表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/19

十一章

「ここで迎え撃つ」

永斗達が来たのは、森の中にポツンとある開けた場所だ。

公園の跡地で、土が硬く短期間では木が根付かなかったため、この周りだけは木が生えていなかった。

「作戦は?」

「俺が正面から迎え撃つ。椎名と文美、幸也は後方に隠れて戦闘が始まったら挟撃してもらいたい」

「大丈夫なの?」

「大丈夫じゃないが俺以外に適任者がいない」

ここで永斗以外が正面に立てば、怪我をするのは目に見えている。いや、怪我で済めばいいほうだろう。

そんな中に三人を入れるわけにはいかなかった。

「わかった。私は永斗を信じるよ」

椎名が言う。

「椎名が言うならしょうがないわね。でも危なくなったらすぐに逃げなさいよ」

「そうだね。今の除隊なら永斗君が頼みの綱なんだから」

「わかった」

木のメキメキと折れる音はだんだん近づいてきている。

さっきまでは遠くに聞こえていたのが、今はだいぶ近い。

鳥が飛び立つ距離もだんだんと近づいてきている。おそらくそこに中型がいるのだろう。

「イフィムが近い。全員隠れてくれ」

その言葉を合図に、三人がそれぞれ茂みの中に隠れる。

永斗の正面に椎名。向かって右に文美、左に幸也の配置だ。

椎名はイフィムが来た時に鉢合わせにならないよう少し文美側によっている。

永斗はその場で剣を抜き、手榴弾のピンを抜いた。

まだ握ったままのため、ピンを抜いても爆発はしない。

その状態でイフィムを待つ。

「来た」

永斗が静かにつぶやいた。

聞き取れないはずの小ささだが、永斗の緊張が周囲に伝わり、三人の体をこわばらせる。

正面の木がへし折れる。

そこから黒い影が這い出てきた。

「馬型だと!なんでこんなところに!?」

その巨体は漆黒の馬。

全長は四メートルはあろうかという大きな馬だ。

だが、基本的に馬型のイフィムは草原や平原など、平らかながらかな丘でしか確認されていない。このような森林地帯に現れるようなイフィムではないのだ。

イフィムは馬が威嚇するように廿九日を地面にこすり付けながら、永斗を見つめる。

剣を構え、永斗も正面から対峙した。

だが永斗は真っ向から戦いを挑むなど無謀なことはしない。

左手に握っている手榴弾から力を抜き、タイマーを起動させる。

そしてイフィムの足元めがけて投げつけた。

投げられた手榴弾はタイミングよく、イフィムの足元についた時点で爆発した。

土がめくれ、砂埃が巻き上がる。

その衝撃で、イフィムの体が大きく揺れた。

それを見て、イフィムに向かって走り出す。

そして、振りかぶった剣をイフィムの首に切りつけた。

刃はイフィムの首に深々と刺さる。しかし切断されるまではいかない。

「硬い……」

イフィムが首を振り回そうとしたのを感じて、とっさに剣から手を放した。

それと同時にイフィムが首を振り回し、剣を振り落した。

切られた傷口がみるみる回復していき、あっという間に元の状態に戻ってしまった。

首を切断して、核の位置を絞り込もうとしたが、失敗に終わる。

剣がイフィムの近くに落ち、永斗は近接武器を失ってしまった。

それを見て、文美と幸也が動く。

両サイドから同時に飛び出し、イフィムに向けて文美によって強化されたクナイを投げつける。

永斗の全力でも断てなかった体だ。クナイが刺さることはなく、そのままはじかれて落ちる。

しかしそれは永斗の初撃を見て、二人にはわかっている。狙いは永斗から注意をそらすこと。

案の定イフィムは左右から同時に飛び出してきた異物に注意をひきつけられ、永斗から注意がそれる。

その瞬間に永斗は足元にある剣を回収して、イフィムから距離をとる。

もちろん去り際にイフィムの足を切りつけていくのも忘れない。

交互に攻撃されたことで、イフィムの意識が点々と動くのを感じながら、幸也と文美は息の合ったコンビネーションでイフィムに糸を投げつける。その先端にはおもりがくくりつけられていた。

