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我が人生  作者: 下水管
14/24

黒と銀

〈銀髪ちゃんside〉


「あぁ、何でこんな子が産まれてきてしまったのかしら」

「落ち着け、また子供を産めばいいさ」

「銀色の髪に金色の目………あぁ、おぞましい………」


ねえねえお母さん、何でそんな目で見るの?痛いよ、叩かないで。


「貴女なんて産まれてこなければ良かったのに………」


ねえねえお父さん、お腹空いたよ。私もお父さんと同じものが食べたいな。


「どうだ、使い古した靴の革はうまいか?まだもう一足あるんだ、お前のためにしっかりと煮込んだんだから良く味わって食べろよーーー」


何でみんな私を見ると目を逸らすの?おかしいなぁ。


「あの子、■■■さん家の子なんですって」

「見て、あの髪と目の色。魔物みたい………」



物心付いた時から、私は自分の存在意義レーゾンデートルを見出だせなかった。私が一番私を見て欲しい人は、私を見てくれなかった。

私には名前が有る。「■■■」だ。もう今では思い出せそうにないけれど。


私は自分が誰なのかわからない。

自分の存在を、この世界に固定出来ない。


名前が欲しいです。私をちゃんと縛り付けてくれる人が欲しいです。


自分が誰なのか、忘れないように。


「ぎゃあああぁぁ!」

「たっ、たずっ、だずげでえ………」


ある日、魔物の大群が、村を襲いました。次々と人が死んでいきます。近くにいる人が、助けを求めてきました。

お腹には、大穴が空いていて、血が大量に出ています。


でも、御免なさい。もう、自分の存在を感じられないんです。貴方がそこにいるかどうかも、自分がここにいるかどうかももうわかりません。だから、貴方に手が届くかどうか、わかりません。









「おう、お前さんか。行く宛がないってのは。」

村でただ一人助かった私を、冒険者の人がこの町のギルドにおくりとどけてくれました。


「俺はジルバってんだ。俺がお前さんを良いところに連れていってやる。」

「……。」

私にも、貴方みたいに名前を下さい。


言葉は、掠れて出てこなかった。



「やあ、私がこの孤児院の院長だよ。」

沢山の皺を顔にもつそのおじいちゃんは、私の頭を撫でてくれました。


一応、私はここに存在しているみたいです。






「さ、自己紹介を頼むよ。」


この広い教室にいるのは28人。私は29人目だそうです。


「私は、私の名前は………」

あれ?足元がぐらぐらしてる?

「わたっ、私のっ、な、名前は………うぐっ」


吐いてしまいました。もっともっと足元がぐらぐらしてきて、倒れ込んでしまいます。拭かないと、お父さんとお母さんに叱られてしまいます。














私は、誰ですか。



















今日は、30人目の子が来た。


珍しい、黒髪黒目の男の子。


「どうも、お世話になるオグロです。宜しくお願いします。」


それだけ言うと、オグロ君は私の3つ左の席に着く。



不思議な人です。休み時間中も、何だかボケッとしてばかり。何を考えているんだろう。



午前中の授業が終わると、仕事の手伝いの時間だ。


教室に残ったのは、自己紹介に失敗て誰も話しかけてこない私と、今日来たばかりのオグロ君。



「…………」

「…………」


何を話せばいいんだろう。すると、オグロ君が口を開きました。



「名前……お前、名前なんて言うんだ?」

「…………わかんない」

自分の名前。また少し足元がふらつきましたが、何とか答えられました。



「じゃあ、呼ぶとき何て言えばいいんだよ。適当な名前でもつけてやろうか?」

「え?」

「ん?だから適当な名前でもつけてやろうか、って。」

「ッ!名前っ!名前をくれるの!?」


私はオグロ君にすごい勢いで迫る。


私の銀髪が反射する光を、オグロ君の真っ黒な髪が吸い込む。


「お、おう。お、お前がいいんなら付けてやるけど………?」


「…………ッ!」

「あ、おい!」


私の名前?付けてくれるの?


