九章
絶対に椎名の料理を無警戒に食べないと決意しつつ、永斗達は再びイフィムの討伐に繰り出していた。
森の中でも、少し開けた場所で、次々と来るイフィムと連戦していた。
「次、右から一体きてるよ」
「了解」
倒したイフィムの核結晶を拾う間もなく、次のイフィムが永斗に襲い掛かる。
光と影のでき方で、イフィムが来ていることを確認した椎名が、永斗に注意を飛ばした。
永斗がそちらを向くと、木の陰から小型のイフィムが飛び出してくる。
カナブンの様なイフィムは、真っ直ぐに体当たりを敢行して来た。
永斗は、それを剣の腹で受けて流す。
そしてすれ違いざま、流れるような剣捌きで、イフィムを真っ二つに切り裂いた。
ドサッと上半身の下半身が別れた地面に転がる。
すかさず椎名がライト・ショットで格を破壊した。
「次は!」
「大丈夫。もう近くにはいないみたい」
「やっとか。全部で何体だった?」
「七体」
「三体も逃がしたのか」
七体とは森の中に潜んでいたイフィムの数で、その内の四体が永斗達に襲い掛かってきた。残りの三体が、襲うことを選ばず、その場から逃げた数だ。
波状攻撃の様に次々と襲ってきたイフィムの核結晶を、一つ一つ拾い集める。
「確かにこの量ならフリーランにもなるな」
「私としては、もっと少ないと思ってたんだけどね。依頼書にもこんなに多いなんて書いてなかった」
「じゃあ、集まってきたってことか?それとも一気に生まれたのか?」
「さあ」
その答えが分かるはずも無く、椎名は首をかしげる。
近くでも、剣が硬いものに当たる音が聞こえる。どこかでイフィムと戦っているのだろう。
「そろそろこの場所から移動するか」
「そうだね。大分少なくなったし」
「なら近くで戦ってる奴見に行くか」
「邪魔にならないかな?」
「見るだけなら問題ないだろ。流石に戦闘に介入する気はないけどな」
逃げた三体がそちらに向かってる可能性も考えて、永斗は近くで戦っている能力者たちを見に行くことにした。
「文美ちゃん!」
「分かってるわ!ハァッ!」
文美の能力により、鋭利な刃物と化した落ち葉がイフィムに突き刺さる。
しかし、刺さった程度でイフィムが倒せるはずも無く、すぐに傷口がふさがってゆく。
幸也はその瞬間を狙って、木の枝をイフィムに振り下ろした。
普通ならイフィムの纏っている外殻により、傷一つ付けられなかっただろう。
しかし、今幸也が持っている枝は、文美の力によって、名刀に引けを取らない鋭い切れ味を持った枝だ。
振り下ろされた枝によって、イフィムの顔が切断される。そして核結晶の砕ける音。
「よし!」
「気を抜かないで!次が来るわよ」
文美が言った端から、イフィムが二体二人の前に飛び出してきた。
「同時か……厄介だね」
「私が右のをひきつけておくから、左のをさっさと片付けてきて」
「文美ちゃん結構人使い荒いよね」
幸也は苦笑しながら、枝を再び構える。まだ付与された能力が消えるまでには時間がある。
羽を震わせながら威嚇してくるイフィムに対して、幸也は腰にしまってあるクナイを投げつける。
虫型ならどれでも同じように柔らかくなっている部分。体のつなぎ目だ。
クナイは狙い通り、頭と胴体のつなぎ目に突き刺さる。
それを確認するまでも無く、幸也は切りこむ。
そして、それに反応したイフィムが飛び立とうとするのを、枝を横に凪いで体を上下に分けて止めた。
どうやら核結晶は下半分にあるらしく、上の羽の部分は霧のように消えて行く。
そして羽を失った下半分は、地面にボトっと落ちながらも再生を始める。
幸也はそこで、胴体部分の中央に核結晶があるのを確認した。
そして、再生が完了する前に、核結晶に枝を突き刺し砕く。
イフィムが消滅し始めるのを確認すると、すぐに文美の加勢に向かった。
文美は落ち葉の手裏剣でイフィムの足を重点的に狙っていた。
直接切断するには威力が足りなく、足に当たって手裏剣ははじかれるが、飛び立とうとするイフィムはバランスをくずして、突進することができないでいる。
そこに幸也は横から飛び込む。
枝を振りおろして、今度は胴と尻の部分で切断した。
切断された尻の部分が、霧のようになって消えて行く。
そこで枝に付与されていた能力が切れのか、枝はいとも簡単に折れてしまった。
だが、幸也はそれにあわてる様子はなく、ベルトに仕込んであるクナイの二本目を抜き、片方の羽の付け根に突き刺した。
「文美ちゃん。結晶はどこ!?」
「頭よ!」
文美は、核結晶の位置を言いながら、幸也に新しく能力を付与した枝を投げる。
幸也はそれを受けとって、イフィムの頭に突き刺した。
