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四章

どうも一回の章で文字数が多すぎた気がしたので、少し減らしてみます。

加減を見てまた変えていくつもりです。

襲撃を終え、集合を掛けられた後、近くで倒れている生徒を起こしながら永斗たちは集まった。

「ようし、お前ら!集まったな!」

教師の無駄に威勢のいい声がグラウンドに響き渡る。

「今俺たちがお前たちを襲撃したのは!お前たちに自分の実力を知ってもらうためだ!」

護衛科の生徒たちが集合したのは、ちょうど護衛科の校舎の正面。

左から順番に一組、二組と五組まで並んでいる。

その前に先ほど生徒たちを襲撃した教師が三人並んでいる形になる。

「我々もごく一部の生徒に後れを取ったが!大半の生徒は手も足も出なかったのが分かってもらえたと思う!

お前らはまだ弱い!確かに実習を経て!小型のイフィム程度なら正面から戦えるようになったのかもしれない!だが!だがだ!!今のお前たちが中型以上のイフィムと正面からぶつかった時!待っているのはお前らの死!だけだ!!」

教師の言葉を聞きながら、永斗は耳を押さえたくなる気持ちを必死に抑えていた。

先ほどから教師の言葉は、息継ぎの部分がやけに気合が入っている。

これが護衛科教師独特の喋り方なのは、なんとなく分かってはいるが、一年たってもどうしてもなれない。

他の生徒たちもうるさそうに眉をしかめている。

「今日からの実技訓練は!そんな弱いお前たちが中型や大型イフィムとまともに戦えるように鍛え上げるものだ!今までの様に体育の延長だと思っていると死ぬぞ!覚悟していろよ!!返事は!!!」

「「「「「はい!」」」」」

「よし!では今日のメニューを伝える!」

生徒たちの威勢のいい声に満足したのか、教師はうんうんと頷き、手に持っていた板を見る。おそらくそれに今日の訓練メニューが書かれているのだろう。

「まず先ほどの襲撃にきちんと対処出来たメンバーだ!名前を呼ばれた物は列から離れて後ろにいる教師の所へ行くように!斎藤!松田!畑山!……」

次々の呼びあげられる名前の中にはもちろん永斗の名前がある。その次に呼ばれたのは幸也だ。

とっさの判断力と、永斗との連携を評価されたようだ。

言われた通りに、永斗と幸也も列を抜けて後ろへ下がる。

「以上が!俺たちの襲撃に比較的まともに対処出来た面々だ!後の残った連中はパニックになり、まともに判断することができなくなっていた!」

後ろに立っていた教師の元まで行っても、グラウンドに響き渡る前に立っていた教師の声は、はっきりと聞こえてくる。

これなら間違いなく能育科の生徒にも聞こえているだろう。

「パニックになった連中は!今日から精神を鍛えるために!実技訓練の始まりと共にグラウンドを三十周してもらう!!」

その声に「「「え~」」」と不満の声が上がる。

「お前らの様なクズが!まともに訓練を受けさせてもらえると思うなよ!!クソ虫どもはまずは基礎からみっちり鍛えなおしてやるから覚悟しておけ!!!おら走って来い!ゴミども!チンタラすんな!!」

何か暴言が聞こえたような気がしたが、永斗も幸也も聞かなかったことにした。

生徒たちがぶーぶー言いながらもグラウンドを走り始めると、列後方に呼ばれた生徒たちに説明が始まる。

列の生徒たちが罵倒されている間に説明しておけばいいのにと思うかもしれないが、前で説明していた教師の声がグラウンドに響き渡るように、後ろの教師の説明もグラウンドに響き渡るのだ。

おかげで同じタイミングでしゃべられると、何を言っているのか全く分からなくなる弊害がある。

教師たちもその事は分かっているらしく、誰かの説明が終わるまでは次の教師はしゃべらないのだ。

声を落とせば問題は全て解決するのだが、それが出来ないのが護衛科教師である。

「ようし!お前らに訓練説明をするぞ!」

教師の声にバラバラに集まっていた生徒が注目する。

ここにいるのは、ある程度教師の襲撃に対処した生徒ばかりだ。今グラウンドを走っている生徒とは違い、イフィムとの戦いを知っている面々と見て良いだろう。

「お前らは俺たちの襲撃に対し!適切な対処をした面子だ!そこでお前らには基礎トレーニングを特に強制することは無い!なぜなら自分たちで基礎の重要性を分かっていると判断したからだ!この判断に間違いは無いな!!」

