回想4
少しだけ早めに投稿。
回想が長らく続いていますが、次回で回想は終わる予定です。
それにしても戦闘描写、とても難しいですね。
他の作者様の書かれる、読者の心を踊らせるような緻密かつ精巧な文章はまだまだ書ける気がしません(´・ω・`)。
文章を進めるにつれて自らの技術の研鑽を積みたいものです。
投稿が安定するまではまだ少し時間が掛かりそうですが、今後とも宜しくお願いします。
また、今回も日を跨ぎまくって書いているので、所々間違っている可能性が有り、後々修正したり、辻褄合わせをしたりするかもしれません。
〜バラッド視点〜
整備などされていない獣道を俺らは走り上がる。
普通の山道を通るのは遠慮したい。
輜重隊が手古摺っているのは、馬車など整備された道を通るしかない輜重隊にたいして、獣道から高低差を利用したゲリラ攻撃を受けているからだ。山道を通ろうとしようものなら俺らもまた面倒なことになる。
「おい、いたぞ……」
まあ、獣道を通れば、待ち伏せしている魔族を見つける事もあるわけで。視線の先には、紫色の肌で頭に短い角の生えた、杖を持った男が木の枝の上で周囲を見張っていた。このままずっと隠れていたら気づかれてしまいそうだ。
「どうするの……?」
「……僕が武技を使うよ。」
後ろにいるのはクラリスとラジエルのみ。俺たちは今、いくつかの集団に別れて移動しているのだ。余り人数が多すぎても気づかれて終わりだ。
「おい、だったらクラリスの方がいいんじゃないか?」
魔法の方が遠距離のレパートリーが多いと思ったのだが。
「基本的に魔法って、殲滅系のが多いのよね。一対一で相手を倒しきるような魔法の種類は余りないわ。それにこの距離だと、そんなに魔力を集中すると気付かれるかも………」
「僕の方は使う武器が槍という特性上、一点を突くことに重きを置いた武技が多いんだよ。」
「……わかった。」
話が纏まればそこは付き合いの長い仲間同士。言葉を発する事無く、素早く互いの位置を入れ換え、何かあった時のために後方から支援できるような形に構える。
ラジエルは一番前にしゃがみこんだ体勢のまま、穂先を少し下げて槍を構える。
「……《飛穿槍》」
魔力の高まりを感じた瞬間、ラジエルの持つ槍の穂先が歪む。次の瞬間には、一気に斜め上へと突き出される様に跳ね上がった穂先より、コーン状に圧縮された魔力が放たれる。
「……ッ!?」
魔力の気配に気づき、此方を向く魔族。だがしかし、杖を持ち上げて臨戦態勢に入った時には、その顔の真ん中を貫かれた後であった。
「「「ふぅ………」」」
周囲に気配が無いのを確認してから、三人で息を小さく吐く。
ゆっくりと魔族の死体に近付くと、出来るだけ顔を見ないようにしながら戦利品がないか探る。
「ん?これ……」
男がなにかを握っていたので、手を開いてみると。
「おい……ヤバイぞ」
「ん?何かあったの?」
「どうしたんだい?」
小休止していた二人の視線が此方を向く。
「これなんだが………」
バラッドの手に乗っていたのは小さなボタンのような魔道具。因みにボタンは既に押されている。
魔法士らしく魔道具に詳しいクラリスが俺の手を覗く。
興味深げな表情は、その後一瞬で青褪める事となる。
「これ……まさか、《念話》の魔道具?しかも使用後ということは………」
三人で顔を見合わせる。
「不味い…急ごう!」
俺たちは膝や尻についた土を払い、走り出した。
10分ほど走った後の事だった。もうすぐ山頂に出るというときの事だった。
「声…?」
一人や二人ではきかない何人もの怒号や悲鳴が聞こえてくる。
更に少し行くと唐突に森が終わり、開けた場所に出る。
ここで取り敢えずは集まる予定だったのだが………。
「チッ……加勢するぞ!」
そこで見たものは、先に集合して潜伏していた仲間たちが魔族と戦っているという構図だった。魔族達は人数こそ少ないものの、高所の利、種族的な高戦闘力を生かし、前衛と後衛に綺麗に別れて戦っている。魔族は魔法に高い適正を持つが、近接戦闘が不得手というわけではないのだ。
一方冒険者は魔族よりも数が多いが、前衛による足止めと、後ろからの魔法の掃射にうまく進めておらず、徐々に傷を負い始めている。
「後方を叩くぞ!」
戦闘に集中する魔族は未だ横から来る俺達には気付いていない。
