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十章

「何があったんだ……」

拠点に戻ってきた永斗たちは、呆然としていた。

ほんの数時間の間に、永斗と椎名が拠点にしていた家が瓦礫の山になっている。

「わかんない。とりあえず荷物探してみる?」

「そうだな……」

ほぼ絶望的だが、一応探す。といっても、せいぜいが椎名の持ってきた弁当箱や、予備に置いて行った自作の爆弾程度だ。

「私たちも手伝うわよ」

「ありがとう」

「幸也、お前は周りの警戒を頼む。家一つ破壊したのが何かわからないが、まだ近くにいる可能性もある」

「まかせといて」

特にひどいヒビが入っていたわけでもない家が、ほんの数時間で瓦礫の山になるわけがない。

何者かに破壊されたのは目に見えている。

そしてそんなことが可能なのは、この世界に二種類しかいない。

イフィムと能力者だ。

能力者がこのようなことをするわけがないから、必然的にイフィムの仕業ということになる。それも相当に強い個体だ。

幸也が警戒に付くのを確認して、永斗は椎名と文美に指示を出す。

基本瓦礫をどけるのは永斗の仕事になるだろうが、椎名たちも能力者だ。

使える能力は使ってもらうつもりだった。

「文美、この枝に能力頼む」

「どれぐらい固くするの?」

「鉄パイプでいけるか?」

「もちろん。太くて固いのにしてあげるわ」

「お前わざと言ってるだろ……」

文美の言い回しにげんなりしながら、固くなった枝を使って瓦礫をどけていく。

しばらくすると、元ダイニング、二人で昼飯を食べた場所の跡地が現れた。

「ここか」

「そうだね。でももうちょっと右かも」

瓦礫の下から現れたのは、水道管と流し台の残骸。机の位置とは少しずれている。

それを確認した永斗は、場所を修正して、再び瓦礫をどけてゆく。

そして、瓦礫の中から、道具を引き出すことができたのは、始めてから一時間経過した時だった。

「やっと出た……」

案の定荷物のほとんどはがれきに潰され、使えなくなってしまっている。

その中からまだ使えそうなものを回収していく。

永斗は手製の爆弾を全部回収した。火薬などは再利用できるからだ。

「お疲れ様。お茶いる?」

椎名が水稲からお茶を出そうとする。

「いや!今はいい!」

永斗はそれを即座に止めて、自分の持ってきた水稲から直接水を流し込んだ。

「ふぅ。幸也もありがとうな」

「いいよ。特に何もしなかったしね」

「この後どうするの?拠点なくなっちゃってるし、新しい場所探す?」

「正直俺はもう帰りたいよ。瓦礫退けるので体力使い切った感がある」

「私も今日は戻ろうかな。目標は達成してるし」

「私たちはまだ目標まで終わってないのよね」

「そうだね。僕たちはもう少し探さないと」

「それぐらいは付き合うさ。正直前線に出るのはきついが、サポートぐらいならできる」

「永斗君がサポートについてくれるなら心強いね」

「椎名もそれでいいか?」

もとは椎名が受けた依頼だったことを思い出して、永斗は確認を取る。

ここで嫌だと言わないのは分かっていても、一応聞いておくのが筋だ。

「もちろん私はいいよ。私も協力する」

「ならこのままイフィム探しに行きましょうか。もしかしたら、ここの拠点破壊したイフィムに会えるかもしれないし」

「あんまり会いたくない気はするけどな」

建物を壊れるほどのイフィムを相手にするのは骨が折れるに決まっている。

そんなものと戦いたいと思うやつは、少ないのだ。誰だって命が優先である。


旧商店街の中を歩きながら、四人はイフィムを探す。

昼を越して、大分討伐依頼を受けた人が増えてきたのか、ちらほらと見る。その大半が、やはり学生だ。

「大分増えてきたわね。競争率が上がるわ……」

イフィムとの戦闘は早い者勝ちである。別に割り込んでもいいのだが、初めに見つけた人が、そのイフィムの核を手に入れる。

学生たちの間でいつの間にか決まった暗黙の了解だ。

「仕方ないよ。新学期が始まって初のフリーラン依頼なんだから」

「もうすこし遅い時期にするべきだったわ。このままだと赤字になる!」

通常の依頼を受けてきたのなら赤字だが、この場合は、「成績の評価が下がる」だ。

「なんとか後二体は見つけないとね」

「絶対に見つけ出して見せるわ」

「椎名。能力に引っかかるのは人ばっかりか?」

「そうだね。ここから周囲五百メートルを見張ってるけど、それらしい影は無いね」

「なら森のほうに入ってみるか?商店街よりかは可能性が高いだろ」

「僕はその意見に賛成だよ。文美ちゃんどうする?」

「そうね、そうしましょ。このままここにいても時間を無駄にするだけだわ!」


森に入ると、さっきまでの雰囲気は一変する。

手の入れられていない、生い茂った葉が視界を邪魔し、足を躓かせる。

「やっぱり歩きにくいわね。危険は椎名が察知してくれるからいいけど、とっさに動けないのはやっぱり心配になるわ」

「木の上を進むって手もあるんだけどな。それやると椎名の能力がついていけなくなるから奇襲されやすくなる」

「地道に行くしかないのね……」

「ここは我慢の時だよ、文美ちゃん」