私の頭の中が、感じたことのない感情で一杯になる。堪らずに私は逃げてしまう。


「うぅう……あぅぅ……」

良くわからない音を発しながら、私は駆ける。


門の所で、院長さんに会います。

院長さんは私に手を伸ばそうとして、そのまま弱々しく下ろす。


そう、彼はまだ私の名前を知らない。


彼もまた、私の存在をこの世界に固定しきれていない。でもあの瞬間、あの人の目には走る私が映っていたと思う。




私は駆ける。何処までも。



住宅街を抜け、商店街を抜け、走る、走る……。


「はぁ、はぁ、…………。」

疲れた私は、ゆっくりと薄暗い道を歩きます。住居の間を流れる風が、私の汗を乾かしていく。



不意に、その風が乱れる。



気付くと、私は男の人達に囲まれていました。


「おい、コイツ銀髪に金目だぜ」

「おう、珍しいな。顔も随分整ってやがるし成長したら美人になりそうだ。物好きな貴族にでも高く売れるんじゃねえか?」

「兄貴ィ、奴隷商に渡す前に、一発やっちまってもいいですかい?」

「ぶっ、お前ロリコンだったのかよ?ぎゃはははは!」


あぁ、何だかまた良くわからなくなってきた。私はここにいるの?私は……誰?


ぼうっと迫る男の人達を見ていると、男の人達の一人が頭をおかしな方向に曲げながら吹き飛んだ。


「右よーし、左よーし!一般人の人影なーし!」

揺れる黒い髪に、黒い瞳。冗談みたいな軽い口上で現れたのは、オグロ君だ。


「なっ、何だお前は!?」

「てっ、てめえ、よくもミランを!」

「あぁ、俺?俺はオグロって名前なんだ。」

「お、落ち着けお前ら!」

一際体格の良い男の人が、オグロ君の前に出る。


「お前、何者だ?」

「……ありゃ、体格の割には弱いな。お前あまり鍛えてないだろ?」

「質問に答えろ!」

「あ?だからオグロだっつうの。」

「……そうか、質問に答えるつもりはない、と。なら…………死ねえっ!」


体格の良い男が、分厚いナイフを横に払う。その奇襲をオグロは避ける。


「《下級眷属生成》」

オグロの足元に蜂、蜘蛛、蟻の魔物が現れる。

「まっ魔物!?」

男達が驚くが、驚きはそこで終わらない。

「《ラリアットシザーの大鋏》」

オグロの左腕がみるみる内に巨大な蟹の鋏とかす。


もはや、男達は驚きの余り呆けて立っているのみだ。

だが、オグロが攻撃を待つ理由など何処にもない。


突き出された巨大な鋏が男達の首を切り落とし、横に振るえば男達の胴体をくの字に曲げて吹き飛ばす。


「何なんだ!何なんだよお前はァ!?」

半狂乱になった男達が一斉に突撃してくるが、遠距離から飛ぶ毒針や糸、蟻酸が男達の勢いを削ぎ、そこに鋏が飛び、血の雨を降らす。何人もいた男達は、僅か数十秒で殲滅された。


「おい、取り敢えず違う場所に行くぞ。このままだと面倒臭くなる。」

私が何も答えない内に、私を抱き上げる。

「あぁ、そうだ。名前やるよ。《セラ》今から俺はお前のことそう呼ぶから。」

そういうと、オグロ君は凄い勢いで走り出した。


「あ………あぁ…………」

吹き抜ける風が。

頬を流れる涙が。

私を抱き上げる腕が。

密着する彼の体温が。




私の存在を教えてくれた。













〈オグロside〉

セラの生い立ちを聞いた。というか自分で語りだした。一度話始めると、今まで溜め込んでいたのだろう、まるで堰を切ったように止まることはなかった。

途中途中の、意味を成さないような言葉の羅列を、そしてその裏で渦巻く感情の奔流を受け止める。ただただ、しっかりと彼女の中身を見つめ続ける。セラは孤児院に着くまで泣き止むことはなかった。



「やあ、お帰りなさい。君達で最後だよ。夕食を一緒に食べよう。」

今までずっと待っていたのだろうか。院長は穏やかな顔で門の前に立っていた。

院長は泣き腫らした顔で立つセラを見ても特に驚くことは無かった。

「へえ、セラっていう名前なんだ。もう、無くしちゃ駄目だね。」

そう言って、院長はセラの頭を撫でる。

「…………うん。もう、無くさない。」

夕焼けに照らされた院長の横顔が微笑んだ。



長い机に座って一同揃って夕飯を食べながら、考えていたことがある。

あれほど柔和な笑みを浮かべる院長が、セラという子供の心を開けなかった理由。恐らく、恐らくだが、院長は優しすぎたのだ。セラから、初めの一言が出るのを待ち続けた。待ち続けてしまった。セラの心の傷を開いてしまわないように、自分から心を開いてくれるように………。院長はどんな過去の入ったパンドラの箱だろうと、受け止めるつもりだったのだろう。