生徒たちが無言でうなずく。

「今日は特に訓練のメニューは無い!今日はお前たちの実力を確かめるために用意した時間だと思ってくれればいい!この後は自習とする!グラウンドを使って好きに訓練していろ!ただ能育科の能力に気をつけろよ!ボーっとしてるの変な能力が飛んできたりするからな!俺はこの後、先ほどの襲撃からお前たちに適した訓練メニューの作成をする!邪魔したら殺すぞ!」

教師は言うだけ言って校舎に戻って行ってしまった。

後に残された生徒たちは、突然自習と言われ、動くに動けずにいる。

「永斗君。どうしようか?」

幸也が永斗に話しかけるが、永斗は何も反応しない。

「永斗君?」

いぶかしんだ幸也が永斗の肩に手を乗せる。

それに反応した永斗が、幸也を振り向いた。そして耳から何かを抜き取った。

「悪い。耳栓してたから気づかなかった。何だ?」

「耳栓なんていつの間に付けてたの?」

幸也が呆れるように聞く。

「列から移動するときにな。これ以上うるさいのはたまらん」

「僕も今度から耳栓付けようかな……まだ耳がキンキンしてる……

それで自習どうする?」

「簡単に素振りと型の練習でもするかな。このまま何もしないのはもったいない」

「僕もそうしようかな。あ、そうだ体が温まったら少し練習相手になってくれない?少し試してみたい動きがあるんだ」

「別に良いぞ。でもイフィムと人間じゃ動きが全然違うが大丈夫か?」

イフィムに人型が確認されたという例はほぼ無い。

ほとんどが動物に似せた形のため、動きの練習をしたくても、なかなかできないのが現状だ。防衛学校の大学研究室では動物を訓練して、仮想のイフィムとして戦わせようと言う試みもあるようだが、いまだ成功の兆しは見えていない。

「大丈夫、大丈夫。これはイフィム用じゃなくて対人用だから。最近、文美ちゃんの周りに変な人が多くてね。少し対人用も考えとかないといけないかなって思ったんだ」

「文美のやつ、お家騒動に巻き込まれてんのか……」

名家と言うやつの跡継ぎ問題に、永斗は露骨に嫌な顔をする。

椎名の家は、本家とは完全に別れた分家であり、跡取りが椎名しかいないので、特にそういった問題がでてきたことは無いが、他の能力者の話を聞くと、よくある問題だったりする。

能力者の家系と言うのは、代々受け継がれるもので、莫大な財産を持っている。それを得ようとする分家は後を絶たず、時にはまったく関係ない第三者までもが、その財産を狙って能力者の子供を誘拐しようとしたりする。

また能力者は国にとって重要な存在であり、その能力者を輩出した家は政治的にも強い力を持つ。そのため、能力者の子供は大人たちの政治の道具にされかねないのだ。

今幸也の言った変な人とはこれらの人間だろう。

「まあ、そう言うことなら相手になるさ。三十分後ぐらいでいいか?」

「うん。それぐらいによろしく」

そう言ってそれぞれに愛用の武器を持ち、自主練を始めた。




同じように椎名たちも、能育科校舎の前に集合していた。

こちらは護衛科の教師と打って変って、女性の教師が前に立っている。

先ほど椎名たちが目撃した教師だ。

「まずは皆さんお疲れさまでした」

女性は凛とした声で話しだす。ただその声を聞いている生徒は、最初の三分の一にも満たない。

それは教師の集合の声を聞けたものが、グラウンドに集まっていた生徒の、全体の三分の一以下だったことを示している。

他の生徒は未だ、グラウンドに横たわっている。

特に教師たちが起こす様子も無いので、椎名たちも起こさずに集まってしまった。

「ここにいる皆さんはすでに気づいていると思いますが、先ほどの攻撃は私たちのものです。これは今の皆さんの実力を再確認していただく意味で実施している、伝統行事みたいなものです」

生徒の数人がその発言に「ええ~」と不満の声が上がる。

当然だろう。伝統だからと言われて、襲われたのではたまったものではない。

もしかしたら自分がグラウンドに倒れている連中と同じ状態になっていたかもしれないのだ。

「かなり無茶なやり方なのは分かっています。しかし、我々が今後戦うであろうイフィムは、我々の常識を守ってはくれません。どこから襲ってくるかも、どんな能力を持っているかも定かではないのですから、多少の無茶は覚悟しておいてもらいます」

その言葉に文美と椎名は納得する。

イフィムが常識外れなのは、実習の経験で分かっていたはずだが、どこか考えが甘かったのかもしれない。

奇襲は必ずしもこちらの専売特許ではないのだ。もし今のようにイフィムに奇襲されていたら、今グラウンドに倒れている人達は、全員気絶では済まされなかったであろう。

(私たちも頑張らなきゃだね)

