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我が人生  作者: 下水管
12/24

孤児院

「着いたぞ。ここが孤児院だ」


そこは町の郊外にある、シンプルなデザインの建物だった。豆腐ハウスとはこういう建物を言うのだろう。


でも俺は孤児院に行きたかったのではなく、冒険者をやりたいのだ。金も稼げるし、ゆくゆくは大きな家を作って〜とか考えていたのに。

「俺は冒険者になりたいんだけど」


「は?冒険者?……くくっ、お前みたいな自分の身の振り方も決められないようなガキがなるような職業じゃねえよ。せめて15歳の一応の大人になってから来やがれ」


まあ、確かに少しここで生活してみて、この世界の常識を身に付けて見るのもいいかもしれない。


「小学校からやり直しってか」


「あ?小学校?そんなところ、金に余裕のある人間か貴族が行くような所だろうが。」


ジルバとか言うおっさんに肩を押されながら門を通る。孤児院の前にある広場には走り回り遊ぶ子供達がいる。その後ろで見守るような優しい目をしている老人に近付いていく。


「ラジエルじいさん!子供拾ってきたぜ!」

「拾って………?犯罪はいかんよジルバ君。戻してきなさい。」

「ち、ちげえよ!こいつ、オグロってんだが、親がいねえんだよ。」

「ふむ、そうなのかね?」


じいさんが此方を見てくる。


「あ〜、まあ、はい。気づいたら親は居ませんでした。」

「「…………。」」


いや、だから森の中にいただけなんだって。 そんな顔すんなっての。


「ふむ、わかった。此方でこの子を預かろう。」

「おう、頼むわ………あと、これ今月分の…」

何やら袋を渡している。ジャラジャラした音からして金だろうか。

「いつもすまんの……。何かあったら力を貸すから、頼ってきなさい。」

そうして、おっさんは帰っていった。


じいさんはおっさんを見送って、此方を向く。

「さて、君にはここで簡単な勉強を教わりながら町の手伝いをして貰ったりして身の振り方を覚えて貰う。」

「はぁ、どうも。」

「何かあったら、しっかりと言うんだよ?」

そう言って、こちらの頭を撫でてくる。暖かい手だった。







次の日から、俺は午前中は授業を受けることになった。

案内されたのは、無駄な広さだけはある教室。


「どうも。お世話になるオグロです。宜しくお願いします」


そう言って席につく。

習うのは、字の読み書き、算術を主体に、道徳や体育を学んだりもする。


今日は算術と字の読み書きだ。


算術に関しては、筆算やら掛け算やらを使える俺に支障は無いのだが、問題は字の読み書きだ。何故か聞く方は平気だったのに、書くことが出来ない。これだけは覚えた方がよいだろう。もっとも、聞く方は出来るのだから、一からやるより余程効率が良いので、書けるようになるのもすぐだろう。

授業と授業の間には少しだけ休憩時間がある。その間、外を見ながらずっとボケッとしていた俺をいくつかの目が興味深げに見ていたが、飽きっぽい子供の興味は長くは続かず、午前中の授業が終わる頃にはそんな視線も消えていった。


昼休みを挟んで、午後。ここからは各自門限までは自由時間ということになっているが、本来の目的は、町の方で仕事をしてくることだ。その際、一組四人で行動することになる。だが、孤児は三十人しかいない。必然、残るのは二人。一人は勿論俺。

そしてもう一人残ったのは、無表情の、目立つ髪と目の色をした女の子だった。


銀色の髪と金色の目に褐色の肌。そんな成りをしていれば、赤髪やら青髪やらのいるファンタジーなこの世界の中であっても目立つだろう。


「…………」

「…………」


静かな教室の中で、二人揃って黙りこむ。少し西に傾き始めた太陽が教室の中を照らし、空中に浮く埃が光を反射してキラキラと輝く。


「名前……お前、名前なんて言うんだ?」


ステータスを見て名前確認、というのもできるので門兵の時は普通に見てしまったが失礼な気がしたので、ちゃんと聞くことにした。


「…………わかんない」


ん?名前が「無い」では無く「わからない」?どういうこっちゃ。


「じゃあ、呼ぶとき何て言えばいいんだよ。適当な名前でもつけてやろうか?」

「え?」

「ん?だから適当な名前でもつけてやろうか、って。」

「ッ!名前っ!名前をくれるの!?」


反応は劇的だった。

俺のしたことはただ一つ、呼ぶときに不便だから適当な名前でもつけて呼んでやろうか、と冗談めかして言っただけだ。

それに対し、すごい剣幕で此方との距離を詰めてきた、彼女の金色の瞳を見て、俺は目を白黒させてしまう。


「お、おう。お、お前がいいんなら付けてやるけど………?」


語尾が疑問形になってしまった。


「…………ッ!」

「あ、おい!」


いきなり空中に涙の線を引いて泣き出しながら逃げ出してしまった。俺が何をしたというのだ。


「……はあ、仕様がない。この町を探索しつつ追跡するか。」


俺は《索敵》で彼女の位置を確かめる。視界左上に出てきたウインドウには、孤児院からでていく彼女の光点がしっかりと映っていた。





俺が門を出ると、そこには件のラジエル院長がいた。

「あぁ、オグロ君。町へいくのかい?」

「はい。仕事を探しに。」

「そうかい、最近は物騒なことも多いから気を付けなさい。」

「は〜い。」

そう言って、俺は門を通る。


「オグロ君!私のような大人が君のような子供に頼むのも忍びないが……彼女を、彼女自身をしっかりと見てやってくれ!」


老人とはいえ、あまりにも多い皺の数。

それは、彼が生きてきた人生の苦労の数なのだろうか。


去り際に言った意味深な言葉の意味は良くわからないが……。


「はいよ、任されましたっと。」


苦労を減らす手伝いくらいはしてやろう。俺は年寄りには優しいのだ。


褐色の肌って良いですよね。

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