俺達は目で合図を取り、全速力で魔族の魔法士の隊列に、横っ腹から食い付いた。
「ぐああ!」
「なんだっ…人間!?……がはあッ!」
「まだいたのか!」
俺の斧が一番手前にいた魔族を肩から袈裟斬りにし、ラジエルの槍がそのリーチをいかして一つ奥の魔族のこめかみを貫く。
「むっ………引きながら散開しろ!取り囲め!」
少し離れたところにいる指揮官とおぼしき魔族が号令を掛けると、まるでモーゼの海割りの様に、二列あった隊列が綺麗に割れ、散開し始める。
俺は追撃しようとするが、引きながら魔法を放つ魔族達の牽制に足止めを食らい、斧を横にして身を守る。素早く動けている辺り、高い練度が有るようだ。
俺達を半円状に囲んだ魔族達が、指揮官の号令で魔法を打ち始める。
「《アンチマジックバリア》」
だが、近すぎるために大魔法が撃てない魔族達の攻撃は、クラリスの援護により体に張られた膜のようなものに弾かれてしまう。
「《斧烈昇斬》」
「ふん……《プロテクション》」
板のような魔法障壁を前面に展開してニヤリと笑う魔族の顔を、下から昇る斧が魔法障壁ごと叩き割る。
「ふ、ファイア……」
「《疾槍》」
ただ突く速度を上げるだけのその武技は、近距離において、詠唱に時間のかかる魔法士の命を効果的に奪う。
また、更に回り込もうとする魔族にはーーー
「《ウインドバレット》《ウインドバレット》《ウインドバレット》」
圧縮した風の弾を高速で射出する魔法。その魔方陣が三つ展開され、クラリスの手元で重なり、溶け合って複雑な魔方陣を形作る。。
「…………《ウインドバルカン》」
本来魔方陣一つで一発しか出せない筈のウインドバレットが、大量に吐き出され、魔族をその数で持って障壁も打ち破り、薙ぎ倒していく。。
「ほ、縫合魔法だと!?」
「うぐ……ぐああぁ………」
「だ、駄目だ!防ぎ切れな………あがぁっ!」
戦闘の状況を、魔族指揮官が見渡す。
「チッ……シフト前衛、魔法構築の時間を稼げ!」
そう言って、指揮官自ら大魔方を構築し始め、また俺達の目の前にいた魔法士の半数ほどが杖の代わりに近接武器を持ち、踏み込んでくる。
だが………
「しっ、指揮官殿!前衛が押さえ切れません!」
俺達の急襲により、後方支援が減ったせいで、 魔族の前衛が後退し、冒険者の集団が魔法士の隊列に食い付いていた。
「ぉぉおおおおオオッ!」
「複数人でかかれっ!」
「し、死に損ないがぁ…!」
全員が傷付き、無傷の者など誰もいない。体の部位を欠損し、新たな血を垂れ流し、待つ仲間のために相手の喉元を食い千切らんと襲いかかる。
「ぐっ……貴様ッ!」
「死ねやぁ!」
と、俺達の方にも冒険者達が突撃して来た。半円状の包囲が、侵食されて更に半分になり、魔法と武器の混じり合う乱戦となる。
「おい!お前ら!」
柄の悪そうな男が、魔族と戦いながら話し掛けてくる。
「ふんッ!何だッ?」
剣を持った魔族を力で強引に吹き飛ばし、その柄の悪い男と戦う魔族を横から両断する。
「先に行ってくれ!ここは暫くは持つ!」
戦場を見回せば、後方支援もしっかり続き、数で押す形で安定しているようだ。
「……死ぬなよ!ラジエル、クラリス!」
置き土産とばかりに他の冒険者と戦う魔族を横から攻撃して、他の二人を呼んで乱戦を離脱する。
頂上まで、後は砂利ばかりの緩やかな道が続いているだけだ。
時折ある大きめの石に躓かないようにしながら、残りの数キロを走る。
すると、先の方に5メートル位の崖が見えてくる。あの先が頂上だろう。
少しだけ出ている安全そうな出っ張りを選んで、つかんで上へと登る。
昔俺達が登った山に比べれば易しいものだ。あの時は絶壁の途中にグリフォンの巣があって大変な事になった記憶がある。
よっこらせと体を持ち上げ、崖を登りきる。後ろから来るクラリスの手を取って持ち上げてやる。
頂上は開けた平地になっていて、そこそこ広い。
「何だろうね、あれ?」
ラジエルの言う方向を見ると、何か、円筒状の物が頂上のど真ん中に立っていた。円筒の表面には複雑に切れ目が走っており、一つの物体と言うよりも、何かの部品をたくさん組み合わせたパズルのようでもある。上の部分には見たこともない、これまた複雑な魔方陣が展開しており、何かの術式が発動しているようだ。
