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十二章

「ああ……やっと戻ってこれた……」

「お疲れ様―」

「誰のせいよ、誰の……」

椎名特製のお茶を飲んだことにより、気を失った文美を幸也が運び、一行は町の入口までもどっ来ていた。

途中で気を取り戻した文美に肩を貸しながらゆっくりとしたペースで戻ってきたため、あたりはすでに真っ暗になってしまっている。

依頼の達成は一日中受け付けているため問題ないが、学生寮の門限を過ぎてしまったため、永斗は証明書を発行してもらわなければならない。

「とりあえず依頼の達成だけ報告行っちまおうぜ。証明書の発行って結構時間がかかるんだ」

「そうだったわね。じゃあそのあとに打ち上げとか行かない?どうせ証明書発行してもらうんだったら、夜遊びしましょうよ」

「夜遊びってほど夜遅くまでは無理だけどな。飯ぐらいなら付き合うぜ。中型ならいい報酬になるだろ」

「え?なにそれ私たちのおごりなの!?」

「文美ちゃんごちそうさま~」

いつの間にか夕食をおごる羽目になった文美を笑いながら、永斗たちは依頼の達成を報告に向かう。

場所はいつも通り学校の真ん中だ。

すでにフリーランに出ていたほとんどの生徒が帰ってきており、報告を終えている。

「すみませーん依頼の官僚報告に来ました」

「はい、フリーランでよろしかったですか?」

「はい」

「では、依頼書と討伐したイフィムの結晶の提示をお願いします」

椎名は言われたとおりに、今日倒した七体分の核結晶を渡す。

「はい。確かにノルマ達成ですね。プラス二体分あるのでその分が報酬に加算されます。金額は椎名さんの口座に二日以内に振り込まれますのでご確認ください」

「ありがとうございます」

これで椎名の依頼報告は終了だ。そのまま文美たちの報告になる。

「私たちもフリーランよ」

「はい、依頼書と核結晶をお願いします」

「はいこれ」

文美はあらかじめ用意しておいた二つをすぐに渡す。

文美が渡した核結晶を見て、受け付けの人は目を見張った。

「中型ですか!?」

「ええ、フリーラン中に遭遇したの」

「わかりました。五体分の核結晶と、そのうち一体が中型なので報酬に加算されます」

「ありがと」

あとは椎名と同じように説明を受け、四人そろって受け付けを後にした。


「面白かったわね、あの受け付けのお姉さんの顔」

「そりゃ二年生になりたての俺らが中型なんか倒して来たら驚くだろ。そもそも今回の依頼に中型の討伐は含まれてなかったんだから、逃げても問題ないはずの個体だ」

「でも永斗たちがいたから倒せたんだし、いいじゃない」

「あんな危険なやり方は今後御免こうむりたいけどな」

「永斗なら一人でもなんとかできそうな気がするけどねー」

「やめてくれ。そんなのできるわけない」

町にある学生行きつけの料理屋で、四人は今日のことを話しながら遅めの夕食をとっている。

「でも本当に珍しいよね。依頼内容とは違った個体が来るのって」

「そうだな。基本的に依頼はしっかりと確認されてから受領されるはずだ。想定外のことがないとは言えないが、かなり珍しい」

受領まえの確認はかなり重要だ。確認専門の仕事もあるほどに。

それは受領した依頼と実際の個体が違えば、そのランクを受けた能力者とガーディアンの対処できない個体に遭遇する場合があるからだ。

それはいたずらに死者を増やすだけになる。

貴重なそんざいだからこそ、その分依頼の受領には最善が尽くされている。

「それに馬型だったってのも気になるな」

「森じゃ現れないから?」

「ああ、どっかから迷い込んできたにしても、それまでに討伐依頼が出されていない。誰にも見つからずに平原からあそこの森林地帯まで移動するなんて至難の業のはずなんだけどな」

