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S・D・G  作者: ピジョン
第2章 黄金病

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(過去)皇竜戦

 レオンハルト・ベッカーの最後の戦いが始まった。

 『竜の巣』――ドラゴンマウンテンの山陰に身を潜め、傷の回復を図る皇竜を発見し、レオンハルト・ベッカーは二本の指を天に掲げ、パーティに合図する。その意図は――


 二人でやる。


 というものだ。

 アレン・バラクロフは、ぽかんと大口を開けて、天に突き立ったレオの二本の指先を見つめていた。

 ルーク・エリオットは悔しそうに俯き、アキラ・キサラギとニアは、互いの不和を忘れたのか、視線を合わせ、困惑した様子だった。

 レオは言った。


「ありがとう! ありがとう、みんな! 俺をここまで送ってくれて! もう十分、十分だ!」


 そして駆け出したレオは、竜の巣の断崖絶壁に身を翻す。

 気でも違ったか。皆がそう叫ぶより早く、天の頂に飛ぶのは、白い竜。心臓部分が燦然と白く輝いている――『アレスの珠』だ。

 イザベラは、その名を叫ぶ。


「レオンハルトーーーーっ!」


 世界にただ一頭の白い竜は、イザベラの胸でしか休まない。その白竜の背に、燃えるような金髪を風に靡かせ、青い瞳の威厳あるエルフの女が独り立つ。

 最後に振り返り、パーティの面々に向けて、『メインヒロイン』イザベラ・フォン・バックハウスは言った。


「さようなら」


 レオンハルト・ベッカーが最後の戦いに伴うのは、イザベラ・フォン・バックハウスのみ。その意思表示だった。


 彼らの旅はここで終わりということだ。


 低く、曇った空を突き破り、イザベラを乗せた白竜が、天高く舞った。



◇ ◇ ◇ ◇



「天を切り裂け!」


 イザベラの『メテオ・インパクト』を皮切りに、壮絶な戦いの幕が上がった。

 宇宙空間から召喚された小型の隕石群が竜の巣の山肌に直撃し、破壊して爆散させる。

 やはり隕石の直撃を受けた皇竜が睡眠から覚醒し、傷つき、破れた翼を振り上げて激怒の雄叫びを山間に響かせた。


「今よ! やりなさい!」


 イザベラの叫びに呼応するかのように白竜が吠え、その顎門あぎとから赤い熱線を撒き散らした。

 雷のように音が後から降り注ぎ、皇竜は付近の一帯ごと爆炎に包まれた。

 先制攻撃は成功した。だが――


 燃え盛る炎の中から、破れた翼をはためかせ、赤黒い鱗を纏う巨躯の竜が舞い上がる。


「……まだ、飛べるの……?」


 白竜を盾に押し寄せる爆風を避けるイザベラの頬に、冷たい汗が伝う。この先制攻撃で竜の巣は形を変えてしまったが、皇竜はまだ健在だ。全身から鮮血を滴らせ、瞳は憎悪に燃えている。

 これが諸悪の根源である。余りにも巨大な力の制御を失い、数多の天変地異を引き起こし、緩やかに、嗜虐的に、世界を破滅へと導くもの。


 この狂った竜の目的は何か。


 それは誰にもわからない。そんなものは、既に超越しているのだ。ただ、『存在』しているとしか言いようがない『災厄』の形。それがこの『皇竜』という存在。


 白竜が再び熱線のブレスを撒き散らす。

 皇竜はこれに巨大な爆炎のブレスで応戦し、周囲は大爆発を起こした。


「レオンハルト! ここから離れなさい!」


 戦域の拡大が予想を上回り、このままではパーティを巻き込む恐れがある。イザベラのその忠告に、白竜は咆哮を上げ賛意を示すと、皇竜を挑発するように一度旋回し、更に高い山間を目がけ、飛んだ。