だが、その対応は間違っていた。


それは、「大人の対応」だ。決して、自分から手を引っ張る、強引な「子供の対応」ではない。院長はしゃがみこんで、目線を合わせた。だが、そこまでだった。自分の存在すら見失ったセラに必要だったのは、自分の存在を確立できるような、何かだった。だからこそ、「名前」を、そして自分だけの「名前」を呼んでくれる存在を欲した。両親かみさまにさえ見て貰え無いまま全てを失くし、存在にすら失くしてしまった、自分を見て貰うために。


ただ一歩を踏み出して、名前を聞くだけで良かったのだ。


院長は恐らく、頭を撫でながら優しい顔でこう言ったのだろうーーーーー

「何かあったら、しっかりと言うんだよ?」

ーーーーーと。









就寝の時、俺は一人、静かに孤児院を出る。寝るときは皆で薄いシートを敷いてくっついて寝るので、うまく隙間を踏んで外に行く。


と、俺の足が誰かに掴まれる。


「どこ行くの?」

セラだ。

「別に。トイレに行くだけ。」

「私も行く。」


いや来るなよ。


「何でだよ、寝てろよ」

「……私も行きたい」

俺の足に抱き付いてくるセラ。

昼間助けたあとからずっとこんな感じだ。突き放そうとすると泣きそうになるから突き放せないし。一端抱き付くともう意地でも動かない。

「はぁ………わかったから離れろ」

「……うん。」


連れたって孤児院の裏に行く。

そこで俺はセラに向き直って言う。

「昼間のこともそうだが…………今から俺がすることも絶対に口外禁止な」

「わかった。」

昼間の戦闘をバラされたら困る。そして今からすることも。折角他に人影がないか確認したのだから。


俺はお馴染み3匹の眷属を呼び出す。

そして俺は更に2匹の眷属を生成する。

「《下級眷属生成》」

俺の《下級眷属生成》のレベルは5なのであと2匹の眷属枠か余っているのだ。

「今日からこいつらもお前らの仲間だ。」

展開された魔法陣の上に新しく生成された、「蠍」と「苗木」のモンスターを他三匹のモンスターの所へ送ると、蜂、蜘蛛、蟻が2匹を取り囲んでキイキイ鳴いている。何て言っているかは解らないが、歓迎しているのだろうか。そんな気がする。

「…………すごい」

驚いてるセラを横目に俺は眷属たちに話し掛ける。

「お前らを呼び出したのは、お前らの戦闘力向上、及び向上実験を行うためだ。今のお前らでは、戦力に難があるからな。少し強い敵と会うだけでやられるだろう。」

森からの出口付近にいたウルフリーダー。あの程度の敵にあっただけでも、壊滅は必至だろうな。

「まず、戦闘力向上のために主にしてもらうのは、味方同士での模擬戦だ。これを毎日やってもらう。ある程度強くなったら、外に出て実地訓練だ。大怪我しても俺が回復してやるから安心しろ。」

外に出るためには、人に見つからないように出る必要がある。今の俺の外見だと絶対止められるからな。

「それと、実験というのは……まあ、俺が試したいだけなんだが………」

そういって、俺はアイテムボックスからゴブリンの魔石を取り出す。

「俺が森に居た時に集めた魔石を取り込んでもらう。俺は魔物が他の種類の魔石を取り込んでいる所を見たことがあるんだよ。」

あれは俺がよく使うでかい鋏を持つモンスターを見たときの事だったか。《ラリアットシザー》なるランク4の蟹のモンスターは、ゴブリンを「お食事」してる最中だったのだ。その時に俺の後ろからの奇襲が成功しなければ勝てたか怪しかっただろう。

