2人を嘲るような表情をしている様にも見える。
走る度に左右交互に揺れる尻尾は半径五メートルくらいの範囲で周囲にそびえ立つ木々を破壊しており、生身で当たったらまず命はないだろう。
男は思わず嫌な光景を頭に思い浮かべて身震いするが、今は逃げることだけを考えようと思考を切り替える。
――後悔、時、既に遅し――
自分の中にある魔力を全くコントロール出来ない男は今更になって特訓しておけばよかったと後悔した。
出来ていれば身体強化をしてなんとかこの場を切り抜けたかもしれないと思いながら。
あと一つ後悔していることがあった。
それは男が抱えている女のことだ。
見捨てていれば少しは楽に逃げられたはずなのに無意識のうちに負傷している女を抱えながら逃げてしまった。
(あの時の自分を殴ってやりたい)
女は既に魔力を使い果たしぐったりしている。
男は魔力はあるが使いこなすことができず、自身の無力さに自嘲気味に薄く笑った。
竜との距離は着々と縮んでおり、男の体力も限界に近づいていた。
女は男の顔を見つめてどこか訴えるようなそれでいて何か求めるような目線を向けた。
男は女の視線に気づき顔を下にむけたがすぐさま視線を前にむけ、走り続けた。
それは女にとってはあり得ないくらいの衝撃だった。
「な、なんで…?」
女は信じられないという様に目を見開き、掠れた声でと無意識の内に声を零した。
女には男が何故自分を助けてくれるのか分からなかった。
過去になにか恩を売るようなことをした訳でもなく、むしろ恨まれてるとさえ思っていた。
男も先程の視線の意味は理解していた。
――私を置いて逃げて――
それはここまで運んでくれた感謝ともういいよという死への受け入れが含まれていた。
男は女の質問にはなにも答えずひたすら走り続ける。
答える程の余裕がないのだろう。
男は段々と走る速度が低下していった。
それはそうだろう。
元の世界じゃ運動部にも所属しておらず帰宅部。
更にいえば人1人を抱えてる状態。
むしろここまでこれたことだけでも奇跡に値する程だ。
獲物の速度が落ちたのを確認した竜は上機嫌に鼻を鳴らして一気に加速する。
男は舌打ちをし、90°方向転換すると木と木の間を縫う様に進んでそこにあった直径十メートル程の大木の後ろに隠れた。
竜は二人の居場所を見失い怒り狂ったかの様に吼えだした。
今のうちにと走りだそうとするがやはり足に限界がきたのだろう。
「ぐっ…!?」
一歩踏みだした所で急に足の力が抜けて女を抱いたまま地面に頭からつこけた。
「きゃあ!?」
女も突然の出来事に思わず驚き悲鳴をあげてしまった。
運悪く竜はその悲鳴をかきつけて吼えながら二人のいる方向へ突進してきた。
男はすぐ様、女を抱きしめ転がるように横に移動すると竜の爪が先程まで二人がいた所に突き刺さる。
更にその衝撃でおきた突風が二人に襲い掛かる。
「ガハッ!」
背後から抱きかかえた女ごと吹き飛び大木にぶつかる。
肺から息が漏れ、口からは血が流れてきた。
女が驚愕に顔を染めながら震える声で蔵人に尋ねる。
「だ、大丈夫?」
「黙ってろ」
正直に言えばそれは男自身もなんでここまで女を見捨てず助けようとしたかが分からない。
(所詮俺の命もこんなもんか…。)
自分の命は見切りをつけてせめて女だけでも助けるかと思い少しでも女を竜から遠ざけようと震える足に鞭を打って立ち上がる。
竜は自身の攻撃をかわされたことに憤怒し、次こそは獲物が狩れるとばかりに大きな口を開きながら走ってきた。
女がなにか引き止めるような声がしたが男は聞く様子もなく竜を誘導する為に走る。
そんな鬼ごっこがただの人間とその森の頂点に君する生き物とで成立するわけが無くあっという間に距離を縮められて追い詰められてしまった。
男はここまでかと思い、足元に落ちてた小石を竜の顔に思いっきり投げる。
「こいよ」
せめて死ぬときくらいはカッコつけようとニヤリと口元を歪ませて男はそう告げた。
「ガァァア!!」
竜が更に激昂し、男に嚙みつこうとしたその瞬間男の足元を中心に魔法陣が浮かび上がり、半径10mの大きな穴ができた。
「っ!?」「ガゥ!?」
男と竜は穴の中に吸いこまれていき辺りの森は再び静寂をきした。
幸か不幸か巨大な穴が出現してブレスから間逃れた男は現在進行形で暗闇の中を落ち続けていた。
(ここで俺も終わりか)
それでも竜に食われて死ぬよりは大分マシかと前向きに考え、あの時一緒に逃げた女の事を考える。
おそらく女は街に行って仲間と合流するだろう。