「……本当にあったな、古代遺物……かどうかは知らんが、訳のわからん魔道具が。」
「破壊して大丈夫なの?あれ。爆発したりしない?」
「……でも、やらないとね。ここで悩んだってどうなるかはわからないからね。今までだって、行き当たりばったりな事だって良くあったろう?どうにでもなるさ。」
「ま、そうだな。まあでも、一応怖いから遠距離から攻撃しよう。」
「じゃ、誰がやる?」
「ん〜……一撃の威力の高いバラッドがやるのがいいんじゃない?中途半端に壊れて暴走とかしたら嫌だよ?私。」
「はいよ。………んじゃ、やるか。」
俺は斧を大上段に構えーーー飛んできた魔法を叩き切った。
「で?何だお前」
謎の円筒の裏から姿を現したのは、一人の金髪の優男。
「いやあ、こんにちは。いや、もうすぐ夜近いから、こんばんは、かな?」
「……。」
「ははは、怖い怖い。睨まないでくれよ。」
「質問に答えろ」
「いやぁ…僕が誰だかなんて、どうでもいいだろう?といってもまぁ、お察しの通り、僕も魔族だよ。今は《人化》してるけどね」
そういう男瞳の色が赤に変わり、また元の茶色に戻る。
「後ろの変なのは何かしら?」
「ん?これ?」
そう言って、その男は後ろの円筒をポンポン叩く。
「わかってるんだろう?古代遺物だよ、古代遺物。遺跡から発掘される、例のアレ。」
「……魔物を引き寄せているのはそれかい?」
「さあ、どうだろう。関係あるかもね?」
それで?、と魔族は続ける。
「これを破壊する気かな?」
「あぁ………」
俺は斧を、ラジエルは槍を構え、クラリスが魔法構築の準備に入る。
「俺達はその為にここに来た。」
「じゃ、死んでもらおう。壊されるわけにいかないんだ、コレ。」
言葉の終わらない内に、ラジエルと俺は駆け出す。
「《ムーヴエンハンス》」
効果は敏捷性能の強化。俺とラジエルの足に緑色の光膜が張り、体の中に溶けていく。
「《ダークジャベリン》多重展開」
魔族の回りに30本もの闇の投槍が浮かぶ。
「クラリスッ!」
狙うは後方。
「ーーー《連続投射》」
「くッ!《ウインドガトリング》!」
闇の槍と風の弾丸が空中でぶつかり合う。だが、槍一本に対し、連射速度の高い弾丸が幾発も当たるが、威力の違いにより反らすのに手一杯で、徐々に押されていく。
クラリスは考える。
魔法の構築速度、威力、共に相手の方が上。ならば此方も手数で応戦するしかない。
それならばと、魔方陣を展開している両手の内、左手を放す。
「《ウインドバレット》《ウインドバレット》《ウインドバレット》……あぐうっ!?」
凄まじい頭痛。多重展開スキルを持たないクラリスの、《縫合魔法》の同時展開。許容限界に迫る荒業に脳が悲鳴をあげる。
「ーーー《ウインドガトリング》!」
左手にもう一門追加。両手から発射される弾丸が、次々に補充され続ける敵の投槍と拮抗。
だが、歯を食い縛るクラリスに対して、魔族の方は余裕がある。
「《ダークブラスター》」
魔族の左手に魔方陣。その手から巨大な闇の砲弾がクラリスに発射される。
「させるか!」
だが、もう少しのところまで近づいていたラジエルが、そこへ割って入る。
「ははッ!射線に入ってどうするつもりだい?その槍一本でどうするつもり………」
「オオッ!」
ミスリルで出来た美しい銀色の槍が、漆黒の球を突いた。
ーーーここで一つの説明をしよう。
ギルドに所属する冒険者には、ランクがある。これは勿論、レベルやその能力、実績に応じて上がっていくものだ。普通の人が到達出来ると言われているランクの限界はC。そこから先は、才能のあるもの達の世界となって行く。二つ名を持つ者が出てくるのも、この辺りからだろう。
Bランクに至るものは優秀。Aランクは天才だと。それ以上はもはや、人の域すら越え、人外、化物だと言われる。
今のところのラジエルのランクはAランクの下位。まだAに上がりたてではあるが、彼もまた、二つ名を持つ者の一人だ。無論、二つ名を付けられたのは、その卓越した槍捌きと数多の武技を使いこなす技量が評価されてのことであるのだが、彼の場合、寧ろその希少なスキルが大きいだろう。
スキル名、《破術》。
《破術》のラジエル。
そのスキルの効果はーーーーーー
