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S・D・G  作者: ピジョン
第1章 失われた英雄

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第19話 観劇2

 天幕を飛び出すと、辺りは既に星空だった。

 レオは一瞬視線を宙に走らせる。これはこれで風情がある。不意のトラブルもこのゲームらしくてよい。退屈するよりは、よほど。


「逃がさん!」


 馬に乗った警備兵たちが肉薄してくる。その数三体。手に長槍を持ち、鉄の胸当てで武装している。


「いいね」


 レオは、ぺろりと唇を嘗める。


「降ろして、レオ!」

「駄目だ」


 担がれたまま、悲鳴を上げるニアに無下に言い放つ。


「格式高いこの舞台場で、貴様らの蛮行は許せん!」


 怒声と共に繰り出された警備兵の長槍の一突きを、ひょいと躱しながらレオは不敵に笑む。


「なにが、格式高いだ。学芸会の分際で抜かしてんじゃない!」


 危険であれば、危険であるほど。命を賭ければ、賭けるほどに。言い放ちながら、彼はスリルに酔い痴れた。


「ほらほら、雑魚ども、ここだ。ここ。よく狙え」


 レオはへらへらしながら、肩に担いだニアの尻を、ぺんぺんと叩いた。


「わあ! やめて、やめて!」


 怒りと羞恥に抗議の声を上げるニア。


「今更、何言ってる。始めたのはおまえだろう」


 言いながら、レオの視線は警備兵の槍先から離れない。


「だったら……楽しむんだよ!」

「馬鹿が!」


 挑発され、怒り狂った警備兵はレオの要求通りの場所を長槍で突いた。


「!」


 刹那、レオは嘲笑った。コースが分かれば、長槍の刺突は怖くない。彼のレベルならば、受け止めるのも可能だ。


「せぇぇぇい!」


 抱えたニアを放り出し、受け止めた長槍を両手で力任せに引っぱる。パワーストライクの発動が170%を超えた辺りで、警備兵はこの綱引きを断念し、槍を手放すと舌打ちしながら腰の長剣を引き抜いた。


「あははは! ぬるい、ぬるすぎる!」


 レオは哄笑にむせ返りながら、奪い取った槍を振り回した。

 がぉん、と長槍が周囲を一閃し、あっと言う間に二人の警備兵を馬から叩き落とす。


「くそっ! 手練れか!」


 警備兵は忌ま忌ましげに言い放つと、馬首を巡らし、大きな天幕を迂回するように駆け出した。

 レオは走り去る馬上の警備兵の背を睨み付けていたが、槍を地面に叩きつけ、穂先をへし折ると、腰だめに身を低くして、ぐっと振りかぶった。

 バトルステータスが目まぐるしく展開する。


 投擲準備……


 投擲体勢……


 腕力×敏捷×投擲スキル×槍術スキル……


「逃がすか!」


 叫ぶや否や、レオは長槍を投擲する。彼にとってこの喧嘩は、あくまでも遊びである。それで血を見るのはよくない。槍の穂先を折り、殺傷力を抑えたのはそのためだ。

 槍は大きな放物線を描きながら、馬上の警備兵に的中した。


「大当たり!」


 落馬する警備兵を見やり、レオは、ぐっと拳を上げた。



 レオンハルト・ベッカー ――level up!



(よし!)


 バトルステータスに閃くメッセージをレオが読み飛ばしたところで、戦闘の終結を合図するかのように画面一杯に白抜きの文字で『SDG』と表示される。


 この喧噪を周囲から見物していた観客から、拍手と歓声が上がった。

 このニューアークでは、力こそ正義という側面がある。この喧嘩は、物見高い観客たちには舞台劇などよりも余程見応えのあるものだった。目立った流血はなく、死者も出なかっただけに陰惨なものもなく、舞台劇などよりは余程気の利いた『劇』のように映ったのだ。

 喝采の声にレオは不敵な笑みで答える。


「さあて、本格的にずらかるか」

「う、うん」


 その場に座り込むニアを引き起こすと、レオは薄く笑む。


「放り投げて悪かった」

「ううん、ニアこそ、暴れて……」


 ニアは悠然と去るレオの背中を追う。


(レオだ……)


「これからどうする?」

「そうだな……まだ、遊び足りないな」


 そう言って、レオは悪戯っぽく笑う。

 ニアは、はっと息を飲んだ。


(レオだ……。レオだ、レオだ、レオだ!)


 危険が好きで、悪戯好きで、でもいつだって優しくて。ニアが夢中になったレオンハルト・ベッカーが、確かに存在していた。

 ニアは思いの丈をぶつけたくなる。不思議なことに、今夜の彼女は感情だけが先走らない、その気持ちを言葉にすることができる。だが……


(まだ早い……)


 予知だ。気持ちを言葉にしてしまえば、絶対に失敗する。よくわからないが、ふられてしまう。だから、ニアは沈黙する。それでも溢れ出しそうな気持ちに、涙が出そうになってしまうけれど。


「今夜は、別のホテルに泊まろうか。大きなラウンジのあるところがいいな。アデライーデも悪くはないが、少しばかり顔見知りが多すぎる。必要以上に構われるのは好きじゃない。静かに飲みたい気分だ」


「うん!」


 ニアは、弾けるような笑顔を返した。


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