そしたら俺のことを忘れて生きているのかもしれない。
ふとそこまで考えて何故か寂しいような気持ちになってしまったがこれでいいと納得し、
もはや遥か上に見える地上からの微かな光を視界に納め、そっと目を閉じた。
そして最後に流れてくる走馬灯を見ながら意識を失った。
そう、何故何処にでもいる学生という身分でありながらこんな理不尽な状況に陥っているのか、
そのすべての原因となるあの日を。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
高校二年のある日のこと。
(はぁ…)
空には雲ひとつない青空が広がり太陽が出番とばかりに顔をだしている。
ただでさえ暑いが辺りから聞こえる蝉の声が更に暑さを掻き立てていた。
もうすぐ夏休みということもあり、日に日に生徒達のテンションが上がっていく中、奥宮蔵人は1人憂鬱そうに溜息を吐きながら学校へと続く長い坂道を登った。
学校へ着き、玄関までさしかかると周りの生徒達が挨拶しながら笑顔で友達と会話をしている光景が見られる。
そんな光景を目にしながら蔵人はどこかうんざりした様子で三階へと続く階段を歩いた。
授業五分前のチャイムが鳴り、みんな慌てて走って蔵人を追い越してくる。
追い越す者達の中にはゆっくり歩いて余裕そうな蔵人を振り返って奇異な目で見てくる者もいた。
しかし蔵人にとってはギリギリにさえ間に合っていればどうでもよく、1人ゆっくりと歩いていた。
三階へ到達して廊下を歩いていると自分のクラスの扉までたどり着く。
何時も通りに先生が授業をしに来るか来ないかのタイミングで教室の扉に手をかけた。
顔は通学の間にかいてしまった汗でびっしょり濡れ、パソコンやゲームのやり過ぎで、目が悪い為につけているなんの変哲もない黒フレームのメガネは自分の吐く息がかかり、レンズの部分が白く濁っている。髪も目を隠す程伸びて如何にも根暗な雰囲気を醸し出している。
そんな様子の蔵人が教室へ入った瞬間、先程までの賑やかだったクラスの空気がガラリと変わった。
話を中断しこちらを見て嫌悪の表情を向ける者、わざと聞こえる様に舌打ちをしガンつけてくる者、ニヤニヤした笑みを浮かべながらこちらに向かってくる者など様々だった。
「おい、エロメガネ、お前登校時間ギリギリまで何してたんだ?まさかオナってたんじゃねぇ〜だろうなぁ?」
「ははは!さすがのこいつでもそれはないっしょ。
あ、でも、いつもギリギリって事はそうゆう事か?キショいわ〜」
最初に声をかけてきた男子生徒は伊藤龍牙。
髪をどこかのヤクザの様にオールバックにしており、クラスきっての荒くれ者だ。
こいつを中心に蔵人は絡まれる。
そしてそれに追随して馬鹿にする髪をワックスで固めているチャラい茶髪の駒澤拓哉。
他にもバカにしたり、ゲラゲラ笑う者もいるが直接的に関わってくるのは基本この2人くらいで後の人はひそひそと陰口を言われるレベルだ。
別に蔵人はみんなに嫌悪される様な不細工と言うわけではない。
顔は中の上くらいで蔵人より不細工な生徒はほかにも沢山いるだろう。
入学当初には蔵人に喋りかけてくれる生徒も何人かいたが、蔵人自身が自分以外の他者に全く興味がなく会話をされても「あぁ…」などと適当に返事をしては直ぐに視線を窓へと移していた。
話しかけてくる生徒の数も日がたつに連れて減っていき、高校二年にあがった時には完全に孤立化してしまったのは言うまでもないだろう。
だがそれだけだとからかわれることは無いだろう。むしろ誰も関わりたくないと思うのだがそれにはある出来事が関係している。
蔵人は聞こえないといった様子で2人を無視して真っ直ぐ自分の席へと向かっていった。
蔵人の態度に苛立った様子を隠さず2人は蔵人の机を思い切り蹴った。
「おい!無視してんじゃねぇぞ!」
「こいつ目も耳も死んでるんじゃねぇか?」
そう言って更に罵詈雑言を並べた2人を一瞥すると
「気が済んだかか?」
と一言告げて蔵人は蹴られた机を片付ける。
そんな蔵人の態度に我慢ができず顔を真っ赤にした伊藤が胸ぐらを掴み、再び暴言を吐こうと口を開きかけようとした瞬間、
「ガラガラガラ!」
急にドアが開き3人の男女が入ってきた。
場違いな音に蔵人以外のクラスメート全員が一斉に開いたドアの方向を振り向いた。
そして入ってきた3人が誰だか分かると同時に先程までのピリピリした空気が一気に消え去った。
それはさっきまで蔵人に怒りを向けていた伊藤も例外ではなかった。