 雲を切って行く。


 白竜は皇竜に比して小さいが素早い。戦闘の優位はこちらにある。後方より追い縋り、空を駆ける皇竜を睨み付け、イザベラは戦略を構築する。


 先の先制攻撃は上手く行ったが、『上手く行かなかった』。

 回復を図る皇竜は眠っており、完全に無防備だった。攻撃のタイミングとしては最大のチャンスであり、手加減する理由はない。白竜もイザベラも最高の攻撃を行ったが、効果は見ての通り。ダメージはあるが、戦闘不能に追いやるものでない。決め手を欠いている。つまり――


 消耗戦になる可能性が高い。


 病身のレオに、長期に渡って戦線を維持し続ける力はない。皇竜との戦闘は今のところ優位に運んでいるが、時を追えば立場は逆転するだろう。


 曇り空に稲光が走った。――招雷だ。皇竜が雷を呼んでいる。


 イザベラを乗せた白竜は高度を落とし、的を絞らせぬよう、山間をじぐざくに飛んで行く。

 空が光り、轟音が辺りをつんざく。続いて、雨が降り始める。――招雨。

 天変地異を操る『皇竜』の攻撃は、ブレスよりもこれが厄介だ。生身のイザベラには堪える展開だった。

 更には強い風が吹きつける。――招風。

 煽られ、白竜は山肌への激突を回避するために速度を落とさざるを得ない。

 白竜の背にしがみつくイザベラは、強烈な風雨に晒されながらも叱咤の声を飛ばす。


「気を使ってんじゃない! もっと飛ばしなさい! 食いつかれるわよ!」


 背後に迫りくる『災厄』から、イザベラは強い悪意を感じている。


「く……」


 狙われている。このままでは足手まといだ。新たな一手を打たねばならない。


「……飛びなさい」


 イザベラは、叫んだ。


「レオンハルト、飛びなさい! 天高く、雲の上まで飛びなさい!」


 威厳ある者は怯まない。強い言葉は白竜の闘志にも浸透し、その力を底上げする。


 一際高い咆哮と共に、白竜は高度を上げて行く。稲妻に打たれる危険があったが、それを承知の行動だ。


「悪意よ、あれ!」


 イザベラ・フォン・バックハウスはお飾りではない。やられっぱなしでは『性悪女』の名が廃るというものだ。赤く輝く魔法陣が周囲に複数展開し、そこから現れたのは一二体の翼を持った悪魔デビルガーゴイルだった。

