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我が人生  作者: 下水管
18/24

金の使い道2

「はい、今日も有難うね。これ、今日のお駄賃。」

「どうも」

「有難うございます」

今日もベクターに薄給を貰って帰る。今日は急いだお陰で割りと早く終わり、空が赤く染まりつつある時間には帰ることが出来た。


町に降り注ぐ赤い西日を浴びながら、商店街をセラと歩く。

「もうすっかり秋だな」

季節は秋。そろそろ肌寒くなってきたか。俺はセラの格好を見る。ボロい布で出来たシャツとズボン。俺も森暮らしでボロボロになっていたが、服の裂け目などは眷属蜘蛛のカンナに糸を使って補修してもらったりしていた。

と、俺の視界にそろそろ店仕舞いをしようと片付けをしていた服屋のおっちゃんが入る。

「……まだセーフか?」

「どうしたの?」

俺はセラの手を引っ張って店の方に歩いていく。

「すいません」

「ん?……子供?もう店仕舞いだぞ?ほら、行った行った。」

「服を売ってほしいんですが」

「あん?……服ねぇ…金もってんのか?」

俺と………主にセラの服装を見て怪訝な顔を向ける。まあ、格好が格好だしな。

「持ってますよ、ほら。」

俺は手に金貨を乗せて見せる。

「き、金貨………?」

おっちゃんは少しの間目を丸くして固まっていたが、やがて、

「……ま、客だってんなら追い返さねえよ。営業時間はもう終わりだが、特別だ。今日の最後の客にしてやる。」

俺は小さな店内に入る。

中には所狭しと服が置いてある。

「何買うの?」

「服屋に入ってんだから何か着るものに決まってんだろ…………お前のな。」

「え?」

「これから寒くなるし、お前に適当に何か羽織るものでも買ってやろうかと思ってな。ほら、選んでこいよ。」

「……良いの?」

「だから良いってば。」

「でも……このお金稼いだの私じゃ」

「あああ!面倒臭いから早く何か買ってこいって!」

何だか気恥ずかしくなってしまってセラを店の奥に押しやる。

だが、セラは服を選ぼうとせず、何やらオロオロしている。

「……どうした。」

「……何を買えば良いかわからなくて…」

「はぁ?……はぁ、だから適当に羽織るものでも買えば良いんだっつうの。」

「ええっと………じゃあ、これが良い。」

そうしてセラが差し出してきたのは、真っ黒な厚手で無地のマントだった。

「こんなんで良いのか?お前位の女子供なんて、何かもっと、こう、花柄だとかピンクだとかそういうのが良いんじゃあないのか?」

「ううん、これが良いの。」

「……そうかい。ま、別に良いけどな。」

俺はおっちゃんに金を払いに行く。

「銅貨3枚だ。」

俺は金貨をおっちゃんに渡す。

「釣りの銀貨9枚と大銀貨9枚、銅貨7枚に大銅貨9枚だ。」

そういって品物とお釣りを貰って、俺は店から出る。

「ほら。」

そう言って、俺はセラにマントを渡す。

「ありがと。」

そういって、早速マントを羽織るセラ。だが……。

「ブカブカだな。」

元々全身を覆うようになっているマントだが、大きさは大人基準だったらしく、裾が盛大に地面についている。

しょうがないので、マントの余り部分を内側に織って、糸を出しながら裁縫スキルで縫い付けてやった。後は成長に合わせて伸ばしていけば良いだろう。

「似合ってる?」

マントのフード部分を後ろに捲くって、その上に銀色の長い髪を垂らしたセラは、俺の前で一回りして見せる。赤い光に照らされたセラの髪と、真っ黒なマントのミスマッチさが、逆にそれぞれの色を際立たせていた。

「ああ、似合ってるよ。」

「ふふっ……」

褐色の肌を夕焼けの中でもわかるほど赤く染めながら俺に抱きついてくるセラを宥めつつ、俺らは孤児院へと帰ったのだった。









充填された魔力を消費して光を発する魔道具が照らす部屋に、ノックの音が響く。

「入ってくれ。」

「失礼します。」

入ってきたのは一枚の羽の紋章――――――ギルドの紋章の入った制服を着た男だった。

「報告です。偵察依頼を引き受けた冒険者達の情報によると、最近中位のランクの魔物の謎の大量消失のせいで、低位モンスターの森表層での縄張り争いが激化。また、森深層部の魔物たちが主食としていた中位ランクモンスターの消失のせいで、低位モンスターの捕食を開始。それから逃げるような形で森の奥からモンスターの群れが少しずつ迫って来て居るようです。」

「そうか………規模はどの程度だ?」

「規模自体はたいしたことは無い模様です。数の多い低位モンスターのほとんどはゴブリン種、後ろから迫る、中位、高位モンスターであっても、其処まで高いレベルのいない《昏き森》ですから、せいぜいがランク3か4。更に奥の山脈からはモンスターは出て来てはいない様です。先の魔物の侵攻のように、ランク10を越えるような化け物が大量に押し寄せてくる、なんて事にはならないでしょうね。ランクEやランクD冒険者のパーティーを複数呼び出せば十分対処可能です。」