「ふぅ~ギリギリ間に合ったね~!」
三人の中で最初に教室へと入ってきた女の名は神田恵美。
身長155㎝ほどで均整のとれたプロポーション。 顔は小顔で目は大きくパッチリ開いてて、背の中あたりまで伸びている綺麗な黒髪をゴムで一括りにしている。
明るく人懐っこい性格もあってか男子だけでなく女子にも人気がある。
「そうみたいだな」
次に入ってきた男をみたクラスの女子は先程とは違う意味でざわつき始める。
優しい目つきで、整った顔立ち。
身長は180cmとクラスでも高く、その甘いマスクで女子たちの人気を総取りしていた。
男子達も嫉妬に似た感情を持ちながらもどこか諦めたような目で司を見ている。
「ちょっと2人ともはやい…」
最後に入ってきた女、黒瀬夕莉は扉に手をつきながら息を整えている。
たれ目でいつも眠そうなのが特徴だが今は肩まである髪で隠れている。
同年代と比べても大きい胸が呼吸と同時に上下している。
クールな性格で思い込みが激しくすぐ暴走する司と恵美を抑えている苦労人でもある。
本人は知らないことだが男子の人気では恵美と二分し、争っている。
恵美たち三人は小学校からの付き合いで仲が良く、家が近いということもあり高校生になった今も迎一緒に登校している。
恵美たちは息を整えつつも授業に遅れずに済んだ事を喜び合っている。
3人の美男美女の会話する姿はとても絵になっており、クラスメートは見惚れたようにその姿を眺めている。
龍牙は蔵人の存在など忘れてしまったかのようにすぐ3人の元へかけった
「お前ら遅かったじゃねぇか。何してたんだ?」
先程とは打って変わって上機嫌に会話を始める。たまにその視線が恵美の胸を方にいっていたような気もするが。
(これじゃただのしっぽを振りまくる犬だな)
と蔵人は内心伊藤をバカにしつつどうでもいいかと結論づけて自分の席へと座り窓の外へと視線を向けた。
四人がある程度話し終わり席に着こうとすると恵美だけ自分の席ではなく蔵人の方に向かってニコニコしながら駆け寄けよって来た。
その様子に司は不愉快そうに顔を厳しくし、龍牙は忌々しげに蔵人を睨みつけていた。
「おはよ!奥宮君!」
挨拶をしてきた恵美に蔵人は目を向けようとすらせずにずっと本を読んでいる。
毎日こんな感じなので恵美は慣れたのか苦笑しつつもちょっと聞いてるー?などと返事してないのにも関わらず話しかけてくる。
そんな恵美に蔵人は目線を少し上げて
「聞いてる。さっきから鬱陶しいからさっさと自分の席に座れ。」
とだけ告げ、再び目線を本へと戻す。
学校のアイドル的存在の恵美にこんな暴言を吐けるのは蔵人くらいのものだろう。
その言葉を聞いてた周りの連中が憤怒の形相を浮かべている。
「挨拶してくれるまでここにいるもん!」
恵美は周りを気にすることなくしつこいくらいに食い下がってくる。
蔵人はパタンと本を閉じて溜息を吐き仕方無しといった表情で挨拶をした。
「おはよう神田。だから早くいけ。」
「私ってそんなに邪魔なの!?」
「今更気付いたのか。お前が絡むとろくなことがない。ほら見てみろ。」
恵美はそう言われて周りを見た。
所々から舌打ちが聞こえ、殺気に満ちた目で見られている。
蔵人はそういった視線には慣れているのでスルーしているが、恵美はその視線が誰に向けられているのか気付き、気まずそうな顔をした。
「あっ、あのね!奥宮く「おーい、恵美。もうそろそろ授業始まるぞ」」
そして決意に満ちた表情で蔵人に何かを言おうとすると二人の様子を見てこちらへ歩いてきた司が重ねるように恵美に声をかけてきた。
司のほうを見るとこちらにさわやかな笑みを浮かべながらも目は笑っておらず、少し敵意を含んでいるようにも見える。
「あっなんか話そうとしてた?」
「ううんなんでもない。ごめんね奥宮君!また今度話すね!」
そう言ってやっと自分の席へと戻っていく恵美に続いて司も席へ戻ろうとするが、
「…………ふっ」
とすれ違いざまに周りが聞きとれないくらい小さく鼻で笑い戻っていった。
(なんなんだあの茶髪頭?)
と不思議に思っているとさっきからずっとこちらに視線をむけている存在に気付いた。
何かこちらを窺うようなものだったが今まで向けられていた憎悪や嫉妬といった種類の視線ではなく少し気になり誰なのか見ようと顔を向けると、
その瞬間、教室全体に幾何学な模様が浮かび上がり白い閃光が辺りを包み込んだ。
一分後…
「授業始めるぞー」と言いながら担当の先生が教室に入ってくるとそこには誰一人として生徒は存在していなかった。