 『魔術』により召喚されたガーゴイルたちは瞬く間に皇竜に打ち落とされ、引き裂かれるが構いはしない。牽制だ。


「おまけ!」


 『無』のエリクシールで生成した無数の黒い矢『ダークネス・アロー』を詠唱破棄により続けざまお見舞いする。

 これもただの牽制だが、高位の魔術であることに変わりはない。イザベラにとっては忌ま忌ましいことに、皇竜は蚊に刺された程にも感じないだろう。

 矢の一つが皇竜の鼻面に命中するのを確認し、イザベラが吠える。


「今よ!」


 白竜が一段と力強く飛翔する。

 雲を突き破り、差し込んで来た陽光に軽い目眩を覚える。遮蔽物は何一つないが、風雨に晒されないこちらの方がイザベラにはやり易い。決め手はやはり――


「終われ、終われっ! 世界よ、終われ!」


 イザベラは禁呪『エンド・オブ・ザ・ワールド』の詠唱を開始した。

 その瞬間、白竜が激しく身を捩った。


「ば、ばかっ!」


 振り落とされそうになったイザベラは、詠唱を中断し、慌てて白竜にしがみつく。

 同時に、眼下の雲が盛り上がり、姿を現したのは皇竜だ。


「あ……」


 彼我間の距離は、ないに等しい。イザベラは、ごくりと息を飲む。

 皇竜は大きく息を吸い込むと、これまでにないほどの大きな咆哮を上げた。


 大気が震え、辺りの空間が歪む。


 次の瞬間、イザベラを襲ったのは、竜圧によるプレッシャーと大音量によるソニックブーム(衝撃波)だ。

 ぐらり、とイザベラの視界が揺れる。

 精神系スキル『威厳』は竜圧をガードすることには成功したが、間近で受けたソニックブームの方はそうは行かない。脳震盪を起こしたのだ。


 1ターンの行動停止。バッドステータスの一つ、『スタン』だ。


 禁呪の使用は、二人の間で意見が割れていた。

 禁呪の使用を危ぶむレオに対し、イザベラは首肯して見せたものの、本心は間逆――チャンスがあれば迷わず使うつもりだった。


 この状況は、互いの意志疎通の齟齬が招いた致命的なミスだった。白竜の背に乗っていたのが、イザベラでなければ終わっていただろう。


 半ば意識を飛ばしたイザベラは、ふらつきながらも、迷う事なく白竜の背から華奢な身体を空に向かって踊らせた。

 この場合、白竜の行動を制限しないことが肝要だった。

 落下するイザベラを白竜が助けにくれば、その行動は、そのまま回避行動に繋がる。助けずともよい。イザベラには『レビテーション』(浮遊)の魔法がある。浮かぶことができる。


