第4話 レオンハルト・ベッカーでいるために
夜半過ぎ、マジックドランカーによる昏倒から覚醒したレオは、想像以上の体力の低下を自覚し、いささか困難になった現状を再認識せずにはいられなかった。
ステータス画面を開き、イベントの進行を確認する。
アキラ・キサラギをパーティに加える。
強制イベントだ。未だ達成されていない。
(彼女を仲間に……? できるのか、そんなこと。嫌われてる……)
ニアも言っていたことだが、そもそもアキラは何をしに来たのだ。それが先ず、レオには理解できない。それを知ることがイベント達成の鍵になるような気がするのだが……
(男らしく直球で行ってみるか?)
「だめだな……」
成功のビジョンが浮かばない。そもそも、なぜアキラは治癒を拒絶したのか。彼女は損しないではないか。
アキラの行動は全てが謎に包まれている。
「嫌になる……」
寝返りを打って壁を見つめる。
ゲームを止めることに未練はない。
奇跡を起こし、大勢の民衆のために死ぬ。英雄に相応しい最期ではないか。『大魔法』を妨害したアキラに抱く感情は、レオには複雑だった。
(アキラ・キサラギ、か……)
彼女に会うのは初めてだったが、自分を知っているようだった。
(あいつに、俺の何が分かるんだ)
アキラ・キサラギのパーティ加入は強制イベントだ。これにも深い意味があるのだろう。だが、レオに去来する思いは全く別のものだ。
アキラは仲間にしたくない。
そもそも主人公は自分なのだ。パーティメンバーの選択くらいは好きに決めたい。イベントなどというものに左右されたくない。
(借り物の身体。借り物の人生、か……)
「レオ?」
ニアが労るように、そっと肩に手を掛けてくる。
「……どうかしたか?」
「うん、ちょっと辛そうだったから……」
「大丈夫。俺は大丈夫だ」
本当は、もう……レオはその言葉を飲み込んだ。
(もう、嫌だ……ここに居たくない!)
なぜ、こんなにも辛く苦しいのか。その答えは、既にある。
己がレオンハルト・ベッカーでないからだ。借り物の人生は彼に何の喜びも与えない。
己がレオンハルト・ベッカーになるしかない。この世界では、彼はレオンハルト・ベッカーとしてしか生きられない。
レオンハルト・ベッカーになるためには?
彼はもう、その答えを知っている。




