地上へ2
残酷な描写があります。
敵は3匹。全員が木を削って作ったような棍棒を持っており、内2匹の後ろに控えるゴブリンは先程倒した見張りのゴブリンと似ているが、問題は先頭に立つ一回り大きく、動物の皮で作ったような服を着た、肌の赤黒いゴブリンだ。
取り敢えず3匹のゴブリンのステータスを覗く。
先ずは普通のゴブリン2匹。
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ランク1
種族:「ゴブリン」
性別:オス
名前:なし
LV:3
HP:40/40
MP:0/0
筋力:15
物理耐久:10
魔法耐久 :5
敏捷:25
体力 :15
魔力出力:0
スキル
なし
[称号]
なし
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ランク1
種族:「ゴブリン」
性別:オス
名前:なし
LV:3
HP:55/55
MP:0/0
筋力:25
物理耐久:20
魔法耐久 :5
敏捷:5
体力 :15
魔力出力:0
スキル
なし
[称号]
なし
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ランク1
種族:「ゴブリンリーダー」
性別:オス
名前:なし
LV:5
HP:90/90
MP:0/0
筋力:55
物理耐久:25
魔法耐久 :10
敏捷:30
体力 :40
魔力出力:0
スキル
「指揮lv1」
[称号]
なし
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先ずは下っぱゴブリンから。
1匹は耐久が低いが敏捷に長け、もう1匹の若干太ったゴブリンはHPと筋力に長けているが鈍い。
そして問題のゴブリンリーダー。
こいつはヤバイ。年齢を経ているせいもあるのか、全体的に能力が高く、さらには「指揮」なるスキル迄持っており、ゴブリンだてらに下っぱとは違う雰囲気を纏っている。
下っぱゴブリンは先程倒したゴブリンと余り格差がないとはいえ2匹もおり、リーダーに至っては下っぱなど相手にならない程強い。しかもリーダーに統率されて襲い掛かってくるならば俺など簡単に殺されてしまうだろう。
一応先程レベルアップした俺のステータスも見てみる。
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種族:「人間」
性別:男
名前:なし
年齢:7
LV:2
HP:68/70
MP:40/40
筋力:40
物理耐久:20
魔法耐久:15
敏捷:25
体力 :30
魔力出力:10
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スキルと称号は増えていないので割愛。
先程の戦闘でレベルアップしたとはいえ、ステータスを見る限りでは、リーダーに比べて直接戦闘能力はかなり劣っている。
「(どうする………)」
約5mの距離を間に挟んで睨み合う。
直接3匹と戦えばおそらく俺は死ぬだろう。そもそもこちらには武器だってないのだ。
「ギイッ、ギギッ!」
ゴブリンリーダーはなにやら下っぱに指示を出すと、3匹が翼を開くように陣形を展開した。リーダーは俺の正面に。下っぱは、俺の左右斜め約60度位のところに広がり、3匹でジリジリと距離を詰めてくる。
このままでは距離を詰められ一斉攻撃をされてしまいそうなので、ジリジリと俺も距離を取る。
「(戦わずにはいられないか………なら……!)」
俺は足元から土を掬ってゴブリンリーダーに投げる。
「ギイイ!!」
目に土が入って怒りの声をあげるリーダーを尻目に、俺は背を向けて逃げ出した。
「「ギギッ!」」
下っぱ2匹が俺を追い掛け、少し遅れて怒りに顔を歪めながら俺を追い掛け始めるリーダー。
選択肢には戦うか逃げるかの2択しかないのであり、戦うのに不利なら逃げるしかない。
だが、敏捷、体力共に俺を上回るリーダーからは逃げ切ることは出来ない。
だが、今は体力に劣る下っぱをリーダーから引き離せればいいのだ。
俺は走りながら土を掬い、リーダーだけを狙って投げる。だが、流石に2度は引っ掛からないのか、俺の土を投げるために腕を振りかぶった瞬間、目を閉じて土をやり過ごし、ニヤニヤと笑う。
それなら、と俺はもう一度土を掬い、投げる「ふり」をする。
予想通り目を反射的に閉じたゴブリンを見てから、タイミングをずらして土を投げる。
目を開けたリーダーの目にまたもや土が入り、怒りの声を上げ、敏捷値の差によって縮まってきていた距離がまた離れる。
それを尻目に俺は逃げ続ける。
どのくらい走り続けたろうか。俺が息を荒げながら、もう走れないとばかりに少しだけ開いた獣道の途中で止まり、後ろを振り向くと、俺と同様に息を荒げつつも俺よりはまだ少し余裕がありそうな風体で立っているゴブリンリーダーがいた。
その顔は土を投げられて視界を何度も塞がれたせいか憤怒に染まり、顔を醜悪に歪めていた。
体力の無い下っぱを置いてきぼりにして、ここまで追い掛けてきたようだ。
「(挑発による敵の分断は取り敢えずうまくいったか………)」
息を整えながら、俺は考える。
あの時、一番厄介だったのは、敵の数と、その頭がいるということだ。だから態々挑発なんて面倒な真似をしながら逃げた。指揮に頭を使う余裕を無くすために。実際、あの時手に石でも持って投げでもして俺が足に怪我を負えば、おそらく捕まっていたろう。