あの時の俺は普通のウルフと同じ位の強さしかなかったからな。良く勝てたもんだ。

「オグロ君、森から来たの?」

「あ~…………」

セラが話し掛けてきた。

そういえばこいつの過去は聞いたのに俺の過去の話はしてなかったな。


俺は適当に省きつつ、気付いたら森の中にいて、魔物と戦いながら歩いてこの町まで来た的なことを話した。

「……オグロ君は強いんだ」

ま、目の前で大の男を文字通りぶっ飛ばしたからなぁ。

「俺は冒険者になりたいんだよ。」

「冒険者…………。」

それきり黙り混んでしまった。

ちょうど良いので、話の切り上げとして、実験を開始することにする。

ビー玉大のゴブリンの魔石を、新参の蠍と苗木に与えてみる。蠍の方は口で、苗木の方は絡まって足のようになっている根の部分で魔石を吸収していく。


すると、3個目を吸収した辺りで蠍と苗木のレベルが2に上がった。

「魔石を魔物が吸収すると経験値になるのか………戦わなくても強くなれるのな。」

これは新しい発見だ。だがこのままだと、他の3体とレベル差が出てしまうので、アイテムボックスから魔物の魔石を出しまくって蠍と苗木に与える。どうやらランクの高い魔物ほど経験値が入るようだが、こいつらのランクは皆。俺はレベルが他の魔物と同じ10レベルになったところで魔石を与えるのをやめた。

「さて、今度は模擬戦をしてもらおうかな。」

当り方としては、4匹を戦わせて、その間残りの1匹が休憩するようにローテーションをする感じか。

俺が促すと、まず最初は蜂が休憩で他の4匹が戦うことになったらしい。組み合わせは蟻vs苗木、蜘蛛vs蠍だ。


まず蟻vs苗木だが、此方は明らかに蟻が優勢だ。そもそも、俺の苗木の運用思想は、戦闘に特化することではなく、補給と回復なのだ。いわばヒーラータイプ。対して蟻は地上での戦闘に適し、《硬化》等のスキルにもそれが如実に現れている戦士タイプ。苗木が体の一部を伸ばして鞭のようにして攻撃しても攻撃がほとんど通らず、蟻酸のついた牙で逆に噛みつかれて反撃をくらう。……あ、苗木の動きが鈍り始めた。

「そこまでだな。」

蟻の方が嬉しそうにしているのに対して、苗木の方はしゅんとしてしまっている。俺が回復をしてやりながらも体を撫でて慰めてやると、嬉しそうに葉を揺らしながら体をクネクネしていた。


もう一方の蜘蛛vs蠍は、良い戦いをしていた。2匹とも戦闘系だが、少し毛色が違う。蜘蛛の方は素早い動きと糸を使うトリッキーな戦い方を得意とするのに対し、蠍はその長い尾を活かして突きまくり、懐に潜り込まれれば両手の鋏を上手く使って凌ぐ、真正面からの戦い方を好む。いつの間にか、戦闘は回り込むかそれを防いで反撃するかの戦いとなっていた。

だが、戦闘経験では促成栽培した蠍とは違い、努力だけでレベルを上げてきた蜘蛛の方に一日の長があったらしい。蠍は動きを上手く蜘蛛に誘導され、地面に設置された糸トラップに動きを徐々に封じられていく。

最終的には、蠍は糸でぐるぐる巻きにされてしまい、動けなくなってしまった。

「はい、そこまでな。」

浅い傷を体に何個も付けた2匹を回復していく。



結局、模擬戦闘は全員のレベルが11になるまで続いた。そして、眷属達のレベルが11になった時、眷属達の体が光り出したのだ。

たっぷり30秒の発光を終えた眷属達は、一回り大きな体躯となり、ステータスから「レッサー」の文字が消え、レベルが1に戻り、ランクが2になっていた。どうやら、一定のレベルに達すると、ランクが上がり、より上位のモンスターになるようだ。


