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十六章

 声援を受けながら、永斗と椎名は幸一と七瀬の前に立った。

「さて、お前らで最後だな」

「二人ともよろしくね」

 二人はこれまでの連戦に関わらず、一切息を乱していない。

いくら小休憩があったとは言え、何試合もして息が乱れないのは、普通じゃない。

それほどまでに、今永斗たちの目の前にいる二人と生徒たちには実力に差があるのだ。

「勝つつもりでぶつからさせていただきます」

「ただで倒れるつもりはありません」

 一言ずつ返して、永斗は剣を構える。

それに応じるように幸一も刀を構えた。

永斗は、先ほどまでの幸一の戦いで、自分と似ていると感じていた。

基本的に使うのは右手に持った剣。そして、それを補助するために使う程度の飛び武器。

永斗の場合は、それが手榴弾であり閃光弾であったが、幸一はより直接的な武力である拳銃を持っていた。

今回は模擬戦ということでゴム弾に代えられているが、それでも当たれば通常の動きを阻害する程度にダメージを負う。

「それでは両者、準備は良いですね?」

「こちらはいつでも良い」

「俺たちも大丈夫だ」

 審判を担当する先生が両者の発言を確認し、手を振り上げた。

「それでは――――――始め!」

 手が振り下ろされると同時に、永斗は剣をその場で水平に振りぬいた。

 カキンッ!と金属同士がぶつかり合う音がグラウンドに響く。

 試合を観戦していた生徒たちには、何が起こったのか見えなかった。

それを捕らえることが出来たのは、教師と実際に戦っていた永斗、そしてその音の原因を作った幸一だけだ。

「ほ~。これを切るか」

 幸一の左手には硝煙を上げる拳銃。

「いきなりは酷くないですかね。さっきまでは一回も使わなかったのに」

「お前なら大丈夫だろ?」

「その信頼が、どこから来るか分からないんですが……」

 永斗は冷や汗を流す。開幕で奇襲が来るだろうとは踏んでいたが、まさか拳銃を早打ちしてくるのは予想外だった。永斗としては、生徒たちに見せていたような、素早い踏みこみからの当て身が来ると考えていたからだ。

「幸一、私はどうする?」

「七瀬は彼女と戦ってみてくれ。こいつは俺が押さえる」

「わかった」

「させるか!椎名はけん制。大技は考えなくていい。小技で相手の妨害に集中しろ」

「了解」

 七瀬が集中しようとしたのを見て、永斗が走り出す。それと同時に、七瀬に向かって手榴弾を投げつける。もちろん模擬専用に威力が押さえられている物だ。

 それはあっけなく幸一の射撃ではじかれた。

だが、永斗はそれを予想していた。永斗が求めたのは、手榴弾による妨害ではなく、椎名が能力を発動するまでの時間、その間に幸一の妨害が入らないことだ。

「ライトエフェクト!」

 椎名の能力が発動し、突然のまばゆい光に幸一と七瀬が目を閉じた。椎名の光は、対象の網膜に直接浴びせる。この場合は、幸一と七瀬の二人に絞ってカメラのフラッシュのように強力な光を浴びせたのだ。

 その隙をついて、永斗は進行方向を七瀬から幸一へ変える。

 七瀬の能力は確かに強力で厄介だが、それ以上に幸一の飛び武器が問題だった。

 永斗を狙っているうちは良いが、椎名を標的にされるとすべて防ぐことは難しい。

 二対一になった時点で負けは決まったも同然なこの試合で、椎名を失う訳にはいかなかった。

「はぁ!」

椎名の能力で、思うように目が見えてないはずの幸一に剣を振り下ろす。

 だがその剣は、幸一の刀にあっさりと受け止められた。

「良い動きだ。俺を狙ったのも間違いじゃない。だが、眼つぶし程度で俺たちを止められるとは思わないことだ」

 受け止めた剣を強引に押し返す。体格的にも負けている永斗は、それに逆らうことなくすぐに引いた。しかし置き土産をするのは忘れない。

 パーーン!!

 手榴弾と言うには余りに軽い音で訓練用の手榴弾が爆ぜる。

 練習用とは言っても、それなりの威力はあるものだ。それはゴム弾と変わらない。目の前で爆破すれば、相応のダメージはあると考えた。

 爆発によって巻き上げられた砂埃で視界は悪い。

「幸一、行くよ!」

 三メートルも視界が無い中、七瀬の声が響いた。それと同時に強烈なプレッシャーが永斗に襲いかかる。

「なっ!」

 そのプレッシャーに、条件反射で反応し後ろに下がる。

瞬間、パンッ!と水に強く打ちつけたような音が二回響く。

先ほどまで永斗の立っていた足元には、大きな水たまりが出来ていた。

 この視界の悪さなら、誤爆を恐れて能力は使ってこないだろうと永斗は思っていたが考えが甘かったと悟らされる。

 七瀬は躊躇わず能力を使ってくる。しかも狙いは、恐ろしいほど正確だ。

「どうやってこの煙の中で俺を見抜いてるんだ……」

 迫る水の鞭をかわしながら、必死に七瀬の居場所を探す。先ほどからの回避で、幸一や七瀬との距離関係は完全に分からなくなってしまっていた。

「椎名!大丈夫か?」

「問題ないよ。そっちは大丈夫なの!?」

 その言葉を聞いて永斗は安心する。もしかしたら椎名も同じように攻撃されていた可能性があったからだ。

 だが、ここで永斗に疑問が浮かび上がる。

 ―――なぜ二回ずつ聞こえてくるのか?