だが、下っぱのゴブリンは、上に頭がいるために、考えることを暫く放棄してきたのか、ただ追い掛けるだけで何もしなかった。そしてその肝心の頭は怒り浸透でゴブリンの小さな頭では指示を下すことすら出来ないのだ。
俺は目の前のリーダーを見据える。勝つというにはとても分の悪い賭けだが、下っぱが追い付く前にどうにかせねばなるまい……とそこまで考えたとき、リーダーが棍棒を振りかざして突進してきた。
「ギイイイイイ!」
俺は後ろにバックステップしながら、見張りゴブリンの血にまみれた石の代わりに途中で拾った新しい拳大の石を投げた。少しでも速度を緩めるために石を投げたのだが………
「ギイッ!」
それがなんだとばかりに額にぶつかった石を無視してそのまま突進し、俺に向けて棍棒を降り下ろす。
「チイッ!」
俺は横に半身を時計回りに回転させるようにしてリーダーの右側に回り込み、紙一重で棍棒を避ける。その勢いのまま俺は体をさらに半回転させてアイテムボックスから取り出した石を右手で握りながら勢いを乗せた渾身の一撃をリーダーの後頭部に叩き付ける。
「ギッッッ!」
棍棒をはずした後の俺の攻撃のせいで、突進をした勢いを殺せず、そのまま前にあった木にリーダーは体を強かに打ち付ける。
先程の攻撃による反動で自分の勢いを殺した俺は、間を置かずに、痺れる右手を無視してリーダーに石を投げ付ける。ただが、だが、手の痺れと攻撃のチャンスへの焦りのせいだろうか、俺は石を外してしまう。
「クソッ!」
虚しく地面を跳ねて転がっていく石を無視し、アイテムボックスから取り出した新たな石を手に持ってリーダーへと走りよる。
だが、石を外してしまったスキはリーダーにとって体勢を立て直すには十分だったらしく、地面から跳ね起きながら背後から迫る俺に下から棍棒を振るった。
俺はそれを石を盾に防ぐが、筋力の違いから腕を跳ね上げられ、石も何処かに飛ばされてしまう。俺は慌ててアイテムボックスから石を出そうとするが、さらに続けて、腰をしっかりいれながら横凪ぎに振るわれた棍棒を防ぐのに間に合わず胴体をガードした腕を強打さてしまい、腕から何かが折れる音を響かせて俺は吹き飛ばされる。
「ぐああっっ!」
2m程吹き飛んだ俺は、リーダーから距離を取るために勢いに逆らわずに激痛を無視して転がる。
腕を押さえつつ立ち上がった俺が見たのは、目から怒りの炎を消し、理性の灯った光を僅かに目に宿らせながら注意深くこちらの出方を伺うリーダーだった。
「(最悪だ………)」
理性を取り戻したリーダーは、もう最初のような無闇な突進はしては来ないだろう。これでせっかく作ったアドバンテージが失われてしまった。
俺はリーダーと睨み合う。
仕切り直しといった風体だが、生憎こちらにはそう余裕は無い。下っぱに追い付かれれば負けは確定するのだ。
いかに疲れていようと、戦い続けるしか無い。
取り敢えず、俺はステータスを覗く。
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ランク1
種族:「ゴブリンリーダー」
性別:オス
名前:なし
LV:5
HP:68/90
MP:0/0
筋力:55
物理耐久:25
魔法耐久 :10
敏捷:30
体力 :40
魔力出力:0
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不味い。渾身の一撃をいれたのに余り効いていない。おそらく物理耐久のせいだろうが………。
因みに俺のステータス。
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種族:「人間」
性別:男
名前:なし
LV:2
HP:42/70
MP:40/40
筋力:40
物理耐久:20
魔法耐久:15
敏捷:25
体力 :30
魔力出力:10
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HPだけを見ればまだ平気だが、いかんせん利き手の右腕が使えない。
寧ろ最初よりも不利になっているだろう。
「やるしかないか………。」
まだ一応手はある。
それはリーダーに唯一勝っている能力である、魔法系統の能力。
だがしかし、ただただ魔法を使っても、おそらく出力が足らず、魔法耐久の低いリーダーといえども倒しきれないだろう。まだ試してはないが、そう確信できる。
だから、俺は魔法は使わない。そんなことで無駄に魔力を使いたくは無い。
だからその代わりに、魔力を左手の先だけに集中する。
まるで体を流れる血が左手の先に集中するかのような感覚。
《魔力操作スキルを獲得しました》
「ギギイイイィィ!!」
焦るような雰囲気を出していた筈の俺が落ち着きを取り戻し、何かしているという事に何かを察したのか、素早く俺に向けて走ってくる。
棍棒を振るうために予備動作に入ったリーダーに、俺は逃げるのではなく踏み込む。
「ギッ!?」
逃げるのではなく踏み込むという行動に驚いたリーダーだが、既に降り下ろした腕は止まらない。
振るわれた棍棒の根本が右肩に当たり、俺の肩の骨を軋ませる。
だが、それだけだった。渾身の力を入れて振るわれた棍棒は、最高速度打点を外されたせいで大したダメージを与えずに終わる。
「うおおおオオッッ!」
俺は少し低い位置にあるゴブリンの頭を見下ろしながら、左手の先にだけ魔力を集中させてゴブリンリーダーの目から後頭部へと貫手を貫通させた。
頭を貫かれたゴブリンリーダーは、血と脳梁をぶちまけながらもんどりうって倒れる。その目に光が宿ることは永遠に無かった。
《レベルが上昇しました》
「た、倒した………。」
地面に座り込みながら俺は安堵のため息を吐いた。