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我が人生  作者: 下水管
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閑話 とあるゴブリンの目撃談

「ギギイ!」


食事の用意が出来たらしい。

今日の食事は木の実と川で取れた魚だ。


この付近の川には、左腕に大きな鋏を持ち、全身を赤き甲殻に覆われた悪魔がいて川には近付けないはずだったのだが、二日ほど前に突如姿を消したらしい。



「ギギー!」


基本的に群れの上位の位にいるものほど肉を多くもらえる。

長老やオスの戦士などが優先だ。


自分の食事は数個の木の実と少しの魚肉。戦士の中では位の低い方の自分の食事はこんなものだろう。

だが、これでも増えている。最近森のなかにいったっきり戻ってこなくなったが、元々班長とその取り巻きに自分の食糧の半分を取られていたのだ。


「ギギ!ギギギイ!」


長老が呼んでいる。

どうやら、数の増えた群れのせいで食糧が不足してきたため、今までよりも縄張りを広げるため、戦士総出で探索をするらしい。


自分達は班長と長老に率いられ、一列で森の中に入っていく。

今回の探索で自分は生き残れるだろうか。



我等、ゴブリン氏族。


この森で最弱カーストに位置する、被捕食者なのだ。





森の中では未だ見たことの無い茸や木の実などがある。

それをどうやって食べれるか判断するのかと言うと、なんのことはない、実際に食ってみるのだ。


この時点で、毒に犯されたゴブリンや麻痺で動けないゴブリンが出てくる。


だが、数が多いゴブリンは、そんなことを余り気にすることは無いのだ。

少しばかり脱落者が出たところで特に問題は無い。


「ギィ………」


それに、と。

元々我らが縄張りだった場所の回りには、例の「赤き悪魔」意外にも、両腕に鎌を持ち、幾多もの生物を捕食してきた鎌腕の悪魔もいるのだ。


「鎌腕の悪魔」を倒さない限り、我々は先に進めない。


元より、犠牲は覚悟の上なのだ。









「ギギッ…?」


おかしい。

「鎌腕の悪魔」がいない。奴が居た筈の場所には、奴の体液と体の破片が散らばっていただけだった。


「赤き悪魔」といい、「鎌腕の悪魔」といい、立て続けに我々より圧倒的に上位の筈の者達が消えていっている。


自身の危機感知能力が疼く。

これは一層の調査の必要があるだろう。



また少し進んでいくと、我々は果実の成る木を見つけた。


「ギギー!」

長老が顔に喜色を浮かべながら、採集するよう指示を出す。


幾匹かの仲間達が樹上に登り、果実を手に取る。


齧り付こうとして、気づく。


その果実に、「口」があることに。


「ギイイイイッ!?」

「ギギッ?ギギー!」

「ギイッ!ギィ………」


瞬間、口を開き短いが鋭い歯を見せる果実が仲間達に襲い掛かった。


次々に樹上から仲間達が落ちていく。

中には打ち所が悪くそのまま絶命する個体もいた。


「ギイ!ギギイ!」

長老が慌てて果実を迎撃するように指示する。


果実の歯は確かに鋭いが、短い。

一度や二度噛まれたくらいで、場所が悪くない限り死にはしない、


前衛の戦士達が棍棒で果実を打ち据え、後方にいるゴブリンメイジ達が魔法を放っていく。


瞬く間に数が減っていくが、自身の危機感知能力による体の疼きは消えない。あや、むしろ強くなっているとさえ言えるだろう。


口のついた果実のモンスター。

そんなものが成っている木もまたーーーーー


ゴウッという風切り音を出して、枝がゴブリン達を凪ぎ払う。


土からは根が出て、まるで足のように蠢く。


くるりと此方を向いた木の中腹に、萎びた人間の爺のような顔。


突発的に発生し、優勢だった筈の戦場が、瞬時に圧倒的劣勢に覆り、阿鼻叫喚の地獄絵図と化す。


木の表面には棍棒や弓では余り効果は無く、後方から魔法の支援が届くも、炎の魔法ですら、低いスキルレベルと魔力出力のせいでただ表面を焦がすに過ぎない。


頼みの魔法も効かず、一方的に蹂躙される。


全員が、恐怖にその身を竦めていた。



ーーーーーそんな「木の悪魔」の香らす血の香りが、また新しい悪魔を呼び込んだのだろうか。


「でかい音が聞こえると思って来たら………なんだこのでけえ木は」


こんな場所にはいない筈の、小さな人間の子供。そんな新しい闖入者に、近くにいた果実が遅いか掛かる。


しかし、果実の歯は届くこと無く、新しく来た悪魔の口から飛び出した舌が空中で果実を叩き割った。


「トレントって名前なのか。それに《下級眷属生成》ね。面白いスキル持ってるな、お前。」


突然乱入してきたことに加え、眷属を殺されたトレントはその顔を怒りに歪め、その闖入者に木の腕を振るう。


その太い枝は、人間の子供の細い体など、簡単に押し潰すだろう、とその場にいる全員が思われた。


だが、

「OOOOOOO!?」


その太い枝を、子供の左腕の変化して発現した3M程もある長大な赤い蟹の鋏が挟んで受け止めていた。


その鋏は太い枝を抵抗無く断ち切り。さらにその子供は右腕に、刃渡り1.5M程の大きな鎌を発現させ、次々に振るわれる枝を鋏と鎌を使って立ち所に断ち切っていく。


ついに枝を完全に切られ、攻撃手段を失ったトレントは、その長大な鋏に木の中腹を切られ、倒れ伏した。




有り得ない。人間の子供があんな化け物を倒す?

いやそれよりも。あの鋏と鎌は何だ?あの鋏は《赤き悪魔》のものではなかったか?あの鎌は《鎌腕の悪魔》の者では無かったか?


トレントの死骸から魔石を穿くり返し終わった「悪魔」が、此方を向く。


「……ま、悪いけど経験値になってくれ」


一層酷くなった危機感知能力による体の疼きを感じながら、その命の最後に見たのは自分に振るわれる大きな鎌だった。



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