カエルの唄
残酷な表現があります。
また少し、木々に囲まれた獣道を進んでいくと、池があった。
池の回りには、見たことの無い植物が沢山生えている。毒々しい色の物もちらほら見受けられるが………はて。
こういう時の、ステータス閲覧である。
試しに足元の、アサガオの様に花びら同士がくっ付いて、円形で緑色の花を咲かせている、妙な草を調べてみる。
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ハリポネ草:薬草の一種。擂り潰して回復薬素材として使われ、高価で取引される。
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良いものを見つけた。
ポーションの素材だってよ。MPに頼らない方法で回復できるようになれば、相当戦闘も楽になるだろう。
でも作り方がわからんよあ………。擂り潰すだけで良いのかねえ。
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ポーションについて
ポーションとは、ある特定の素材を加工することにより作られる薬剤。加工する物により、効果はかなり違ってくる。また、出来上がる物の等級は、素材に依存する。
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取り敢えず薬草は全部毟ってアイテムボックスに入れる。途中種も拾った。
全て毟るのに一時間程かかってしまった。食糧集めに来たのにまだなにも見つかっていない。
ため息をつきながら、池の静かな水面を覗き込む。
池の水は濁っており、とても下は見えないが、時折魚の影のようなものも見える。
俺がぼうっと水面を見ていると、遠くの水面にさざ波が立つ。
不思議に思って水面をじっと見つめていると、徐々に波紋の起きる場所が近付いて来ている気がする。何となく嫌な予感がして、池から少しだけ距離を取る。すると、
「ゲエエェェグ」
「うおっ!?」
水面から覗く、黄土色の虹彩に四角い瞳。突き出た口に、ヌメヌメの表皮。
見紛うこと無き「蛙の頭」が水面から顔を覗かせる。
そのまま顔を覗かせながら地と水との境界線まで手足の水掻きを使って泳いできた蛙は池から体を乗り出し、その全貌を日光の元に晒す。
大きな蛙。そうとしか言いようがない。体高は60cmあるかないか。体長に至っては80cm程もある。緑色の表皮には、黒い斑点があり、腹皮だけが、紋様の無い真っ白の表皮で覆われている。
「なんだこの蛙は………」
ステータスを見る。
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ランク1
種族:「エルフロッグ」
性別:メス
名前:なし
LV:7
HP:90/90
MP:30/30
筋力:30
物理耐久:20
魔法耐久:20
敏捷:15(水中+45)
体力 :30
魔力出力:8
スキル
「水魔法lv1」
[称号]
なし
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ステータス的には大したこと無い。魔法に気を付ける、水中で戦わない、この二つに気を付ければ平気だろうな。見たところ相手は一体のみ。なら一気に近接戦闘でカタをつけるか。魔法はまだ練習不足だし、今のところステータス的にも俺は近接主体のタイプだしな。
治癒魔法で直した右手と合わせて、今回は貫手ではなく、両手の先から肘辺りまで、前腕部に魔力を纏わせる。
纏わせるのは初めてだが、魔力精密操作のお陰か、少し引っ掛かりはしたものの問題は無い。次からはすんなりいけそうだ。
拳を握り締めて俺は一気に接近しつつ、発射されるだろう魔法に気を付けて、一挙に敵の頭を吹き飛ばすーーーー
筈だったのだが。
俺は接近しようとしたところで、「文字通り」出鼻をくじかれた。
口が開いたと思った瞬間。物凄いスピードで何かが出てきて、顔面に直撃。俺は衝撃で鼻を折られ、鼻血を撒き散らしながら後ろに倒れこむ。
《痛覚耐性スキルを獲得しました》
「(なんっ!?うおおぉ!?)」
激痛を耐えて鼻の骨を魔力を通して回復させながら、立ち上がろうとし、即座に横に転がった。
俺の最初倒れていた位置に砂埃がたち、何かが地面にぶつかる。
俺を狙って放たれる「何か」の素早い攻撃。
その「何か」とは、蛙の口から延びる、長い舌であった。
先端には丸い瘤の様なものがついており、それが俺の顔を打ち据えたのだ。
俺の顔を触ると少しヌルッとした感触が走った。
俺は鼻の下を拭いながら立ち上がって一旦距離を取る。
あの舌は素早く、避けるのは困難だが、射程それそのものは有限だ。なら離れた所から魔法を使えばいい。
距離を5mまで空ける。