ガシャアアンという、まるで何かが割れるかの様な音を出して漆黒の球体が砕け散り、その残滓が空中に解ける。
「何ッ!?馬鹿なッ!何だそれはッ!?」
ーーーーー「魔法の産物」に対する絶対破壊。魔法に特化する魔法士の、絶対の天敵。魔法の威力を減衰、防御するスキル、魔法は数あれど、どんな威力であっても術式ごと完全に破壊するスキルを持つ人間は、この世界において、一人としていない。
只でさえギリギリな前線。そこからわざわざ俺らだけが呼び出された理由は、そこにあるのだ。
「ーーーバラッド!」
「分かってらあ!」
俺は斧を構え、魔力を練り上げる。
敵との距離、約8m。ここなら、パワー特化の斧系武技でも遠距離技が届き始める。
「《斧飛刃》!」
斧の刃から斬撃に沿って光波が翔る。
「チッ!ーー《デモンズアームズ》!」
敵左方の空中に2つの魔方陣。
空間が裂け、悪魔の巨腕が呼び出される。
光波を砕いて霧散させ、更に迫るその左拳を、斧の側面でガードする。
「ぐおおおお!」
凄まじい重量を足を地面にめり込ませ、引きずりながら耐える。
「潰れろ!」
更に振るわれる右拳。
だかその拳はバラッドに当たること無く、直前でラジエルの槍に当たり、ガシャン、と腕の根本にある魔方陣ごと崩れる様に砕ける。
「チッ………貴様はそこで止まっていろっ……《ダークフォトンレーザー》!」
魔族の目の前に出現した魔方陣から、極太の闇色の光線が走る。
その光線とラジエルの槍がぶつかった瞬間。
ガシャシャシャシャシャ!、と槍の穂先に当たった部分から光線が砕け散り、破片がラジエルの後ろに流れ、空中に解けていく。
「おおおッ!」
「き、貴様ッ!」
ラジエルが光線に逆らうように走り、穂先が光線を砕いて魔族へと迫る。
そしてついには穂先が根本の魔方陣を砕き、ラジエルの前方が晴れ。
「これで……終わりだ!」
「かはっ………!?」
突き出された槍が、魔族の左胸を貫いた。
左胸に穴を開け、魔族が後ろに下がりながら崩れ落ち、同時にすべての魔法が解除され、集中力を磨耗したクラリスが地面に膝をつく。
少し休ませておいた方が良いだろう。
俺は斧を肩に担いで、謎の設置物に近付いて、無造作に斧を横に振る。
斧はその円筒を綺麗に両断し、ガラン、という音をたてて地面に倒れる。
破壊したと同時に上部の魔方陣も消えたようだ。
「く………クククク………ゆ、許さんぅゥゥア許さんぞォ………私がァ…人間ごときにぃ………」
ラジエルに槍を向けられながらも、魔族がゆっくりと立ち上がる。人化が解けたのか、その目は赤くなり、頭からは捻じ曲がった角が2本、側頭部に生えてくる。
「……まだ立つのか」
「ハァ、ハァ……」
魔族が手を左胸に押し当てると、掌から緑色の魔力が広がる。すると、夥しい出血が止まり、肉が盛り上がって穴を塞ぐ。
口から血の固まりを吐き出し、貧血にふらつきながらも魔族が立ち上がる。
「……やるじゃないか…人間を甘く見すぎたようだ」
「おいおい、心臓やられたんじゃねえのか?」
「クックッ……知らないのかい……?」
こちらを馬鹿にしたように口を曲げる。
「魔族の心臓は…右胸なんだよ」
「……何?」
「《ダークバレット》」
飛んできた魔法をラジエルが距離をとりつつ砕く。
その隙に、魔族が転移の効果のある水晶を壊れたアーティファクトの近くの地面に投げて割ると、広がった魔方陣が何処かへとアーティファクトを転移させた。
「アーティファクトの性能実験も済んだ……」
魔族が口元の血を拭う。
「後は…ゴミの後始末だけだ………」
魔族の体から魔力が吹き出る。
次の瞬間、魔族の体が急激に人外の物へと変化していく。
全身の筋肉が盛り上がり、体高は約5m程に。角は更に延び、爪が猛獣のように鋭いものとなる。
「おいおい、何だこりゃ」
「…………。」
「………はぁ、今度は何?」
今まで戦ってきた数々の魑魅魍魎よりも強いプレッシャー。ラジエルは無言、俺は驚きつつも武器を構え、クラリスが魔力回復薬を飲み干して戦闘に備える。
「人間ヨ…喜ブガ良イ………我ガ真ナル力ヲ拝謁スルコトヲ……」
近くの空間に掌を突きだすと、手元に闇の空間が出来、巨大な禍々しい刺股がその手に握られて引き出される。
「我ガ名ハ魔法将リゴール……我等ガ魔族ノ力ヲ思イ知ルガ良イ!」