仕事人
「仕事の手伝いねえ………。」
《索敵》で銀髪ちゃんを追いながら郊外の住宅街を歩く。静かではあるがちらほらと人の影も見える。買い物帰りの主婦、ベランダで本を読みながら紅茶を飲む貴族っぽい老人、連れたってどこかへいく様子の家族…………。
そういったものを眺めながら俺は道をーーーーー
「お?」
道端で疲れた顔をしながら重そうな荷物を持っているおばあちゃんを見つけた。
「仕事の手伝い…。こういうのでも良いのかねえ。」
まあ、そもそも孤児院にいるような年齢の子供にそこまでハードなことを頼むわけもない。あまりに仕事だということで難しく考えすぎていたのかもな。
「おばちゃん、荷物運ぶの手伝おうか?」
「あら、良いのかい?」
近付いて話し掛ける俺の体を眺める。
「じゃあ……これだけ手伝ってもらって良いかい?」
そう言って渡されたのは果物の入ったバスケット。だが、これだけだとあまりにも軽い。…………ふむ。
「いや、全部持つよ。」
「ええ?でもこれ…………」
俺はおばあちゃんの持つ革製のバッグやら他のバスケットやらを持って、片手で上下運動を見せる。
「ほら、大丈夫だろ?」
「あらまあ…。」
まあ、見た目は7歳だからな。ステータスは別にして。
俺はその荷物を道なりに進んだ所にある家に運ぶ。
「ここで良いんだろ?」
「ええ、そうよ。ありがとうねえ、坊や。これ、お駄賃よ。」
そう言って、銅貨を1枚貰った。ええと……賤貨100枚分?いや、多くねえ?
「こんな一杯良いのか?」
「いいのいいの。うちはお金持ちだし………」
そう言われてみると家が結構立派な気がする。立派な門もあるし、大きな庭は手入れもされている。
「あら…………」
「ん?どうした?」
「糸を買い忘れてしまってねえ………もう一度市場にいかないと………」
ありゃ、買い忘れちまったのか。それにしても糸ねえ………そうだ。
俺は後ろを向いて、《キャタピラーの紡糸腺》を発現させる。これは体の中に発現するので、外からは何が起こっているのかわからない。俺は土と火の複合魔法で陶器の棒を作り、そこに指から出した糸を巻いていく。うん、口からじゃないと出せないとかじゃなくて良かった。危うくシュールな光景ができるところだった。なかなか切れないラーメン見たいな。しかも逆流。
棒に糸を巻き終わった俺はそれをおばあちゃんに差し出す。
「これやるよ。」
「あら、これは…………こ、こんな上質な糸を貰って良いのかい?王都の中でも高級商店位にしか無いような上質な糸よ、これ……。」
確かに、糸は絹のようにキラキラと輝いており、とても丈夫そうだ。張り切って最高魔力出力で作ったからな。
と、そこで銀髪ちゃんが俺の《索敵》圏内から出そうになっているのに気づく。
「あ、俺そろそろ行くわ。じゃあ!」
「ちょ、ちょっと、今度お礼したいから名前だけでもーーーーーーー」
危ない危ない、本命を見逃すところだった。俺は人の間を縫って、商店街を駆ける。
「あぁ、うちの目玉商品の陶器が!」
飛んできた高そうな陶器をキャッチして店の商品棚に置く。
「ああっ!危ない!」
馬車に引かれそうだった女の人を助け起こして連れらしき男に押し付ける。
「うわあああ!誰か止めてくれええええ!」
人を乗せたまま興奮して暴れる馬を《威圧》で無理矢理押さえ付ける。
「ま、まずい!あちらには人が……!」
誤射で飛んできた矢を投げ返して的に当てる。
俺の進む場所のそこらかしこでトラブルが発生する。
え?何?何で俺世界に邪魔されてんの?
《称号:《お手伝いさん》を獲得しました。》
《生活魔法スキルを獲得しました》
「つ、疲れた………。」
商店街を抜けて、俺は一息つく。あのあともトラブル続きで大変だった。何で身体能力を駆使してスタイリッシュお手伝いなんぞしなきゃならんのだ。てか矢とかさあ。こんなところで射つなよ。斧とかも飛んできたし。手からすっぽ抜けたとか、勘弁してくれ。
もう《索敵》を使わなくても銀髪ちゃんの後ろ姿が見える所まで来ている。
「声とか掛けた方が良いのか?」
ううむ、と俺が悩んでいると、《索敵》に反応。銀髪ちゃんに建物の影から複数の男が近付いていく。あ、囲まれた。何かナイフとか持ってるよ、怖いねえ。
「はぁ………どうしよう。」
まあ、悩むまでもないか。
銀髪ちゃんの過去に何があったのかは知らないが、院長さんに頼まれちまったからな。銀髪ちゃん自身を見てやれって。そして俺はそれに承諾の返事を返した。
「約束は、守らなきゃな。」
俺は、約束は守る男なのだ。