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プロローグ

別の作品にシャナの戦記譚がありますが、しばらく書いていなかった為、

リハビリ代わりに書き始めたのが今作品です。

その為、更新は不定期であり、大幅な改訂もありえますので

それが嫌な方はお戻りボタンを押すことをお勧めいたいします。

英雄になりたかった。

祖国を救う救世主になりたかった。

千の敵を相手に出来る武勇が欲しかった。

万里の彼方からでも勝利を呼び込む軍師になりたかった。

少数で大軍を覆すような常勝無敗の将軍になりたかった。

だから、努力をした。

日が昇る前に剣を握り、日が落ちても書物を読み漁った。

東に高名な学者がいると聞けば、教えを請いに行き、西に剣豪がいると聞けば、剣を片手に勝負を挑んだ。

血反吐を吐きながら剣の腕を磨いた。

寝る間を惜しんで兵法を学んだ。

だが、どんなに努力をしても越えられない壁は存在した。

決して一位は取れなかった。

結局は中途半端な剣の腕と兵法の知識を持っている凡人という存在にしかなれなかった。

祖国を救う救世主にもなれなかった。

5人の敵を相手にするのが精一杯のちっぽけな武勇しかなかった。

目の前にいる敵から勝利を呼び込むのもやっとのへっぽこ軍師でしかなかった。

大軍を相手に負けないように戦うことしか出来なかった。

どれだけ足掻き、苦しみ、求め、手を伸ばしても。

英雄という唯一無二の人間にはなれなかった。

結局は神から選ばれなかった、ただの凡人でしかなかったのだ。



つややかな極上の絹のような黄金の髪。

見る者を虜にする何物にも動じることのない意志を宿した碧眼。

ふっくらと紅い蠱惑的な唇。

スタイルもまた素晴らしい。

胸は豊かに盛り上がっており女性らしさをとことん強調している。

名のある巨匠でも作ることは出来ない、胸から腰にかけての優美なラインは同性でさえも溜息をつくことだろう。

周囲からは傾国の美女と称されているらしいが、むべなるかな。

その美女は今多数の観衆に見守られながら、一人の男と戦っていた。

いや、正確には虐殺やら、なぶり殺しといった表現のほうが正しいのかもしれない。

何故なら、戦闘開始から数秒と持たずに男は敗北を喫していたからである。


「おほほほ、御免なさいね。格闘術は淑女の嗜みですの」


その傾国の美女は男ならしゃぶり付かずにはいられないむっちりとした美脚を上に真っ直ぐと伸ばし、男の股間にめり込ませていた。

どんな物語に登場する英雄と呼ばれる人種には一つや二つ必殺技があるものだが、この必殺技以上に男を苦しめる技があるだろうか。

数多の男達の未来と青春を奪ってきた、この恐るべき技は『宦官製造機』という物騒な名前を付けられていることからもその恐ろしさが分かろうというものである。


――あれは痛い。


観衆に交じってその様子を見ていたジークは跪いたまま動けない哀れなる宦官候補生に「今後の人生に幸があらんことを」と軽く祈っていた。

どんないけ好かない人物であれ、性を同じくする者。

あの痛みを共有する仲間としては祈らざるを得ない……。

それにしても目の前にいる美女がその気になれば、色気抜きで物理的に国を傾かせるかもしれないと半ば確信した。


「私を嫁にと願うには役者不足ね」


ふんと鼻を鳴らし、うずくまる男を気にすることなく美女は颯爽と身をひるがえした。

蹲ったまま立ち上がらない元男を見ながら、背筋をブルブルと震わせていたジークは野次馬を押しのけてズンズンと突き進む美女に気付いて、慌てて追いかけた。



「ティア様、お待ち下さい!」


速足で突き進む皇女にどうにか追いつき、軽くジークは息を整えた。


「あらジーク遅かったじゃない。ちゃんと付いてこないと副官失格よ」

「いいのですか? フォルター様をあのままにして」


皇女の言葉を聞き流し、問いかけた。


「いいの、いいの。死ぬわけじゃないし。決闘で負けた相手に同情は禁物よ。それにあとはお付きの家来とかがどうにかするでしょ」


ドライグ帝国の第一皇女ティアは手をひらひらとさせた。


「ですが、ティア様。それに、さすがにそろそろ相手を決めたほうがよろしいのでは? 陛下もヤキモキしておられますが」


御年20歳になる、ティア皇女には毎年積み上がるほどの縁談話が来るという。

しかし、どれほど好条件の縁談話が来ても一顧だにせずに断ってしまう。

14歳で結婚も珍しくない時代である。

20歳にもなれば、年齢的にも行き遅れになりつつあるが、本人は気にしていない様子で、陛下も頭が痛いことだろう。

何よりも自分より強い男でないと結婚しないと常々広言しており、一生独身を貫くという宣言かとジークは勘繰っている。

その為、時たま彼女を嫁にしようという(ジークには狂気の沙汰としか思えないが)物好きが、勝負に勝ったら結婚という非常にシンプルな理由で決闘を申し込むのである。


「あのエロボケ親父のことなんか気にしなくていいわよ。せいぜい厄介払いしたいだけなんだから」


忌々しそうにティアは呟いた。

とはいえ、厄介払いもしたくなるだろう。

末代まで祟られる厄を一刻も払いたくなるのは人情というものだ。

すぐに同意してくれないジークを見て、ティアはふと悪戯心を出した。


「そうね。それじゃ、ジークが婿候補に立候補してくれる?」

「ぶほっ!」


予想だにしない言葉を返されたジークは肺に溜まっていた空気を一気に吐き出した。


「ほらほら、どうよ? おっぱいは大きいし、スタイルも抜群、家柄も良好。こんな優良物件を男なら放っておかないわよね?」


一番大事な性格が破綻しているわっ!という言葉を必死に飲み込んだ。


「いやいや嫌嫌。大変残念ですが、私では皇女と釣り合いが取れません。私は底辺で彷徨う十把一絡げに過ぎない平騎士です。一方であなた様は皇女であらせられます。誰が見ても私では釣り合いません。えぇ、本当に残念無念なことです、ティア様」


それは、それは極めて残念そうな声をジークは出していたが、奥底に潜む本心は消し切れていなかったようだ。

その証拠に、


「そんなに嫌がらなくてもいいじゃない」


むぅと可愛らしく頬を膨らませ厄……ティア皇女は不機嫌そうな顔になった。

だが、騙されてはいけない。

一部で「邪邪じゃじゃ竜のティア」と呼ばれる存在である。

一般的に性格が激しく、好き勝手で我が儘な女性のことをじゃじゃ馬と呼ぶが、彼女を表現するには馬ですら可愛いものである。

さらに物語で悪さをする竜のことを邪竜とも呼ぶ為、それと掛けて付けられた通り名である。

実際、彼女の所業を見ると、深く納得してしまう。


「まぁ、いいわ。早く本部に行くわよ。近衛騎士団独立遊撃隊副官」

「かしこまりました」


この女上司がわざわざ正式名称の役職名で呼ぶ時は機嫌の悪い時だと承知しているジークはこれ以上の不興を重ねないうちに彼女の後を追いかけた。


――それにしても、変われば変わるものだな。


と、ジークは一月前の自分の立場を思い出していた。


どうも、シャナの戦記譚をお待ちの読者様は申し訳ありません。

どうも、以前のように書けるか不安でしたので、

リハビリ代わりに書いたのが今作品です。

一応、10話程度は書き溜めていますが更新は不定期であり、

シャナの戦記譚を優先いたしますのでご了承のほどをお願いいたします。

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