紐はイフィムの足にかかり、絡まる。

イフィムが引きちぎろうと足を引っ張るが、紐にも文美の能力が付与されている。その程度では切れるはずがない。

イフィムが足を取られたのを確認した永斗は再び切りかかる。今度は先ほどよりも首の先端。最も細くなっている場所を狙って切りつけた。

どさっと首が土の上に落ちる。

消滅したのは頭だった。

「やっぱり胴体のどこかに核があるのか……」

「頭にあれば楽だったんだけどね」

「そんな上手くいく訳無いわよ」

修復されていく顔を見ながら三人で話す。

椎名は草むらの中から核が露出した際に打ち抜くように頼んであるため出てくることはない。

椎名のライトショットは夕方になり、多少威力が落ちてきているが、それでも遠距離からイフィムを打ち抜ける力を持った唯一の武器だ。

当然イフィムも、一度見せれば警戒してくるだろう。ならば一撃を狙ってもらったほうがいい。

イフィムの修復が終わり、再び暴れだす。

文美の付与は強力だ。イフィムがどれだけ引っ張っても切れることはないだろう。しかし、それを扱う本体は別である。

力に引っ張られ、体のバランスを崩せば、それは死に直結する隙につながる。

先ほどよりはるかに強い力で引っ張られた糸を、二人は無理せず離した。

自由を取り戻したイフィムが、目の前にいた永斗に向かって突進してくる。

普通の馬の突進でさえ、まともに食らえば大けがをする。まして、四メートルを超すイフィムの突進など食らえば即死してもおかしくはない。

永斗はその突進を冷静に見極め、左に避けた。

突進をかわされたイフィムは、速度を緩めず、そのまま森の中へ消えていく。

そしてメキメキと木を折り倒しながら、再び同じ速度で戻ってきた。

だが次の突進を永斗はかわすわけにはいかない。

かわせばそのまま森の中に入る。

それは後ろの草の中に隠れている、椎名と激突してしまう可能性がある。

そのことに気付いた文美と幸也は、とっさにイフィムの両足に糸を絡ませ、バランスを崩させようとする。しかしそれでもイフィムは止まらない。

そこに手榴弾が投げ込まれ、イフィムの足元を再び破壊した。

爆発でへこんだ地面に足を取られ、イフィムがそのバランスを崩す。

そこにすかさず駆け込み、今度は胴体を薙ぎ払う。

もちろん切断することなどできない。

今度の目的は、核結晶がどこにあるかを見つける作業だ。

少しずつ傷をつけて、核結晶のある場所を探す。

文美と幸也も同じように切りつけていく。

胴体、太もも、尻、右前脚、左前足……

切っても切っても核結晶は見つからない。

ただでさえ巨体なのだ。ただ切りつけるだけでは露出させる面積に限界がある。

通常、中型以上のイフィムと戦う場合、核結晶を探すために、強力な武器で体面を一気に削り探すのだが、今回は小型メインの以来だったため、一番威力の高い武器で、かつ範囲の大きな武器となると、永斗の手榴弾か、椎名のライトバニッシュぐらいしかない。