「大丈夫よ、幸也。おばあ様の小言に比べればどうってことないわ」

「どれだけひどい嫌味言われてんだよ」

「聞くも怒り、話すも怒りの物語よ」

「話すだけで怒るんなら、聞かないのがベストだな」

軽口をたたきながらも周りの警戒は怠らない。

イフィムの存在は椎名に感知してもらえるが、小動物、とくに毒蛇や毒雲など、危ない生き物は森の中ならいくらでもいる。

先ほどから、四人は軽口をたたきながらも、そういった危険な生き物をことごとく排除していっていた。

「いた」

つぶやいたのは椎名だ。

「ここからまっすぐ四百メートル」

「さっすが椎名。愛してるわ」

「その愛はちょっといらない……」

抱きつこうとする文美をさっとかわしつつ、椎名は永斗の後ろに隠れた。

「つれないわね。まあいいわ、幸也と私で先行するわよ」

「俺たちは様子を見ながらサポートするぞ」

「ええ、たぶん大丈夫だろうけど、いざとなったらお願いね」

「任せといて!」

永斗の後ろで椎名がガッツポーズをした。


「一体、虫型だね」

蛾を素体にしたであろうイフィムが木に止まっている。

「二体じゃないのが惜しいけど、この際わがままは言ってられないわ。一気に片付けて次に行くわよ」

「もちろん。じゃあ強化お願い」

文美が幸也の持っている武器全てに能力を掛けて行く。

木陰からイフィムの姿を見つけ、突撃のタイミングを計る。

イフィムは木に張り付いたまま動く様子は無い。動いてくれれば、隙を作る可能性もあるが、動かなければ闇雲に時間が過ぎるだけになってしまう。

「私が物音立てるわ」

「了解。隙を見て突撃すればいいんだね」

「ええ、椎名たちにはいざとなったらサポートお願いなんて言ったけど、もともと助けてもらう気なんてないわ。私たちだけで完璧に決めるわよ」

「もちろんだよ。正式に働くようになれば、彼らもライバルだからね」

「ええ、そうゆうこと。じゃあ行くわよ」

文美が腰を落としたまま、草むらを移動して幸也とイフィムを挟んで反対側まで移動する。

左右から陽動を掛けるのだ。

「ハッ!」

文美がイフィムにクナイを投げつける。

それは真っ直ぐにイフィムに向かい、羽の付け根に突き刺さった。

突然の攻撃に驚いたイフィムが、大きく羽ばたいて飛び立とうとする。

蛾型のイフィムは、羽を広げると一メートルほどの大きさになる。その大きさと、空を飛ぶことから厄介なイフィムとして考えられている。

戦う上での定石としては、奇襲を掛けて、最初に羽を落とし、地面に落ちた所を一気にたたみかけるのだ。

驚異的な再生力を持つイフィムは、羽を切られてもすぐに治ってしまうため、一撃のタイミングが重要になる。

クナイが刺さったままのためバランスを崩したイフィムに、反対側から幸也が飛び出し、枝でクナイの刺さった羽を切り落とした。

ドサッとイフィムが地面に落ちる。

その瞬間を逃さず、文美が追撃を仕掛けた。

今度は数枚の葉を手裏剣のように変えて、手当たり次第に投げつける。

適当に投げられたように見える葉は、全てイフィムの胴体に突き刺さる。

「ヤァ!」

そこに幸也が枝を振り下ろした。

胴体と尻が分断される。

胴体、羽、頭、足が次々に消滅していく中、尻から上半身がみるみる再生してく行く。

そこに枝を持った文美が斬り込んだ。

尻を縦に真っ二つに切り裂く。切り裂かれた面から、イフィムの核結晶が露出する。

「幸也!」

「大丈夫!」

尻は幸也から少し離れた場所にある。今から斬りかかったのでは間に合わない。

だが、幸也は手首に巻かれたベルトから素早くクナイを取り出し、イフィムに向かって投擲する。

文美の能力によって強化されたクナイは、イフィムの核結晶を難なく破壊した。

「お疲れ幸也」

「文美ちゃんもお疲れ様。良い連携だったよ」

「私達なんだから当然よ」

ハイタッチを交わしつつ、イフィムの核結晶を回収する。

そこに隠れていた永斗達が合流した。

「あと一匹か。すぐに行くか?」

「ええ、この調子でどんどん行くわよ」

「じゃあ散策再開だね」

「ちょっと待って!」

椎名の焦った様な声が響く。

「どうした?」

「イフィムか近づいてくる。結構大きいよ。この大きさは……中型!?」

「中型だと!?」

「あら、まさかあの拠点を破壊した個体かしら?」

「たぶん、そうなんだろうね……」

一同に緊張が走る。

永斗以外は、中型と遭遇するのは初めてだ。

いきなり戦闘になれば、怪我をする危険性が非常に高い。

「どうする?逃げる?」

文美の意見は妥当なものだ。まだ中型に対する戦闘訓練を行っていない幸也や文美が一緒にいても危険なだけだ。ここは逃げるのが良いだろう。

「どうも無理っぽいよ。イフィムが速度上げて真っ直ぐこっちに来る。私達の存在に気づいてるみたい」

「なら少し移動して、戦う準備をしよう。中型ならここで戦うには狭すぎる」

「ここは永斗君の意見にしたがっといた方が良いかな。永斗君は何回か中型との戦闘経験あるんでしょ?」

「ああ。じゃあ移動するぞ」

「「「了解」」」

四人は中型を相手にするため、開けた場所に移動した。

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