第25話 プレイヤー!
レオ、ニア、エル、アル、リンの五人が『アデライーデ』の高級スイートの一室で、慎ましい食卓を囲んでいる。
ゆったりとしたナイトガウンに身を包むニアは、ぶすくれた表情だ。
「なんで猫がいるんだ?」
不平を鳴らすニアをレオがぎろりと睨みつける。
「おまえが言うんじゃない。ったく、おまえは程度というのを知らないのか?」
「……途中からは、レオも乗り気だったじゃないか」
その言葉に、レオは鼻からミルクを吹き出した。その様子に、リンが吹き出し、続いてエルとアルが吹き出す。
「……とにかく!」
レオは強く言って場を締める。
「ニア、おまえは集中しろ。何が起こるかわからん。気を引き締めろよ」
「ふふっ、わかった」
ニアは珍しく上機嫌で頷いた。
「リンは俺のサポートだ。離れるなよ?」
「ぅい」
わかっているやらいないやら。そのレオの思惑は別として、リンは頷いた。
「わたしたちはどうすればよいでしょう?」
「そうだな……とりあえず、おまえの目玉焼きと俺の目玉焼きを交換しよう」
「はい?」
「おねえちゃんの、少し大きいよね」
「だよな? ……リン、ソーセージ食うか? 俺、これ苦手なんだよ」
「ん」
「ニアはレタスが嫌いなんだ。レオ、そのソーセージと交換しよう」
「てめえはセロリでも嘗めてろ。リン、こんな大人に……」
このようにして朝の一時は過ぎて行く。
◇ ◇ ◇ ◇
アデライーデの高級スイートルームでは、次々に指示を飛ばすレオの姿があった。
「エルっ! アルっ! 各ギルドマスターへの書面、頼んだぞ!」
「「はっ、はいっ!」」
エルとアルは一度互いの顔を見合わせ、強く頷き合うとリビングを飛び出して行った。
「ニアっ! おまえは、ショップに行って神官衣と『杖』を買って来い! そこのリストにあるやつのどれかだ!」
「うん……わかった。レオは?」
紙面にある購入リストに視線を落としながら、ニアが問いかける。
「俺はここから動けない。イベントが連鎖を始めた。この成り行きを見届けなきゃならん。それに……」
とレオは口ごもる。視界の端で開いたままにしてある『レオンハルト・ベッカー』のステータス欄には現在、lost hero 『失われた英雄』と表示されている。これが今回のトラブルの原因だろう。
そして――湧き出した取捨選択可能なイベントの優先順位を見極めねばならない。
獣人たちへ……4
獣人関連のイベントが一気にフェイズ4に進行している。
『黄金病』の病理を解明せよ。
プレイヤーである彼には聞いたこともない病気だ。
ニューアークの港を解放せよ。
港は機械兵サバントの巣窟だ。イベントを達成するためには港を占拠するサバントたちを殲滅する必要があるだろう。
アデルの秘密を暴け!
緊急性を伴うイベントだ。黄色字で表示されていることから、未だ猶予がある。
「くっ……」
レオは唇を噛み締めた。
湧き出したイベントはこれだけではない。
レオは、ステータス画面の上下左右を引き伸ばすようにして画面全体を己の身長程に圧し広げた。
展開イベント総数――482。
これがSDGの主人公『レオンハルト・ベッカー』の置かれた現在の状況だ。
プレイヤーを徹底的に痛め付ける『サディスティックシステム』が発動したのだ。
最早、彼一人で捌けるイベント数ではない。だが、SDGに於いて、サディスティックシステムはあくまでもプレイヤーを痛め付けるためだけのものだ。プレイヤーを殺したり、遂行不可能なイベントを押し付けるものではない。
つまり――道はある。
このSDGの主人公として、『レオンハルト・ベッカー』は解決法を模索せねばならない。
「ニア、今は説明できる状態じゃない」
(考えろ! 考えるんだ! 先の展開を予測しろ!)




