十三章
皆様あけましておめでとございます。
今年一年もよろしくお願いします。
今年最初の投稿はイフィムになりました。フリーラン編を終え、今回からエクスガーディアン編に入ります。
朝。教室へ行くと、いつもよりも喧騒が大きかった。
「どうしたんだ?これ」
「ああ、永斗君おはよう。ほら、噂の特別講師が今日来るんだよ」
「ああ、あの人か」
永斗はフリーランのあれこれですっかり忘れていたが、今日はエクスガーディアンの佐藤幸一と、能力者の海神七瀬が来る日だった。
そのため今日は、朝から生徒がざわついていたのだ。
「なら教室移動とかになるのか?」
「連絡見てないの?」
「ああ、すっかり忘れててな。いつも通りの用意で来ちまった」
「あはは、永斗君らしいね。今日は一時間目から大教室に移動だよ」
大教室は正式名称を特別講義室と言う。特別講義室は、通常の教室とは異なり会議場のような形になっている。そこで今回のような特別講師を招いたり、合同で行う授業をしたりする。
ただ生徒の間では、ただ普通の教室が大きくなっただけという感覚なため、大教室と呼ばれていた。
「大教室ってことは合同か?」
「僕たちは能育科との合同みたいだね。多分文美ちゃん達と同じになるんじゃないのかな」
「ここってそんなにペア組んでる奴らいたっけ?」
合同授業の場合、ペアを組んでいる能力者のいるクラスが優先される。
それでも、何組もいるペアが必ず一つのクラスに集まるわけではないため、クラスのペアの割合が多いところが優先される。
永斗と幸也が椎名、文美と組んでいると言っても、他の生徒が別のクラスの生徒と組んでいれば合同で行うクラスは別になってしまう。
「僕と永斗君。後は二・三人がこのクラスだと文美ちゃん達とペアだね」
「そんな少なくて、あいつらのクラスと合同になれるのか?」
「今年はフリーでやってる人たちが多いみたいなんだよ。だから五人ぐらいいれば多い方みたいだね。後は三人か二人がペア組んでるぐらい」
「そんなに少なかったのか」
「そのおかげで僕たちが、文美ちゃん達と組めるんだし感謝しなきゃね」
「それもそうだな」
ホームルームで特別講義について説明を受け、終了後すぐに移動する。
大教室には、すでに能育科の生徒が到着してるようだ。
「幸也、永斗こっちよ」
教室に入った途端、文美から声をかけられた。
長机が並べてあるだけの会議室のような席を、自分の荷物を置くことで四人分確保している。
「悪いな」
「お待たせ」
「いいわよ。それよりさっさと座りなさいよ。後ろつかえてるわ」
文美、幸也、椎名、永斗の順番で並んで座る。
「楽しみよね。なんてったってあの七瀬さんの講義を受けられるなんて」
「そうだよね。僕も幸一さんの講義は楽しみだな」
文美と幸也は楽しそうにノートを出して、授業の準備をする。
それを見ながら永斗はこっそりと椎名に耳打ちする。
「とりあえず俺たちのことを話すかは、この講義を見て調べる」
「それしかないよね」
「ああ、ネット使ってみたけど全然資料は上がってこない。授業で知るしかないから、椎名もしっかり見といてくれ」
「それは永斗に任せちゃだめなの?」
「当たり前だ」
他人任せにしそうな、椎名のおでこを軽くたたく。
「まあ、どっちにしろ貴重なエクスガーディアンの講義だ。まじめに聞くつもりだけどな」
「永斗が人の話を真剣に聞くなんて……明日は雨かな」
「俺は、敬意を払ってる人には柔順だぞ?」
「永斗は、それが極端に少なすぎるんだよ」
「お。来たようだぜ」
教室を満たしていた喧騒が静まり返り、教室の入り口に視線が集中する。
そこに教師を先頭に、二人のペアが入ってきた。
一人は黒いコートを着た男性。
もう一人は涼しげなフリルをあしらった衣装を着た女性。
二人とも、以前グラウンドで見たときの服と同じ服だ。それが二人の正装ということなのだろう。
「はじめまして……かな?」
「それでいいだろう。俺がガーディアンの佐藤幸一だ。こっちの少し抜けてるのが能力者の海神七瀬だ」
「抜けてるはひどいと思う……」
「いいから進めるぞ。時間は決まってるんだ」
「むぅ……」