最初の攻撃も、今の攻撃も、すべて地面を叩く音は二回だ。永斗一人を狙っているのならば、音は一回だけのはず。だからこそ椎名の方を気にしたのだが、椎名は問題ないと言っていた。声も落ち着いていたことから攻撃事態されていないのは予想がつく。

「まさか!」

 永斗は一つの答えにたどり着く。あまりにも馬鹿馬鹿しくて、誰も実践しないであろう方法。

 ちょうど手榴弾で巻き上げた土が風に流され晴れてきた。

 薄まった視界の中で、永斗はその光景を目にする。

 幸一が永斗と同じように水の鞭から逃げている。七瀬は永斗の位置を正確に把握しているわけではなかった。人の動きがある場所、つまり永斗と幸一両方に対して攻撃を加えていた。

 パートナーが避けてくれるのを信じていなければ、決して出来ない技だ。今の永斗と椎名でも絶対に無理だった。永斗に避ける自信があっても、椎名がそれをためらうだろう。七瀬にはその躊躇いが一切無い。長年付き添ったからこそ生まれる信頼なのだと永斗は感じた。

 だが、この状況は好機でもある。絶対の自信と信頼があるから攻撃出来るが、それは七瀬が集中して能力を使えるからで、それを阻害されれば攻撃は止まるはず。

 そう考え、椎名に指示を出す。

「椎名!もう一度フラッシュだ!」

「わ……わかった」

 永斗の声にあわてたように椎名が能力を使う。

「七瀬ストップ。光が来るぞ!」

「うん。大丈夫」

 予想通り攻撃が止まった。

椎名のフラッシュはただの目晦ましだが、防ぐ手段が限りなく少ない。目をつぶっても網膜に直接光を焼き付けるのだ。視神経レベルで閉ざすか、目をなくすぐらいじゃないと防げない技だ。幸一と七瀬もさっきくらって、それに気づいている。

 攻撃が止まった隙に再び幸一に切り込む。

 またフラッシュで目が見えないはずなのに防がれた。

「なんでこんな完璧に防げるんですかね」

「対人戦なら気配は読みやすいぞ。目が使えないならなおさらな」

 つばぜり合いをしながら、永斗は幸一から答えを聞いた。

「それで防げたら誰も苦労しないですよ!」

「おっ」

 剣から力を抜き、剣の腹で刀を滑らせながら軌道をそらす。

 一瞬バランスを崩した幸一だったが、永斗の切り上げはバックステップで距離を取られかわされた。

 そして、離れると同時に割り込んでくる七瀬の水の鞭。

 追撃することも出来ず、さらに距離を開かされた。

「くそっ」

「永斗!」

 椎名がライトショットを七瀬に放つが、それもあっさりと水の壁に阻まれてしまう。

 椎名が全力で援護してくれるも、七瀬はそれを片手間で防ぐ。

ここにきて椎名と七瀬の力の違いがはっきりと表れてきた。

「椎名、無理するな」

「分かってる。けど!」

「お前が倒れたら総崩れになる」

 七瀬の水をかわしながら、椎名の元まで戻った。幸一の追撃は無い。いや、最初の一発以外、幸一から攻撃してきたものは無かった。

 前の試合とまったく違う動きに、永斗は疑問に思う。

 先ほどまでの試合は、すべて幸一が先陣を切る形で勝利してきた。どれも護衛科の生徒を幸一が処理してから、二対一で能育科の生徒を倒していた。だが、永斗たちとの戦闘は間逆だ。七瀬の能力で幸一を倒そうとしている素振りがある。そのことが永斗には引っかかっていた。

「椎名、あとどれぐらい持ちそうだ?」

「あんまり持たないと思う。まだライトエフェクトを何発も打つのは辛いから」

 椎名の額には大粒の汗が浮かんでいた。

 そこに七瀬の元まで戻ってきた幸一から声がかかった。奇しくも最初と同じ陣形だ。

「そっちの子はそろそろ限界みたいだな」

「そうだな。椎名はそろそろ限界だ。次が決着か?」

 一撃勝負を挑むために、永斗は剣を構え直す。

 しかし、幸一が刀を構えることは無かった。

「ううん、もう終わりだよ」

「何?……」

 七瀬は答えることなく、能力を開放した。

「水陣。(かこい)

 その言葉と同時に、椎名を中心とした半径五メートルに四角形の水の檻が出来上がった。椎名を守るように立っていた永斗も、もちろんその中に閉じ込められる。

「しまった!」

 とっさに剣で切ろうとするも、水はあっけなく剣を通し、形が崩れることは無い。

 しかし、直接抜けようとすると、今度はびくともしなくなった。

「檻が壊されないようにするには、壊れそうな衝撃を受けないこと。この檻は、それを実践したんだよ。剣や爆弾、能力みたいな強い威力のものは水が素通りさせる。その代わり、中に閉じ込めたものが外に出ようとすると、水はその密度を上げて鉄より硬くなるの」

「幸一さんが積極的に攻めてこなかったのは、これの時間を稼ぐため?」

「正解だ。以前見たお前の動きだと、俺も簡単に気絶させれそうに無かったからな」

「七瀬さんもこの陣を作りながらだったから攻撃が単調だったんですね」

「気づかれないように地面の中で陣を組むのって意外と大変なんだよ?いつもは予め外で陣を組んでから地面に隠すもん」

 七瀬は「疲れた~」と言いながらもどこかひょうひょうとしている。この陣ですら、全力ではないのだろう。

「さて、俺は外からこれを撃ち込むが……降参するか?続けるか?」

 拳銃を永斗たちに向ける。

 幸一は言うが、試合の結果はだれがどう見ても明らかだ。永斗も自分の負けを認めないほど愚かではない。

「俺たちの負けだ。椎名もそれで良いな?」

「うん。完敗だよ」

「勝者、七瀬、幸一ペア!」

 先生の声とともに、歓声がグラウンドに響き渡った。


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