文美に小声で話しかけると、文美は頷いた。

(そうね。護衛科がスパルタとか言ってられないわね。こっちもガンガン指導してもらわなきゃ)

「次に、今後の訓練について話してい―――」

教師の声は最後まで聞きとれなかった。

「今俺たちがお前たちを襲撃したのは!お前たちに自分の実力を知ってもらうためだ!」

声は護衛科から聞こえてきた。内容としては、こちらと同じことを話しているようだ。

「では!今後の訓練について話して行きます!」

護衛科の教師の声で、後ろの生徒まで声が届かなかったため、教師はもう一度、先ほどより声を張ってしゃべりだした。

「まず、今日の訓練で―――」

「我々もごく一部の生徒に後れを取ったが!大半の生徒は手も足も出なかったのが分かってもらえたと思う!

お前らはまだ弱い!たしかに実習を経て!小型のイフィム程度なら正面から戦えるようになったのかもしれない!だが!だが!!今のお前たちが中型以上のイフィムと正面からぶつかった時!待っているのはお前らの死だけだ!!」

護衛科の教師の声はそれ以上に通っていた。

グラウンドを挟んだ反対側の椎名たちにまで、何を話しているのははっきりと聞こえてくる。そして案の定、能育科の教師の声はかき消されていた。

(一部の生徒って永斗のことよね)

今度は文美から小声で話しかけてきた。

(そうだろうね。でも幸也君もかなり強いし、その対象には入ってるんじゃない?)

(そうだといいんだけどね。永斗に比べちゃうと、どうしても見劣りするって言うか、地味?)

(まあ、武器が武器だからしょうがないよ。永斗は剣だけど、幸也君はクナイとか忍具でしょ)

(それもそうなんだけどね~)

「今日からの実技訓練は!そんな弱いお前たちが中型や大型イフィムとまともに戦えるように鍛え上げるものだ!」

二人がこそこそと話す間も、護衛科からは途切れることなく、はっきりと声が聞こえてくる。そして、能育科の教師は顔をひくつかせていた。

「今までの体育の延長だと思っていると死ぬぞ!覚悟していろよ!!返事は!!!」

「「「「「はい!!」」」」」

最後に護衛科全員の威勢のいい声が響き渡っる。

その声で、キレた。

「あのゴリラどもは!!武山先生!今すぐ彼らの声を遮断してください!うるさくてこちらの話が勧めれません!」

「は…はい!」

武山と呼ばれた、ひょろりとした男性教師は声に驚き、急いで能力を発動させる。

すると、先ほどまでうるさいほど聞こえていた護衛科の声は、全く聞こえなくなった。

「はあ……最初からこうしてもらうべきでしたね。今後もこのようなことがあればお願いします」

それに武山は「ええ」と会釈するようにうなずいた

「では、話が中断しましたが、今後の訓練の内容について話して行きます。

まず、今ここで私の声を聞けている生徒たちは、今日は自主練習の時間とします」

自主練習と聞き、いろいろな所から喜びの声が上がった。

どんな学校でも自習が嬉しいのは共通である。

「ただ、貴重な皆さんの時間を無駄にするのは忍びないので、今日の自習には三年生が監督に入ってくれます」

続けて言われたことに、今度は「え~」と声が上がった。

教師はそれを無視して話を続ける。

「三年生はすでに中型イフィムとの戦いを経験しています。この機会にアドバイスを聞いておくのも良いでしょう。

次に、未だに倒れている生徒たちについてですが、起こす必要はありません」

椎名たちが少し気になっていたことをに答えてくれた。

「彼らは私たち教師陣が責任を持って起こしておきます。また彼らには今日はみっちりと基礎訓練をしてもらう予定です。知っていると思いますが、基礎訓練は体力を高めるだけでは無く、精神力も高めてくれます。先ほどの様な奇襲でパニックになり、なにもできなくなるのは精神力が足りないためです。彼らにはそれを嫌と言うほど教え込みます」

生徒たちはその発言を聞いて、「やられなくてよかった…」と全員が気持ちを共有した。

(私たち隠れてただけだけど本当に良かったのかな…?)

(まあ、落ち着いて対処は出来たし、良いってことで)

二人は自分たちの対応を思い出しながら、苦笑する。

「来週からは今日の奇襲した際の行動を参考に、個別にトレーニングメニューを渡しますので、それにしたがって行動してください。では今日は以上です。各自、自主訓練に励むようにしてください」

そう言って教師は、周りに控えていた他の教師とともに、グラウンドに倒れている生徒たちの元へ向かった。

「じゃあ、私たちも自主練しよっか」

「そうね。とりあえずストレッチから?」

奇襲の再、ほとんど動かなかった二人は、ストレッチから始めることにした。

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