 戦闘の舞台は陽光眩しい雲上から、未だ雷鳴の鳴り止まぬ雲下へと移行した。


 曇った雲を突き破り、猛スピードで落下を続けるイザベラは、打ち付ける風雨の感触に辟易しながらも五感の回復を実感している。

 レオは、どうあってもイザベラに禁呪を使わせないつもりだ。その件について今更言い合う時間はない。禁呪への拘りは不毛なだけでなく、危険ですらあった。


 イザベラは新しく戦略を構築する必要に迫られた。

 視線を走らせると、竜の巣――ドラゴンマウンテンの南部分にある火口から、どろどろと流れ出す赤い熔岩が見える。

 ……あのパワーを、なんとか利用できないものか。

 予想通り、やって来た白竜の姿にイザベラは口をへの字に曲げる。

 再び、白竜の背にしがみつきながら、小さく呟く。


「ばかね……」


 禁呪の使用のチャンスをふいにしたレオを怒れない。背後に迫る皇竜を尻目に、イザベラは少し笑ってしまう。


「ホンとに莫迦ね……ずっと、一緒よ……」


 イザベラは瞬時に表情を引き締め、


「火口へ!」


 厳しい声で下知し、白竜は赤いマグマに向かって飛翔した。


 メルクーア暦 6120年。

 レオンハルト・ベッカーとイザベラ・フォン・バックハウスは、未だ終わることのない戦闘のただ中にいる。



◇ ◇ ◇ ◇



 ドラゴンマウンテンの火口付近は、近く噴火の気配を感じさせる地響きが続いている。

 未だ鳴り止まぬ雷鳴と、収まらぬ風雨の中、戦闘はイザベラの予感通り、消耗戦の気配を見せ始めた。

 イザベラの召喚した隕石群と、皇竜が招き寄せる稲妻が暗い空を飛び交う。

 稲光と堕ちる流星。眼下には血の色をした熔岩。


 今、まさに地獄というものが顕現しつつある。


 皇竜が降らせる雨が熔岩で蒸発し、視界は真っ白な蒸気に包まれている。イザベラからは、うっすらとしか視認できないが、皇竜の動きが鈍くなって来た。

 皇竜は無数の隕石の直撃を受けている。驚異的な耐久力にも限界があって当然だった。


 イザベラは強い頭痛と酩酊感――強度のマジックドランカーに苦しみながらも、マントを破き、寄り合わせて作ったロープで白竜と己とを結び付ける。

 続いて魔力の回復を促す赤い錠剤を飲み下すが、もう限界だ。身体が受け付けず、吐瀉物として喉に込み上げ、胃液ごと辺りに撒き散らす。

 それでもイザベラは怯まない。

 震える指先で、落ちた錠剤を拾い集め、再び口に放り込む。

 ニーダーサクソンの姫将軍と謳われた美しいエルフの女は、どこにもいない。風雨に晒された金髪を頬にへばり付け、自ら吐き出した反吐を啜り、限界を超えて戦い続ける。


 稲妻が、レオ変じる白竜とイザベラを打ち据える。


 稲妻は直撃する寸前で白竜にレジストされ消え失せるが、完璧でない。辺りにスパークした電流が、白竜を、イザベラを灼く。


 高速で空を駆ける白竜の動きにも、陰りが見え始めた。疲労の色が濃い。速度を下げ、急な方向転換や旋回を避けるようになって来た。稲妻をレジスト仕切れなくなっている。


 消耗戦は三者に多大なダメージと疲労を蓄積させている。


 先ず、限界を迎えたのは皇竜だった。

 天変地異を引き起こし、執拗に白竜を追い回した皇竜であったが、もうもうと蒸気の吹き上がる火口付近に着陸し、倒れ伏すようにして巨躯を横たえた。


 ――押している。だが、皇竜と同様に、白竜とイザベラも消耗が激しい。そして決着に詰めを欠く状況に変わりはない。

 イザベラに残された魔力は少なく、禁呪どころか低級魔法の使用すらあやしい。戦場を火口付近に移したのも仇になっている。噴火の気配が濃厚なこの状況で、白竜の熱線のブレスは噴火を誘発する恐れがあった。

 優位。だが、詰め切れない。

 唇を噛み締め、伏したままの皇竜を睨むイザベラは、更に戦略を模索する。


 ――直接戦闘しかない。だが……


 白竜は一つ吠え、惜しむようにゆっくりと旋回した後、戦域から離脱を開始した。


「ばかっ! ばかっ! 退くなっ、退くなっ!」


 熔岩の流れる地表は、風雨により熱を下げたものの、高温の蒸気が吹き上がる炎熱地獄だ。白竜はともかく、イザベラには耐えられない。


「降りるの! 直に仕留めなさい!!」


 何のために戦って来たのか。

 どうしても――イザベラは、レオに勝利を与えたい。

 悔しい……悔しい……! 勝利まで後一歩。この道を退くのは、イザベラには耐え切れない。

 拒絶するように低く唸る白竜に、イザベラは更に強い叱咤の声を投げ付ける。


「戦いなさい! レオンハルト・ベッカー!」


 レオンハルト・ベッカーが語った『とっておき』。

 『聖柩の島』にて水晶竜クリスタルドラゴンを討ち取った彼の戦いを見た他の面々なら止めただろう。

 暗黒騎士ダークナイトと彼の果たし合いを見届けたニアなら、この展開を絶対に許しはしなかっただろう。

 イザベラは知らなかった。知らなかったのだ――。


 突然、眩い七色の光が二人を包んだ。

 皇竜が二人目がけてその顎門あぎとから放った『閃光』は――

 プレイヤーであるレオは視界の隅に浮かぶウィンドウにこう捕らえる。


 seventh door ――すべての戦士たちに送る七つの運命――


 対象に、『死』、『石化』、『病』、『致死毒』、『気絶』、『致命傷』、『影響無し』どれか一つのステータス変化を無作為に、かつ理不尽に与える『奇跡』――『天災』。天変地異を司る皇竜のオリジナルスキル。

 『軍』を率いて戦う『地上戦』では、これが最も恐れられた。『死』自体に至らしめる可能性は低いため、この戦いでは使用を控えていたのだろうそのオリジナルスキルが二人を襲った。

