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ユビフの蛇足  作者: hal
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高橋さんの蛇足

本編 ユビフで召還!07-2高橋視点の続きです。

何故か俺は、歌姫直々のご指名により、企画寄りのサウンドミーティングに参加している。

サウンドプログラムを一度も書いたことのない俺がこの場にいる意味が全くわからないので、頭のなかに別タスクを立ち上げ、自分の企画の為の作業を行っていた。

数時間経ち、小休憩を挟むことになったのにも気が付かず、タスクを進めていると、俺の横に歌姫が座っていた。


「……こないだは、どーも。」


正直、こいつの顔はもう見たくない。

可愛い後輩を守りきれなかったショックで、あれ以来、あの後輩とは顔を会わすことすら、出来ていない。

歌姫に棄てられ酔い潰れた保田が得意気に語ってきた歌姫の数々の性癖を思い返し、どんな風にあの無垢な娘が調教されるのか、そんな想像をしてしまう自分に嫌気がさす。

歌姫の前にたつと負け犬のような気分にさえさせられた。


周囲に聴こえないよう、抑えたトーンで歌姫が言う。


「ケータ、久しぶり。ね、ユウキと連絡つけてくれない?連絡先交換し忘れちゃったの。……何、その嬉しそうな顔。ムカつく。

あのね、言っておくけど、ユウキはちゃーんと、男の子だったわよ?確認したもの。

あれだけ可愛い見た目してるから普通は判らないと思うけど、体も、中身も、普通の男の子。

私、中性的な男の子大好きだから、何となく気づいてたのよね。」


……はあ?

な、に、いってん……の?


「ぷっ!その顔、酷い!

知らなかったのね、ちゃんと本人に聞いてみれば?道、間違えちゃってたわねー。あはは。」


そう言うと、混乱する俺の名刺入れから一枚抜き取り、声を高くして言った。


「じゃ、また後でね。」


そのハートマークを語尾につけたような口調に、周囲にいたメンバーがぎょっとしたような顔で振り返っていた事に、俺は気づいていなかった。




数時間に及ぶミーティングが終わり、俺はフラフラと会議室を出て、さっさとフロアに戻ろうとしていた。

もちろん、あの後輩に聞いてみる、為にだ。

するとエレベータホールの歌姫が、よく通る声で言った。


「ケータ!私の事、ちゃんとお見送りしなさいよね。それと、後で連絡するからね?」


「……あ?ああ。」


答えて、漸く気づいた。



これは、罠だ。



家庭用の企画、ディレクション陣営、サウンドの面子、アーケードのメインメンバー、その中に一人無関係な俺を混ぜ、さらに歌姫との個人的な親しさを強調させる。

この間の飲み会で最後まで一緒に呑んでいた、という事実を覚えている人も多いだろう。




歌姫のお気に入り。




全員が、俺に注目していることに気づき、背筋を冷たい汗が伝った。


エレベータホールの歌姫、樹里が、舌を出し、親指を下向きに突き立てる。



目眩がした。




※※※



「当たり前じゃないですか!!僕、普通に、男ですよ!

まさか、気づいてなかったんですか!?」


石川ディレクター、中村チーフ、高橋さん、僕、という面子のミーティングが開催され、会議室をとった上で話をしている。

高橋さんは、この間の飲み会で、かなり遅くまで一緒に飲んでくれた。気さくで楽しい先輩だ、と思っていたのだが、どうやら結構、上の立場の人だったらしい。中村チーフの同期では一番の稼ぎ頭だそうだ。


「全く、気がつかなかった。」


石川ディレクターが言った。

えー。履歴書、とかみてますよね……。


どうやら高橋さんが、石川ディレクターに、僕が男だと伝えてくれたらしい。


「だから、篠田くんをあんまり特別扱いしないで、残業とかちゃんとさせて、実力伸ばしてあげた方がいいですよ?」


前作のチームが修羅場だった時、泊まって作業をしようとしたら強引に帰された。その事を言っているんだろう。

高橋さんは、別チームのしたっぱの様子まで把握しているのか。凄い人なんだなあ。


「えっと、篠田さん、そういう扱いをしても、大丈夫かな?」


中村チーフが、おずおずと言う。

ていうか!何故!?


「僕はむしろ、普通に男として扱われないのは嫌です!」


「ユーキちゃん、じゃ、とりあえず、僕って言うのを止めようか。なんか萌えるから。」


???


「『僕』って普通、ですよね?だって会社だし。この場合『私』のが問題ですよね??」


「いやー、なんか僕っ娘っぽくてね。うん、そーだ、『俺』にしよう。さすがに俺っ娘属性、とかないし。」


石川ディレクターが笑いながら言う。


高橋さんは唖然とした顔で石川ディレクターを見ている。中村チーフは、うんうん、と頷いている。


……僕抜きの多数決で、『俺』に決まったらしい。


「じゃあ、ユーキちゃん、『俺』って言ってみて?」


「……俺。」


「いいね!じゃあ、『俺の剣を受けても立っていられるとは!?』」


「……俺の剣を受けても立っていられるとは……」


「つぎね。『俺より強いやつに会いに行く!』」


「……お?俺より強いやつに会いに行く?」


「おらとかも可愛いよね!『オッス、おらユーキだよ!』」


「オッス、おらユーキだよ!」


「じゃ、俺、仕事に戻るんで。」


高橋さんが席をたつ。


「それ、いいね。ユーキちゃん?『俺、仕事に戻るんで。』」


「え、え?俺、仕事に戻るんで。」


「そう、いいねー。じゃあ次は……」


石川ディレクターのお遊びは一時間近く続いた。中村チーフは止めもせず、ニコニコしながら途中からは録音までしていた。



「うーん、もうネタギレ、かな?中村くん、なんかない?」


「つ、疲れた……。」

精神的にも肉体的にも、ヘトヘトに疲れた……。


「あ、別に言わせたいセリフじゃないんですが、残業OKになった、ということで、大事な仕事を篠田……くん?に頼もうかと思ってまして……。」




そして、僕……いや、俺は、中村チーフから、キャラクターデザインの仕事を承ったのだった。

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