さぁ、攻撃使用と思ったところで、蛙の口がパカッと開いた。
舌は届かないだろう、と思っていたら、口に魔力が集まる気配がして、野球ボール程度の大きさの水球を飛ばしてきた。
《魔力感知スキルを獲得しました》
慌てて魔力を纏わせた拳で水球を迎撃する。
そう言えば魔法が使えるんだった。気を付けないと。眼に魔力を纏わせたら魔力の動きとか見えるんだろうか。
《魔力視認スキルを獲得しました》
おお、すげえ。
蛙の心臓の辺りから魔力が送られて、喉辺りで変な形を描いた後、口内に水球を形作る。
その一部始終を見ていた俺は、その攻撃を余裕をもって避ける。
さあ、反撃だ。
掌の上に、雷で構成された球を最大出力で形作る。
蛙のと比べて大きいそれを飛ばす。
雷球は狙い違わず蛙の額に当たり、感電して地面にへばる。あ、白目むいてる。
気絶した蛙に近付いて、首の辺りに魔力貫手を食らわせる。
さあ、今晩の食事は蛙肉だ。
暗くなってきた辺りで、洞窟へと戻る。
あの後、周りを探索して、この辺の役に立つ素材を粗方刈り尽くさた辺りで帰ってきた。
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麻痺茸: そこまで強くは無いが、動きを鈍らせる程度の遅効性の麻痺効果を持っている。
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マルニー草:薬草の一種。擂り潰して魔力回復薬素材として使われる。高値で取引される。
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眠り茸:そこまで毒は強くは無いが、対象に摂取させることにより相手を眠らせることが出来る。
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何か色々採れた。
どれもアイテムボックスからだしたら小さな山が出来るほどだ。
「ともかく飯を食おう。」
俺はアイテムボックスから血抜きをした蛙肉を取り出す。
まずは腹を割いて内臓を書き出したいのだが。
手刀で切るとかは余りやりたくはない。
魔力を意外と使うのだ。
「そうだ。ナイフを作ろう。」
一旦作れば、一々魔力を消費せずに済むはずだ。
俺は土魔法を発動させながら、ナイフの柄と刃をイメージし、魔力を固めていく。
「うーん。やっぱりそんな動きしないよなあ。」
土魔法を発動させながら考えていたのは、先程の戦闘における、エルフロッグの魔法の発動に関してだ。
俺は真っ直ぐに魔力を流していたのに対して、エルフロッグは喉の辺りで魔力が変な動きをしていた。まるで何かの紋様を描くような…。
と、そこまで考えたところで土ナイフが完成する。初めて作ったのからかイメージ不足で切れ味も悪く、魔力出力が足らないからか強度もない。といっても、これから地道に鍛練を続けていけば、それも追々解消されていくだろう。
土ナイフでエルフロッグの腹を縦に割る。肛門の周りを切って内臓を傷つけないように…………とやっていると、何やら心臓の付近に埋まる弱冠濁った透明の石を見つけた。
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エルフロッグの魔石:エルフロッグの魔力の源。
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そういえば、エルフロッグが魔法を使うとき、心臓の付近から魔力が出ていた。魔石は魔物の体内に精製されるモノのようだ。ゴブリンの死体も漁っておけば良かったかもしれない。
内蔵を抜いたあと、肉と魔石を魔力でだした水できれいに洗う。
そして土魔法で串を作って肉を刺して即席で作った焚き火のそばの地面に刺し、焚き火に火魔法で着火した。
燃料は無いが、乾燥した枯れ枝を持ってきたので、存外良く燃える。
煌々としながら燃える炎を見、弾ける油の音を聞きながら手に持った魔石を見る。
「これをやるのは初めてだな」
といいつつ、スキル《魔石吸食》を発動させる。
すると、手に持った魔石が空中に解ける様にして俺の体に吸い込まれていった。
《スキル《魔石吸食:エルフロッグの舌》を獲得しました》
《魔石吸食により魔石の力を取り込んだことにより、ステータスに上昇補正が掛かります》
《レベルが上昇しました》
何か色々来たな。
まあ、今日はもう遅いし、早いところ飯を食って寝て、明日ステータスを確認しよう。
そうしていい感じの色に焼けた肉を切り分け、必要な分以外をアイテムボックスにしまう。
あとに残った油を滴らせる拳大の大きさの肉に、俺はかぶり付いた。
期待に胸を膨らませて口に入れたエルフロッグの肉は、とても泥臭かった。