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2話

結局、自習室に戻ってきりさんと王子(仮)を探したが王子の姿はなかった。すれ違いかもしれないからと、閉館時間まで粘ったがその日再び王子の姿を目にすることはなかった。

俄然やる気になっていたきりさんもここまで来るとあきらめモードになりつつある。それでもあきらめきれない私はまだ近くにいるかも知れないからと図書館の外周を回りたいときりさんに頼んだ。

「ことちゃん、初恋のお相手を探したいのはわかるけどそこまでするとなると、次のステップは限りなくストーカーに近づくんよ?」

「ストーカーでもいいから、お願いっ!きりさん」

「しょうがないなー。恋愛とかに興味ないことちゃんがそこまで言うのは珍しいし、おもしろいから付き合ったげるわ」

「きりさん、ほんま神っ!!」

「面白半分ってとこにはつこっまんのんね・・・・」

きりさんが呟いたことについてはノータッチで。

とりあえず、きりさんが信じてくれているのもうれしくて私はすっかり有頂天になっていた。

「どんな服装とか、髪の色とかは?」

きりさんは至極単純なことを私に尋ねた。

「えーっとね、髪の色は暗めの茶色で、顔はとりあえずかっこよくて、綺麗でうん。見たら絶対わかる・・・・」

「はいはい、ええけん続けて」

「ごめんごめん。白い半袖シャツに、普通のジーパンで、黒いリュック。あ、結構大きめの」

なんだか、ショッピングモールで流れている迷子のお知らせみたいだなと思いながら私情を挟まないようにしながらきりさんに王子の特徴を伝える。

「ふむふむ・・・・とりあえず一周してみよっか」

小首を傾げるきりさんは探偵のようにメモを取っている。

「うん!」

意気揚々と出発した私たちだが、何の成果もあげあれないまま帰路につくことととなってしまった。

田んぼと畑、ときどき民家。という割とポピュラーな田舎に住んでいる私たちは近道という名の田んぼのあぜ道を歩く。さくさくと草を踏むたびにカエルが殺されてはたまらんと田んぼに避難していく。

小学生のときはこれがなかなか面白くて「人間様のお通りだー」とふざけて言っていたことがある。きりさんに見つかってあんた趣味悪いと言われてからはいちどもやっていないが・・・・

しばらくあぜ道を歩くと住宅地に続く大きめの通りに出る。

「なあ、ことちゃん。そういや、こないだの先輩とどうなったん?」

「先輩?」

「えっ?忘れたん?」

「ああ、あれね」

つい先日の登校日の日。私は学校の帰りにクラスの女子にも割りと人気でひとつ上の先輩に一緒に帰ろうと誘われたのだ。はじめはどういうことかわからなかったし、新学期になってクラスの子たちに冷ややかな目で見られるくらいならとやんわりと断った。しかし、案外と強気な先輩は私の意見などまったく聞く耳を持たず結局押しの強さに根負けした私はその先輩と一緒に帰ることになった。

話すのは初めてだったけど、悪い人ではなかった。

しかし、どがつくほどの田舎において帰り道に遊べるようなスポットなどまず存在しない。少し歩けば景色の綺麗に見える高台もあるが、地元人間にとってそこは高校生が喜んで使うようなデートコースとは言いがたい。

うーん、いったい何がしたいのかと思っていた私はついに何の御用ですかと尋ねてしまった。

帰ってきた言葉は予期できなくもない答えだった。

「俺と、付き合ってくれん?」

・・・・。

私はそれに応じなかった。

つまりはごめんなさいということだ。

相手は怒ったような顔をしていたのかそれとも泣きそうだったのか私は見なかった。でも恋愛経験など皆無に等しい私がせっかく告白されたというのに断ったのはなぜか。

それは告白から約10分前に遡る。

「うわ、これいっつも邪魔なんよな~」

先輩がまあまあ整った顔をしかめながら足元を見る。

先輩の視線の先にあったのは車に引かれて死んだ狸の亡骸だった。

まだ引かれてそれほど時間は経っていないのだろうか損傷はそこまで激しくなく、カラスにつつかれた様子もない。しかし夏という季節柄腐敗するまでにそれほど時間はかからないだろう。

露骨に嫌な顔をする先輩に私はその先輩以上に嫌な気分になった。山の多いこの辺りではよくあることだが、この狸を殺したのは人間だ。可哀相に。そんな言葉すらでてこんのかおまえは。

「そうですかね?」

と私はそう一言先輩に返しただけだった。

私の剣呑な雰囲気を感じたのか先輩もそれ以上は言わなかった。

私はそっと持っていたハンカチを狸の亡骸にかぶせた。とくになんの意味も持たない結果自己満足な行為だ。それでも何かせずにはいられなかった。

私が告白を断った原因はここにある。

ハンカチをかぶせようとしたときに先輩はこういったのだ。

「川崎、よくやるよな。きもくない?」

はあ?と言い返しそうになるのを何とかこらえわたしはそれに答えなかった。

答えたくもなかった。

たかがこんなことで・・・・とあきれる人のほうがきっと多いもかも知れないけどこの一連の出来事で私にとって先輩は知らない人から嫌いな人になったのだ。

そんなわけで私はこっぴどく先輩を振ってしまったのである。


それを聞いたきりさんは少しの沈黙のあと爆笑し始めた。

「ほんっといいざまその先輩っ。なんていったけか、島田か。ことちゃんだったらぼーっとしてるしかわいいけど落としやすそうと思って安易に近づいたのがいけんかったわ。いたいわー」

「なんか、めっちゃ失礼なこと言われた気がするけどまあいいわ。そういうこと。ほんと幻滅した」

「ことちゃんえらいっ」

むりむりとぶつぶつ呟く私をきりさんは笑い涙をこらえてほめまくった。こんなことでムキになって、まったく自分の幼さに辟易する。

うれしいのかうれしくないのかわからんし。

そういうきりさんは付き合って長いちゃんとした彼氏がいたりする。それが学校の先生でっていうなんともドラマチックな恋愛なのだけど。

「そういうきりさんはどうなんよ?」

「聞きたい?」

「やっぱやめる」

「じゃあ聞かんの」というきりさんはいつもどうりラブラブに違いない。

学校ではまったくそんな空気を感じさせないきりさんがかっこいい。

しょうもない話に花を咲かせつつ私たちは夕闇の中を闊歩する。

しかし、相変わらずすごい湿気と熱帯夜間違いなしの気温に辟易する。

あちーあちーといっているうちはまだましである。


そんな時、きりさんがふと立ち止まった。

「きりさん、どした?まさか、やばいのおった?」

やばいのとは幽霊のことである。きりさんの話によれば外見がかなり、かわいそうな者もいるという。たとえば事故にあったその状態のままを想像すればおわかりいただけるだろうか。もしくはきりさんが見えていることに気づいてちょっかいを出してくるやつなど。

「ことちゃんあれ、見えるよな。だったらもっとやばい。じゃってまだこっちにおるもん、あの人」


・・・・・え?



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