夕方に近づいてきていることもあり、ライトバニッシュの威力は昼時の三分の二程度だろう。

それでも椎名を切り札にしている以上、使うわけにはいかない。したがって、必然的に永斗の手榴弾のみが核結晶を探す手段になる。

「俺があいつの上に乗る。援護してくれ」

「どうするつもりよ!?」

「背中から手榴弾を埋め込む。体内で爆発すれば核結晶も露出するはずだ」

「なるほどね。でもどうやって上に乗るの?相手は全長二メートルはあるわよ。止まってる相手ならともかく動いてる相手に乗るなんて不可能じゃないかしら?」

「だから援護してくれって言ってるんだ」

「あたしたち任せってこと!?」

「期待してるぞ!」

いうや否や、永斗はイフィムに向かって走り出す。

「ああ!もう!知らないわよ!幸也!」

「どうする?」

「あいつの関節狙うわよ。関節折れば、少しは背も低くなるでしょ」

「そういうことか。わかったよ」

幸也は素早くクナイを取り出すと、立ち上がったイフィムに向かって投げつける。

それに合わせて文美も葉っぱを硬化させた手裏剣を投げ、イフィムの右前足の関節を切りつけてゆく。

さらに文美は、服の内側から訓練の時にも使った、糸の繋がった葉っぱを取り出した。

それを同じようにイフィムの足に巻き付け、力の限り引っ張る。

すると、硬化された葉っぱが、イフィムの足に巻きつきながら切り裂いてゆく。

そして、やっと関節が片方折れた。

「一本折ってやったわよ!」

イフィムがバランスを崩し、前かがみの姿勢になった。

「上出来だ!」

前かがみになるイフィムの脇腹に剣を差し込み、それを足場にして背中に乗った。

鞍がついているはずも無く、何も無い背中はつるつるとしていて滑りやすい。

永斗は、首から生えている毛を握り、振り落とされないようにしながら、幸也が最初に投げ刺さったままになっていたクナイを抜き取る。

そしてそれを背中めがけて突き立てた。

イフィムから血が出ることは無く、一瞬で修復しようとする。

永斗は突き立てたクナイを強引に引き、傷口を広げる。そしてそこに手榴弾を左手ごと突っ込んだ。

抜くときには安全ピンを引き抜くのを忘れない。

そして、立ち上がったイフィムから飛び降りる。

前転しながら着地の初撃を逃がしつつ、イフィムから出来るだけ距離を取った。

激しい音と衝撃と共に、手榴弾が爆発した。

イフィムは、背中から腹に掛けて大きくえぐれ、中身の大半が見えるようになった。

イフィムはその動物の形をとっているだけで、内臓は無い。

弾けたイフィムの胴体は真っ黒に塗り潰されたような状態だ。

その中に核結晶がキラキラと光を反射して輝いているのを、椎名は確かに見つける。

「ライトショット!」

椎名の声とともに、草むらから光の弾が打ち出された。

それはイフィムの核結晶に直撃する。

「やったの!?」

「それはミスフラグだ、バカ!」

核結晶には罅が入っただけでいまだ、割れてはいなかった。傾いた太陽と午前中からの連戦が、椎名の力を予想以上に減らしていた。

その間にも、イフィムの胴体がどんどんと修復されていく。

「大丈夫。任せて!」

そこに飛び込んだのは幸也だった。

クナイを握りしめ、イフィムのすぐそばまで来ている。幸也は、椎名の一撃が失敗した時のために、次の攻撃が出来るようにあらかじめ準備していた。

そして、クナイをイフィムの核結晶を叩くように振り抜いた。

パリンっとガラスの割れるような音が辺りに響き渡り、核結晶が破壊される。

イフィムは完全に動きを止め、消滅した。

「やった……の?」

「今度は確実にな。幸也、ナイスサポート」

「ありがとう。緊張したよ」

「すごかったよ、幸也君」

草むらから出てきた椎名が合流する。

「ごめんね。予想以上に力が弱まってたみたい」

「仕方ないよ。朝から連戦だったんだから」

「幸也、核結晶回収しとけ、幸也が砕いたんだから幸也のもんだ。これでそっちもノルマは達成できただろ」

「そうだね。じゃあありがたく貰ってくよ」

幸也が散らばった核結晶を集めてゆく。中型の核結晶は小型のより二倍ほど大きく、質もいい。報告時にプラス評価になるのは間違いないだろう。

永斗も足場に使った剣を回収したり、文美の使った武器を回収していく。

椎名は、疲れた表情でぐったりしている文美に水稲のお茶をわたし……

「文美!まてそれを飲むな!」

時すでに遅い。

文美は椎名から渡されたコップを傾けていた。

「間に合わなかったか……」

「永斗、何これ……」

「椎名特性のお茶だ」

「そ……う……」

疲れたところにとどめの椎名特性茶だ。素面の状態でもキツイのに、泣きっ面に蜂である。

文美はその場にバタリと倒れこんだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