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王室守護騎士①

One year later……


東京国際空港。レビアスからシンガポールを経由して日本にやってきたのは、レビアス王室近衛師団の7期生で、クロノス家の次男であるレイ・クロノスだった。レイは王室近衛師団の制服と、ベレー帽、ロングコートや下着など、その他多数の必需品を鞄に詰めこんていた。なぜならレイは、今日から約3年間、警護対象が通う白樺学院高等部にボディーガードとして派遣されることになった。


事前に、数人の同期が護衛についているが、大使館から念の為と、レイにも派遣要請をかけた。迎えも、在日レビアス大使館から来る予定であるが、時間が過ぎても中々やって来なかった。レイは売店で購入したエスプレッソコーヒーを啜りながら、雑誌を読んで暇を持て余していた。


レイは女性の様な中性的な顔で、ショートなツヤのある金髪が特徴的な青年である。純血なレビアス人であるため、瞳の色は緑だ。彼の前を通り過ぎる利用客が、チラチラとレイの顔を見ている。それほど、見ていて悪い気はしない容姿である。


「まだかなぁ……」


余りにも迎えが遅すぎるため、空港内のカフェで時間を潰すことにした。レイはカフェに入ると最寄りの席に座って、ウェイターにクロワッサンとクラッシュベリー、そしてコーヒーを注文する。これらは、レビアスの一般家庭で標準的な朝食でもある。


レイが朝食を食べていると、カフェに数人の男たちが来店してくる。男たちは一般の客とは違い、どこか挙動不審であることを、レイは見抜いていた。この時、とっさに身を低くした事が生死を分けた。


突然、男たちはカバンから黒く鈍い輝きを放つ物を取り出した。東欧製のサブマシンガン“Vz61”スコーピオンを手に持った男たちは、カフェの客に向けて銃を乱射した。怒号と悲鳴が飛び交い、発砲時に出るきな臭い火薬の臭いが辺りに充満する。発砲が止むまで、レイは物陰から一切動かなかった。銃弾が命中して割れたコップから、コーヒーが流れ出る。


しばらくすると銃撃が止み、次に男たちはカフェの外に向けて銃を乱射する。紛れも無い、彼らはテロリストである。そして、今日配属されたばかりのレイは、テロ事件に巻き込まれてしまった。


レイは手元に置いていた鞄を開ける。銃火器類は大使館から受け取る予定であったため、持ち合わせていない。武器になるものといえば、鞄の枠に仕込んでいたガロート(ピアノ線)のみであるが、レイには十分過ぎた。


「パパ、ママ……」

「君、大丈夫?」


身を低くしながら生存者を捜していると、ぬいぐるみを持った小さな女の子が、レイと同じ様に机の下に隠れていた。手に持っているテディベアは、涙と血で赤く染まっていた。少女の前には、両親と思しき男女が頭を撃たれて床に倒れ伏せていた。


「お、お兄ちゃん。パパとママが……」

「大丈夫、お兄ちゃんが君を守るからね」

「本当に?」

「うん。お兄ちゃん王室守護騎士カサンドーラなんだ。約束は絶対守るよ」

「騎士さん?」

「そう、騎士さんだよ。さぁ、行こうか」


レイは少女の手を取ると、鞄を持ってカフェから脱出する。確認しただけでも四人いたテロリストは、2人ずつ西と東に分かれていったのを見た。しかし、レイ自身は今回のテロは四人以上のテロリストによって行われていると想定し、むやみに交戦せず、安全地帯への脱出を最優先とした。


テロリスト達の持つ三倍の火力が無い以上、どこかの漫画の主人公の様に対抗する様な愚行は行わない。たとえ、目の前で無抵抗な市民が殺されていても。それが、戦いの基本であり、王室守護騎士の基本概念となっている。角から覗いてみれば、生き残った市民に対して、テロリスト達が問答無用で銃を乱射していた。警備隊が応戦しているが、火力に圧倒されて膠着している。


レイはテロリストに見つからない様に注意を払いながら、その中の一人に近づく。物影を使いながらゆっくりと近づくレイに、テロリストは気づかなかった。


「フン!」

「がはっ!?」


鞄を振りかぶったレイは、テロリストの後頭部に向けて振り下ろす。テロリストが前のめりに倒れると、首にガロートを巻きつける。それを交差して締め付けると、ガロートは動脈や肉を切り、脊椎まで食い込む。もちろん、テロリストは動脈を切られたことによる出血多量で死んでしまう。死んだテロリストでの死骸から、スコーピオンを奪い取る。


すると、テロリストの一人がレイの存在に気づく。レイはとっさにナイフを投げつけ、テロリストの手から銃を弾き飛ばす。そのまま怯んだ所を投げ技で壁に投げつけ、動けなくなった所を警備員の遺体から拝借した手錠で拘束する。


「とりあえず2人か……」


これ以上は自分の命を危険にさらすと判断し、拘束したテロリストを連れ出すことにした。一人ならどうにかなるが、少女を連れている以上、安全策をとるに越したことはない。片手でテロリストを引きずり、外へと向かう。


外では、すでに警察の特殊部隊が集結し、今まさに突入しようとしていた時だった。目出し帽を被ったテロリストを引きずっているレイを見て、文字通り固まっていた。


「手を挙げ……ろ?」

「テロリストを一人捕まえました。一人はすでに息がなかったので。この子は親が犠牲になってしまって」

「そ、そうか。ご協力、感謝する」


テロリストとスコーピオンを警官に手渡し、レイは少女を肩車して救急車へと連れて行く。救急隊員に少女を託すが、少女はレイの服の袖をギュッと握る。


「騎士さん、ありがとう」

「うんん、無事で何より。隊員さん、あとは頼みます」

「了解しました」

「ねぇ、騎士さん。私も大きくなったら、お兄ちゃんみたいな騎士さんになるから」

「待ってるよ。何かあれば、レビアスに来ればいい」


レイは少女の頭を撫でると、迎えに来たハイヤーに向かう。


「僕はレビアス王室近衛師団所属、王室守護騎士カサンドーラのレイ・クロノス。また会おうね」


レイはハイヤーに乗ると、颯爽と空港を去っていった。

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