プロローグ
本日は、終戦記念日です。先の大戦で亡くなられた犠牲者の方々にご冥福をお祈りし、遺族の方々には深い哀悼の意を表します。
ヨーロッパ、地中海の島国であり、周囲をリビア・ギリシャ・イタリアに囲まれているレビアス。この国に伝わる“竜人の末裔”を意味するこの国は、大航海時代から複数の大国による植民地支配を経験した。幾度となく祖国が内戦の戦地と化し、国の存亡が危ぶまれた。しかし1965年、アメリカや日本の助力を得て独立戦争を勝利し、無事に独立を果たした。
独立を勝ち抜いたレビアスには地下資源が豊富だった。1960年以降、国内に海底油田を複数持ち、天然ガス開発。そして、死火山から採取されるレアメタルの数々。GDPはアメリカに次いで2位となり、福祉大国として世界に名を知らしめた。
電気・水道はもちろんのこと、教育や福祉・医療も保障され、国外留学生に対する留学費免除、そして様々な公共サービスが充実している。
国家の中枢は王室、グレーナ女王2世が君主であり元首である。他には、国会議事堂の役割を持つ元老院、憲法の番人で裁判所の役割を持つ枢密院、国防省やレビアス版CIA“聖堂騎士団”など、優秀な機関を設けている。
特に軍事は世界有数の実力を持ち、数々の紛争に介入しては、他国が舌を巻くほどの最新兵器を次々と投入する。その強さは兵器のみではなく、将兵一人ひとりが卓越した戦闘能力を持っている。レビアス王国軍と戦った各国の軍人は、揃って「レビアスとは二度とやりたくない」と口にしたらしい。
そんなレビアス軍でも、王室を守護する精鋭達がいた。正式名称は“レビアス王室近衛師団”人は彼らを“王室守護騎士”と呼んだ。しかし、この部隊に入るには一つ条件があった。
女性である事だ。
しかし、物事には例外がつきものである。
「おら、こっちに来い!」
「き、君たちは一体、我々をどうする気だ?」
「あ?金だよ金。レビアスさんは金持ちだろ?ちょっとぐらい、分けてもらえんかなぁってな」
「だからと言って、こんな事をしていいと、うっ!?」
「ガタガタ抜かすんじゃねぇ!殺すぞ!?」
トルコで行われる中東平和会議に出席するレビアス使節団は現在、トルコの国際空港でテロ事件に巻き込まれた。テロリスト達は乗客がレビアス使節団だと分かると、一般人の人質を解放してレビアス人だけを機内に残した。先ほど、テロリストのリーダーと思われる男に殴られたのは、使節団の代表であるゼフ・ラインゲート外相であり、ラインゲート家はレビアス王室と密接な関係にある一族でもある。
「くっ、貴様ら、我々にこんな事をしてどうなるか……」
「どうなるかって?そりゃもちろん、上手くいきゃ大金持ちになるか、噂のカサンなんとかって言う雌豚の集まりが俺たちを殺すんだろ?」
「カサンドーラだ。彼女たちを愚弄するな」
「まぁどうでもいい。こちらは金が貰えればそれで満足だ。あとは……」
テロリストのリーダーが両手を後ろで縛られて床に座らされていた金髪の女性を立たせ、機体後部の貨物室へと連れて行こうとする。それを見たゼフが、慌ててリーダーに制止を呼びかけた。
「受け取りまで楽しませてもらおうか?」
「や、やめなさい!」
「騒ぐなっ!こっちはレビアス人の味ってもんを知りたいんだよ」
「悪い事は言わない、やめなさい!」
「うるせぇ!」
リーダーはゼフの言葉を無視して、機体の後部にある貨物室へと向かう。入ってすぐ、スーツを着た金髪の女性はリーダーに床へと押し倒される。しかし、女性は少しも表情を変えず、リーダーが気付かないほど小さく微笑んでいた。
「さあいくッ!!」
「外相が止めろって言ったでしょう?」
チャックを下ろした瞬間、女性は拘束を解き、右手の袖から一瞬でナイフを取り出した。そして、迷う事なくリーダーの首へと突き刺した。首を刺されたリーダーは、頚動脈を引き裂かれ、何かを言いながら死んでしまう。
「誰が雌豚ですか?全く、雄豚の血で汚れてしまいました。ユーナ、ミシェル、首尾は?」
すると、影からナイフや消音器付きのハンドガンを持った二人の女性が現れる。
「隊長、貨物室の警備を制圧しました。残るはメインフロアと道中の連中のみです」
「人質の命を最優先。ゼフ外相の担当は誰でしたか?」
「レイです、アンナ隊長」
「レイですか。あの子なら何とかするでしょう……さて」
アンナと呼ばれた金髪の女性は、鹵獲したハンドガンと引き抜いた血だらけのナイフを両手に持つ。
「ユーナ、テロリストの数は?」
「13人です、隊長」
「反撃開始といきましょう。彼らに我々の恐ろしさををお見舞いしましょう」
「了解」
アンナは貨物室の扉を蹴り破る。たまたま扉の前で警備をしていたテロリストが一人、その衝撃で吹き飛ばされてしまう。アンナは容赦なく、いきなり倒れて状況が理解できないテロリストの頭部を撃ち抜く。
「ユーナは右、ミシェルは左」
「了解」
「了解です」
三人は分担して敵を撃ち抜いていく。結果的に奇襲となったので、大半のテロリストは何が起こったのか分からないまま、殺人マシーンとなったアンナ達に殺されていく。頭部を撃ちぬき、首を切り、胸に突き立てる。機械のように正常な射撃のおかげで、無駄撃ちは一切行われないまま、人質のいるエリアへとたどり着いた。
「あと何人ですか?」
「5人です」
「レイに伝えて下さい。暴れていいと」
「了解、レイ、スタンバイ」
5秒後、座席室から爆音が聞こえてくる。それと同時に拳銃を構えたアンナ達が突入する。突入すると、テロリストが目と耳を押さえていたので、アンナはフラッシュバンであったと理解した。
アンナ達は、閃光手榴弾の爆発と同時に中へと突入する。しかし、すでに残りのテロリスト達は床に組み伏せられており、両手は手錠で拘束されていた。
「隊長!拘束しておきました!」
「ご苦労様レイ。ゼフ外相、ご無事ですか?」
「助かったよアンナくん、おかげでみんな無事だ」
「いえ、職務ですので」
そう、彼女たちこそレビアスの誇る精鋭中の精鋭、レビアス王室近衛師団、王室守護騎士だ。拘束を解かれたゼフは、隣で座り込むレイに声を掛ける
「君が護衛でよかったよ、レイくん」
「いえいえ、ご無事で何よりです」
「うちの息子に紹介したいほどだ。はっはっは、見合いとは少々急ぎ過ぎか」
「あの、ゼフ外相?」
「どうしたんだね?急な話過ぎたか」
「私、男です」
「は、はぇ?」
「近衛師団に4人しかいない男のカサンドーラです」
それを聞いたゼフの開いた口がふさがらない。そう、近衛師団には男のカサンドーラがいたのだった。
これは、数多い女性王室守護騎士の中で活躍する男性守護騎士の物語である。