永斗はそういって考え込む。そこにやけにハイテンションの文美が絡んできた。

「そうなことどうだっていいじゃない!今日私たちは中型を倒したのよ!辛気臭いこといってないで楽しみなさい!」

「いきなりどうした!って文美、酒臭いぞ!」

「え?文美ちゃんお酒飲んじゃったの!?」

「幸也~、あんたももっと飲みなさいよ!」

「文美、それ駄目だよ。お酒だって!」

「そういやあ椎名がやけに静かだな?」

椎名を見ると、テーブルに突っ伏して眠ってしまっていた。

前には文美の持ってるグラスと同じグラスが空になっている。

「椎名も飲んじまったのか……」

酔って眠ってしまったらしい椎名に、永斗はそっと上着をかける。

「あらやさしいわね~」

「ええい!鬱陶しい。文美これから酒は禁止だ!」

騒がしい夜は、文美たちの酒で嫌な方向に盛り上がった。


「じゃあ、また明日ね」

「ああ、また明日」

文美が酔っぱらった後、二人に散々絡んだあげく、倒れるように眠った。

そこでようやく御開きとなり、永斗は椎名を背負い、幸也が文美を背負ってそれぞれの家まで送って行くことになった。

幸也の場合は家が同じ場所なので問題ないが、問題は永斗の方だ。

椎名の住んでいる山吹寮は女子寮。もちろん男子禁制である。

男子寮はなぜか女子禁制では無いのだが、それは寮長が頑張ったおかげとか何とか。

だがそもそも男子寮にわざわざ来るような女子は純一のストーカーもとい彼女の薫ぐらいなので問題ないのだろう。

椎名を運ぶにしても、入れるのはせいぜい玄関までであり、そこからは誰か他の人物に名飲まなければならない。

女子寮に椎名以外の知り合いはおらず連絡の取りようが無い状態なのだ。

「さて、どうしたもんかね」

止まっていても仕方が無いので、永斗はとりあえず山吹寮を目指すことにした。


「さて、どうしたもんかね」

店の前で呟いたことをもう一度呟く。山吹寮の前まで来ても、解決策は見つからない。

やはりここは椎名を起こすしかないかと考えていたところに、救いの女神は現れた。

「こんなところで何をしているのですか?」

突然ライトに照らされ、その眩しさに目を瞬かせる。

どうやら両周辺を見回りしていた警備員の人のようだ。女性寮だから警備員も女性なのだろう。

「寮生を送り届けてきたんですけど、どうやって入ったらいいか分からなくて」

永斗は背負っている椎名をアピールしながら言う。

それを聞いて、警備員は永斗の背中に背負われている椎名にライトを当てた。

「椎名さん?」

「知り合いですか?」

「一応入寮生は全員把握していますから」

「なら椎名お願いできませんかね?フリーランで疲れて眠っちゃったみたいなんです」

「そういうことでしたか。では特別に入寮を認めますので部屋まで送っておあげてください」

「いいんですか?」

「たまにあることですから。それに私は巡回の途中ですから抜けることもできませんし。部屋の場所は分かりますか?」

「いいえ」

「椎名さんの部屋は203号室です。寄り道はしないように」

「しませんよそんなこと」

「送り狼もですよ」

「やりません!」

「ならいいです。どうぞ」

そう言って警備員は寮の入口まで案内してくれた。

その後、すぐに巡回に戻ってしまう。

「こんな簡単に男入れちゃいかんだろうに……」

寮の警備を少し心配に思いながら、永斗は言われた通りに203号室へ直行。

「おじゃましま~す」

椎名のポケットから鍵を拝借して開け、中に入る。

部屋はフローリングタイプの一人部屋だ。

ベッドと机、床にはカーペットが敷かれ、その上にテーブルが置いてある。

柊寮とさほど構造は変わらないようだ。

起こさないように椎名をそっとベッドに下ろす。

「おつかれさん」

布団を掛けて、そっと部屋を出た。

「なにもしなかったのですね」

「うぉ……」

とっさに口をふさいで声が出るのを防いだが、すこし漏れてしまった。

振りかえると、そこには入る時に色々してくれた警備員さんが立っている。

永斗は全く警備員の気配に気づけなかったのに驚く。

「男なら抱くぐらいのことはすると思っていたのですが」

「そんなことしませんよ。てかなんなんですかいきなり」

「私は警備員です。女の子の純潔も警備する対象ですから」

「なら俺なんか入れないであんたが運んでくださいよ」

ニヤニヤと笑う警備員に溜息をつく。

「それでは詰まらないじゃないですか。警備員も結構暇なんですから」

「男で遊ばないでください。じゃあ俺は帰るんで」

「はい、お疲れさまでした。酔っぱらった女の子に手を出さなかったのはなかなか評価が高いですよ」

「はいはい。ありがとうございます」

適当に返しながら寮を出て、帰宅した。


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