ガーディアン、しかもエクスガーディアンということでイメージしていた姿と、現在の二人の抜けた会話のギャップに、生徒の大半が気を抜かれてしまう。
「で、まずは何から話すことになってるんだ?俺は何も聞いてないぞ」
「それは大丈夫。ここにメモ貰ったから」
「メモ貰ってる時点でいろいろとダメだろうに……」
「えっと最初は……」
七瀬がメモを見ながら話す内容を決めてゆく。
それは授業が始まる前に決めておくものじゃないかと思いながらも、永斗は聞いていた。
文美は早くも毒気を抜かれ、授業開始時はピンと張っていた背中が丸く丸まり始めている。
もちろん永斗は最初から背骨を延ばしてはいない。だが、若干前のめりになって聞いていた。
授業が始まって数十分。二人の話は次の話題に入っていた。
最初はガーディアンの心得や、能力者の在り方など、教科書にも載っているものを話していたが、どれも二人の体験談を交えた話で、教科書とは比べ物にならないほど分かりやすかった。
「えっと次に話すのはガーディアンのことだって」
「ガーディアンのなんだよ」
「ガーディアンの……えっと……ありかた?」
「ずいぶん抽象的だな。メモ見してみろって」
言うや否や、幸一は七瀬の持っていたメモを取り上げる。そしてそれに目を通して七瀬と同じように悩みだした。
「いいのかこれ?」
「やれって言われてるし良いんじゃない?私としてはどうかと思うけど」
「まあ、しょうがないか」
「じゃあ脱ごっか」
「さすがに人前でってのは恥ずかしいな」
「良いじゃん、イフィムと戦えば服なんて気にしてらんないよ?」
「たく……他人事だと思いやがって」
そう言いながらも、幸一はコートの前を外していく。
「じゃあ次は能力者とガーディアンの在り方。そしてガーディアンがガーディアンと呼ばれる理由だ。
教科書に載ってるガーディアンの意味。そこのお前言ってみろ」
たまたま目のあった生徒に幸一がふる。
「あ、はい。ガーディアンは、能力者を守り、ともに戦う大切なパートナーという意味からガーディアンと呼ばれています」
「そうだ。能力者を守る。これがガーディアンとして一番重要なことだ。だが、自分の命を引き換えに能力者を守るというのは違う。そこを間違えるなよ」
「ガーディアンは能力者を命に代えても守るものじゃないんですか!?」
幸一の言葉に、熱心な生徒の一人が声を上げた。
「イフィムとの戦闘をお前はどれだけ経験した?」
「二期生に上がれる程度には……」
ならば小型だけでもすでに何十回と戦闘に出ていることになる。
「なら言い変えよう。中型以上のイフィムと戦った経験は?」
「……ありません」
「中型以上と戦ったことのある連中は、この中でもほんの一握りだろうからな」
その瞬間、幸一が一瞬永斗の方を見た気がした。
「中型との戦闘を経験したことのある連中なら分かると思うが、片方の怪我はそのまま両方の死を意味する」
その言葉に、会場に重い沈黙が流れる。
「多分お前らにはまだその覚悟ができてない。だからそんな甘いことが言える。だから俺が今からお前らにあるものを見せる。それにビビって無理だと思うようだったら今からでもガーディアンになるのはやめろ」
そう言って幸一はコートの下のシャツをまくりあげた。
腹がむき出しになる。
そしてそこにいやでも目に入ってくる傷跡。
左わき腹を、ごっそりとくり抜かれたように、ひきつった傷跡に一堂は息をのんだ。
「これがイフィムとの戦闘で着いた傷跡だ。この時俺は死にかけた。そして、そのせいで七瀬も死にかけた。なんとか倒れる前にイフィムを討伐できたから生きているが、できていなければ俺も七瀬もこの場所にはいない。
今この傷から目をそむけたやつは、正直に言ってガーディアンには向いていない。それは能力者にも言えることだ」
幸一はそこに追い打ちをかけるように言う。
「誰かの傷に怯むようでは、戦闘中に自分が傷を負ったときに動けなくなる。また、パーティーを組むにしても同じことだ。それに、パーティーを組むような強敵にみすみす隙を作ることになる。つまり全員を死の危険に巻き込むことになる。分かったな」
「幸一はかなり厳しいこと言ってるかもしれないけど、それは事実だよ。だから忘れないでね」
七瀬が軽くフォローを入れて、次の話に進んだ。