進化した眷属達は、俺の回りに集まり体を擦り寄せてくる。おおふ…………可愛い。名前もつけてやらんとな、と考えていると、セラが話し掛けてきた。

「ねえ……オグロ君。」

「ん?」

「私にも訓練してほしい。」

「はあ?何で?」

「私も………私も冒険者になる。」

「急にどうした?あと面倒臭いから君づけやめてくれ。」

「ん、わかった。オグロく……オグロは冒険者になりたいんでしょ?」

「おうよ。新しい物を沢山見てみたいからな。」

「私も行く。」

だから何で………と言おうとして、やめる。

俺と一緒に行きたい理由なんて、何度も尋ねなくたって不安そうなセラの顔を見ればわかるから。

「……わかったよ。その代わり、しっかりと鍛えさせてもらうからな」

「…………有難う」

そう言うと、泣きながら抱き付いてきてしまう。

「泣くなよ、まったく………」

俺はセラが泣き止むまで、綺麗な銀色の髪を撫で続けてやった。






翌朝、朝食を食べた後、授業が始まる。

先生は院長一人なのだが、授業中に生徒の集中が続くようにさまざまな雑談をすることを心掛けている様だ。院長が黒板に絵を書きながら何やら話している。

「ここ、ミルズの町は広大なピレー平原の真っ只中にあり、王国の中でも北の方にある城郭都市で、更に北にある《昏き森》に対する要衝でもあるんだ。この町自体の歴史はそんなに長くは無くて、30年前の魔物の南への大侵攻の時に作られたんだよ。」

どうも、よく肥えた土地の多い南方に人類の拠点が多数存在するらしく、北の方にいる魔物の量の何らかの原因による増加などで食料が足りなくなると、魔物の南方への侵攻が始まることが多いらしい。

「といっても、冒険者たちが森へ魔物の生息地に入って魔物の数を減らしてるから、そう頻繁に起こったりしないんだけどね。あと、この町からの高台からも見えるかもしれないけれど、西にはもう一つ、ここよりも更に大きいアルフェンという城郭都市がある。あそこには町の中心にダンジョンと呼ばれる特殊な魔物の発生源があって、ダンジョンの成長と共に栄えてきた歴史ある冒険者達の町なんだ。孤児院を出た後冒険者を志すなら、あそこを目指す新参冒険者が多いだろうね。因みに私も、若い頃は冒険者だったんだよ。」

へえ…院長、若い頃は冒険者だったのか、と俺が驚いている間も院長の説明は続く。

ダンジョン。それは1匹の魔物であり、外部の生命体を取り込んで成長する。ダンジョンコアと呼ばれる巨大な魔石を最深部に備え、入ってくる者にはダンジョンが作り出した魔物が襲い掛かってくる……と、院長は説明する。

「ダンジョンの出現原因はよくは解っていないんだけど、魔力が何らかの原因で其処に溜まってしまった時―――魔力溜まりという―――に、濃密な魔力が集まって巨大な魔石になるとダンジョンが生まれるといわれている。だから、モンスターを倒した後に魔石を冒険者達が回収するのは、魔物の強力化を防ぐ以外に、魔石が一箇所に集中して魔力溜りが無作為に発生するのを防ぐためでもあるんだよ。」

流石元冒険者。色々なことを知っていらっしゃる。



そんなこんなで午前中の授業が終わり、昼食を食べたら仕事の時間だ。仕事の時間なのだが………

「……おい、いい加減に離れろよ。」

「………やだ。」

セラ。こいつが全然離れてくれない。おかげで歩きにくくて仕様が無い。

俺と一緒に居るのを嬉しがってくれているの良いのだが、いかんせんこいつは人への甘え方を知らない。過去の話の事を思い出すと、可哀想になって無理矢理離すのも気が引けてしまうのだが、それでも人との距離は学習して貰わなければだめだろう。

「今から仕事探さなきゃならないんだから、離れろって。そういうのは大人になってからだ。」

「え~……。」

嫌がるが、それでも言うことはちゃんと聞いてくれるのか、セラが離れる。

「大人になった後なら良いの?」

「え?……ああ、良いと思う…ぞ?」

あれ?これうなづいて良いんだよな?墓穴を掘ったような気がする。


セラと一緒に孤児院の門を出る。院長が笑顔で、行ってらっしゃい、と言うのに挨拶を返して道へ出る。ああほら、セラへの対処のせいで皆より出るのが遅れてしまったじゃないか。就職先が一杯になってたらどうするんだ。

「何のお手伝いするの?」

「取り敢えず、商店街に行ってみようと思う。」

セラに答えつつ大通りに出て、俺は商店街への一本道を進む。この町はギルドのある広場を中心に、北大通り、南大通り、東大通り、西大通りがあり、その隙間を埋めるように住宅街が並ぶ。北大通りには商店街、南大通りには大規模な高級住宅街。東大通りと西大通りはまだ行ってないのでよくは知らない。

ちらほらといる住人と擦れ違い、冒険者のいる広場を抜け、商店街の前に着く。


「さて、就活と行こうか。」

後ろでセラが、しゅーかつ?、と言っているのを聞きながら、まずは近くの果物屋へと足を向けた。

次回は就職活動回。

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