 二人を結ぶロープは千切れ――


 イザベラは吹っ飛び、空中に投げ出され『気絶』した。


 レオ――白竜は、突然出現した氷柱に胸を貫かれ、『致命傷』を負った。



◇ ◇ ◇ ◇



 白竜の背から投げ出され、落下の後、岩壁に叩きつけられたイザベラは、まだほんの少しだけ生きていた。

 白皙の肌は高温の蒸気に焼け爛れ、数十カ所に及ぶ骨折と全身打撲、更に無数の擦過傷を負ったイザベラに意識の覚醒を促したのは、皮肉にも限度を超えた過度の激痛だった。


「う……」


 霞む視界に、分厚い胸板を氷柱に貫かれ、血を吐き、倒れ伏す白竜の姿が見える。

 これまでか……。

 イザベラの足は思い思い、壊れた人形のように明後日の方向に向いている。這いずろうにも指一本動かない。

 最早、瀕死のイザベラの瞳から、涙が溢れる。


 与えられず、奪われ続けるあの男に、どうしても勝利を贈ってやりたかった……。


 焼けた岩盤が、俯せに倒れたイザベラの頬に焼き付く。

 白竜が、もぞりと動き、口から男を吐き出した。

 ――レオンハルト・ベッカーだ。彼には珠の加護がある。無事なようだ。ゆっくりと立ち上がる身体が、青い光を放っている。その輝きは、イザベラの瞳にはとても美しいもののように映る。


 綺麗だった……。


 イザベラの意識は、急速に薄れ、消えて行く。



「ありがとう……」



 薄れ行く意識の中、感謝の言葉が耳を衝く。


「イザベラ・フォン・バックハウスに、言葉に尽くせぬほどの感謝を……」


 柔らかく、暖かい光がイザベラを包む。強い癒しの力を帯びた光りは、エメラルドグリーンの輝きを帯びている。


 涙を流すイザベラに、レオは力強く頷いて見せる。


「これを……」


 言って、イザベラの手に光り輝く『珠』を握らせる。

 魔力の溢れるそれから、『命』が流れ込んで来る。

 全身に美しく輝く青い光りを身に纏い、レオンハルト・ベッカーは言った。


「ありがとう、イザベラ・フォン・バックハウス。


 きみは優しい女性だ。


 少し、甘えてしまった。許してほしい……。


 きみが……


 きみだけが……


 俺の痛みを、理解してくれた……」


 他人行儀な言葉は、彼なりの意思表示。彼は、いざという時、独りを選ぶ。独りを頼む。パーティの全員が知っていることだ。


「あ……」


 何か大切な言葉を飲み込んで、レオンハルト・ベッカーは辛そうな顔をする。


「きみがあんまり優しいから……少し、勘違いしそうになった……」


 最後に、言った。


「同情でも、嬉しかった……」


 イザベラの青い瞳から、大粒の涙が零れる。言葉を返そうにも、限界を超えた身体が許さない。あまりにも大切な言葉が吐き出されることを許さない。


「もう、行く……」


 この世界には幾つかの『チート』が存在する。

 ドラゴンの『ブレス』や宇宙移民アルタイルの持つ『科学兵器』。『宇宙船の主砲』。イザベラ・フォン・バックハウスの『禁呪』。そして――SDGの主人公、レオンハルト・ベッカーの『とっておき』。


 【global power】――星をも揺るがす力。


 万物の根源とされる『エリクシール』(精)を体内に取り込み、集中、爆発させ巨大なエネルギーを生み出し、戦闘力に昇華させるのがこのグローバルパワーの本質だ。


 今、まさに意識を失おうとしているイザベラが見ているものが、レオンハルト・ベッカーの『とっておき』。【global power】――星をも揺るがす力。


 レオの周囲で荒れ狂うエリクシールは、魔力を持たぬ者でも肉眼視が可能であるほどに色濃く集中し、大気と干渉し合い、青白い電撃に似たスパークを辺りに撒き散らしていた。

 強大なエネルギーの奔流に耐え切れず身体の皮膚は捲れ上がるが、強化された自己治癒により即座に修復して行く。



 ――冒険者に告ぐ。奇跡は相応の代償とともにあり――



 全ての不利を覆す禁じ手と呼んで差し支えないこの能力には、きつい使用制限があり、見返りとして多大な代償を要求する。

 ほかでもない己の命を刻む。それが、この【global power】――星をも揺るがす力の正体だ。

 振り返らずに駆けて行け。

 それもまた、このSDGが全てのプレイヤーに送るメッセージ。


「あ……!」


 イザベラは短く呻く。

 それは世界に存在してはならない力である。生ある者は、その力に耐え切れぬ。『アレスの珠』の加護がイザベラに移った今、彼がその力を使うことは……


 だが、命は――輝く。

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