「そりゃあ………あんなことが何度もあってたまるものか。」

バラットは安心して椅子にもたれながら苦笑する。

「それじゃあ、また何か報告があったら頼む。」

「はい。」

部下が部屋を出て、扉を閉めるのを見てから、書類の山を見て溜息をつく。今夜はまだ帰る事が出来なさそうだ。





異常が起こったのは、それから1ヶ月後の事だった。














あれから何週間かが過ぎた。あれから特に変わったことはない。強いて言うならば、黒いマントに身を包んだセラが、周りの注目を集めて少しだけ居辛そうにしていたことくらいだ。セラの訓練もうまくいっている。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「んっ……!」

「よしよし、筋少しづつ成果が出てきてるみたいだな。」

俺の剣戟―――勿論手加減している―――に合わせて、セラが短剣でガードしていく。俺もワンパターンでは無く、様々にタイミングをずらした剣戟を偶に打ち込んでやる。最初のほうは失敗してばかりだったが、最近ではペースを乱さずガードすることもできる様になってきた。

「やぁっ!」

今度はセラに打ち込ませて俺がガードをしていく。最初は苦労していた重さにももう慣れたか。少しづつ鋭くなってきた剣戟を捌いていく。セラは《短剣術lv1》を習得し、俺も《短剣術》スキルのレベルが上がった。どうやら「魔喰ライ」の称号の経験値獲得の上昇効果は結構高いようだ。

ところで……

「なあ、訓練のときくらいマントを脱いだらどうだ?」

「やっ………やだっ……」

息を切らしながらもセラが否定する。どうやら相当気に入っているらしく、四六時中身から離そうとしない。買ってやったこちらとしては買った甲斐があるというものだが、洗濯しようとする時まで渋るのはやめて頂きたい。

さて、今のセラのステータスは、と。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

職業:孤児

種族:人間

性別:女

名前:セラ(■■■)

年齢:7歳


LV:3

HP:35/35

MP:18/18


筋力:23

物理耐久:20

魔法耐久:15

敏捷:35

体力 :27

魔力出力:2


スキル

「短剣術lv1」

「痛覚耐性lv1」


[称号]

なし

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

上がりがいいのは敏捷辺りだろうか。これからは長所を伸ばすような感じで鍛えるのは敏捷中心にした方が良いかも知れない。というかいつの間にか年が一つ上がっている。今度誕生日でも聞いてみるか。

「んじゃ、今日はここまでな。」

「はあ、はあ、はあ……うん、わかった。」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

と、まあ昨日の時点ではこんな感じだ。

「……おい」

そこいらの少年、例えば俺の横にいる餓鬼大将っぽい奴位なら、短剣を持てば、相手が何か武器を持っていても意外と勝てるかもしれない。

「おいってば」

この年であればそこまで身体能力の差なんて無いしな。年が少しだけ上と言えど、セラはスキル持ち。訓練した時間は無駄では無いのだ。

「おい!聞いてんのかよ!無視すんなよ!」

「はあ………なんだよ?」

そう、特に変わったことは無い。だが強いて言うならば、こいつが邪魔である事だろうか。

「おっ、お前!何で、あ、あの子と仲良くしてんだよっ!」

少しだけ俺よりも年上であろう少年の視線の先にはセラ。っと、こっちに来た。

「……何してるの?」

「おお俺はっ、そっ、その……何て言うか…」

俺には睨むような視線を向けつつ、セラのほうを見るたびに顔を赤くする。

器用なやつめ。

「なっ、名前を教えてくえ!……くっ、くれ!」

あ、噛んだ。まあ、まだ子供だ。どうせ自分の感情がなんであるかもわかってないだろう。俺に当たってくるのも制御しきれていない嫉妬からか。こいつには、数日前からいきなり絡まれるようになった。

「……やだ。」

「うっ………」

そしてこのセラの対応である。

「……名前くらい教えてやれよ。」

「……嫌。」

「うぐぐ……」

ほら、お前が素直に名前を教えないからこの名前も知らぬガキ大将君がこちらをすごい睨んできてるじゃないか。まあ怖くなんて無いが。

「まだ10歳位の癖に盛りやがって……」

面倒臭い。

俺は席を立つ。

「どっ、どこにいくんだよ!」

「トイレだよ」

「私も行く」

来るなっての。



後方から送られる直情的な視線。だが。

「(こいつは違うな………)」

絡みつくような気持ちの悪い視線。それは先の少年のものではない。俺が視線の主を特定しようとする度にその気配が霧散する。

「ん……付いてくるつもりか…」

廊下を歩く俺の後ろから付いてくる何かを確認するため索敵スキルを発動させる。だが……

「光点が映らない……?」

俺の視界左上のウインドウには其処にいる何かを示すはずの光点が映らなかった。

だが、そいつは確実に俺の後ろから付いてきている。


「……いいぜ、丁度良い。最近うざくなってきてたんだ。正体を確かめてやるよ。」

俺はトイレを素通りして、孤児院の外へと向かった。

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