結晶がくだけるおとがして 、イフィムが消えてゆく。
「まだ来る?」
「大丈夫そうね。変なのは来たけど」
「変なのとは失礼だな」
「文美ちゃん達相変わらず奇抜な戦い方だよね」
そこに永斗と椎名が合流した。
永斗達が向かった先で、戦闘していたのは幸也と文美のペアだった。それを確認した時、幸也達は二匹のイフィムを同時に相手していた。
おそらく、先ほど永斗達から逃げた三体の内の二体だろう。
知人だったこともあり、手助けに入ろうかとも考えたが、二人の表情からは余裕が感じられたため、それは止めておくことにした。
そうして戦闘の流れを観察する。
戦いはあっという間に終わり、ひと段落が付いたので永斗と椎名は出て行くことにしたのだが、出て言った端で言われたのがこれだ。
「永斗君達もフリーラン受けてたんだ」
「俺は椎名の付添だけどな。依頼が出てることすら知らなかった」
「永斗君らしいね」
「それにしても木の枝でイフィムを殺すのはいつ見てもシュールな光景だな」
鋭利な刃物で脆い部分を指すことでやっと貫くことができるような、硬い外装を枝で破壊するのはこの二人ぐらいの物だろう。
幸也が破壊した核結晶を回収しながら言う。
「剣とか盾とか、重いものを持ってこなくていいのは助かってるよ」
「それに私の能力で強化した枝はそこらへんの剣より良く切れるしね」
文美が自慢げに胸を張る。
「能力と技術を競わされるなんて、災難だよね」
「別物だって考えれたら楽なんだろうけどな」
「技術者って結構頑固な所あるから、難しいだろうね」
四人は談笑しながら、イフィムを探して森の中を進む。
いつの間にか四人で動くようになっていたのは、いつもの癖だ。
「永斗君達は拠点ってもう決めてある?」
「ああ、旧商店街の中に割と綺麗な場所があったからな」
「前にも使ってる人がいたみたいで、瓦礫とかも無かったからそのまま使わせてもらってるの」
「あら、そこ良いわね。私たちにも使わせてよ」
「別にかまわないが、まだ拠点決めて無かったのか?」
フリーランなら最初に決めることだ。まだ決めていないことに永斗は驚いた。
「拠点探してる最中にさっきのイフィムに遭遇しちゃったのよ。私達今日は午前中に実家の方で用事があったから、午後からフリーランの依頼に出てきたのよ」
「ちょっとした顔合わせみたいなのだったから、午前中で済ませれたところもあるんだけどね」
「なら仕方ないか」
そこで、文美がそれにしてもと話題を変える。
「イフィムの数が異様に多いわね。拠点決める前に遭遇するなんて始めてよ」
「そう言えばそうだね。永斗君達は朝からいたみたいだけどどれぐらい倒したの?」
幸也が文美の意見に賛同して聞いてくる。
「午前中に三体。午後からさっきまでに四体倒したよ」
「そんなにいたの?」
「さっき二人が倒した二匹セットのイフィムも多分私たちから逃げてったやつだったと思う」
「本当に多いわね。こんなに多い以来じゃなかったんだけど」
それは椎名も先ほど言っていたことだった。
「これって一ペア何体ぐらいの割合だったんだ?」
フリーランの場合、依頼書にイフィムの発生量と、一人あたりの等別目安が書かれている。
永斗は以来自体を知らないため、分からないが他の三人はどうやら知っていた様なので聞いてみることにした。
「今回の討伐目安はだいたい一ペア五体よ」
「もうノルマは終わってるってことか」
フリーランの場合、一匹倒して変えれば以来が達成されるわけではない。
目安になっている数のイフィムを倒して、初めて以来が達成されたと認められる。もしそれ以下しか討伐せずに帰ってきた場合は、任務未達成として記録に残されてしまうのだ。
その点、永斗達はすでに合計で七体のイフィムを討伐しているため、任務未達成になることは無くなった。
目安が達成されればいつでも帰っていいのだが、フリーランならそのあと倒した数におおじて報酬が上乗せされる。
このペースで戦ってゆけば、相当な報酬を期待できるだろう。
「私たちもこの分ならすぐに目安は達成できそうだしね」
文美たちもすでに先ほどの戦闘で三体の討伐を終了させている。
次戦闘になることがあれば、目安は達成できる可能性が高い。
「なら先に拠点に案内する?」
「そうできるかしら」
「じゃあ、そうしよっか。永斗良いよね?」
「俺は別にかまわないぞ」
「じゃあ拠点に向かってしゅっぱーつ」
「ほんの五分ぐらいの場所だけどな」
まるで冒険に行くかのような椎名の物言いに、永斗が静かに突っ込んだ。
卒論の関係上来週の更新ができないかもしれません・・・